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桜舞い落ちる『葉桜』 作者:米沢涼

第1回  
     苦しみ・叫び・痛み・うわさ・陰口・そして殺し合い
 
 今、僕は危険な位置に立っていた。

 いつ殺されるのかもわからず、いつ追われるのかわからない。

 影に立ち、見つからないように、身をかがめた。地面に手を軽くつけ、前かがみになる。そして、いつでも走れるように両足の幅を少しにして揃える。靴の両側を片手ずつつけていた。
 光のほうから、人影が見えた。それは、丁度右当たり。左はまだ陰が続いており、歩くには最適な場所だった。
 影が見えたら、即行左に体重を乗せ、走った。音をたてないよう、猫のように走った。けれど、きちんと二本足で走る。
 十字路に出た。どこに行こうか迷う。このまままっすぐには、今見たく建物で影が続いてある。けれど、左右に出れば、日に向かって走るか、日を背に走るかになる。
 日に向かって走った。左だった。そして、命の駆け引き右に曲がり、また影に入っていった。曲がるとき、道路を挟んだ。人の居ない道。たった一人+何人かがこの付近に居るのだが、どこに居るのかがわからない。
 人の居ない道は、最速で走らなければ、いざとなったときに対応できない。

 なぜ人が居ないか。それは、皆して逃げているから。
 見つかったら殺される。連行される。それをされたのが、3千800人。後残り200人走り回っている。他の人たちは、どこをどう逃げているのかはわからないが。
 その中でも僕、龍崎櫻(リュウザキ サクラ)が一番危険な身にさらされているのだ。それがなぜだかは、そのうちわかっていくことだろう。
 櫻という名だが、これでも男ということを忘れられてはいけない。

          計4千人

 この数字は俺ら龍崎一族の人数だった。それと、逃げている人たちだ。
 龍崎一族とは、身体のどこかにある刺青らしきものがある。これは、生まれたときにあるものだ。
 龍崎一族は、元々集団行動していたが、訳有って普通の人たちに紛れ込んでいる。普通の人たちは、怖いから家に閉じこもったままだった。

 なぜそんなものがあるのかは、いまだ不思議だが、わかったものにはわかるという。

 櫻は大分昔にわかった。だからこそ逃げなければならない。
 僕、櫻の刺青は、ヘソのチョイ右下に、桜が舞い落ちるみたいな花びらが、五・六個ついている。
 さすがに走りすぎて、チョッと息が整わなく、影の底に座りこみ、息を整えた。
喉が渇く。つばを飲み込めない状態は、いろんな意味できつかった。
 近くに自動販売機がなく、なんだか何か水がほしかった。
「お兄ちゃん・・・水あげる!」
 座ってチョッと見上げるくらいの背の、女の子が水を持ってきていた。いつの間に。
それを僕は一旦目にし、そして、そっぽを向いた。

        信じ切れないし

「お兄ちゃん・・・これ飲んで冷たいよ?」
 その女の子までしゃがみこみ、水を差し出した。
「何のマネだ?」
「水を・・・」
「やめてくれ・・・今は人を信じきれる状態ではない」
 拒否する櫻。僕は立ち上がり、女の子を見下ろした。いつの間にやら息は整い、歩ける。走れるまでの体力は戻った。
 上を見上げると、桜の花びら一枚が、ヒラヒラと落ちてきた。それをそっと取る。そして、ペロッと表面を舐めた。力が戻ってきたみたいだ。
 一旦女の子を見下ろし、言った。
「名は?」
「朱未(あけみ)飯島朱未」
「そうか」
 それだけ言って、その場を離れていった。影から影に移っていく。さっきの花びらのおかげで、体力は回復した。
 先ほどの花びらは、自分で舞いおろしたものだった。

        刺青

 それが鍵だった。
 追っているものは、これなどの刺青を狙っている。これさえあれば、その刺青の能力を生かしてこの地球を、支配できるからだ。支配のものだけに使うのは、龍崎一族は望まないのだ。
 他人のため、何かのために起こすこの刺青は、その皮膚を奪い、自分のものにすれば、自分の能力になってしまう。
 身体に合わなかったら、意味がないが。 
 櫻の桜は、誰よりも特殊なのだ。攻撃にも使えるし、回復にも使える。うまく使えば防御も出来る。
 だからなのだろうか。誰よりも大事にされていたのだ。
 なぜか櫻は、親の刺青を持っている。
 奪おうとしたものたちから、奪い返したのだ。だからもう櫻の両親は居ない。
だから、母の風。父の壁がある。だから、攻撃・回復・防御・速さを持ち合わせており、技術によるが、最強だ。たぶん。飛ぶがあれば、一番強いだろう。
 父の刺青は右手に。隠すため、白い手袋をしている。母の刺青は両足の甲についてある。
 まだ一度くらいしか、試していないから、きちんとした戦い方が出来ない。だからこそ逃げたい。

 見方を作るのが、一番嫌だった。

 最初、一族で作戦を練っていた。その内容は「固まって行動するより、二・三人で固まれ」といわれていた。けれど、反対意見も出ていた。もちろん、賛成もいたのだが。
結局、賛成の者ばかりがつかまっている。だからこそ、反対の意見に固まった。

 何とかいいところまで来ると、もう空は真っ暗だった。
 向かう先は、まだ先なのに、こんなにも暗いと、逆に危ない。けれど、立ち止まっているのも危ないのだ。
 あれから何日経っただろうか。あれから何日まともな食事をしていないのだろうか。あれからどこまで進んでいるのだろうか。

 向かっている先は、今どんな状況なのか。

 こんな状況でも、向かう先はある。それは、一番安全な場所だった。
 龍崎一族の聖域「フォーサフトォーム」一番初めの長「フォーサ」という名からとった名前だった。
 普通の人が立ち入れる場所じゃないのだ。それに、普通の人には、フォーサフトォームの扉は開けれないし、見えないのだ。

    誰か来た

 何かの気配を受けた。立ち止まり、静かにして構えた。いつもの癖なのか、しゃがんで足首の左右の地面に手をつける。
 桜を舞い散らせる。そして、建物にくっつけた。すると、その範囲だけは察知できる。
 ジッとしていた。ドンドン近づいてきているのがわかる。地面をいじる。

  来た

 目をハッと開け、来た方向に構えた。

 ザザッ

 そっちも立ち止まったらしい。じっくり相手を見た。背は当たり前に櫻より全然高かった。
「お前は・・・・」
 向こうのほうから話してきた。なにやら不思議な雰囲気だった。
「こっちにいったぞ!」
 相手が来たほうから、追っ手の声がした。
「走れ行くぞ!」
 と、僕の手を引張っていった。結構足は速いほうだったが、まだまだだ。
 ここの地形に慣れているからか、かなり裏道を通っていた。
「ここまでくれば平気だろ」
 そう言って、立ち止まった。

  アッ

 一つ忘れていることがあった。それは、向こうに付けっぱなしになっている花びらだった。
 遠ければ遠いほど、操りが大変なわけではないが、どこをどう走ってきたのかが思い出せない。あまりしたくない方法だが、この方法しかなかった。
「誰?あんた」
 あまり話すことがないため、簡潔に一言くらいで話してしまう。話す力がないのだ。
「俺も龍崎一族だよ」
 話しているときに、桜の花びらを、空から舞わせた。空から通らしてきたのだ。磁石のように。
「あ・・・花びら。きれいだな」
 と、相手が言った。けれど、まだ相手の名前を知らない。
「名は?」
「簡潔に聞くなぁ〜ほんまにお前は・・俺は龍崎夜須(リュウザキ ヤス)お前は?」
 そういわれてみると、確かにあの会議らしいときに、こんな感じの人が居た。
 背は高くきっと百七十は有るだろう。そして、きれいなサラサラヘアーでチョッと長めの髪。そして、がっしりした体形だ。
「俺は・・・」
 一瞬自分の名前がぶっ飛んだ。舞い落ちてきた花びらをすべて手の中に入れた。そして、ギュッと握り締める。
「オイ名前は?」
 握り締めた手に目をそらし、そのまま腰に手をやった。そして、自分の刺青に返した。これ以上にも桜はたくさん入っている。けれど、無駄にしたくない。確かにこの桜は無限にあり、節約する必要はないのだが、何か心配なのだ。
「名前!」
 夜須が思いっきり怒鳴った。
「俺は・・・俺の名前・・・・」
「わからないのか?」
 心配そうな目でこっちを見ていた。
 櫻は頭を横に振った。
「なら教えてくれないか?」
「俺は龍崎櫻」
「櫻な・・わかった。これから友達や」
 と、右手を差し出してきた。
 一旦そっちに目が行った。何を求めているのだろうか。あまり、人との接しがないので、不思議に思う。
「ほら握手」
 櫻の右手を引張って握手を無理強いにした。けれど、何か嫌ではなかった。

 安心したのか、足がガクッと力が抜けた。そして、その場に座り込んで腹を抱えた。
「どうした?」
「おなか減った」
 そう、暫く食べ物を口にしていない気がする。
「じゃあ、何か食べるか?」
「この状態で?」
 食べ物を食べようとも、食べ物を売っている場所が無いとなると、食べるにも食べれない。
「そうだな。どうしようか?どっか脅す?」
「バカそんなことしたら、こっちの居場所が簡単にばれるだろう」
 立ち上がって、歩き始める櫻。
「どこ行くの?」
 後ろから追ってきていた。ゆっくり歩く櫻に、ゆっくり付いていった。
「うるさい黙れ」
「なんなんだ?その口調・・・」
 気分や機嫌が悪いと、口調が悪くなる習慣がある。
 いつの間にか裏道をスラスラと越え、てきとうな窓を開けた。
「おい・・・何するつもり」
「盗む」
 窓に乗っかり、軽く入ろうとしたとき、平凡な顔で答えた。
「オイチョッと・・・」
「黙れ」
 もう、乗り越えていた壁の向こうから声は聞こえた。
 櫻がガサガサと何かをあさっているらしい。
「あった」
 ボソッと言うと、来たとおり窓から降りた。そして、地面に足をつけると、急に道のほうからまぶしい光が差し込んだ。
「見つけた!」
 追っ手だった。櫻は来た道を走っていった。そして、色々な道を走っていく。それにがんばって着いていく夜須。
 今作動している風。母の名は、風沙(ふうさ)だ。走るときには、母の力を借りているもんだ。
 これについてこれる夜須は、きっと色々鍛えていたのだろうか。
 ふと、また不思議なところで止まった。
「ここまででいいだろ・・・・大丈夫か?夜須」
「あぁ・・・・・・・・・・・・」
 かなりばててる。夜須は、近くの壁によしかかって、ズルズルッと滑り座った。かなり息が切れているようだ。
「おま・・・・・・は・・・やすぎ・・・・・・」
「ついてこれる夜須もすごい」
 もう、かなりの汗だくだった夜須の、額の汗を拭ってあげた。
「サンキュ・・・・・ハァ〜なんでそんなに速いの?」
「まぁ色々とね」
 周りに気を回しながら、盗んできた食べ物を口にした。
「ほら」
 と、夜須のほうにポイッと渡した。それは、一切れのパンだ。
「あ・・サンキュ・・あのよ」
「なに?」
「おまえ・・・いつもそうしてるのか?」
 ちらりと櫻は夜須のほうを見た。
「何が?」
「食べ物」
「久し振りにやった」
「ほんとにかよぉ〜」
 何かがっかりしたような言い方だった。
「なに?悪い?」
「別に・・・今は仕方ないか」
 と、軽く流してくれたようだ。そう言ってくれる人に会うのも、なかなかないことだからか、なんだか一緒にいてもいい気がしてきていた。
 けれど、今はあんまり信じ込まないほうが良い。あまり信じると、裏切られたときが一番大変だからだ。

 シュッ

「なんだ!」
 急に座っていた、夜須の顔の真横に、一つのナイフが降ってきた。急なことで、何がおきたかわからなかったが、何か敵が来たのはわかった。
 刺さったナイフを取り、夜須はゆっくりと立ち上がった。かなり周りを警戒する二人だ。
「誰だ!」
 夜須は怒鳴った。飛んできたのは、櫻の後ろのうえ辺りからぐらいだと思われる。
「チョッと待ってて」
 櫻は神経をすべてに集中させ、桜の花びらを出来るだけ遠くまで、飛ばして警戒を取った。
「な・・・なに?」
 はじめてみる夜須は、かなり動転しているようだ。
「いたっ」
「え?」
 急に目を見開いて、夜須のほうを見た櫻に、夜須はかなり驚いていた。
 櫻は後ろを振り返り、走っていった。夜須はまた走るのかと、チョッと嫌々が入りながら付いていった。

「そこだっ」

 少し上を見ると、建物の屋上に、たった一人の男性らしい人が立っていたのだ。顔までは遠すぎてわからないが。
 ジャンプ力のない櫻は、右手をそっちに振り上げた。それと同時に、桜の花びらがその男性に勢い欲向かっていった。すると、その人影は消えて、すぐ後ろに来た。それに気付いた櫻は、振り上げた右手を、勢い欲そっちに振り下ろす。
 思ったとおり、桜がその人に当たり、人は倒れた。まだ息はあり、それにまだ戦えそうだった。
 その男がゆっくり立ち上がり、かなり戦闘態勢に入っていた。櫻と夜須も戦闘態勢に入った。
 男は、身体が身軽そうで、口を隠していてあまり輪郭がハッキリしていないし、帽子もかぶっていて、きちんとした顔がわからない。

   俺も帽子かぶればよかった

 なんて、のんきなことまでも考えていた。
 いきなりナイフをまた投げつけてきた。櫻は右手を差し出し、透明な壁を作った。その壁にナイフは当たり、はじけとんだ。すると、その男に跳ね返って、頬をかすった。
 押されてるのがわかったからか、その男はチッとしたうちをして、すぐにどこかに消えて行った。
「なんだったんだ?」
「さぁ?」
 と、軽く流して歩き出した。
「どこ行くんだよ」
「早く向こうに言ったほうが良い。まだ先は長いんだ。こんなところでのんびりとなんてしていられない」
 気強く言う。
 けれど、さっきの男には色々と何かわけありだろうと、察するだけではなかった。あいつは、龍崎一族だ。

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