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春夏秋冬 作者:米沢涼

第1回   面影
 たった一人というなの孤独。寂しさ。そして何よりも恐れる一人。何かを忘れさせられるのはいいのだが、逆に考え込むことが癖になる人にとって、一人と言う名は厳しいものだった。

 いつの笑顔が無い志摩秋(しま あき)小さい頃に両親を無くし、一人という名を誰よりも早く覚えてしまっていた。
 今日もまた、たった一人で家にいる。丁度今日から夏休みというもの、誰も来るはずの無い電話を、たった一人で待つように、電話の近くのソファーに座る。
 縮こまり、悲しい視線でどこかを見つめる。
 そして、いつも通りの一日が過ぎるのだと思っていた。コンビニに行くまでは。

 何か食べようと、コンビニに行き、パンを一つ買った。そして、コンビニから出ると、なんだかでかい身体をした、男の人が秋の目の前に立っていた。秋は、避けて歩いていこうとしたとき、腕をつかまれた。
「なんですか?」
「あ。すまん。何かの面影を感じたもので」
 と、パッと手を放してくれた。けれど、秋も何かそのことばに、不思議を思っていた。
 後ろを振り返ると、さっきの身体のでかい男の人は、いなかった。そんなに早くコンビニの中に入ったわけではないだろう。
 不思議な気持を持っていながら、秋は家に帰っていった。
 いつも家に帰っても、特にやることなく寝ていたのだが、今日は、ベッドにねっころがり、ボケーッと天井を眺めていた。
 何かの面影
 そればかり考えていた。
 小さすぎていた頃だからか、親の顔は全然覚えていない。探せば親の写真くらいは見つかるが、あえて探さなかった。それに、何か探したとしたら、また歩く道が変わってしまったりしてしまいそうで怖かった。
 なんだか、ドンドン眠たくなくなってきたからか、身体が勝手にベランダに出ていた。
 涼しい風が、秋を当ててきた。それで何か、どうでもいい感じになれる。たまに考えることが出来たら、風に当たるのが、秋の癖だ。
 そういえば、秋という名前の由来は、春夏秋冬の秋から来たのだ。さっぱりした性格で、何かと美しく染めるという意味で、秋という名を付けられたということは、何か母の日記に書いてあった。

 次の日、のんびり遅くまで寝ていた。結局起きた時間は、朝の十二時ちょっきりだった。夏だからか、かなり蒸し暑い。
 着替えて、ボケーッとしていた。なんだか、またいつもの毎日が送られそうだ。
けれど、昨日の事がまだ頭にあった。
 何かの面影
 それは、絶対といえる。きっと、親と何かあるだろう。それしか思いつかないし、それしか思いたくない。
 朝遅く起きたのに、なんだかおなかがすかない。気晴らしに、秋は家を一旦出て、てきとうに散歩に行った。
 あまり家から出ないのに、秋の場合、考え事をすると、どこか行きたくなったり、足を動かしたくなるのだ。
 てきとうに歩いていると、いつの間にか真っ青な海が見えてきた。だが、周りにはたくさんの客がいた。
 夏に海に来るのは、間違いだと思う。
 春夏秋冬の秋なのに、秋は夏と秋がだいっ嫌いだ。一番好きな季節は、やっぱり冬らしい。寒いから嫌いという人がいるが、秋にとって、その寒さが良いらしい。考えることをさすれれるし、ストレスもたまらないらしい。
 その逆に、夏は暑くてやってらんなくなるし、秋は虫が多いから邪魔だしで、良いこと無しだという。
 それに、寒いと自分の心を隠せるからだという。
 のんびり海を眺めていると、後ろから急にポンッと叩かれた。
「だれ?」
 ゆっくり秋は後ろを振り向いた。すると、見覚えのある顔ぶれだった。小さい頃、何かと世話をしてくれた、親戚のお兄ちゃんだ。名前は確か、栗原惟(くりはらのぶ)のぶにいとよく読んでいた。
 一番なついていたのが、確かに惟兄だったはず。なかなかなつかない秋なのにと、周りの人たちにも言われた。
 両親がなくなってからも、よくみてくれた。前よりも一段と。けれど、小学3年のころ、惟はもう高校生になり、なかなか会う時間がなかったし、会おうとも思わなくなってきたのだった。
「どうしたんだ?」
「惟兄。イや別に・・」
「そう。けど、夏に外に出るなんて何かあったのか?考え事?」
 秋の隣に立ち、一緒に海を眺めていた。
「なぁ秋。」
「なに?」
「お前、ひとりであの家にいると、悲しくなってこないか?」
 決して秋のほうを見ないで、惟は言った。六歳上の惟とは、久し振りに会ったから、どんな性格だったのかは細かく思い出せないが、いい人だということは覚えている。
「なぁ、今から行って良いか?秋の家」
「ん?良いよ。何もないけど・・」
 そう言って、二人は一旦秋の家に行った。特にこれということは、しなかったが、お茶を飲み、のほほんとしただけだった。
「なぁ、いつも家で何してる?」
「家で?」
 急に聞かれた質問に、チョッとばかし考え込む。
「家でやってることはあんまないな。」
「え?ないの?」
「うん。てきとうにボケーッと寝てるときとか、天井見上げてたりとか」
「勿体ないな」
「え?」
 ボソッと言った、惟のことばに反応する。
 けれど、確かに一人でのんびり暮らし、たった一人でポツンといるのなら、この家はでかいかもしれない。
 けれど、寂しいとは思ったことがない。ただでさえ、一人で同じ景色しか見ない秋は、部屋にこもりっぱなし。だから、何が孤独で何が寂しいのかがわからない。
「俺・・今日からここに移住しちゃダメ?」
「いいよ」
 移住ということばを、こういうときに使って良いのかどうかはわからないが、なんだか、楽しい事が起きそうというのは、なんとなく勘付いている。気がする。

 それから何回か家を出入りして、使いそうな荷物を惟は持って来た。結構、面白いものをもって来ていて、ダンポールの中から取り出すとき、てきとうに遊んでから片付けていた。
 部屋はいくらでも空いている。二階建ての建物に、たった一人・・しかも中学生が住むというのは、さすがに部屋が余りすぎるし、広すぎて逆に疲れてきそう。だが、二人となれば、話も出来るし、何か面白いことがおきそうだ。
 予感というものは、的中してくれないと、気がすまない。
 それが秋の口癖というものだった。予感は、外れ当たりがあるだろう。たまには外れる事だってあるだろう。それでも、あきらめずに進むことが大事だ。といわれてもきたが。誰が言ってたのかが、わからなかった。
 女の人が言っていたことは確かだが、顔がいつも思い出せない。がんばって思い出そうとしているのだが、頭が痛くなってやめになる。

 ふと朝になっていた。その日は、夜までずっと惟の部屋で話していたせいか、目が覚めたのは惟の部屋で寝ていた。
 ボケーッと目をこすりながら、もう一回寝ようと寝ていた場所に、もう一度戻るが、なかなか眠りにつけなかった。
 何かムカムカし、自分の部屋にゆっくり戻っていった。すると、なんだか自分の部屋が自分の部屋じゃないような気がしてくる。
 窓を開けて、空気を入れ替えるようにした。けれど、全然風がなく、チョッとがっくり来る。こうだから夏がだいっきらい。
 ため息とともに窓を閉める。閉めるときだけ、ふっと風が吹くような感覚がする。
「どうかしたの?」
 いきなり聞こえてきた声に驚き、後ろを振り向くと、ドアのところによしかかるように、惟がいた。
「びっくりした・・・別に。空気入れ替えようかな?っておもって」
 なんだか、真剣な目つきで睨まれているような気がして、なんだか怖い。身体が鳥肌から開放してくれない。
 こんなときに限って、背中がかなり寒かった。何かに取り付かれているように。
「そう。あ。ソウソウ。聞いた?ここら辺でなんか包丁持った男が、歩き回ってるって。だから気をつけなきゃね?」
 いきなり顔が変わったように、笑顔になりだした。
 なんだか、本当に兄弟というか、何かのつながりがある人みたいで、逆に怖い感じだ。
 外に出したくないのか、それから何回か話してきた。それに、見張られている感じもして、余計怖かった。
 なんだか、それから数日、家に出ていなかった。何日かたって、気分の晴らしに外に出た。なんだか、嫌いな夏なのに、のんびりしたくなってきて、海のところまで行った。
 もう潮時なのか、もう客があまりいなかった。てきとうに歩き、砂浜に横になった。背中を丸め、何かを守るようにして。すると、暖かい砂が気持ちよく感じてくるのだ。
 なぜ今日はこんなにのほほんとしているのかは、なぜだか惟は出かけるだかなんだかだった。
 開放感と今を感じている秋には、もうどうでも良い感じだ。いつもあんなに大きいと思っていた家を、窮屈だと思い出したのが最近。ずっと監禁されているみたいで、余計に怖かった。離れたかった。
 一度家出をしてみようかとも思った。怖いと恐れ。それに、孤独からの開放感がこうなるとは思っていなかったのだ。
 苦しい。なんだか息苦しい。
 急に息苦しさを感じ、胸当たりをギュウッと押さえる。本当に何かに胸を締め付けられて、なかなか呼吸が整わないし、息がいかない。
 ハァハァ と息を整えようとしているとするが、なかなか整わないし、胸苦しい。
「だれ・・・か・・・ハァ・・」
 大声を出そうとしても、ボソッと小声くらいの音量くらいしか出てこない。声を出そうとするだけでも、胸がキュッとしまる感じで痛いのだ。
 時間がたつにつれて、ドンドン痛くなってきている。
 どうしよう
 それすらも考えられなくなってきている。
 もう死ぬのかな?
 ふと思ったことばがそうだった。
 なんだか、目の前が薄っすらとぼやけてきた。そのまま目をつぶってしまった。

 目を開けたときは、かなり明るい場所だった。なぜだか嫌いなにおいがした。どこかある場所の独特のにおい。
 真っ白な天井らしいものを見つめていた。身体をゆっくりおこした。やっぱりいやな場所だった。
 病院
 薬のにおいがプンプン匂う。
「あ。目が覚めた?」
「誰?」
 ベッドの隣に、真っ黒なきれいな髪のした、男の子が座っていた。なんとなく秋と同じくらいの年に見える。
「僕は、澤村夏(さわむら なつ)」
「夏・・?」
「ああ。君の事は、僕が海に散歩しにいくと、倒れてたんだよ。無呼吸だったから、急いで救急車をよんだんだ」
「そうなんだ・・ありがと」
 詳しいような説明を受け、なんだか納得。けれど、あれから無呼吸になっていたのは、さすがに驚きだった。
「それで、あなたは?名前」
「あぁ。僕は志摩秋」
「秋?なんか僕たちって、何かの縁で結ばれてるのかな?」
「え?」
 不思議なことを言い出した夏。
「名前だよ。僕は夏。そして、君は秋。春夏秋冬の夏からとったんだって」
「あ。俺も。春夏秋冬からとったんだよ」
「まじ?なら仲間だね。っていっても、その名付け親・・両親?一昨年亡くしちゃってるんだけどね?」
 下をピッと出して、エヘヘヘへ〜と笑いで流す夏。なんだか、本当に同じだった。
「そうなんだ・・・」
 自分の親も、一昨年じゃないが、大分昔に亡くなってる。だから、あんまり物心がない分、悲しさがなかった。けれど、夏の場合、物心のついているころになくなると、それなりの悲しさというものがあるだろう。
「ゴメン。なんか・・」
「いんや。それに話したの俺だし」
 笑顔で言っているが、秋にはわかっている。秋は下を向いて、前髪で自分の顔を隠すようにしていった。
「隠さなくていいんだよ?」
「え?」
「自分の涙。隠さなくたって良いんだ」
 自分がそうだったから。記憶上、泣いたことがない。たぶん、もうすでに泣くことがなくなっているからだ。
「お前に・・お前に何がわかる!」
 むきになったように、涙を流しながら、夏は怒鳴った。
「わからない。わからないけど、わかるんだよ」
「そのことばがわかんないよ!」
 その場から離れようとは、していなかった。
「俺だって・・・」
 秋まで怒鳴ってしまい。なんだか、秋まで泣きそうだ。
「え?」
「俺だって・・わかってやりたいよ」
 でた。こういう話をしたことがないから、なんだかすっきり涙みたいだ。その涙を隠すよう、やっぱり髪で隠した。さらさらな秋の髪。こういうときは、きちんと役に立っている。
「なにを・・・・何を言いたいんだ?秋は」
「泣けばいいって言ってんだよ。こんな話になってて悲しくなったりしないのかよ。俺は・・・俺は・・」
 久し振りの涙に動転してるのか、動揺しているのか、もう日本語すらわかってきていなくなってきていた。

 あれから俺はすぐに退院し、自分の部屋でうずくまっていた。夏はといえば、あの後わかれたきり、何も話さなかったし、会う気も無かった。
 ふと思い、秋はすぐさま両親の部屋をあさった。何かを知りたかった。何かという何かはわからなかったが、今まで調べようとしていなく、知らなかったことまでもわかってきて、なんだか、面白くなってきている。
 ふと、ある手帳をみつけた。その手帳には、ぎっしりと書いてあった。走り書きのところは、何が書いてあるかはわからんが、わかるところはわかる。
「9月9日。秋がはじめて立った。私も父さんも、うれしくて頭をなでてやった。十日。立ったのは良いのだが、おでこを壁にぶつけて、大慌て。秋はにっこり笑ってホッとした。十一日何もないのだが、秋が急に泣いてびっくり。どうしたのかと思えば、惟がいじめていた。」
 そんなものを見つけて、なんだか面白くなってきているとき、影が来たのが気づき、顔を上げてみると、怒っている表情の惟がいた。
 ゾクッと鳥肌が立ち、暫く動けなかった。
 すると、急に持っていた手帳を蹴り飛ばした。驚いて、秋はそのまま縮こまってしまう。ブルブルと震え、恐怖と不安でいっぱいになる。
「こんなものをみてどうするつもりだったんだ・・・」
 かなり起こっている様子で見下ろし、震えた声の惟。
「だって・・・俺・・・親のことなんも知らない」
 こわかったけれど、勇気を振絞っていった。すると、急にほっぺを思いっきり叩かれた。かなりいい音が鳴ったが、悲しい音もなった。
「お前・・俺だけじゃダメなのかよ」
 そう怒鳴って惟は家を出て行った。
 それから何日も日にちは過ぎたが、帰っては来なかった。安心したということもあるのか、なんだか不安と不思議でいっぱいだ。
 ふと急に夏に会いたいと思い出した。そして、考えるより行動なのか、いつの間にか初めて会った、あの病院に足が行っていた。
 すると、ベンチに座って本を読んでいる人がいた。よくみてみると、夏に似ていて近づいて影を作った。すると、こちらを見上げてきた。
 かなり驚いた様子だ。それから、そこらへんをぶらついた。
 なぜここにいたのかと聞いたところ、ここにくれば秋に会えると思っていたらしい。簡単に言えば同じ理由だったからだ。
 軽くあれから何があった?とか言う話をしていた。
「ごめんな?あの時、俺・・なんか焦ってて」
「いや、夏が悪いんちゃうよ。俺がわけわかんないことぶっこいたからだよ」
「けど、ほんとゴメン」
「いんやぁ。・・・・じゃあ、お互い様ってことは?」
 しらけた空気が大ッ嫌いな秋は、それで終わらした。うんと頷き、了解したようだ。
 てきとうに散歩しては、買い物し。おそろいのものを買ったりしていた。すると、ある店で小さな子供とその親を見ていた。すると、なんだか、夏は懐かしいとつぶやいていた。
 秋の良心をなくしたのは、大分昔。けれど、夏の両親は一昨年。一番つらいのは、やっぱり夏のほうだと、しみじみと考えていた。
 何かの面影
 はと思い出したある人のことば。コンビニを出ようとしたとき、ふとことばを発した人。なんとなく、思い描いてはみたものの、何も思い出せない。なんだか、でかい人?小さい人?と、記憶がぶっ飛んでいる。
 それからか、秋は両親ことについて考え出した。
 人間というのは、何かがあると、ふと忘れてしまうことがあるものなのだということを、秋は実感した。

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