たった一人というなの孤独。寂しさ。そして何よりも恐れる一人。何かを忘れさせられるのはいいのだが、逆に考え込むことが癖になる人にとって、一人と言う名は厳しいものだった。
いつの笑顔が無い志摩秋(しま あき)小さい頃に両親を無くし、一人という名を誰よりも早く覚えてしまっていた。 今日もまた、たった一人で家にいる。丁度今日から夏休みというもの、誰も来るはずの無い電話を、たった一人で待つように、電話の近くのソファーに座る。 縮こまり、悲しい視線でどこかを見つめる。 そして、いつも通りの一日が過ぎるのだと思っていた。コンビニに行くまでは。
何か食べようと、コンビニに行き、パンを一つ買った。そして、コンビニから出ると、なんだかでかい身体をした、男の人が秋の目の前に立っていた。秋は、避けて歩いていこうとしたとき、腕をつかまれた。 「なんですか?」 「あ。すまん。何かの面影を感じたもので」 と、パッと手を放してくれた。けれど、秋も何かそのことばに、不思議を思っていた。 後ろを振り返ると、さっきの身体のでかい男の人は、いなかった。そんなに早くコンビニの中に入ったわけではないだろう。 不思議な気持を持っていながら、秋は家に帰っていった。 いつも家に帰っても、特にやることなく寝ていたのだが、今日は、ベッドにねっころがり、ボケーッと天井を眺めていた。 何かの面影 そればかり考えていた。 小さすぎていた頃だからか、親の顔は全然覚えていない。探せば親の写真くらいは見つかるが、あえて探さなかった。それに、何か探したとしたら、また歩く道が変わってしまったりしてしまいそうで怖かった。 なんだか、ドンドン眠たくなくなってきたからか、身体が勝手にベランダに出ていた。 涼しい風が、秋を当ててきた。それで何か、どうでもいい感じになれる。たまに考えることが出来たら、風に当たるのが、秋の癖だ。 そういえば、秋という名前の由来は、春夏秋冬の秋から来たのだ。さっぱりした性格で、何かと美しく染めるという意味で、秋という名を付けられたということは、何か母の日記に書いてあった。
次の日、のんびり遅くまで寝ていた。結局起きた時間は、朝の十二時ちょっきりだった。夏だからか、かなり蒸し暑い。 着替えて、ボケーッとしていた。なんだか、またいつもの毎日が送られそうだ。 けれど、昨日の事がまだ頭にあった。 何かの面影 それは、絶対といえる。きっと、親と何かあるだろう。それしか思いつかないし、それしか思いたくない。 朝遅く起きたのに、なんだかおなかがすかない。気晴らしに、秋は家を一旦出て、てきとうに散歩に行った。 あまり家から出ないのに、秋の場合、考え事をすると、どこか行きたくなったり、足を動かしたくなるのだ。 てきとうに歩いていると、いつの間にか真っ青な海が見えてきた。だが、周りにはたくさんの客がいた。 夏に海に来るのは、間違いだと思う。 春夏秋冬の秋なのに、秋は夏と秋がだいっ嫌いだ。一番好きな季節は、やっぱり冬らしい。寒いから嫌いという人がいるが、秋にとって、その寒さが良いらしい。考えることをさすれれるし、ストレスもたまらないらしい。 その逆に、夏は暑くてやってらんなくなるし、秋は虫が多いから邪魔だしで、良いこと無しだという。 それに、寒いと自分の心を隠せるからだという。 のんびり海を眺めていると、後ろから急にポンッと叩かれた。 「だれ?」 ゆっくり秋は後ろを振り向いた。すると、見覚えのある顔ぶれだった。小さい頃、何かと世話をしてくれた、親戚のお兄ちゃんだ。名前は確か、栗原惟(くりはらのぶ)のぶにいとよく読んでいた。 一番なついていたのが、確かに惟兄だったはず。なかなかなつかない秋なのにと、周りの人たちにも言われた。 両親がなくなってからも、よくみてくれた。前よりも一段と。けれど、小学3年のころ、惟はもう高校生になり、なかなか会う時間がなかったし、会おうとも思わなくなってきたのだった。 「どうしたんだ?」 「惟兄。イや別に・・」 「そう。けど、夏に外に出るなんて何かあったのか?考え事?」 秋の隣に立ち、一緒に海を眺めていた。 「なぁ秋。」 「なに?」 「お前、ひとりであの家にいると、悲しくなってこないか?」 決して秋のほうを見ないで、惟は言った。六歳上の惟とは、久し振りに会ったから、どんな性格だったのかは細かく思い出せないが、いい人だということは覚えている。 「なぁ、今から行って良いか?秋の家」 「ん?良いよ。何もないけど・・」 そう言って、二人は一旦秋の家に行った。特にこれということは、しなかったが、お茶を飲み、のほほんとしただけだった。 「なぁ、いつも家で何してる?」 「家で?」 急に聞かれた質問に、チョッとばかし考え込む。 「家でやってることはあんまないな。」 「え?ないの?」 「うん。てきとうにボケーッと寝てるときとか、天井見上げてたりとか」 「勿体ないな」 「え?」 ボソッと言った、惟のことばに反応する。 けれど、確かに一人でのんびり暮らし、たった一人でポツンといるのなら、この家はでかいかもしれない。 けれど、寂しいとは思ったことがない。ただでさえ、一人で同じ景色しか見ない秋は、部屋にこもりっぱなし。だから、何が孤独で何が寂しいのかがわからない。 「俺・・今日からここに移住しちゃダメ?」 「いいよ」 移住ということばを、こういうときに使って良いのかどうかはわからないが、なんだか、楽しい事が起きそうというのは、なんとなく勘付いている。気がする。
それから何回か家を出入りして、使いそうな荷物を惟は持って来た。結構、面白いものをもって来ていて、ダンポールの中から取り出すとき、てきとうに遊んでから片付けていた。 部屋はいくらでも空いている。二階建ての建物に、たった一人・・しかも中学生が住むというのは、さすがに部屋が余りすぎるし、広すぎて逆に疲れてきそう。だが、二人となれば、話も出来るし、何か面白いことがおきそうだ。 予感というものは、的中してくれないと、気がすまない。 それが秋の口癖というものだった。予感は、外れ当たりがあるだろう。たまには外れる事だってあるだろう。それでも、あきらめずに進むことが大事だ。といわれてもきたが。誰が言ってたのかが、わからなかった。 女の人が言っていたことは確かだが、顔がいつも思い出せない。がんばって思い出そうとしているのだが、頭が痛くなってやめになる。
ふと朝になっていた。その日は、夜までずっと惟の部屋で話していたせいか、目が覚めたのは惟の部屋で寝ていた。 ボケーッと目をこすりながら、もう一回寝ようと寝ていた場所に、もう一度戻るが、なかなか眠りにつけなかった。 何かムカムカし、自分の部屋にゆっくり戻っていった。すると、なんだか自分の部屋が自分の部屋じゃないような気がしてくる。 窓を開けて、空気を入れ替えるようにした。けれど、全然風がなく、チョッとがっくり来る。こうだから夏がだいっきらい。 ため息とともに窓を閉める。閉めるときだけ、ふっと風が吹くような感覚がする。 「どうかしたの?」 いきなり聞こえてきた声に驚き、後ろを振り向くと、ドアのところによしかかるように、惟がいた。 「びっくりした・・・別に。空気入れ替えようかな?っておもって」 なんだか、真剣な目つきで睨まれているような気がして、なんだか怖い。身体が鳥肌から開放してくれない。 こんなときに限って、背中がかなり寒かった。何かに取り付かれているように。 「そう。あ。ソウソウ。聞いた?ここら辺でなんか包丁持った男が、歩き回ってるって。だから気をつけなきゃね?」 いきなり顔が変わったように、笑顔になりだした。 なんだか、本当に兄弟というか、何かのつながりがある人みたいで、逆に怖い感じだ。 外に出したくないのか、それから何回か話してきた。それに、見張られている感じもして、余計怖かった。 なんだか、それから数日、家に出ていなかった。何日かたって、気分の晴らしに外に出た。なんだか、嫌いな夏なのに、のんびりしたくなってきて、海のところまで行った。 もう潮時なのか、もう客があまりいなかった。てきとうに歩き、砂浜に横になった。背中を丸め、何かを守るようにして。すると、暖かい砂が気持ちよく感じてくるのだ。 なぜ今日はこんなにのほほんとしているのかは、なぜだか惟は出かけるだかなんだかだった。 開放感と今を感じている秋には、もうどうでも良い感じだ。いつもあんなに大きいと思っていた家を、窮屈だと思い出したのが最近。ずっと監禁されているみたいで、余計に怖かった。離れたかった。 一度家出をしてみようかとも思った。怖いと恐れ。それに、孤独からの開放感がこうなるとは思っていなかったのだ。 苦しい。なんだか息苦しい。 急に息苦しさを感じ、胸当たりをギュウッと押さえる。本当に何かに胸を締め付けられて、なかなか呼吸が整わないし、息がいかない。 ハァハァ と息を整えようとしているとするが、なかなか整わないし、胸苦しい。 「だれ・・・か・・・ハァ・・」 大声を出そうとしても、ボソッと小声くらいの音量くらいしか出てこない。声を出そうとするだけでも、胸がキュッとしまる感じで痛いのだ。 時間がたつにつれて、ドンドン痛くなってきている。 どうしよう それすらも考えられなくなってきている。 もう死ぬのかな? ふと思ったことばがそうだった。 なんだか、目の前が薄っすらとぼやけてきた。そのまま目をつぶってしまった。
目を開けたときは、かなり明るい場所だった。なぜだか嫌いなにおいがした。どこかある場所の独特のにおい。 真っ白な天井らしいものを見つめていた。身体をゆっくりおこした。やっぱりいやな場所だった。 病院 薬のにおいがプンプン匂う。 「あ。目が覚めた?」 「誰?」 ベッドの隣に、真っ黒なきれいな髪のした、男の子が座っていた。なんとなく秋と同じくらいの年に見える。 「僕は、澤村夏(さわむら なつ)」 「夏・・?」 「ああ。君の事は、僕が海に散歩しにいくと、倒れてたんだよ。無呼吸だったから、急いで救急車をよんだんだ」 「そうなんだ・・ありがと」 詳しいような説明を受け、なんだか納得。けれど、あれから無呼吸になっていたのは、さすがに驚きだった。 「それで、あなたは?名前」 「あぁ。僕は志摩秋」 「秋?なんか僕たちって、何かの縁で結ばれてるのかな?」 「え?」 不思議なことを言い出した夏。 「名前だよ。僕は夏。そして、君は秋。春夏秋冬の夏からとったんだって」 「あ。俺も。春夏秋冬からとったんだよ」 「まじ?なら仲間だね。っていっても、その名付け親・・両親?一昨年亡くしちゃってるんだけどね?」 下をピッと出して、エヘヘヘへ〜と笑いで流す夏。なんだか、本当に同じだった。 「そうなんだ・・・」 自分の親も、一昨年じゃないが、大分昔に亡くなってる。だから、あんまり物心がない分、悲しさがなかった。けれど、夏の場合、物心のついているころになくなると、それなりの悲しさというものがあるだろう。 「ゴメン。なんか・・」 「いんや。それに話したの俺だし」 笑顔で言っているが、秋にはわかっている。秋は下を向いて、前髪で自分の顔を隠すようにしていった。 「隠さなくていいんだよ?」 「え?」 「自分の涙。隠さなくたって良いんだ」 自分がそうだったから。記憶上、泣いたことがない。たぶん、もうすでに泣くことがなくなっているからだ。 「お前に・・お前に何がわかる!」 むきになったように、涙を流しながら、夏は怒鳴った。 「わからない。わからないけど、わかるんだよ」 「そのことばがわかんないよ!」 その場から離れようとは、していなかった。 「俺だって・・・」 秋まで怒鳴ってしまい。なんだか、秋まで泣きそうだ。 「え?」 「俺だって・・わかってやりたいよ」 でた。こういう話をしたことがないから、なんだかすっきり涙みたいだ。その涙を隠すよう、やっぱり髪で隠した。さらさらな秋の髪。こういうときは、きちんと役に立っている。 「なにを・・・・何を言いたいんだ?秋は」 「泣けばいいって言ってんだよ。こんな話になってて悲しくなったりしないのかよ。俺は・・・俺は・・」 久し振りの涙に動転してるのか、動揺しているのか、もう日本語すらわかってきていなくなってきていた。
あれから俺はすぐに退院し、自分の部屋でうずくまっていた。夏はといえば、あの後わかれたきり、何も話さなかったし、会う気も無かった。 ふと思い、秋はすぐさま両親の部屋をあさった。何かを知りたかった。何かという何かはわからなかったが、今まで調べようとしていなく、知らなかったことまでもわかってきて、なんだか、面白くなってきている。 ふと、ある手帳をみつけた。その手帳には、ぎっしりと書いてあった。走り書きのところは、何が書いてあるかはわからんが、わかるところはわかる。 「9月9日。秋がはじめて立った。私も父さんも、うれしくて頭をなでてやった。十日。立ったのは良いのだが、おでこを壁にぶつけて、大慌て。秋はにっこり笑ってホッとした。十一日何もないのだが、秋が急に泣いてびっくり。どうしたのかと思えば、惟がいじめていた。」 そんなものを見つけて、なんだか面白くなってきているとき、影が来たのが気づき、顔を上げてみると、怒っている表情の惟がいた。 ゾクッと鳥肌が立ち、暫く動けなかった。 すると、急に持っていた手帳を蹴り飛ばした。驚いて、秋はそのまま縮こまってしまう。ブルブルと震え、恐怖と不安でいっぱいになる。 「こんなものをみてどうするつもりだったんだ・・・」 かなり起こっている様子で見下ろし、震えた声の惟。 「だって・・・俺・・・親のことなんも知らない」 こわかったけれど、勇気を振絞っていった。すると、急にほっぺを思いっきり叩かれた。かなりいい音が鳴ったが、悲しい音もなった。 「お前・・俺だけじゃダメなのかよ」 そう怒鳴って惟は家を出て行った。 それから何日も日にちは過ぎたが、帰っては来なかった。安心したということもあるのか、なんだか不安と不思議でいっぱいだ。 ふと急に夏に会いたいと思い出した。そして、考えるより行動なのか、いつの間にか初めて会った、あの病院に足が行っていた。 すると、ベンチに座って本を読んでいる人がいた。よくみてみると、夏に似ていて近づいて影を作った。すると、こちらを見上げてきた。 かなり驚いた様子だ。それから、そこらへんをぶらついた。 なぜここにいたのかと聞いたところ、ここにくれば秋に会えると思っていたらしい。簡単に言えば同じ理由だったからだ。 軽くあれから何があった?とか言う話をしていた。 「ごめんな?あの時、俺・・なんか焦ってて」 「いや、夏が悪いんちゃうよ。俺がわけわかんないことぶっこいたからだよ」 「けど、ほんとゴメン」 「いんやぁ。・・・・じゃあ、お互い様ってことは?」 しらけた空気が大ッ嫌いな秋は、それで終わらした。うんと頷き、了解したようだ。 てきとうに散歩しては、買い物し。おそろいのものを買ったりしていた。すると、ある店で小さな子供とその親を見ていた。すると、なんだか、夏は懐かしいとつぶやいていた。 秋の良心をなくしたのは、大分昔。けれど、夏の両親は一昨年。一番つらいのは、やっぱり夏のほうだと、しみじみと考えていた。 何かの面影 はと思い出したある人のことば。コンビニを出ようとしたとき、ふとことばを発した人。なんとなく、思い描いてはみたものの、何も思い出せない。なんだか、でかい人?小さい人?と、記憶がぶっ飛んでいる。 それからか、秋は両親ことについて考え出した。 人間というのは、何かがあると、ふと忘れてしまうことがあるものなのだということを、秋は実感した。
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