だけど、この悲しさはなんなのだろうか。 乖離は家に帰って、ベッドの上に座り考えた。何がこの悲しさを苦しめているのか。 いままでは、しっかりしたところがあまり無かった分、乖離がどうにかしてきたが、今の状態は、本当に魁人のほうが、上という感じもある。 「物足りない・・」 その物足りなさが、どうなっていくのかが、不安で不安で仕方が無いのだ。
次の日も、なんだか、きちんとした顔を見せれる自身は無く、少々下を向きながら魁人と学校に向かった。 昼休みは、すぐに屋上に上った。やはり魁人も来た。別にダメではないのだが。 「ねぇ、最近部活うまくいってる?」 「あぁ!今度の練習試合、強いところと当たるんだ。それにレギュラーになれたんだぜ!」 と嬉しそうに言う魁人を見ていると、なんだか安心というかのほほんとできる乖離。こういうときに、部活に入って居ればなとかも思ったりする。 「そうなんだ。がんばってね!」 「あぁ。」 本当に嬉しそうだ。部活の話をもっと軽くしていると、いつの間にやら昼休みが終わり、次の時間へと変わっていった。やはり、何かが物足りない。
次の日のあさ。いつもと教室の空気が変わっていた。 「どうかしたの?」 静まり返ったわけではない。いつも以上に、明るいというか、元気というか騒がしいのだ。 「だって、ここに知らない人の机が・・・」 確かにこんなところには、机なんて存在していなかった。 「やっぱりあれだよ!転校生が来るとしか考えられないね!」 という噂がかなりの速さで広まっていった。 「静かに!」 いつの間にやら、担任の先生が来ていた。それには、誰も気付いてはいなくて、驚く人が、数知れず・・・ 「今日は転校生を紹介する」 そう先生が言うだけで、さっきのざわめきが戻ってきた。 教室のドアが開き、そこから知らない人が歩いてきた。なんだか、そこらの芸能人みたいに、カッコイイというかという男の人が来た。背もまぁまぁ高い。クラスの女子で、一番背の高い乖離くらいだと思う。 女子たちは、目をハートに変えて、その転校生を見ていた。けれど、乖離だけは、何だ。転校せいか。という感じの呆れた顔で見ていた。乖離は、そういうカッコいい人とかには、全然興味がないのだ。 「えっと、今日転校してきた、樋口啓です。よろしくお願いします」 と、深々と礼をした後、にっこりとした笑顔を出す。男子は、うわぁ〜・・と、むかついている人や、馬鹿馬鹿しいと呆れている人も。 その逆に女子は、もう憧れと言うか、もう王子様が来た!見たいな目をしている。これからどんなことがおきることやら。 「馬鹿馬鹿しい」 その中で、ボソッと乖離が言ってしまった。すると、女子は、ゆっくりこっちを見てきて、目をきらりと見せた。ちょいとビクッと来たが、そこまで怖いわけではない。けれど、転校生の啓は、驚いたように見ていた。 フフッと鼻で笑う啓は、ゆっくり乖離の目の前に来た。 「気に入った。俺の女になってくれ!」 と、手を差し伸べてきたではないか。 「馬鹿じゃないの?いっとっけど、私そんなやつ一番嫌いなんだよね」 そう。なりきったやつほど嫌い。男では、俺が一番かっこいいんだとか思っているやつが嫌い。女子では、男の前でぶってるやつがきらい。そういう、極端な感情を持っている乖離は、啓みたいなやつが、一番嫌いなのだ。 啓は、チョッとガクッと来た感じになっていたが、またことばを発してきた。 「そんなんじゃくじけないね。これからいっぱいアピールして、落としてやる!」 と意気込んで、席に戻っていった。乖離は、ふとため息をついた。
昼休み。やっぱりしつこく乖離の側によってきた。屋上に行こうと、乖離は弁当を持って席を立った。 「どこに行くんだい?」 「うるさい。ついてくるな!」 と、見下すように言ってやって、屋上に急いだ。すると、待っていたかのように、魁人は先に教室を出て行っていた。 「いいのか?あの樋口ってやつ。」 「いいよ。あいつと痛くない。魁人と居たいもん」 軽くそういうと、驚いたような顔をする魁人。何か不思議なことを言ったのかと思って、自分のいった事を思い出してみると、なんだか、自分で言ったのがかなりはずく感じた。 「あ・・深い意味は無いからね!」 「え?あ・・うん」 と、二人してメッチャ焦っていた。 「ね・・ねぇ、身長伸びてるけど、どのくらい伸びたの?」 「ん〜・・この前までは、一五五くらいだったけど、今は一六五くらいだよ。」 「へぇ〜大分伸びたね」 「そういう乖離はいくらなん?」 「え?一六九・・」 「ありすぎ・・」 と、魁人は目線を外した。 「うん。去年より五センチ伸びたかな?ってところ」 「ありえねー・・・女子でかよ」 「うん」 当たり前のように乖離は頷いた。 そんなこんなで放課後。帰るまでに、かなりの体力をくった乖離は、ゆっくり魁人の部活を見に体育館へと向かった。すると、仮入部感覚の啓がいた。 なんだか、いやな気もしながら、いつものギャラリーへと上った。 練習試合が近いからか、かなりいつもより先輩方が、ぴりぴりしていた。 そんななか、見学をしている啓。ふとそっちを見ると、あっちもこっちに気付いたのか、こっちを向いて、ウインクというものをしてきた。それを無視するように、視線を魁人に戻す乖離。 やっと練習が終わり、魁人とかえる。けれど、なぜか三人で並んでいる。 「いい加減にしてよ・・・」 もう呆れて、そんなことも言えない状態になっている。そう。一人多いのは、樋口啓だった。なんだか、ストーカーみたいで気持悪い。 「ねぇ、もうそういうストーカーじみたことやるのやめてくれない?」 思い切って言ってやった。 「え?だって・・それはあなたが好きだから・・」 「私を好き?俺の何を知って言ってるの?」 もうぴりぴりしてきたから、もう一人称が俺になってしまっている。 「俺はお前の事なんも知らない・・だからお前がそういう風に付きまとってくるの、かなりむかついてくる。いい加減にして」 と、怒鳴りつけてやった。すると、何も帰ってこなかったから、魁人の手を引張り、先にあるいていった。 ついてこなくは無くなり、すっきり気分だった。 「良いのかよあんなこといっちゃって」 「うん。本音をはかないと、スッキリしないから・・」 「けど、あれ聞いて少しホッとした」 「え?」 何のことを言っているのかさっぱりわからなく、乖離は立ち止まって魁人のほうを見た。 「いや・・なんか。安心したんだよ。なんていうのかな?ん〜・・あいつが消えてよかったのかな?ん?よくわかんないや」 と、なにやら隠し事があるような言い方だった。 「そう?」 「うん。とりあえず安心したんだ」 「ありがと。さ。帰ろ」 「あぁ。」 家に帰ると、何か一日で来た思い荷物が、一日で軽くなった気分だ。ベッドの上に大の字になって、ポケーッとしていた。 本当に疲れていたのか、すぐにグースカいってしまった。 「乖離・・・」 そのふとした声に気付き、パッと目を開ける。なんだか、聞き覚えのある声だった。体を起こしてみると、かなり驚きだった。自分が目の前に居るのだ。 幻覚を見ているのかと、軽く目をこすったりしてみたが、やはりきちんと見えている。 「え?俺が・・・目の前に?」 「もうあなたは自分のしたいことが出来ていないはず。岑じゃないと」 そういわれた瞬間、はとわかった事がある。自分じゃない代わりに、自分は岑になっているのだ。 「だから、一回だけチャンスを上げる。今から好きな人にあってきなさい。そしたら、今何をすべきなのかもわかるはず」 強気なことばで言われると、すぐに自分は消えた。時計を見ると、午前二時。周りはまだ真っ暗だった。 拳に力を入れて、窓から出る。いつも岑になるときは、勝手に靴着用済みなのだ。 家が近いから、結構便利とか思っているうちに、なぜだか岑は、魁人に家の屋根に居た。 「何で魁人の家?」 自分で来ておいて、不思議な気持だ。とりあえず、魁人の窓のところを覗いてみた。カーテンは閉まっておらず、やはり魁人は寝ていた。まぁ、こんな時間に起きていたら、チョッと困るんだが。 「どう入ろうかな?」 と思い、とりあえずガラスに手を触れた。そして、なんとなくここから部屋に通り抜けれるように、イメージしてみた。すると、本当にスルッとグニュグニュッと入って行った。暫く驚いていたけど、そんな暇ではないと思いながら、魁人に近づいた。 これくらいで気付いたら、結構驚きだ。 「ん・・・」 ビクッとした。魁人が軽く寝言らしいことを言ったのだ。 「かい・・・り・・」 それを聞いた乖離は、かなり恥ずかしくなってきて、顔を隠した。そして、魁人をチラミした。 ゆっくり魁人のほっぺたに触れてみた。暖かくて、行きてるって感じの体温だった。 すると、そっと魁人の手が岑の手に触れた。チョッと驚いて、またもやビクッとなる。魁人の目を見ると、ゆっくり魁人の目が開くのだ。 「え・・・もしかして起きてた?」 「うん。今起きた。」 といって、魁人は体を起こした。 「ゴメン。起こす気はなくて」 「いや・・いいんだ。どうせ寝れなかったしずっと乖離の事考えてた。」 「え?」 「お前って目が離せないんだよな・・危なっかしくて」 「そんな危なっかしいかな?」 「うん。」 かなりの即答だ。 「なんていうのかな?男に取られそうで怖い」 「男に?」 「あぁ・・」 と、真剣な目でこっちを見られた。よく見てみれば、いつの間にか鈴斗の姿になっている魁人。 「だって、俺昔から乖離の事好きだから」 岑の時間は数分止まった。 「え・・魁人が私を?」 「あぁ」 岑は少しの間、黙って考えた。けれど、その考えてることが自分でも良くわかっていない。とりあえず、反応しておかなければと、岑は鈴斗を抱きしめた。というか、それしか全然思いつかないのだ。 すると、ギュウッと鈴斗はしてくれた。なんだか、無言の時間が悲しくなってきた。
あの後、とりあえず岑は帰った。なんだか、付き合うことになったから、とりあえずいいって事かな?と考えていた。 学校に向かうときも、なんだかちょっとだけ気まずいが、今まで以上に話せることが多くなって来た。 昼休みとかも、なんだか、周りの目を気にしなくなった。 なんだか、魁人が自分のものになった気分だ。けれど、浮かれては居られないと、自分でも本当にわかっているつもりだ。 これからどうなるかわからないが、魁人とどうにかして行こうと思う。
それから数年後。魁人との仲は、変わらないが、逆に深まっている気もする。 それ以上にも変わったことがあった。 あれから、岑になることは一切無かったのだ。
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