MORASH3 同情するなら紙をくれ! [紙強奪変人 カミクレーナ星人 登場]
ある日の変質者排除隊PET基地。 隊長の源海蔵が作戦室内をうろうろ歩き回っていた。 「隊長、さっきから何をやってるんですか?」 通信業務担当の鈴木花子隊員がちょっと怒って言った。「ここでうろうろされると電波がよく受信できないんですけど」 PETは一応、国家機密部隊という位置づけがなされている。しかし戦闘の実績がほとんどないので予算はいつもスズメの涙ほどしかもらえない。いや、スズメならまだましだ。ときにはダニの涙ほどの低予算しか支給されないことすらある。PETは深刻な財政危機を迎えているのである。よってパラボラアンテナやその他もろもろはすべて手動に変えられてしまった。花子隊員はいつも手でアンテナを回転させて電波を受信し続けなければならないので、少々気が立ってしまうのだ。 「何だね、花子クン! 私がここにいると邪魔だとでも言うのかね?」 「はい。おおいに邪魔です」 花子隊員はきっぱりと言い切った。 「何だ何だ隊長に向かってその態度は!」 「いいから出てってください、気が散りますから」 「……」 源隊長は怒って出ていった。実は隊長もまた最近イライラしていた。ここ一ヶ月間、大BENが1粒も出ないのである。BEN意はあるのに内容物が出てこない。こんな苦しさが他にあるだろうか。大腸がどんどんぎゅうぎゅうづめになってゆくシーンを想像してもらいたい。あゝ、考えるだけで不快感をもよおしてしまう…。 とにかく運動してお通じをよくせねばならんと思って作戦室内をウォーキングしてみたのだが、あまり効果がなかった。やっぱりもっと大規模な運動をしてみるべきだろう。 「よし、この森林を突っ切って街に出てみるか」 源は一世一代の大決心をした。このPET基地は長野の山奥にあり、周りはこんもりとした森林に囲まれている。他に建物は見当たらず、文明と名のつくものが存在する地域までたどり着くのに正味3日はかかること必至だ。なぜこんな悪環境に基地が建設されたのかというと、都会は地価が高すぎるから。理由はそれだけだ。設立の際、予算の削減ばかりに気をとられ、組織運営の利便性に関して考慮する余裕などなかったようだ。 しかし、お通じをよくするには、この立地条件ほど好都合なものはなかった。さっそく彼は道なき道をかき分け、未知なる世界へと足を踏みこんだのだった。 と、 「SHAAAAAAH!」 いきなり彼を襲ってきたのは、マダガスカルマダラレインボーアナコンダであった。 「SHAAAH! SHAAAH! SHAAAH!」 明らかに彼は源に対して敵意の感情を抱いていた。口には鋭い牙が光り、目は釣り上がり、血管が浮き出ていた。今にも飛びかからん勢いだ。しかもさすがマダガスカル出身なだけあって、泣き声も英国語表記だ。 「な、なななな、何だチミは!? ハ虫類の分際で私にはむかうのか!!」 アナコンダさんは、自分の縄張りが見慣れぬ二足歩行の生命体に脅かされたので、非常に気を悪くしているご様子である。しかも、体長はざっと見て七メートルくらいはある。 源は下手に出ることにした。 「あ、あのね…僕を食べてもおいしくないでちゅよ。だから食べないほうが身のためでちゅよ。分かりまちたか?」 するとアナコンダさんは余計にご立腹なされてしまった。彼は非常にプライドが高いお方なのだ。 「SHAAAH! SHAAAH! SHAAAH専用モビルスーツ!」 「ひょえ〜〜〜〜!! たちけて〜〜〜〜〜〜〜!!」 源は全速力で逃走した。追うアナコンダ。基地からちょっと踏み出しただけでこのようなありさまだ。ここがどれくらい未開の地であるかがよく分かったであろう。 生きるか死ぬかの攻防戦(一方的に源がピンチだが)。ちょっとでも気を緩めようものならあっという間に敵の胃の中だ。振り返っているヒマはない。ただただ前方へ走り抜けるのみだ。これは排BEN時の心理と同じかもしれない。BEN座に座ったら、何も考えず、ただただ下半身に意識を集中させ、排BENという目標に向かってふんばるのみ。やはり同じだ。 「SHA、SHA、SHASHASHAのSHAAAH!」 アナコンダさんは歩(?)を速めた。 「ギャ――――ッ! このままじゃ死んじゃう―――!!」 そのとき、源は大きな石に足をつまずいてしまった。 チャンスとばかりに、襲い掛かるアナコンダ!! ガブズブグシャズキョベキャムキョキョッ!! GYAAAAAAAAAAH!! 断末魔の声が、長野県一帯を覆いつくした。
「山田隊員、田中隊員、今謎の悲鳴をキャッチしました」 パラボラアンテナを回していた花子隊員は、かすかに悲鳴らしきものを受信することに成功した。 山田太郎、田中二郎の両隊員は、彼女の周りに集まった。 リピートボタンを押してみる。 GYAAAAAAAAAAH!! 「何だろうな、これ」 「どっかで殺人事件が起きたとか?」 「まさか。この付近に民家はないわよ」 PETが所有するパラボラアンテナは安物のため、それほど遠くの異変は察知できないのだ。じゃあ何のためのアンテナかと問われると、ちょっと答えに窮してしまう。 「じゃあ交通事故?」 「道路だってないわよ」 「何なんだろうな」 三人は首をひねって考えた。ひねりまくった。すると山田の首は戻らなくなってしまった。 「だ――っ!! く、首があ〜〜〜っ!! いたいよ―――!! たすけて――――!!」 「バカはほっとこう」 田中と花子は山田を無視して語り合った。そして最終的に、次のような結論に達した。 「おおかた、森林に生息する若き♂ゴリラさんたちが、♀をめぐって激しい争いを続けているうち、一方が他方をメッタメタのギッタギタにしたんだろう」 「すばらしい推論だわ」 「どこの社会においても愛情というものは複雑なんだな。悲しい男の性さ」 田中はハードボイルドにつぶやくと、傍らのグラスに注がれた飲み物をすすった。ちなみにそれは、ポンジュースだった。 山田は首を戻そうと必死になっていた。
「ぐはっ、ぐはっ…マダガスカルマダラレインボーアナコンダさんめ…。さんざん俺をいたぶりやがったな…」 源は森林の中を血まみれになってさまよっていた。あの猛攻撃で死ななかったのは奇跡に近いことだった。普通の人間ならば即死だ。しかし、彼は普通の人間ではないのでどうにか一命を取りとめたのだ。 「くそ…今度会ったらぜってーぶっ殺……されるかもな」 かなり弱気だ。 それにしても、ここはいったいどこなのだろう。逃げ回っているうちに、まったく知らないところに迷いこんでしまったようだ。ふと木の上を見やると、パプアニューギニアコマドリモドキやガラパゴスオオウミガメトミセカケテマイマイカブリなんかが「キョエーッ!!」とか奇声を放っている。 「ホントにここはどこなんだよ―――――――――!!」 と叫んだときだ。彼は下半身に違和感を覚えた。なにやら肛門のあたりがムズ×2している。 「こ……この感触は……」 『BEN意』 どうやらこれは、アナコンダさんに追われるうちに肛門付近の筋肉が活性化し、BENを体外に排出する気運が腸内部で高まったゆえに起こった事象であることは否定できない事実のようだ。 源は急いでズヴォンを下ろした。今にも張り切れんばかりの勢いでそれは迫っていた。運命のカウントダウンが始まる。 発射10秒前…9…8…7…6…5…4… ズモズモブキョベキョグメメモガッ!! ゼロになる前に、それは暴発した。あまりの噴射力に源は30メートルも上空に飛び上がってしまった。一ヶ月ぶりということで、その量は半端じゃなかった。なんと体積にして源の三倍くらいはありそうなくらいだ。これらがすべて彼の腸内につまっていたのかと思うと、とても恐ろしくなってしまう。 「我ながらたいしたものだ」 源は自らの生成した茶褐色の物体を遠巻きに眺めて(臭いので近寄れないから)、満足そうに笑んだ。彼は排泄という目的を達成することができ、爽快感にあふれていた。こんなに心地よい気分を味わったのは初めてだった。 さて、排BEN後、人には必ず避けては通れない事柄が待っている。それは、尻の清掃である。この動作を怠ると、悪質な病原菌が尻を栄養源として増殖し、不衛生極まりない状態になってしまうのだ。 ここで問題なのが、清掃方法である。世界には様々な尻の清掃文化が存在する。例えば乾燥帯に生活する人々は、砂を用いる。素手で拭き取る人々もいる。しかし、我が國のトイレ事情を照らし合わせると、紙を用いるのが最も一般的な手法であろう。 というわけで、源はポケットを探った。が、 「ない…ティッシュがないぞ!!」 先日、彼は街にパトロールに出た際、道端で広告入りのティッシュを配っている人がいたので、経費節約とばかりにそれらをたくさんもらってきたのだ。確かにポケットに入れたはずなのに…。 アナコンダさんに追われるうちに、どこかで落っことしてしまったのは間違いなかった。 「くそ…俺はどうしたらいいんだ…。PETシーバーも持ってきてないから、基地に連絡しようがないし…」 源は青ざめた。人生最大のピンチだ。 彼はもう一度ポケットをまさぐった。1枚でも…1枚でもいい。一刻も早くこの汚染物質を尻から除去しなければ、世界に平和は望めない。地球の運命を背負いながら、彼はペーパーを探索する。 すると 「あったぞ―――――――――――――っ!!」 源はポケットの奥から、くしゃくしゃになったティッシュペーパーを発見した。それはたった一枚だったが、これで世界は救われるのだ!! 彼の目には、白色のはずのペーパーが、黄金に光り輝いて見えた。 彼はおもむろに、それを尻まで持っていく。そして一思いに拭き取ろうとしたその刹那! 「キョケキョケキョケ―――――――――ッ!」 バッ! 源の右手から、ティッシュペーパーが消えた。何者かが奪い取ったのだ! 「誰だ!」 辺りを見回す。しかし何も見当たらない。 「キョケキョケキョケ―――――――――ッ!」 「誰だ! 姿を見せろ!!」 彼は上空を見やった。赤ん坊くらいの大きさの小柄な人間が、木の上でニヤニヤしながら立っていた。その手には、ティッシュペーパーが一枚。 「何者だ、貴様!!」 噛みつかん勢いで源は尋ねた。 「僕チャンの名はカミクレーナ星人。地球に紙を奪いにやってきたんだヨ。キョケキョケキョケ―――――――!!」 嫌な笑い声を上げるその生物。 「ふざけんな―――――――!! そのペーパーを返せ!! それがないと地球が滅びてしまうんだ!!」 「やだヨ。僕チャンのカミクレーナ星は、地殻変動により、紙の原料である木が育たない環境となってしまった。民衆はトイレットペーパーを入手することができなくなり、尻をふけずに困っている。もはや社会生活は荒廃の一路をたどっているんだ! そこで僕チャンたちは地球のペーパーを奪おうと計画したんだヨ」 「だからって俺のなけなしのペーパーを奪うんじゃねー!! マ○キヨに行きゃいくらでも売ってるから、そこで購入しろ!!」 「だめだ! 少しでも多くの紙を持ち帰り、人々に平和を与えるのが僕チャンの役目だ! 妥協はできないヨ!!」 「一枚ぐらい少なくても何も困らんだろーがー!! 早よ返しやがれ、バカヤロー!! ガルルルル…!!」 源は野獣のように吼えまくった。 「奪い返せるものなら奪い返してみろヨ! キョケキョケキョケ〜〜!!」 カミクレー星人は木から木へとピュンピュン飛び移って逃げはじめた。小さいうえにすばしっこい。まるでサルみたいな奴だ。 「おのれ〜〜〜」 源は腰のホルダーから携帯銃・PETガンを取り出した。星人に照準を合わせる。狙いは右腕だ。 「喰らえ!!」 ズビビビ―――――――!! レーザーが発射される。ほぼ狙い通りだった。しかし、 ボオオオオッ! ぺーパーが燃え出した! レーザーは狙いをわずかにそれ、ペーパーに命中してしまったのだ! 「「ガッチョ―――――――――――ン!!」」 源と星人はムンクの「叫び」と化した。 「おにょれ…僕チャンが採取したペーパーを灰燼に帰しやがって―――――!! 巨大化ああっ!!」 カミクレー星人は巨大化した。「キョケキョケ―――ッ!!」 「逆ギレしやがってからに―――――!! ホントに怒りたいのはこっちだよ!!」
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