まさか、さかさま!? 作 三原葉美(みはらはみ)と役田拓也(やくたたくや) →二人合わせて三原拓也
ある日、僕は考えました。僕たちの世界がみんな逆さまになってしまったら、どうなってしまうのでしょう。 まず、朝のあいさつはこうなります。 「すまいざごうよはお」 まるで外国の言葉みたいです。何を言っているのか全く分かりません。 学校へ行くとき、逆立ちで街を歩かなくてはなりません。 女のコは大変です。スカートを押さえなければならないがゆえ、必然的に片手での歩行を余儀なくされます。女のコは男のコよりも、筋力やバランス感覚が養われるかもしれません。 授業中。先生は黒板ではなくノートに板書をします。そして僕たちはノートではなく黒板にそれを書き写します。黒板を家に持ち帰るわけにはいかないので、テスト前になるといつもノートがなくて困ってしまいます。 お昼ごはんの時間です。食べ物は口ではなくお尻から食さなくてはなりません。恥ずかしいので、みんなトイレでごはんを食べます。お昼どきにはトイレが混みあうので、事前の予約が必要となります。前売り券は職員室で随時販売中です。 さて、お昼休みに、上品なお嬢様二人が何かの勝負をしていらっしゃいました。そのうちの一人がこうおっしゃいました。 「わたしまけましたわ」 (私、負けましたわ) 大発見です。上から読んでも下から読んでも「わたしまけましたわ」です。これならいちいち逆に言うこともなく、気軽に言葉を発することができます。
例えば、竹やぶから火の手が上がった場合、次のように言えばいいのです。 「たけやぶやけた」 (竹やぶ焼けた)
和歌は好きだけど難しくて大変だ、かわいさあまって憎さ百倍、という人は、次のように言いましょう。 「かわいくにくいわか」 (可愛く憎い和歌)
今はまっとうな生活を送っているものの、若い頃はアル中だった人が、当時のことを秘密にしている理由を問われた場合、次のように言うべきです。 「よのためひとのためやめたのとひめたのよ」 (『世のため、人のため、やめたの』と秘めたのよ)
その元アル中が、実はヤク中でもあり、そのことを深く後悔している場合、次のように言ったらどうでしょう。 「くやまれくるしみしるくれまやく」 (悔やまれ、苦しみ、汁くれ麻薬)
友人が海賊版CDをレコーディングしようとしているのを見て、その違法性を六法全書を根拠として説こうとする場合、次のように言うのがよいです。 「ようよめやこれをれこやめようよ」 (よう読めや、これを。レコやめようよ)
鳩が他の鳥たちと競争していたが、予想に反して好成績をおさめていた場合、次のようにでも言っときましょう。 「はといがいとはやいやはといがいとは」 (鳩、意外と速いや。鳩以外とは)
その光景を隣で観察していた人が、反論を述べたい場合、次のように言うのが得策です。 「いやばすさやはりはやさすばやい」 (いや、バスさ。やはり速さ素早い)
夫婦げんかが平行線をたどっているとき、料理の塩加減で決着をつけようということになったが、夫がその結果に不服をもらし、暴力で妻を制圧した場合。 「あなたしおでしあいあしでおしたなあ」 (あなた、塩で試合。足で押したなあ)
さらにその夫が妻と離婚したのち、ミカンの早食い競争で優勝し名声を回復したが、ミカンの副作用で耳まで橙色に染まってしまい、失意の人生を送った場合。 「いだいだだんなはみみはなんだだいだい」 (偉大だ、だんなは。耳は何だ。橙)
農業を営んでいる隣家に対し、悪臭に関しての抗議を申し入れたい場合。 「くさいたのへいがいへのたいさく」 (臭い田の弊害への対策)
イラクで武装勢力と銃撃戦になったとき、敵が出窓から外を見張っていたが、それに飽きて網戸の方へ歩いていった場合。 「でまどみあきたかたきあみどまで」 (出窓見飽きた敵、網戸まで)
新しくヤカンと鍋を購入したが、なぜかそれらは熱を帯びており、使用していたら台所の壁が燃えてしまった場合。 「かべなんかやくやかんなべか」 (壁なんか焼く、ヤカン・鍋か)
ママが七面鳥の胸肉を使って料理をしていたとき、突然今の変わりばえのしない生活に嫌気がさして、胸肉を投げつけ、家を出て行ったが、その胸肉はまだ細胞が生きていて、眠たそうにしていた場合。 「ままなげたむねはねむたげなまま」 (ママ投げた胸は眠たげなまま)
ハイヒールフェチの祈祷師の女性たちが、多くの災難をこうむり、不快な思いをした場合。 「くつかむきとうおんなたちたなんおうときむかつく」 (靴噛む祈祷女たち、多難負うとき、ムカつく)
やさしいと思っていた父が実はシスコンであり、妹に会うためなら富士山を越える覚悟もあると知った場合。 「しすこんさじぶはふじさんこすし」 (シスコンさ、慈父は。富士山越すし)
小学校に上がった孫に学習机をプレゼントしようと、家具店で注文したものの、店側の手違いで品が届かず、その店に対する信頼が崩れ、絶望のふちに立たされた場合。 「かうつくえうのみにしたわたしにみのうえくつうか」 (買う机、鵜呑みにした私に、身の上苦痛か)
ピアノの発表会を翌日に控え、徹夜で練習しなければならず、ドライブスルーで夜食を入手した場合。 「よるするーぴあののあぴーるするよ」 (夜、スルー。ピアノのアピールするよ)
遠足のとき、川原で飯ごう炊さんをしていたが、誤って川に転落した児童がいて、みんながそれを助けようとして、誰も火の番をしていなかったため、ごはんが黒コゲになってしまった場合。 「したぎすけたしめしたけすぎたし」 (下着透けたし、飯炊け過ぎたし)
もう四十になったというのに未だに結婚できない不運な女性が、その腹いせに産婦人科の看護師であると身分を偽り、資産家の息子に多額の現金を貢がせていたが、その犯行途中にカバンを宝石店に置き忘れてしまい、そこから足がついて御用となった場合。 「かばんさんこみせにのこすこのにせみこんさんばか」 (カバン三個店に残す、このニセ未婚産婆か)
東○ポの一面を読んでみたところ、犬を風呂に入れた際に体を乾かす装置として、磁気を照射する方式がとられていることを知り、その機械を開発した企業に抗議をしに行ったのだが、「あの記事は全くのデタラメです」と言われ、やっぱり犬は自然乾燥が一番だよなあ、と思った場合。 「じきいるわけわからぬいぬらかわけわるいきじ」 (磁気要るわけ分からぬ。犬ら乾け。悪い記事)
会誌に載っていた、高額な柿の種に関する話題もまた、下ネタにしようと思えばできるので、それが楽しみな場合。 「かいしのたかいかきのたねもしもねたのきかいかたのしいか」 (会誌の高い柿の種も、下ネタの機会か。楽しいか?)
あるスーパーマーケットで、トイレに値段をしまっていたのだが、そのトイレがまるで冷凍庫のように冷え切っていた場合。 「ねだんしまうといれれいとうましんだね」 (値段しまうトイレ、冷凍マシンだね)
朝、山奥の滝にカノジョを連れていったら、妙に滝の水が熱くなっていて、どういうわけかその瞬間、いきなりカノジョが別れ話を切り出した場合。 「たきあついあさあいつあきた」 (滝熱い朝、あいつ飽きた)
かつて一時代を築いていた唐傘も、今ではビニール傘にとって代わられているのを見て、ビニール傘は若さを売りに勢力を伸ばしているのだなあ、と感慨深くなった場合。 「からかさかわられそれらわかさからか」 (唐傘代わられ、それら若さからか)
その傘のように細い体型の人物を、節分の日に赤坂で見かけた場合。 「かさかあのじんぶつせつぶんじのあかさか」 (傘か、あの人物。節分時の赤坂)
お昼の情報番組で、木の実の健康効果についてみのもんたが解説していたが、スタジオ内でさっそく調理してみようということになり、コンロで木の実を焼いていたが、それを見たみのが、やけに興奮していた場合。 「やいたきのみにみのきたいや」 (焼いた木の実に、みの期待や)
みのもんたに依頼を受けた店が営業を開始したが、客の入りが悪いので、君の知恵を貸してくれ、と懇願された場合。 「しいかせみのいらいのみせかいし」 (思惟貸せ。みの依頼の店、開始)
屋根から今にも雪が落ちそうになっていて、しかし、しぶとく耐えていたが、つららでつついてみたところ、それが一気に落っこちてきた場合。 「たれさがるゆきつららつきゆるがされた」 (垂れ下がる雪、つらら突き、揺るがされた)
天秤で重さを量ろうとしたが、おもりが欠けたり紛失したりで完全でなく、石を乗せるべきかおもりを乗せるべきかで迷い、さらにはかりの性能までもが疑わしくなり、見るもの全てが信じられなくなった場合。 「いしかおもりかはかりもおかしい」 (石か? おもりか? はかりもおかしい)
むかしむかし、あるところに一人の紳士がいたが、彼の身だしなみは自己中心的で、また声も安っぽいダミ声だった場合。 「えごみだしなみかふかみなしだみごえ」 (エゴ身だしなみか? 深み無しダミ声)
昨夜十一時半ごろ、東京都世田谷区に住むとある画家が誘拐され、警察は一刻も早く人質を返すよう喚起したのだが、犯人側は人質の命と引き換えに砂金を要求してきた場合。 「かんきさせえかきかえせさきんか」 (喚起させ、絵描き返せ。砂金か?)
警察の尽力によって画家は無事救出され、彼は自宅に帰って土間でくつろいでいたのだが、科学技術の発展に驚き、人生について急に迷い始めた場合。 「かがくがもうどまでまどうもがくがか」 (科学がもう土間で惑う。もがく画家)
溶解性の高いイカを吐き出したところ、エアコンと金庫がもろくもブッ壊れてしまった場合。 「いかはくなえあこんきんこあえなくはかい」 (イカ吐くな。エアコン・金庫、あえなく破壊)
パポロン教で説かれているところの、全知全能の神を崇拝している者は、ここにいるウスノロのみである、と明らかにされた場合。 「かみのこころのすうはいはうすのろここのみか」 (神の心の崇拝は、ウスノロ、ここのみか)
成人病に効く良い毒があったのだが、その服用の注意として、どんな時に飲んだらいいかということがこと細かに書かれているために、くどいと思ってイライラした場合。 「よいどくもどんなときとなんどもくどいよ」 (良い毒も『どんな時?』と何度もくどいよ)
年末の大掃除の際、こっちを手伝ってほしいんやけど、と母に頼まれたが、バカ言うな、ワシかて急がしいんや、ツヤ落としもせなあかんし、おやつもまだ途中やねん、他の人に言ってーな、と関西弁で切り替えした場合。 「ばかなつやおとしとおやつなかば」 (バカな。ツヤ落としと、おやつ半ば)
眠っている三原はこの子よ、この子の腹には幼いころ雷に打たれた傷が今でも残っているから、それが目印になるわ、と本物と偽物の見分け方を教えたい場合。 「ねたみはらはこのこはらはみたね」 (寝た三原はこの子、腹は見たね)
熱海で火事が起きたとの情報が、ある新聞社に届いたが、あいにく記者たちは他の取材で席を外していたので、普段雑用業務を任されている人物が、ちょうど時計を見ていた他の人物と共に、熱海行きを命じられた場合。 「とけいみたあのひととひのあたみいけと」 (『時計見たあの人と、火の熱海行け』と)
柔道二段の男が若き日の過ちを反省し、被害者の女性が住んでいるルワンダに、テレビをお詫びとして送った場合。 「にだんわるびれててれびるわんだに」 (二段悪びれて、テレビ、ルワンダに)
花壇の土をこねて土器を作っていたが、その最中に暴漢に襲われ、必死で土器を守ろうとして抱きかかえたところ、背中を刺されて倒れ、寝こんでしまった場合。 「かだんこねていだいてねこんだか」 (花壇こねて、抱いて、寝こんだか)
いま寝ている子供は、熱狂的なヨン様ファンで、おとなしい尼さんの話をすると怒り出す場合。 「ねるこおとなしいあまさんよりよんさまあいしなとおこるね」 (寝る子、『おとなしい尼さんより、ヨン様愛しな』と怒るね)
いいかげんキリがないので、最後にとっておきの作品を一つ。作者が雑誌に投稿して、見事掲載されたものです。
釣りの最中に、釣った先から生で魚を食っている奴を見かけた場合、次のように言ってやりましょう。 「よくつりじかんせいせんかじりつくよ」 (よく釣り時間、生鮮かじりつくよ)
世界がみんな逆さまになったら、とても大変なことになってしまいます。そのために、僕は日頃から回文の特訓をしておこうと思いました。 使うことは永遠にないでしょうけどね。
(おわり? ワオ!)
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