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砂漠に生きた美しき姫伝説 作者:秋桜

第4回   隠された部屋

あれからどの位たったのか・・
マヤは気を失っていたらしい

ぼんやりと目を開くと
周りは意外にも騒々しかった。

「マヤ様、お目覚めですか」
やさしい、聞きなれた声。
そこにいたのは、母親代わりのサラだった。
「・・・ここ・・、どこ?知らない・・・」
「ここは、遺跡の地下です。いざというときの為に造らせた特別な部屋ですわ。
だからもう安心してください。ここには味方しかおりません」
味方・・・
その言葉でマヤは思い出した。
あの出来事を・・・
「ムタはどこへ!!」
マヤは起き上がろうとしたが、体に力が入らなかった。
が、サラは不意に悲しい顔をする。
それマヤの心にも暗い影を落とした。
すると
「申し訳ありません・・・マヤさま
私たちは、ムタ派の陰謀を見抜き阻止できなかっただけでなく、
取り逃がす失態・・・
マヤ様に忠実を誓いながらこの有様・・・。」
下げた顔を真っ赤にして、許しを請うこの男は
マヤにとっては父親やおじのような存在の一人だ。
昔から遺跡でマヤを誠心誠意、守ってきた兵士・・・ライド
「・・・いいえ、いいえ・・っぅ・・・」
はじめてマヤの目から涙が溢れた。
無言で首を振るマヤを見かねて、サラがいう
「ライドもうよいです。
それよりも怪我をした兵士たちの世話を頼みます。」
遺跡をとりしきるさらに言われ、
ライドは名残惜しそうに、しずしずときびすを返して去っていった。

マヤはしばらく放心状態だった。
その間もサラはマヤのそばを離れないでいてくれた。

やがてマヤが口を開いた。
「ねぇ、サラ。何があったの??教えてちょうだい」
「しかし、お辛くありませんか・・・」
「わたしは大丈夫よ。だから、」
強気のマヤ(十分傷ついたように見えるが)に催促され
仕方なくサラは話し出す。
「詳しくはわかりません。
しかしムタ派はマヤ様が王位につくことで利益を得る人物なのでしょう。
ですから私たちマヤ様の家臣がすることは、
敵を知り、マヤ様を守りながらも、着実にマヤ様派を集め、ムタ派に打ち勝つことでしょう。
でないとマヤ様はこれから先、一生隠れて暮らす身になるでしょうね。
今、ルクセスが手がかりをつかみにムタ派を追っています。」
「・・・」
「私たちはとりあえずここで連絡を待つほかありません」


マヤは何もいえなかった。
驚いた、そして申し訳なくさえ思った。

自分の人生か大きく変わろうとしていること、
自分は守られるだけの非力な人間でしかないということ、
そして自分を守ろうとしてくれた兵士もまた傷つき、
それでも守ろうとしてくれる人がいるということに。
そう、傷ついたのは自分だけではない・・・
そして、これからもたくさんの人が血をみるであろうことを悟った。

「ごめんなさい・・・私なんかのせいでたくさんの人が・・・」
「落ち込まないで。
私にとってもあなたは娘同様なのだから。
あなたは強い娘です。自分の苦しみも大きいでしょうに。
なのに同胞達を包み込む優しさをも兼ね備えていらっしゃる。
でも無理はしないで。
わたしたちの大切な家族であり、姫君なのですからね」

サラの言葉は素直に胸にしみこんだ。

まわりを見渡してみて気づいたのだか
この秘密の部屋には、十人弱の見知った兵士たちがいた。
みんな何らかの傷を負っている・・・
意識を取り戻したときに感じた、騒々しさの原因は傷ついた兵士をかいがいしく世話する使用人たちが立てる音だった。
この部屋には十五人程度の人がいる。
ふだん27人で遺跡生活を送っていた・・・
ではあとの人たちは??
マヤは少し心配に思った。

「あら、・・・お兄様・・・」
そんな矢先、マヤが‘お兄様’と呼ぶ使用人が近づいてきた。
幼いころルクセスが親しみをこめて「お兄様」と呼ぶのを聞き、
マヤも自然とそう呼ぶようになった。
長い黒髪が美しい男だ。
ルクセスより3つ年上で秘書のような仕事を任されている。
「マヤ様、気分はいががです。
落ち着いたのなら、隣にマヤさまの個室をあつらえましたので移動しましょう。
私が肩を貸しますから。」
そういって、マヤの手を取ろうとする。
なんでもないこと・・・なのにマヤは手が出せないでいる。
「どうしました?」
「・・・ううん。なんでもない、
・・・と思う・・・。」
マヤの様子が少しおかしかった。
「マヤ様??」
仕方ないな、
とマヤを立たせようとマヤの腕に触れたとき、
マヤの体がビクッと震えた。
「・・・っ!!
おに、さ・・ま・・・
や・・・、はなして・・ぇ、っぅ〜」
そこにいたのはとても怯えた顔つきのマヤだった。
「失礼しました・・・」
そういって手を離すが、さすがにショックだった。

「男性が怖くなってしまったのね・・・」
つぶやいたのはサラだった。





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Novel Editor by BS CGI Rental
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