夕日がさし始め、砂漠が赤い世界と化した頃、マヤは遺跡のなかの自室で目を覚ました。 どうやら眠ってしまっていたようだった。 立ち上がって水差しに手を掛ける際、人の気配に気付いた。
!?
「…誰?」 …しばらく何の音もしなかったがやがて 「よくわかりましたね、私はこれでもお忍びが得意なんですがね」 と、近づいて来る男。 明らかに嫌味な笑みを浮かべて… 「何ですかい、その顔は?覚えていらっしゃるでしょう?ムタですよ」 !! 「それよりっ!女性の自室に勝手に入ってくるなんて! 無礼者、近づいて来ないでっ!」 「そうはいかない」 マヤが言葉を言い終わるか終わらないかの内に、ムタは言い放った。 「王命です、お聞き戴こう。 まぁ、落ち着きなさいな、 …腰を下ろして話をしましょうや」
ムタという男はマヤが始めて知るタイプの男だった。 この遺跡にマヤと暮らす数人の騎士はマヤに傅き晴れ晴れしい笑顔を見せる者、気難しい顔だけど優しい大人の騎士だった。 幼なじみのルクセスは屈託のない笑顔でマヤを妹のように可愛がる…そんな人に囲まれ暮らしてきた。 だがムタはどうだろう、ニヤッとした笑いがマヤの神経を逆なでする、そんな男だった。
マヤは一息ついて 「今回だけは赦しましょう。しかし次からは決してこのようなことの無いように。 では早々に話をお聞かせ下さいな」 … 「お堅い王女様だな、モテねーだろ?」 「早く話を!」 ムタは肩を竦めてハイハイというと 「早い話が、俺がカリエス王から受けた命はだな… オマエサンを宮殿に連れ帰って、契りを結ぶ、そんでもって夫婦で即位だ。」 マヤは絶句した、あるはずがない… 「即位するのは第一王子のシンさまと聞き及んでおりますが?」 … 「あーあれだ。シン様は、…ちょっとな。 だからオマエサンが選ばれたんだよ」 「信じない、嫌よ。 お引き取り願います。」 … 「そーは言われてもなあ…。抵抗された場合、無理矢理連れ帰れっていわれてるんだわ。 オマエサンに決定権はないんだな」
マヤは体中から力が抜けたような気がした…でもここでこんな男のいいなりになるわけには行かなかったし、世の情勢も知らない自分がこんな男を信じるのは危ないと本能的にそう感じた。 早く誰かに助けをもとめなくては… そう思って立ち上がろうとしたマヤに重みがかかった。
!! 「きゃぁ、何するの!? おどきなさいっ、んん?!」 ムタの手がマヤの口を塞いだ。 マヤが必死にムタの下から抜け出そうとするが上手くは行かず、 「わるいけどよぉ、こっちもあんまり手間かけたくないんだな。 だから先に既成事実を作らせてもらう、 おとなしくしててくれな。」
あまりの出来事にマヤは打ちのめされた。泣きたくとも、自分のプライドがそれを許さなかった。 それがいっそうマヤを悲しくさせた。
|
|