いざ逸れ 救いの御霊よ 我等にもたらすものを善しとし 闇から解き放て 我等を救いし 先代の王よ 永久に 誓おう この歌をもって 汝の命懸けて …
美しく澄んだ歌声が遺跡に響き渡る。 彼女は砂漠に暮らす者らしからぬ白い肌に銀の髪をもった少女だ。
王女でありながら十五年間、宮殿を離れてひっそりと遺跡の奥に住まう毎日… 淋しいときは聞き覚えた数少ない歌で自らを癒す、そんな生活だ
――――――
「マヤさま、父上様からの使者が参られました」 「…?!今行きます…」 それは今日も歌い終えて湯浴みをしたあとのことだった 何かしら…と急ぎながら、今は家ともなり住み慣れた遺跡の奥へ向かって行った。 ― 「マヤです、ようこそいらっしゃいました。 早速ですが御用件をお聞かせ願いますか」 やって来た使者は二人、一人は中年の騎士で、もう一人は若い青年だった。 どちらも長い旅に疲れた様子だったが、中年の男が話だした。 「マヤ様に於かれましては御健康のようでなによりです。 わたくしが心よりお慕い申し上げている王様、つまりマヤ様の父上カリエス王の病状が日に日に悪化していらっしゃるのです。 そこでカリエス様はマヤ様が女王となることを強くお望みなのです。 そこでわたくしが与えられた使命は二つ、お父上からの贈り物をとどけること、マヤ様を砂漠の宮殿へお連れすることなのです」
いままで音沙汰なかった父、愛情すら感じたことはなかった。 その父が…なにを考えているのか分からない、この遺跡を離れる事も考えられない… 「それで贈り物とは?」 呆然としているマヤの傍らから口を出したのは、マヤの幼なじみであり騎士であるルクセスだった。 父王からの使者である若者は依然押し黙り、騎士は苦い顔で 「この青年です。名をムタと申しますが後で、マヤ様の部屋へ寄らせていただく形でよろしいでしょうか」 「その時に詳しい説明を?」 … 「はい、ではそのように」 「マヤさま、わたくしは同席出来ないということでしょうか?」 ルクセスが言った、すると今まで黙っていたムタは 「それは困ります。これは王命です、必ずマヤ様一人で」 もうすでにマヤに拒否権は与えられていなかった… 否応なしにマヤはそれに答え、約束を今夜としたのだった。
その後昼食を終えたマヤは今までの自分自身の人生を振り返ることにした。 思い返せば奇妙な人生だった… 砂漠の第一王女として生まれながら、宮殿を追われ生きる身となった、全ては母上の生い立ちにあるのだろう、
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