朝日が眩しく部屋を照りつける。 布団から這い上がると、両隣にはティセとシィルという二人の超美少女が眠っていて、まさに両手に花、なクラウドであった。 「おはようございます。朝ですよ」 「クラウド……ねぼすけさん」 顔を火照らせてクラウドの上に乗っかってくるシィル。 間近でシィルを見ているクラウドにはいささか心臓に悪い。 「……他の男から見れば、羨ましいんだろうな」 「恐らくはそうですね。でも、クラウドさん以外で私達と同行しようものなら、それこそ、命の10個か20個は持ってきていないといけませんね?」 ――まぁ、そうだな…… ――なにしろ天下の『聖典』所有者がすぐ目の前にいるしな…… 「シィル、ロンギヌスはあとどの位使える?」 「……あと4回」 「ごめん。やっぱ途中で寝ちゃったのがいけなかったんだな……」 「いい。クラウドは頑張ってくれたから……」 「うっ、そんな事くらいで頬を赤らめないでくれよ……」 シィルよりも顔を赤くして俯くクラウド。普段無表情で言葉が少ないシィルに必って、こういった可愛い顔をされると、よりドキッとしてしまう。 「ではクラウドさん、参りましょうか?」 「あぁ。所でティセさん……」 「はい?」 「あとどの位この町にいるんだ?」 そう。それがクラウドは知りたかった。 もしも長期滞在ならば、もっと仕事を取らなければいけない。 短期なら必要最低限の道具を買って終わりなんだが。 「さぁ、いつまででしょう?」 「何明後日の方向を見て言ってるんでしょうか?」 「アハハ、別に〜?」 決めていない。 いつもティセはこう言うのだ。だが二人は不思議とそれに逆らえない。 理由は色々ある。ティセが怖い。シィルがわがままを言う、等。 以前はクラウドが借金を作って出るに出られなくなってしまった珍事があり、その時のティセはクラウドと出会って間もなかった為、あまり彼と仲よくなかった。 そしてあの時から彼はティセを「さん」付けしだしたのだ。 「何かとっても怪しい。何故か店主の顔色が笑みだったし」 「私達はいわば英雄だから」 「ふ〜ん」 すると、ソファーに寝転がったクラウド。 「英雄なんてくだらない」 なんて呟くクラウド。その目は薄っすら悲しい色になっていた。 「うん。その点クラウドは英雄なんかよりもカッコイイ」 満面の笑みで、 そんな恥ずかしい事を平然と言ってのたまうシィル。 「まだ、あの事を許せないんですね?」 「だって、ティセさんは許せるのか?あいつは……!!」 瞬間、 青い顔をし、そこで言うのを止めてしまったクラウド。 口を両手で塞ぎ、額に冷たい汗を垂らした。 しかしティセは笑顔で、 「私は……クラウドさんとシィルがいますから、大丈夫なんです」 二人をそっと抱きしめながら、 「だから……全然怖くないです」 涙を流していた。 「…………」 クラウドはもはや、何も言えなかった。 自分はあの時、命に代えても二人を守ると誓った。 それを忘れたわけではあるまい。 しかし自分は不覚にも、その一人のティセリアを泣かしてしまった。 「ティセ、泣かないで」 頭を撫でていい子いい子をするシィル。いつもと立場が逆である。 「クラウドは悪気があって言ったんじゃない。むしろ泣かれるとクラウドが傷つくから、できれば早く泣き止んで欲しい」 シィルの言葉に嘘はない。悪気があってそんな事を言った訳でもない。 ただ、シィルはティセを気遣うと同時に、クラウドも気遣おうとしているのだ。 どちらも悲しませたくない。どちらも責めたくない。 だからこそ、二人の味方をするシィル。 それを優柔不断という人がいたとしても、シィルは何も言わないであろう。 二人を危険に晒さない限りは。 「ごめんなさい、朝っぱらからこんなの、私らしくありませんね?」 ティセもそれが分かっているからこそ、シィルといつも一緒にいたのであろう。 「……それで、どうするの?南の洞窟」 「そうだなぁ。じゃあ、そろそろ行くか?」 クラウドが立ち上がると、グローブを填め、空手の構えをする。 「はい。では、参りましょう」 そしてそれを見て笑っていたティセの言葉と共に、三人は宿を出た。 「でも、クラウドさん」 「はい?」 そしてその時、ティセは少し笑った。 それは、女神のような、美しい笑みであった。 「絶対『ハデス』だけは出さないで下さいよ?」 そっと髪を靡かせながら…… まるで子供に諭すように呟く、笑顔のティセリア。 「…わかりました」 「絶対ですよ?」 「わかってますから」 そんなティセを見て、クラウドも少し笑う。 「私達を……特にシィルを残して死ぬ事は、絶対に許しません」 彼女もまた、シィルとクラウドを気遣っている。 何せ自分を差し置いて、彼はシィルを選んだのだ。 ならば自分が今まで彼女を守ってきた分を、彼に背負わせようとしていた。 ――なんて意地悪な言い方。 自己嫌悪しかけ、止めるティセ。 しかし、シィルは首を横に振って、ティセを見る。 「大丈夫。クラウドは私が守る」 はっきりと、 自信満々に言ってくれるシィル。 「うん。シィルがいるなら安心です。よかったです」 その言葉に、ふと子供っぽい笑みが戻るティセ。 クラウドも少し笑うと、ティセの肩をそっと抱く。 「心配しないで下さい。俺は絶対ティセさんとシィルを守る。守ってみせる!!」 「ウフフ……これで安心しました」 ティセはまた笑った。 彼は結局、優しすぎる。 普通なら、どちらかの味方しかできない状況で、二人とも守ると言ったクラウド。それは一聴して、なんて浮気性な、と思われても仕方がない。 まぁ、そんな事を思う奴がいても、ティセとシィルの前に発言を撤回されてしまうに違いないのだろうが。 しかしクラウドは二人を少なからず知っている。その苦痛と辛さを知っている。 だからこそ、どちらかの味方だなんてしない。 二人の味方をする。 恐らく、それでどちらも得られなかったとしても、二人は彼を責めたり、恨んだりはしないであろう。
――こういう人に、自分達は惚れてしまったのだ。 ――だから、こんな事を言ってる彼を守らなければ。
二人の共通する思い。 それは、彼を守る事である。
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