こうしてドタバタな買い物を終え、夜になってきたので宿屋の食堂に集まる三人。 食堂にはカウンター椅子が六つとテーブルが六つあったので、三人は一番左端にあるテーブルを囲って座っていた。 買ったものを部屋に置き、それぞれが一つのテーブルに座ると、ティセが持ってきた仕事リストを見る。
お仕事その一 南の洞窟にいる魔物の撃退……300ゴールド
お仕事その二 町を襲う魔族退治……250ゴールド
「……」 「……」 どちらも魔物撃退なのだが、合わせて550ゴールドはおいしい。特に一向はクラウドの食費で大量消費するので、こういった高収入のとっても危ない仕事を率先してやるようにしていたりする。 「アハハ、物騒な物ばっかですね?」 「…いや、ゴミ掃除なんかよりマシだと思うが……」 クラウドの言葉に満場一致で頷く三人。以前町のごみ掃除などという事を10ゴールドでやった事があった。正直辛かったのだろう。三人の目が、だんだんと遠いものになっていく。 「南のは何時行くの?」 「それがですね、何時でも良いそうです。なんでもあそこの魔族が強すぎて、今まで何十人も雇って生きて帰れた方がゼロ、だそうです」 親指と人差し指をくっ付けてゼロを作るティセ。終始笑みである。 「……腕が鳴る」 物騒な事をつぶやくシィルはとりあえず無視する。 「じゃあ町を襲う奴は、何時だ?」 「それも不定期です。いつも襲いに来て、食料強奪して帰っていくそうです」 その言葉を聞いた瞬間、またも彼女の目が光った。 「食べ物を盗む……許さない!」 「シィルさん、ちょっと怖いのですが……」 「仕方がありませんよ。シィルは食べ物、特にお菓子なんかを粗末にする人は悪・即・斬ですからね?」 「人の食べ物を盗る人……万死に値する」 何時もよりも2割り増しで使命感に燃えるシィル。 「この食いしん坊万歳めが」 そこで4割引のクラウドの独り言。 しかしクラウドは忘れていた。
ポカッ
彼女が地獄耳であった事を。 「人の事言えない」 「だからゲンコは止めい。とにかく、取りあえず明日南の洞窟にでも行って……」 ベッドに倒れこんでクラウドが呟こうとした、 まさにその時であった。 「大変だーーーーーっ、オーガが攻めてきたぞーーーーーーっっっ!!!!」
なんともお約束な展開の良さだと思うがそこは敢えて無視しよう。 突然聞こえた声に驚いて起き上がる三人。 「ずいぶんと早く来ましたね」 「よし、行くか…って、シィル!!!!」 ――いない!? 辺りを見ると、微かに風邪が来ている事に気がつく二人。そして開いている窓の方に行き、身を乗り出して下を見ると、着地してオーガの軍勢に、たった一人で立ち向かおうとするシィルの姿があった。 「あの馬鹿、ここ二階だぞ!?」 「アハハ、私達も行きましょう?」 「ラジャー!」 そういって二人が宿屋から出ると、見事にオーク、オーク、オーク!!! まさにオーク尽くしのオークフルコース(うわぁ、不味そう……) 町を壊していて、辺りは炎が渦巻いている。 ――恐らく、あの一角でシィルが戦っている頃であろう。 「おーおー、やってるやってる」 「じゃあ、私達も行きましょうか……」 ティセが戦闘態勢に入る。 と言っても、見た感じ、徒手空拳であったが。 そしてそのままオーガの群れの中に、自ら入っていってしまった。 「仕方がない。やってやるか」 するとクラウドは手に嵌めているグローブで空手の構えに入り、念を込めた。 暫くすると、グローブから巨大な炎が溢れ、右腕に巻きついていた。 そしてオーガに向かってその炎を振り下ろした。 「燃え盛る炎の鉄槌(バニシング・ハンマー)!!!!」
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!
クラウドの手から離れた炎は瞬間、爆音と共に業火となり、オーガたちを頭上から包み込んだ。 一瞬、何が起こったか分からなかったオーガたち。半分は気づいて断末魔を上げ、またもう半分は、気づかないまま身を灰に化してしまっていた。 「おっしゃあ!」 クラウドは喜びながら横のオーガに鉄拳を食らわすと、ティセの方を向く。 「ティセさん、シィルの居場所は?」 「あっ、あそこにいますよ?」 ティセが指差す先には、何人ものオーガ軍団と、シィルの姿があった。 そして彼女の両手に、真っ白で大きなバズーカのような物が握られていた。 「遅い!」
ズガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!
シィルがバズーカをオーガに向けると、バズーカから光が発し、巨大な光線がオーガに向かって飛び出していった。そしてそれがオーガに激突すると、巨大な爆発が起こり、オーガをもろとも消し飛ばしていた。 「うわぁ……見境ないな、ありゃ……」 「アハハ、シィルったら強いですね?」 「笑い事ですか?」 呆れるクラウド。毎度の事ながら彼女のこういった性格は扱いにくい。 「それじゃ、俺もちょっとカッコイイ所でも見せますか?」 そういうとクラウドは走った。 「燃え盛る炎の鉄槌(バニシング・ハンマー)!!!」 業火がオーガを焼き尽くし、全てを灰に変える。 尚、戦いは夕刻まで続いた。
そして夕刻…… 「さぁ、食べてくれ!あんたらは町の英雄だよ」 「酒だ、今夜は宴会だぞ!」 「町を救った英雄達に、かんぱ――――――い!!!」 「「「かんぱ―――――――い!!!!!」」」 何故こんな事になったかというと、 ご存知の通り、彼らは戦いに勝ったのだ。 それも数十匹のオーガ軍勢に圧勝。町はこれといった被害も無く。 「アハ〜、これ位でお礼をされると、照れますね?」 「まぁ、シィルが二階から飛び降りたのはちょっと肝が冷えたけどな」 「……ごめん」 三人は同じテーブルに腰を掛け、夕食を食べていた。ちなみに、クラウドを真ん中にして、右にティセ、そして左にシィルであった。 「いいのよ、シィル。あなたが一番の大金星じゃない」 「そうだよな。しかしティセさん……」 「はい?」 ティセが振り向くと、クラウドはティセの姿を見て驚愕の色を隠せなかった。 「あの、これはもう、聞かなければいけないのかな……今聞かなければ、この先一生後悔するかもしれないから、だから聞くんだけど……」 「クラウドさん、言いたい事があるのならば、はっきりと仰ってくださいな」 「はい……」 するとクラウドは大きく息を吸って、そして言い放つ。
「なぜあれだけの戦いをして、戦火の真っ只中にいた、ただのお嬢様が、ただ一人だけ無傷で生還できているのかが、俺は不思議でならない!!!」
クラウドやシィルは少しばかり怪我をしているのだが、何故かティセリアだけが無傷で通っていた。なんの力も使っていないのに。 「アハハ、避難する人の先導を少々。私はあくまで参謀ですから」 「そういえばティセ、オーガに囲まれてた……」 「マジですか??それでよく生きているものだ……」 いや、彼女ならばそれも可能であろう。 なにせ普段は非力なお嬢様なのだが、とある一定条件が揃った状態になると、彼女は途端に無敵状態になる。 「いやですね、私はただ、お二方に守られていただけではありませんか」 アハハと笑うティセ。クラウドとシィルも、未だにこの人の事だけは分からなかった 「そう……なのか?」 「ティセが言うのなら、そうだと思う……」 頷いて納得するシィルを見て、昔を思い出すクラウド。
二年前、まだ闘士にもなっていなかったクラウドが、ティセとシィルに出会ったときの事であった。
長く輝く黒髪にジャケットを羽織ったシィルに、金髪のウェーブの掛かった髪に上品なドレスのティセ。ある種両極端ともいえる二人と出会い、そして旅に同行させてもらった事で、彼の旅は大きく変わっていった。 そしてその途中でシィルと打ち解け、恋人になった。 時々彼女の事で悩むと、朴念仁な彼はよくティセに相談していたが、時たまそんな二人がケンカしてしまう。その際はいつも仲裁に入っていた事があった。 結構色んな道筋を辿りつつ、今に至っている。
「とにかく、これで次の目的は決まりましたね?」 「あぁ、次は南の洞窟だったっけ……?」 地図を見て洞窟の場所を示すクラウド。結構町から遠くはないようだ。 「……元々鉱山」 「らしいですね、それで魔物が現れてしまった責で、ここしばらく鉱石が採れなくて、困っているわけです。それで、私達でここを解放させようと、言う訳です」 「はぁ、そうですか?まぁ、シィルも今日はそれ使うのにもう疲れたろ?」 「うん」 頷いて黙るシィル。するとテーブルにあった緑茶を啜る。 「ですから、明日体力が回復したら行きましょう」 「そうですね……まぁ、シィルがいるから、大丈夫でしょ?」 そう言ってサラダをほお張ろうとすると、ふと隣でシィルが驚いている。 「クラウドが……頼ってる……」 「悪いか?」 ちょい睨みでシィルを見る。するとシィルはクラウドを見て、 「ううん。嬉しい……」 と、微笑んで見せた。少しばかり頬が赤い。 「うっ……」 ――か、可愛い……メチャクチャ可愛すぎる!!!! ――普段無表情に限って、こんな泣いたり笑ったりする姿が可愛いんだよな…… 「がんばってね、シィル」 「うん。クラウドの為にがんばる」 笑顔で拳を高らかに挙げるシィル。未だ顔が火照っている。
「グハッ!」 ――貴様、それはレッドカードではないのか!!? ――ティセさん、何気に目が怖いです……
「アハハ、それじゃあ私は別の部屋にいますので、楽しんでくださいね?」 「うん。頑張ってくる」 普段滅多に見せない微笑のまま、なんとも大胆発言を繰り出すシィル。
「グハァッ!!」 クラウド、二度目の「グハァッ」が出る。
――14の乙女がそんな事言うんじゃありません!!! などと教育者ぶった事を心の中で叫ぶ。 思い切り顔が真っ赤である。恐らくシィルよりも。 「あのねぇ…まぁ、いいか」 「じゃあ、さっそく部屋に戻りましょう」 そういって席を立つティセ。すると二階に上がっていってしまった。 「……俺達も、戻る?」 「……うん」 顔が熟れたトマト状態の二人。彼らもまた席を立つと、先に戻ったティセの後を追うかのように、二階の自室へと戻っていった。
その後三人の夜がどうなったか…… 夜の満月と神様のみぞ知る。
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