新年明けましておめでとう。皆のアイドル、坂本泉だよ!
……ごめん、新年早々やりすぎたわ。
そういえば春から常盤高校に入学して、この一年、色々な事が会ったわね……
色々な人々に出会ったわ。
まずは相沢薫ね。私の数少ない知り合いの一人だわ。 相沢グループの令嬢で時期第一候補という、トンでもないお嬢様。その為か負けん気が強く自尊心が物凄い。その上我が常盤高校で一、二を争うトラブルメーカーであると同時に、天才科学者と書いてマッドサイエンティストと呼ばれている。奴の作った発明は悉く学校を破壊してくれているので、おかげで私は何度も学校閉鎖によって友達と町に遊びに行っていた記憶がある。
次に我が最愛の王子様、岸辺隆一君。 艶々の肌に煌びやかな茶髪。クールな表情から繰り出される爽やかスマイルは、どんな凶暴な女もその牙を向かれ、どんな男嫌いも惚れてしまう、最強の美男子なのだ。私はそんな彼を中学の時から見ているものの、未だに告白できないでいる。
そしてとの岸部君の友達で私とは小学校からの友達である、金城充 こいつの事は小学校から知っているが、どうしてあの岸部君とつるんでいるのであろうと思ってしまう位の馬鹿者だ。私の親友がこいつにホの字であるとは知らず、いつも突っかかって来る。どうしようもない朴念仁である。
他にも、私はあの一年色々な事があった。 あの子に出会ってから運気が非常に上昇。親は宝くじで五億円を手に入れ、それを元に立ち上げた会社が大成功。まさに時代の波に乗った超バブリー生活をエンジョイ。 それだけでなく、アイス屋のおねえさんを助けようと市長に直談判したり、銀行強盗を退治したり、海に行ってはしゃいだり巨大タコを退治したり…… 学校ではミスコンで優勝したり、相沢薫が巨大ロボットを作ってあの子と戦ったり、転校生の子の病気を治しちゃったり。あの時は涙が止まらなかったわね。あの子、たしか今愛媛にいるんだったわね。会いに行こうかしら…… まぁ何はともあれ、こうして一年を振り返ってみると、実に様々な事があって、その度に私はあの子と一緒にそれを乗り越えてきて、その上乗り越えられた理由が殆ど、っつうか全部、あの子の『幸運』のお陰なんだけど……
そんな訳で私坂本泉は、今もこの子の親友をやっている訳である。 「ねぇねぇ泉ちゃん、早く行こうよ〜」 ほんわかスマイルにのんびり声。少しゆるやかウェーブの茶髪の少女。 彼女こそ私の親友にして、恐らく世界で一番幸せであろう。
その名も『幸運少女』笹原麻耶である。
大晦日は掃除をしてから年越し蕎麦を早めに食べ、ちょっと早めに寝てから初日の出を拝む。これが私の大晦日の過ごし方だ。大晦日の一代イベントである歌合戦なんぞは興味ないし、別に今年の演歌歌手の巨大衣装なんぞ興味の欠片もない。 そんな事より、一年に一度の初日の出の方が、今の荒みに荒みきった私の心を宥めるのには格好の清涼剤なのである。 そうこうしていると、麻耶からメールで誘われ、こうして一緒に初詣に行こうとしている途中なのであった。 ちなみにこの時の私はちゃんとした薄紅色の振袖姿である。無論母親に着付けをしてもらっている。長い髪も簪で纏めていたりする。
しかし麻耶。あんた本当に可愛いわね……あたしとは大違いだ。
髪は纏めずにポニーにしてあるが、桃色の花柄の振袖は若干昭和の香りが漂うものの、正統派アイドルの振袖姿だと見ればシックリきてしまうのは、やはり麻耶の朗らかな笑顔と元々の素材の良さからであろう。羨ましい…… 新年早々、これからお参りする筈の神様の不公平さを心の中で嘆きながら、私と麻耶は冬の町並みを歩いていた。 「お母さんのお古なんだよ。可愛いでしょ?」 片や俄かバブリーが興味本位で買った数百万の振袖と、片やお母さんのお古。 言葉だけ聞くと雲泥の差に見えるであろうその二つが並んで、それでも尚、同等の輝きを放っているのは、その後者をまさしく麻耶が着ているからに他ならない。もしも私があれを着ていたらさぞかし目も当てられなかったであろう。
さて、これから行く所は神社である。しかし普通の神社ではないらしい。 聞けば、麻耶が良く両親と行っていた神社のようだ。成る程……それなら私もついて行って、この幸運女にあやかりたいものだ。 バスで隣町まで行ってから少し歩くと、長い石段がある。 感じからして、神社であるに違いない。
「ここが『常盤第二神社』だよぉ」 ……待て、第二って何だ第二って?ラジオ体操じゃないんだから。 まさかいつも毎年行っていた常盤神社が第一神社か? 「それ、ほんとにこの神社の名前?」 怪訝な表情で聞くと、麻耶は元気良く頷く。別に名前などどうでもいいとは思うものの、もう少しまともなネーミングはしなかったのだろうか。 まぁいい。石段を登ってやろう。 すると門の前に、一人の少女がいた。どうやら箒で掃除をしているらしい。 白と赤の袴姿からして、巫女さんであろう。 いや、別にいいの。神社と言えば巫女さんだし。私だってオタクではないから、別に巫女さんが普通の短大生でもバイトさんでもいい。普通に彼氏と付き合っていたってかまわないし、ぶっちゃけ男の子でもいい。人妻だっていいわ。 だからさぁ…… 「あら、麻耶ちゃんやない?ハロー」 「ドロシーちゃん、あけおめだよ〜」 ……せめて日本人でいて欲しかったなぁ。 いや〜、紋付袴の金髪少女が巫女さんって言っても、納得してくれる昭和のおっさんが何人いると思っているのかしら? 「紹介するね。この神社で働いているドロシーちゃん」 「ナイストゥミーチュー」 巫女服姿の金髪黒人女性がウインクしてきたよ。しかも何気に可愛いなぁ。 畜生。全部許したくなっちゃうじゃないの…… 「あぁ、はろー。日本語分かるんですか?」 「あったりまえでんがな。何をけったいな事言うてんの?」
おいコラーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
この子に日本語教えた奴出て来い!!殴り殺してやる!! 何で金髪黒人女性が関西弁喋ってるのよぉ〜〜〜〜〜!せめて京都弁だったらもう少し上品な感じがしたのに! 「以前共通語教えたのに……」 「アメリカでも普通に喋るより南部訛りの方が好きやねん。せやからあたしもこういった訛りのある喋り方が好きなんよ」 放って置いたら今度は宮城弁とか使いそうね。 しかしこんな事を言う私はかなりのおっさんな気もするが、かなりの美少女だ。 金髪のウェーブの掛かった髪で少し黒くキラキラした肌。パッチリとした目に可愛い唇。おまけに背は麻耶よりも小さい。ロリ決定ね。 「……道理で新年早々カメラ小僧を見る訳だわ」 私は顔に手を当てて我が頭痛に呻いていると、そんな私を心配そうに見る二人。 いや、まぁ……多分あんたらの責なんだけどね。 その理由はたった一つ。こいつらの面の良さだ。 片や、ぽわっとした穏やかな笑顔は超美少女と言ってもまだ言い足りない。表情やしぐさまで何もかもが正統派であると断言できる麻耶。そして片や、その素材の良さもあって、従来の巫女さんという観念をひっくり返してしまった、脅威の金髪黒人美少女、ついでに関西弁も巧みなドロシーさん。 これだけの上玉にプラスして、前者は艶やかな振袖に後者は巫女服なのだ。これを待ってましたと来る者の正体は知っている。何故なら以前にも同じような事があったから。
よく見ると、カメラ小僧――分からなければ毎年夏か冬に有明に現れる、カメラを持ったオタクを思い浮かべると良い――が五、六人程集まり、お寺の隅っこから私たちをフィルムに収めているではないか。
っていうか、恐らく目の前の二人だけであるだろうが。 「……ちょっと待ってて」 「ふぇ?」 それだけ言うと麻耶は首を傾げるが、巫女さんのドロシーさんは何やら分かってくれたらしく、麻耶を連れて境内へと入っていった。 さて、麻耶の写真を何に使うかは知らない。知りたくもない。 だがしかし、我が親友の肖像権を勝手に侵害する行為は、たとえ全知全能の唯一神とやらが許したとしても、この私、坂本泉が許すまい。 ゆっくりとカメラ小僧の前に立ち、自身ができる中で最も怖いだろうなと自負している睨みを彼らに利かせる。一応お母さんの表情を参考にした。 そして、これまたゆっくりとした口調で言うのだ。 「肖像権侵害で警察に連行。又は拷問で天国行き。お好きな物を選びなさい」 ゆったり優雅に上品に、しかし目だけは笑わない。かつてお母さんがお父さんにやった表情の中でトップ3に入る怖い顔つきだ。 しかしたったそれだけでカメラ小僧達は怯え、全員が腰を抜かしてしまった。 あらあら、一人お漏らししちゃってるわね。うわ、汚っ! 「全員、カメラ寄越せ!!」 だがそれだけで許せる程私は優しくない。こういうのはちゃんとお仕置きしておかなければ、また同じような事を繰り返すのだ。こういう馬鹿者は。 男のくだらなさをまた一つ見てしまい、正月早々気分が悪くなる。一応全てのカメラのフィルムを没収し、ついでにカメラ自体も叩き壊す。なにやらこの世の終わりのような顔で私を見るが、知った事か。 膝から崩れ落ち、どこかのボクサーのように真っ白になってしまったオタク野郎など一瞥にもくれず、私は振り返って境内へと入っていった。
後ろから「もう駄目ぽ」とかほざいてるけど無視無視!
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