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へっぽこ騎士団の行進曲 作者:リョーランド

第6回   黒幕を追い詰めろ!

 時刻は既に戦闘開始から二時間をきっていた。
 グレンフェルトから遠く離れた丘で、惨憺たる状況になっている町を見下ろしながら、一人の男は薄ら笑いを浮かべる。
「思い知ったか蛆虫供め……私を追い出した報いを知れ」
 男は白いコートを羽織り、タバコに火を付けると、醜い笑みを浮かべていた。
「それにしても他の連中の報告は遅れているな。あいつらはまぁいいとして、他の連中からの連絡が無いのは何故だ?」
 男は手に持っているレポートを見ながら顔を顰める。
 それは男が、紅蓮という名の魔術師に貰った、貴重なレポートである。

 主にグレンフェルトの地図と、数人の騎士の詳細。
 その中には、特別隊のメンバーが載っていた。

「うむ、もしかするとこいつらと出会ったか……まぁ問題ないな。こやつらは力こそはあれ、まだ年端も行かない少女だ。わざわざ奴らが本気を出す程でも……」
「そうかな?」
 そしてレポートから目を離し、皮肉を述べようとしたその時、突然の言葉にこの男は驚愕して振り返る。
 するとそこには、二人の人間が立っていた。
 一人は男。右手に刀、左手にもう一つ小さい刀を持ち、青い装束を着こなし、黒く長い髪と漆黒の瞳を持ち合わせていた。
 そして彼は、その男の隣にいる、もう一人の女性を見て、驚愕した。
 紫のウェーブが掛かった長い髪に、銀色の鎧を付け、左手にブロードソードを仕舞った鞘を持っている。彼は彼女を、アリスを知っていた。
 なので驚愕のあまり、後ろに下がってしまった。
「馬鹿な……私の周りにも数個の大群が……」
「生憎俺の故郷にはああいう虫がいっぱいいたんでね。いい加減慣れたし。それにこの死神って奴?これ、敵の防御力なんて無視してダメージ与えやがるからさ」
 男、月代雪弥が右手にある刀を持ってそう言うと、白衣の男は信じられないという顔をしながらもう一度雪弥を見る。
 この死神は、実は彼が騎士団入団直後、支給された武具を売って買った刀だった。
 それはあらゆる防御力を無効化する。どれほど鉄のように硬い敵がいようとも、彼の持つ刀が相手ではただの紙切れ同然になるのだった。
「そんな……」
 すると、今度はアリスが前に出て、鞘からブロードソードを抜く。
「さて、観念してもらおうか?貴様もグレンフェルトの国民だったのなら、今このアリスと出会って、まさか無傷で生還できようなどと思う筈はあるまい?」
 計算外だった。
 町は他の統率者に襲わせ、自分は丘で高みの見物をする予定。
 それが、突然現れたこの二人によって、ぶち壊しにされた。
「ぐ、くそっ……だが町には未だ他の統率者が…?何だ?」
 すると、突然連絡用の蝿が現れ、男の耳元で止まる。
 そして、しばらく経った後、男は苦虫を噛み潰したような顔になった。
「何!?レイチェルとゴードンが死!?弓騎士と剣騎士に!?……何だと、特別隊の連中にやられたのか!!?たかが少女相手に何を……」
 恐らく近況を知らされ、驚愕しているのだろう。
 そう感じた雪弥とアリスは、そろって顔を見合わせ、薄らと笑う。
「……サクラと真琴を「たかが」だとさ、アリス?」
「ふっ……恐らくそいつは、強くなったあいつ等を知らないのだろう。何しろ国を追放されたのは五年も前だからな」
「じゃあ、その前にあいつらの事も知らなかったりして」
 だとしたらなんという不幸だろうか。
 彼女達を知らない彼だからこそこうして言っていられるのだが、今のグレンフェルトでは彼女達の強さも既に皆に知られている。
 しかしその三人も、この男の事は知らなかったようだ。アリスの言うとおり、追放されたのが五年も前ならば仕方がないのだろう。
 アリスによると、この男は五年前にグレンフェルトを追われた魔術師らしい。
 魔術の研究に携わり、五年前に実験で人体実験を行った際、王に勧告を受けて強制追放とされたのだ。

 だから一年少し前に特別隊ができたのも、今より少し前にその隊長に雪弥がなった事も知らない。当然といえば当然だが。

「ふん…だがな、まだいるぞ、あと一人、私の最高傑作がまだ残っている」
「恐らくそいつも、エリスにやられるだろうな」
 軽く言い放つ。
 サクラも真琴も充分期待を裏切る程成長したが、一番成長したのはなんといってもエリスに間違いないだろう。
 魔術は上達し、今や真琴とタイマン張れるほどに強くなってきている。魔術隊と呼ばれている第三部隊に行こうものなら、彼女は即エースになれるであろう。
 しかしそれを聞いた男の表情は、意外にも歪んだ笑みであった。
「ほぉ?貴様が今の特別隊の長か?あはは、だとしたら、なんと愚かな隊長よ」
「何!?」
 すると男は、まるで既に勝利を物にしたかのように余裕の表情を示し、それが余計に雪弥の癪に障った。
「奴には軽い魔法は効かぬ。奴を倒すくらいの魔法を放てば放つほど、周りの町の被害が多くなる。あの騎士にそんな事ができるのか?」
「うっ……なかなかの卑怯っぷりで……」
「貴様らにはその卑怯な手段がお似合いだ!!」
 男は白衣の襟を正すと、レポートを持っていない手で雪弥を指差す。
 雪弥は急に、エリスの事が心配になってきた。
 彼女はなにしろ、無茶をしやすい。
 自分の限界を超えても尚も立ち向かい、その結果、戦線離脱という事も有り得るのだ。
 しばし横を向き、町を見ながら、自分の部下を心配する雪弥だった。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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