とても静かな森だった。 そこは以前、雪弥率いる特別隊が訓練として使っていた森で、サクラもここで雪弥やアリスと決闘をさせられ、そして勝った場所だ。 ここでいくつもの訓練を積んだ。まさに特別隊にとって、そして自分にとっては既にここは庭も同様である。 そこで彼女は、自分が一人でも強い騎士と戦える事に気付かされた。 それは慢心ではない。彼女の中にある強い部分に、彼女自身が気付いただけだ。 「来た来た」 サクラは木の陰から外を見ると、黒い雲が徐々に近づいて来るのが見えた。 否、それは雲ではなく、黒いスズメバチの大群だった。 それも、一メートルはある巨大な体で、その体程の大きさの、更に巨大な、猛毒針を背負っている。一瞬でもその針に触れれば、瞬時に死ねるだろう。 しかしサクラにも、最大の武器がある。
――幸い、コアが良く見えて、撃ちやすい。 ――そしてここは森の中。 ――更に敵は集団行動が主な奴らばかり……
すると思考を終えたのか、サクラは後ろを振り返り、大きな声を上げた。 「皆さん、作戦開始です!!」 すると、そこには逃げてきた住民の中で、最も血気盛んな、十代後半から四十代前半までの、屈強な男達がいた。 しかも、そのどれもが、大きな弓、ボーガンを携えて構えている。 『サクラちゃんの為に!!!』 男達の心は一つ。 全員一致で、同時に野太い声を放つと、サクラは嫌がるどころか、嬉しかった。 自分には頼れる仲間が何人もいる。 彼女はこの時初めて、この非公認のファンクラブが有難く思えていた。
スズメバチの大群と戦うというのに、たった一人で、たった一つのボーガンで戦場に出る程、サクラの頭は悪くできていない。 こんな事もあろうかと、逃げている間に、ふと騎士を一人(丁度サクラクラブ会員)見つけると、避難しているサクラクラブ全員に声を掛けたのだ。 サクラが大好きな男達が、自分の大好きな女の子に助けを求められたのだ。これを断れる男など、サクラクラブにはいない。
まるで戦女神のような顔つきになると、サクラは前方を向く。 「前方、砲撃準備……」 そして呟くも束の間、 黒い雲は徐々に森に近づいていき、ついにサクラ達の目の前に迫っていた。 「撃て!!」 可愛らしい声と共に、一斉に鉄製や木製の矢が、雨の様に降り注ぎ、黒い雲に突き刺さっていく。 黒い雲は散乱すると、次々に蜂が落ちていく。 目と命中率の良いサクラには既に、スズメバチのどこに矢を撃ちつけば蜂が死ぬのか見極めていて、後は矢がどんなのでも、撃つ人がどんな人でも構わなかった。もしもここにあるのだったら、それこそお箸でも相手を殺す事ができた。 「前方はできるだけ敵を減らして!残ったら中に誘い込んで」 『任せた!!』 男達は野太い声と共に、集団で攻撃を始めた。 一人は個人行動を取り、木に隠れながら蜂を各個撃破していた。一人は集団で行動しながら、集団を統率して蜂を倒していった。また一人は指示を出しながら、矢のストックをもう一人に渡し、また別の団体へと矢を持っていっていた。 皆それも、偏にサクラの為なのだが、彼らにはもう一つ、虫の大群に追いかけられて、正直鬱憤が溜まっていたので、それを吐き出すのに、この蜂討伐は格好の仕事だと思っているのだろう。何しろうまく成功すれば、大好きなサクラが喜んでくれるのだ。それはサクラにとっても、またそんなサクラを敬愛する人達にとっても喜びである。 何はともあれ、男達はこの蜂討伐をこぞって志願したのだ。血気盛んな親父集団に限って、ここぞというの行動力は凄い。 「個別行動になったらすぐさま撤退。処理は引き受けます」 「大丈夫かい?」 ボーガン屋の主人がサクラを心配する。 ある程度数が減ったら、後は弓騎士である、サクラ一人に任せなければならない。彼らは騎士ではなく、騎士に守られる側の人間だからだ。 サクラは薄っすら笑みを浮かべると、主人を見つめる。 「もともとグレンフェルトの騎士が行わなければならない事ですから、皆さんにそれ以上を望む事には、少し抵抗がありまして……」 サクラ自身もそれを理解しているので、今こうして町の住民に助けを求めている事が恥ずかしく思えたが、今となっては仕方がない。 せめて、できるだけ無理はさせないように努めるしかなかった。 「わかった。でも無理しちゃ駄目だよ?」 「はい。新しいボーガン、用意できましたか?」 「おう。矢のストックも結構あるよ。後はサクラちゃんの腕次第、かな?」 そう言って、袋から新品のボーガンを取り出す店主。 そしてそれを手に取ると、サクラはにっこりと微笑んだ。 「有難う御座います。では作戦を続行してください」 「あいよ。てめーら、できるだけ数を減らせ!!」
『サクラちゃんの為に!!!』
野太い声が聞こえ、一斉に石や矢が、宙を舞う巨大な蜂を追い込んでいく。 少しでも毒のある針に触れればアウトなので、できるだけ距離を広め、この蜂の最大の弱点である、弱い羽を落とせば楽に蜂は落ちる。 後は即席で作った巨大石投げやボーガンの出来の見せ所である。 「使い方は……よし、従来と同じ。これなら……」 その横で、改めて新たなボーガンの性能を確認するサクラ。 本当なら今日の朝それをやる筈だったのだが、非常事態でロクな性能調整もできず、ぶっつけ本番な形になってしまったが、昔ならともかく、今のサクラにはこのような物は数分あればある程度調整できる。 大きな弓を持ちながらも、力がないおかげで矢をすぐに使い果たしてしまっていた、昔とは大いに違う点がそこにあった。 そして、矢を装填したその時だった。 「なっ……!?」 突然の男の声に、一瞬振り返るサクラ。 見ると、男のうちの一人が怪我をしている所が目撃され、一瞬だけ顔が青くなった。 「どうしたルーカス!!」 急いで別の男が駆けつける。 サクラも後から駆けつけたが、幸い男は蜂の針に刺された訳ではないらしく、その瞬間サクラは安堵の息を漏らした。 「旦那、女です…蜂の格好をした……」 男の指差す方向を一斉に見る一同。 その風貌に、一瞬愕然とした。 「…それで女王蜂のつもりですか?」 ただ一人冷静に、冷たく言い放つサクラ。 理由は彼女の、黄色と黒のシマシマの、まるで蜂みたいな格好もあるが、それより、敵が虫ばかりの中で、唯一人間がいた事であった。 周りには数匹の大きな蜂がひざまずいているように見えるが、恐らくは敬礼しているのだろう。その隙を狙う事すらはばかれてしまう雰囲気であった。 「そうよ。私がこの蜂、ひいてはこの虫全体を操っている、虫使い。でも、以前使っていた名前を言うなら……レイチェル、かしら?」 レイチェルと名乗った虫使いは上品に笑うと、一歩近づく。 それだけで、あれだけ威勢の良かった数人の男達は、まるで天敵にあったかのように、一斉に後ろに下がっていった。 ただ一人、サクラ・フィルメスを除いて。 「では、あなたを倒せば……あの虫は消えるんですね?」 「そうね。でも、それは無理よ」 「どうしてです?」 軽い会話のようだが、どちらも相手を仕留める気は充分。
――矢は装填済み… ――一ミリでも動けば、こいつの心臓を矢で貫ける…
ボーガンを構え、さながら早撃ちガンマンのような体制になるサクラ。 すると、女王蜂レイチェルの表情が変わった。 「それはね、私が……あなた達を殺すから」 「なっ……!?」 そして一瞬の行動に、ピンクの髪の弓騎士は、その清楚で完璧な容姿に似合わない、驚愕の色を浮かべた。 ――空を…… ――低空飛行!? なんとレイチェルは飛んでいた。 否、飛んだといっても、地上から二メートルくらいの低空飛行だが、それでも、地を這う人間にとっては、これ以上の天敵はいない。 空に逃げられたら、それだけ勝ち目が薄くなるからである。 「低空でも飛べればいいのよ。飛べれば貴方達人間の攻撃は当たらない」 まるでもう勝利を確信したかのように笑うレイチェルを見て、男達はすぐさま逃げる準備をしていた。 低空飛行で、しかも一歩近づいただけで、一同を後退させられる程の力を持っているというのに、自分たちが勝てる訳がないと思ったからだ。 そしてサクラはそれを見ると、俯いたまま、ふと口を開いた。
「……貴方は相手を間違えました」
「??」 そんな言葉を待っていたわけではないレイチェルは笑みを中断し、まるで睨み付けるかのようにその可憐な騎士を見る。 そしてその可憐な騎士サクラも、そんなレイチェルを見上げると、一寸の曇りもない、まっすぐな瞳を見せた。 「貴方は私ではなく、真琴ちゃんや隊長さんみたいに、剣を使う騎士と戦うべきだったんです。そうすれば貴方はすぐに勝利を物にできた」 「弓使いに負けると?この、私が??」 その言葉にふと笑ったのは、以外にもサクラだった。 「先程からそう言っているのが聞こえませんか、歳で耳が遠くなりましたか?」 普段の彼女からは絶対に聞けない毒のある言葉に、女王の眉が潜む。 「小娘が……お前には特別、強力な毒で殺してあげるわ!!」 その瞬間、戦闘開始のゴングが鳴ったのは気の責ではない筈。 先に姿を消したのはサクラだった。 森の木をつたって、軽やかに飛んでいる姿を見て、ため息を漏らさない男がどこの世の中にいるだろうか。 「逃げ足は速いのね……でも、無駄よ!!」 するとレイチェルもサクラの後を追って、低空飛行で森を駆け巡る。 しばらくするとサクラの姿が消えた。 否、いつものように隠れたのだ。 しかしそんな事態にも関わらず、この女王蜂は薄っすら笑い、右手を上げる。 「……愚かね。匂いをかぎ分けて捜せるっていうのに……」 「きゃっ!」 その瞬間、サクラの声が聞こえたと思ったら、次の瞬間レイチェルの前に姿を現し、次の瞬間にはまた姿を消した。 そしてサクラの隠れていた木には、先程の巨大な蜂より一回り小さな蜂に、その蜂を突き刺しているボーガンが見えた。 恐らく、彼女の匂いをかぎ分け、彼女のいる場所を捉え、そこでボーガンの矢にやられたのだろう。 普通ならば気付く前に蜂に刺されて命を落とすのだが、サクラは生憎視力、聴力などが物凄くよく、蜂の攻撃にいち早く気付いて防いでいた。 「さぁ、矢は後何本なのかしら?」 「……」 レイチェルはこの時、己の勝利が目前に迫っていると確信したのか、腕を組みながらクスクスと笑いを浮かべていた。 「隠れるしか能のないチキンさん、最後くらい、勝負したらどう?」 だが、その言葉が逆にサクラの静かな炎を燃やす事など、この女が知る由もない。 すでに戦闘開始から五分が経過し、他の者は皆いなくなっている。
この時点で彼女の勝利は実現しかような者だった。
彼女にとって。所詮人間は群れの頭を潰せば簡単に尻尾を巻いて逃げる、臆病で脆弱なだけの存在だからだ。群れなければ生きていけず、かといって群れの頭を失えばうろたえて自滅するだけの、弱い存在。 それは人間が、もともと恐怖という感情があるからだ。恐怖を感じれば人は何もできなくなり、ただ逃げ出すか、降伏するしかないのだ。 蜂は違う。蜂は頭脳を持っていない。だから恐怖という言葉を知らない。たとえ自分の生命の危機があろうと、迷わず命令に忠実に従うのだ。 そしてサクラのピンク色の髪が見えた瞬間、レイチェルは片手を挙げ、蜂を数匹その木に向かわせた。 「そこね」 「うっ!!」 矢が数本放たれる音と共に、可憐な弓騎士は、まるで翼をもがれたかのように下まで落ちてしまった。 「ウフフ……もう逃げられないわよ」 飛行を止め、大地に立つレイチェル。 そして薄笑いを浮かべながら、力なく立ち上がるサクラを見下ろす。 彼女が見たサクラの表情は、しかしながら彼女と同じく、薄ら笑いだった。 「そうですね。もう逃げる必要ないみたいです」 「……どういう事?」 眉を潜めながら問いかけるレイチェル。 逃げる必要が無い。 隠れて五分。そしてその前に戦闘を開始してから一分。 自分は絶えず彼女を追っていたのだから、彼女に何か秘策があるという感じにはとても見えなかった。
しかしサクラの綺麗な唇は尚も言葉を紡いでいく。 「もう分かりました。貴方の行動には、いくつかのダウトがある」
「??」 いくつかのダウト。その言葉を聞き、レイチェルの首筋に冷たい汗が浮かぶ。 「ダウト1、貴方は全ての虫を統率する力なんて備わっていない。できて蜂を使うだけ。そうでなければ私を殺す為に、全ての虫を一斉に使う筈」 「それが蜂だけだった……だからと?」 当たっている。 しかしそれは、最初から蜂しか使っていないのだからそう思われても仕方がない。なので最初は彼女も、サクラの言葉を信用しなかった。 「ダウト2、わざわざ私だけを狙ったのは、あなたにとって、弓を使う私こそがジョーカーだったからではないのですか?剣では歯が立たない装甲も、私の目から見ればツギハギだらけですから」 そしてそれで確信してしまった。 自分はこのか弱い騎士に、何かを見抜かれてしまった。 しかしそれでもこの時までは、ただ冥土の土産にと聞いておくつもりだった。 「そこを撃たれたら終わり……当たっているわ」 「そしてダウト3」 そのつもりなのだが。 どうしても彼女には、サクラのこの、今まさに勝利を掴んだかのような表情が気になって仕方がなかった。 まるで、「すでにあなたの負けが決まった」とでも言いたいかのような表情。 レイチェルはすぐにでも殺したいという、溢れんばかりの欲求を抑えながら、サクラの話に耳を傾けていた。 「貴方は、本当は誰かに言われて、蜂の他に何種類もの虫を借りて、そしてグレンフェルトを襲った。だから貴方を倒しても、虫の行動をある程度制限させるだけで、あなたが死ねば終わりという訳ではない」 「そうよ。紅蓮っていう金髪の魔術師に言われてね。他にも、いくつかの統率者が相手になっているわ。賢い女って嫌われるわよ?」 やはり紅蓮。エリスの言っていた言葉が当たった。 やはりあの魔術師が絡んでいて、こうして町を襲っていたのだ。 「そして、貴方達の背後には、貴方のような統率者を纏める、いわば真の統率者がいて、その人を倒してこそ、この虫の攻撃は終わりを告げる」 全て当たっていた。 ダウト1から、何もかも。 「本当に頭のいい子……ぶっ殺してやりたくなるくらい」 「……ダウト4」 「終わりよ。4まで聞く必要……!!?」 すぐにレイチェルが右手を掲げた、その時であった。 途端に、彼女の顔が驚愕の色に変わる。
「あなたは私が、ただ逃げているだけだと思っていた。これだから楽なんですよね、脳のないモンスターの相手って……」
そこにいたのは自分の部下である蜂の集団ではなく、既に逃げたと思っていた、サクラの部下である、サクラクラブの面々であった。 しかも全員手にボーガンを持っていて、すぐにでも自分を射殺せる状態だった。 反対に地面には、自分の部下である多くの蜂の死骸が転がっていた。恐らく、サクラの作戦によって、各個に撃破されてしまったのだろう。 蜂とはいえ、所詮は虫。しかも今の大きな体のまま単体で動けば、矢の的になることくらい必死。それをこの女王は、サクラにばかり目が行ってしまったばかりに、全く気がつかなかった。 「嘘よ……あんな短時間でどうやって……?」 女王はそう言って顔を歪ませるが、それは正しくない。
サクラはこの女王と戦う前に、サクラクラブの面々に伝令していたのだ。 それは二つ。一つは蜂が来たら散って、その後は各個で撃破しろ。そしてそれ以外は個人個人で連携をとって動け、と。 彼女は最初からこの女王を惹き付け、後は蜂が全て死んでから、全員で一斉にこの女王をやっつける、という事だった。
それは、このサクラという騎士が、単に弓を使う騎士としてだけでなく、人を操り、動かす「司令官」としての才能をも兼ね揃えている事を意味していた。 そしてサクラ自身も、ボーガンを装着済み、少しでも動けば簡単に自分の心臓を射抜かれてしまう。 やられた。どうやら完全にレイチェルは、この小さくて弱い可憐な少女司令官に、してやられたようだ。 すぐさま彼女は紅蓮という魔術師に、心の中で呪いの言葉を浴びせた。彼女がこれ程までに頭のキレるという事は、知らされていなかったからである。 実際、サクラが自分に自身が持てるようになったのは、紅蓮が彼女達に出会う後だったので、知らない方が当然であるが。 「同じ統率者でも、頭の出来の違いで、こんなにも違うのですね。貴方の手下は、どうやら最後の最後で、貴方を見限ってしまったみたいですよ?」 唇を綺麗に歪めて意地悪く笑ってみせるサクラ。 もはやレイチェルに打つ手は残されていなかった。 サクラと敵の大きな違い。 人間は脳を、頭を使って、部下でも個人個人に合った行動ができるのに対し、虫は統率力こそあれ、各個に動き回る事はできない。 与えられた命令にしか従わない部下など、各個に散らして潰していけばいい。 何より自分達の部下は誰よりも自分を信頼してくれている。誰よりも自分の事を守ってくれている。なにしろ彼女のファンクラブの人達だからだ。
よって敵を各個撃破して最後に頭を討てば勝てる。 それがサクラの計算上に上がった答えであった。
「この……小娘ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 彼女が叫んだと同時に、サクラの右手が下りる。 「砲撃、開始!!」 ――ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガ……… 「ギャァァァァァァァァァァァ!!!!!」 数本の矢が彼女を射抜き、彼女はそのまま跡形もなく消えてしまった。 残ったサクラは既に消えてしまった彼女がいた方を向き、憂いを込めた表情を浮かべながらそっと目を閉じる。
「ダウト5……貴方は私を相手にした時点で、既に負けは決まっていた。真琴ちゃんかエリスちゃんが相手だったら、勝てたかもしれないのに……なんて、死んでるのですから、話したって無駄ですね」
そして後ろを向くと、またいつもの笑みを浮かべる。 「さぁ、皆さんは避難場所に帰ってください。ここから先は我々騎士の仕事です」 「おう、サクラちゃんも気をつけてね?」 それを聞くとサクラは大きく頷いた。 「はい。必ず皆さんのご期待に添えます」 「おし、それじゃおめえら、ずらかるぜ!!」 『サクラちゃんの為に!!!』 数人の野太い声とともに、避難場所へと移動するサクラクラブ。 それを見送ると、自分も町に急ごうと、森を後にするサクラ。 「……」 そして出口付近でふと立ち止まり、そっと振り返ると、そこには一匹の、逃げ遅れた蜂がいたので、彼女はさっとボーガンを取り出す。 狙いは的確。このまま射抜けば、コアを打ち抜ける。 ――ヒュ……ズガッ… コアを射抜かれた蜂は、そのまま音もなく消えた。 そしてサクラは髪を撫でると、そっと口を開く。 「もう少し頭が良かったら、勝てたかもしれなかったのに……お馬鹿な女王様」 彼女はするとまた後ろを振り返り、自分を騎士にしてくれた、聡明で優しい皇女様の愛する町を守る為に、町へと続く道を一気に駆け抜けた。
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