■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

へっぽこ騎士団の行進曲 作者:リョーランド

第3回   虫の大群をぶっ潰せ!

 グレンフェルト城に辿り着くと、既に城壁は閉まっており、異常な数の虫が城壁のあたりをウロウロカサカサしていた。
 羽虫など、気持ち悪い音を出しながら、上空をブンブン飛んでいたりする。
 彼の住んでいた極東では、ゴキブリや気持ち悪い虫などいっぱいいたので、こんな音にはすでに慣れっこな雪弥だが、ここはグレンフェルト。
 そんな虫の大群になど、慣れていよう筈がない。
 城壁にへばり付いている虫達を蹴散らしながら城壁に飛び上がり、上から中に入ると、さっさと門を開いて王城の中へと入り、急いで玉座まで駆けていく。
 すると、突然聞きなれた声がした。
「……雪也!?」
 真琴と同じ銀色のナイトアーマー、腰にブロードソードを挿している、紫のウェーブの掛かった髪の少女が、雪弥の後ろに立っていた。
 振り返ると、門を見て少し呆れた顔になる。
「アリス、これは一体?」
「知らないが、こうなっている。それより、あの三人は?」
 そこで雪弥は、今までの経緯を事細かに話した。
 無論、ここであの三人の事を省いて話せば、心配したアリスが急いで三人のいる町まで駆けつけるかもしれない。なのでそれも話す。
「何!?じゃあお前、一人であの道を突き抜けたのか!?」
 あの道、というのは、特別隊の宿舎から町まで続く、あの道の事だ。

 アリスの話によると、何故かあそこにだけ、虫が大量に増殖していたらしく、特別隊だけでは少し不安だったから、彼女が今から駆けつけようとしていた所だったらしい。
 どうりで宿舎の周りだけ、異常なまでに虫がうろついていた訳だ。

 しかしその大半は、悉く雪弥に吹き飛ばされたので、後はあの三人だけでも大丈夫であろう。むしろあの数で多少は虫に慣れる筈だ。
「別に大した事なかったけど。まぁ羽虫は五月蝿かったけどな」
「はぁ……よっぽど自信があるのか、馬鹿なのか……」
 言っておくが、虫類のモンスターは装甲が非常に硬い。
 それでなくても、甲殻類のモンスターの装甲の厚さは、ときおり半端ではないものがあるというのに、その中の虫類が、巨大化して攻めてきたのだから、剣を使う騎士にとってはまさに苦労という二文字では済まされない苦労であった。
 無論弓も、サクラとかでない限りは、虫の装甲を打ち破る事は難しいであろう。
「やかましい。それよりお前の事だ。大方の検討は付いてるんだろう?」
 挑発したつもりだったのだが、残念ながら無駄だったようだ。
 アリスがため息をついて落胆した顔をするのを見ると、どうやら彼女でさえも、状況を把握しきれていないらしい。
「期待に添えなくて残念だがな……」
「別にいいさ。とりあえず町の方はあいつらに任しておけば平気だろう?」
 王族がいるであろう地下には近衛騎士団第一部隊がいるし、アリスの所属する第二部隊は城の内部を守っている。並みの虫では太刀打ちできまい。
 だからあの三人は安心して町を守れる。
「何しろ私を打ち負かせた弓騎士、近衛騎士団第一部隊に一度スカウトされた最強騎士、その最強騎士にケンカ吹きかけて見事勝ち得た魔術師だからな……まったく、一体どういう教育をすればあんなになるんだ?」

 今までの半年間を思い出し、そっと皮肉を込めた笑みを向けるアリス。

 実は何を隠そう、彼女は半年前まで特別隊の隊長だったのだ。
 アリスのいた半年前の特別隊メンバーは、それは非道いものだった。
 その頃はまだあの三人は酷く弱く、真琴は怖い怖いと繰り返して戦闘を離脱、サクラは腕の力が弱くて弓が引けなく、エリスは前線に出たがり戦闘不能。一部の騎士は彼女達の事を「へっぽこ騎士団」と罵っていたという。

 それがたった半年でああなってしまったのだ。アリスでなくとも、一体どういう育て方をすればああ変われるのか、知りたいと思ってしまいたくもなる。
「俺に聞くな。あいつらは自分の力でああまで変われただけだ」
 ふん、とそっぽを向く雪弥。
 一度真琴が近衛騎士団第一部隊にスカウトされ、彼女を取り戻そうと、彼女と雪弥が一騎打ちをする顛末になった事がある。その時は突如現れた精霊魔術師「紅蓮」の出現でお流れになったものの、これによって真琴と雪弥の結束が更に高まった(元から高いが)のは言うまでもない。
 真琴が近衛騎士団第一部隊にスカウトされ、もしもそのままそこにいたとしたら、今頃彼女は地下で姫を守っている頃であろう。無論、町にいる友達まで手は届かない。
 そういった意味で言っても、彼女を特別隊に残して本当に良かったと、雪弥はアリスに気づかれないように笑いながら思った。
 それにしても、自分の力でああまで変われたのは本当の事だ。
 第一、強くするとは言ったが、真琴、エリス、サクラがあそこまで変われるとは、心底思っていなかったので、実は彼自身が一番ビックリしていたりする。
「まぁ、そうだろうな」
「真琴は最初から強かったし、エリスも魔法の知識や魔力を高める方法を知らずに育ってきたんだ。サクラはサクラで、気が弱い所があったからな」
 エリスもまた、そんな遠野真琴に勝負を挑んで、勝ち得た実績がある。それこそ全騎士が揃って彼女を見直した程だ。
 またサクラも、最初は辛いこと、怖いことから逃げてきた。そんな自分と決別し、訓練によって更に強くなった事は言うまでもない。
 三人とも、一人で他二人をなぎ倒せる程の強さを持っている。但し彼女達は己の弱さに甘えていたばっかりに、今までへっぽこだっただけだ。
「まったくだ。あの変わりようは半端ではなかった。生まれてこの方、久しぶりに恐怖というものを実感したよ」
 あぁ、サクラブチギレ事件か。そう呟く雪弥。

 以前訓練の一環として、サクラとアリスを戦わせた事がある。
 その際サクラは一目散に怖くなって逃げ出したのだが、やはり彼女自身が一番強くなりたいと、怖い事から逃げたくないと思っていたと同時に、そこへアリスの暴言が引き金となってサクラがプッチン。その後は持ち前の頭脳と五感の良さを最大限に活かし、見事アリスに対して勝利をもぎ取ったわけである。

「それはお前の口の悪さが原因だろうが」
「知るか、元からこうだったんだ!!」
「へいへい……」
 自分で言っておいて、以前サクラにコテンパンにやられた事を思い出し、首筋に冷たい汗を浮かべるアリス。
 こう見えても、彼女とて弱い訳ではない。これでも真琴の前は最年少で騎士団に入団、その後特別隊の隊長になるまで、輝かしい戦績を収めていたのだ。その実力は騎士団の中でもトップに位置づけされている。
「姫は無事だろうな?」
「今は近衛騎士団第一部隊が守っている。まず心配はない」
 それでやっと安心する雪弥。
 姫というのはこのグレンフェルトの第二皇女でカレハという名だ。
 彼女の事だから、あの程度のグロテクスな虫を見た所で大した事はないだろうと、ある程度踏んでみたものの、やはり心配だったらしい。
「なら、安心して黒幕を探せる」
 そういうと、雪弥はまた表に出る。
 門の向こうから虫が吹き飛ばされる音を聞くと、アリスはまたため息をついた。


 グレンフェルトの町には、多くの虫の大群と、それと戦っている騎士団で埋め尽くされていて、元からいた住民など一人たりともいなかった。
 その中で戦っているのは戦闘に長け、剣の騎士が多くいる第一部隊と、反対に魔術師が多くいる、別名「魔術部隊」と呼ばれる第三部隊。
 そして、
「ファイヤー!!」
 エリスとサクラ、そして真琴の特別隊であった。
 先陣を切っていた第二部隊は現在、多くの怪我人続出によって、一時戦場から遠のいてはいるもの、回復しだい回るらしい。
 魔物の大群が攻めてくる事は、過去そんなに多くなくとも、過去の戦歴を知っている者にとってはやりやすい。
 要は回り込んで、大きな虫ではできない動きを見せて翻弄させ、それで敵をやっつければいいだけなのだ。
 だが今回はいかんせん、敵が多すぎた。
「エリスちゃん、火加減は抑えて!町まで燃えちゃう」
「んな事言ってたらキリないでしょ!?真琴一人じゃ限界があるし……」
 現在サクラは屋根づたいから上空の羽虫を打ち落とし、エリスは新しく覚えた障壁魔法の中で、魔法を連射している。
 その障壁魔法の中にはエリスだけでなく、一人の騎士がいた。白髪で髭を生やし、薄汚いローブに銀色の鎧を来た、見た感じ歴戦の勇者みたいな老人で、今はエリスの障壁魔法の中で傷を癒している。
 実は彼は第二部隊で戦っており、撤退から遅れた所を、間一髪でエリスが駆けつけ、こうして守っているのだ。
「左右同時に魔法を発動させるのは、正直キツイかな……」
 エリスの体は、既に限界を迎えてもおかしくはなかった。
 彼女は本来精霊魔術師であって、精霊から直接力を借りれば、何の詠唱もなしに魔法を使える。彼女が魔法の詠唱もなしに魔法を使える理由の一つである。
 そしてもう一つ、彼女はそれまで魔法に関して何の訓練も行っていなかったのだが、雪弥のスパルタがあってから徐々にその頭角を示してきたといえる。さすがは一度グレンフェルト最強騎士遠野真琴を倒した程である。
 その甲斐があって、ある程度魔力が上がってきてはいるものの、未だ発展途上な彼女にとって、数時間の魔法は肉体の限界までしか効果を示さない。
「エリスよ……儂はもう……」
「馬鹿!あんたそれでも騎士!?ここまで生きたんだったら最後まで足掻くのが、老いぼれの意地ってもんでしょう!!?」
 後ろの老人を叱咤激励し、同時に自分を奮い立たせるエリス。
 この老人が動ければ、後は後ろで魔力を回復させながら敵を倒せばいい。
 だからそれまで、肉体が壊れようがやってやろうではないか。
「済まぬ……動けるようになり次第、命に代えてお守りする」
「いいわよ。それより他の騎士の援護でもしていれば……」
「いや……」
 立ち上がり、すっと笑う騎士。
 意地悪な笑みを浮かべ、エリスを見つめた。
「魔術師に守られてばかりでは、剣騎士としての面目が立たぬ」
「……ま、まぁ、せいぜい体力温存しててよ」
 軽く額に冷たい汗を浮かべ、呆れるエリス。
 体は既に老体であり、これ以上戦闘できる状態ではないと誰もが思うのに、彼は先陣で何度も敵と戦っている。
 それは、彼だからできる事なのだろう。
 何しろグレンフェルトで、彼、ジョップを知らない者はいないのだ。いつもは陽気なくせに、戦闘になると気力で相手を押しつぶす力がある。
 戦鬼ジョップの名は、この時でも伊達ではなかった。

「ふぇえええええええええええええ!!!!!」
 ――ズガガガガガガガガガガァァァァァァァァァァァン……
 そうこうしているうちに、前の方では戦況が変わっていた。
 先程エリスが、真琴一人では限界があると言っていた事を思い出し、サクラは額に汗を浮かべながら驚愕の色を隠せなかった。
 これで限界なのだろうか。
 彼女は今、巨大な虫の大群と戦っていた。
 ――ズガガガガガガガァァァァァァァァァァァン……
 それも、前には誰も味方はいない。
 第一部隊が別の方に行ってしまっている今、彼女は大切な友達を捜しながら、たった一人で、数百はいる軍勢を相手に、未だ無傷で戦っていた。
 いくら最強の防御力を誇る虫の軍団でも、彼女に言わせればただの子供騙し。持ち前の怪力でなぎ倒していく姿は、まさに最強の冠にふさわしかった。
 さすがは近衛騎士団にスカウトされただけあって、並み居る敵をまさに力だけで薙ぎ倒していく彼女であったが、元々意気地なしで泣き虫だった彼女がこうなった原因も、偏に隊長である雪弥の為、だったりする。
「リンちゃぁぁぁぁぁん!!いたら返事してよぉぉぉぉぉ!!!」
 力一杯叫ぶが、大事な友達の声はない。
 すると真琴は一歩踏み込み、巨大なゴキブリの背中をグレートソードで突き刺してゴキブリを絶命させる。そして跳躍すると、遥か上空にいる巨大な蛾を両断し、次に落ちながらバッタを切り落とす。
 第一部隊が苦戦している虫も、真琴にとってはまるで子供相手だった。
 しかし彼女は混乱している上に、友達を捜してそれどころではない。
 むしろ前を遮る虫が邪魔だと言っているかのように、敵を切り裂きながら、どんどんエリス達から離れていった。
「真琴!進みすぎだって!!」
 叫ぶも、エリスも願いは彼女には届かない。
 ついには真琴の姿が見えなくなってしまうほど、遠ざかってしまった。
「仕方ないよ。真琴ちゃんにとって、リンちゃんはとっても大事な友達なんだから」
「けど、確実に陣形崩れてるんだけど?」
 エリスの言う事も最もだ。
 実際、真琴が前線を離れすぎて、それで彼女が素通りしてしまった虫の大群の多くが、エリスの所に集中してしまっている。
 すると、その時であった。
 一瞬聞こえた何かが迫ってくる音に、サクラの眉が細まる。
「エリスちゃん、このまま第三部隊と合流するまで待機してて」
 それは一瞬、凍るような冷たい声であった。
 まるで、何かを覚悟した、決意の声に似ていた。
「え、サクラは?」
「来た!!」
 ズガァァァァァァァァァァァァン……
 突然巨大な爆発と共に、煙から、多くの空を飛ぶ虫が現れ、エリスはそれを見て、わが眼を疑い、次に驚愕した。
「な、何よあれ〜〜〜〜〜〜〜??」
「まずい、よりによってこんな時に……」

 それは大量の蜂だった。

 それも、そのどれもが巨大な大きさで、普通でも大きなお尻の針は、より一層巨大化しており、毒が耐えられずに滴り落ちている。
 そんな大群を見た瞬間、エリスと、彼女の後ろにいる老騎士ジョップは、一瞬にして凍りつき、驚愕する。
「しかも猛毒のスズメバチと来た」
「大きさは一メートル。それが五十匹って……」
 すでに何かを諦めようとした目でサクラを見るエリス。
 しかし、眼の前にいる彼女は、まるでそれを直視すると、先程まで諦めかけていた自分がふと恥しくなってしまう位、澄んだ眼をしていた。
「幸い、矢のストックはいっぱいある。できるだけ引き付けるから、後よろしくね」
「ちょっと、一人であんなのと戦う気なの!!?」
 それは無謀だ。
 いくら弓を使う騎士でなければ、空を飛ぶ虫に対抗できないからといっても、一人と五十匹を相手にさせるのは無理がある。
 それも相手は猛毒を持つ、巨大なスズメバチの大群だ。一匹ではない。一度針が当たってしまえば、一瞬にして天国行きの片道切符を切らされる事だろう。
 それどころか、サクラはこれまでこのような戦闘の場合は先陣を切って逃げていた。そのギャップが返ってエリスを困惑させる。

「大丈夫。夕飯までには帰ってくるから」
 だと言うのに、
 桃色の髪の少女は、そんな大群を相手にし、しかも帰ってくるとまで公言していた。
 あたかも、自分ならこの大群を相手にしても生き残れる、と言うかのように。

「サクラ……」
「もう、怖い事から逃げたりしない。恐怖から立ち向かっていかないと」
 エリスは驚いていた。
 いつものサクラなら、こんな大群を見た時、必ず恐怖で足が竦み、肩を震わせて誰かに助けを求める。ある意味真琴よりも臆病になってしまうのだ。
 それなのに今のサクラは、まるで真琴と一緒に成長してしまったかのように、その姿はもはや騎士として、完璧なまでに備わっているかのように見えた。
 自分とは大違い。
 自分はこのような大群を見て、一瞬でも恐れを為してしまった。後ろには傷ついた老騎士がいるというのに。
「……私ね、今まで考えてたの。私達人間に備わっていて、こういった連中には絶対備わっていないものが何なのか」
 それは、サクラに充分備わっていて、敵には備わっていないもの。
 人と昆虫の違い。
 それを頭の良いサクラは見抜いたのだ。
 すると一瞬で屋根を飛び越え、また次の屋根を飛び越えながら、蜂の大群を引き連れて彼方へと消え去ってしまった。
 そして、後ろで傷が回復したジョップが立ち上がる。
「いかぬ。早く追いかけなければ」
 彼は剣を抜くと、すぐさまサクラが消えた方向へと歩みを進める。
「駄目よ」
 しかし、魔術師はそれを拒んだ。
 思わず振り返るジョップ。表情は驚愕と憤怒に満ちていた。
「お主、同僚を見殺しにする気か!?相手は猛毒を持つスズメバチじゃぞ!?一突きでも喰らったら間違いなく死ぬのじゃぞ!?」
 それでも放っておくつもりか。
 そう言おうとする前に、エリスは振り返り、この老いた騎士に向かって、自身が持つ中で最大の、満面の笑みをぶつける。
「サクラは死なない。絶対夕飯までに戻ってくる」
 彼はそれ以上何も言えなかった。
 彼はこれまで、一人で戦い、一人で傷つき、一人で仲間を助けながら、たった一人で栄光を勝ち取ってきた。
 だから彼には仲間はいない。仲間に信じられた事も、信じた事もなかった。
 エリスの表情を見た瞬間、ジョップは軽い安心感に囚われていた。
 もしかしたら、これが信じる事なのかもしれない。何十年もの間忘れていた、仲間という実感を、彼は再び彼女で感じていた。
「……あくまで仲間を信じるのか、あの少女も?」
 老いた騎士はそこで、約数十年ぶりに、余裕を持った笑みを見せた。
 彼女があの少女を信じるのならば、己も信じてみよう。そして彼女が戻ってきたら、今度は彼女を守りながら敵と戦おう。それまでこの少女を助けなければ。
 終わったら彼女に夕飯をご馳走してもらうのも、悪くない。
「さて、取り合えず持ちこたえるわよ」
「よしきた。前線は任せておけい」
「はいはい。何だって私が老人介護なんてしなきゃならないのよ……」
「シシシ、余計なお世話じゃ」
 エリスは障壁魔法を解くと、ジョップの後ろに回りこみ、次なる魔法の詠唱に入る。
 成長したのは、何も二人だけではない。
 自分には魔法がある。そして頭の回転ならサクラにも負けない。何しろ自分は、あの雪弥でさえも倒せなかった遠野真琴に、勝ち得たのだから。
 それで何の得をした気にもならないが、確実に成長した証にはなった。
 それに自分の魔法は、詠唱をちゃんと唱えれば、普通の魔術師が放つ魔法よりも威力の強い魔法が放てるお得付き。これで負けない筈がない。

 そして詠唱は完璧。後はジョップが止めを刺せば良い。

「いざ、参る」
「その力用いて敵を切り裂け、トルネードカッター!!!」
 エリスが両手を突き出した瞬間、辺りに数個の竜巻が吹き荒れる。それは全部で約五個ほどあり、そのどれもが家二件ほどの大きさであった。
 それらは虫の大群を吹き飛ばすと同時に、カッターのような風圧で敵を切り裂き、次々に絶命させていった。
 さらに竜巻は空にいる虫まで切り裂き、一緒に退治してくれる。羽虫達はキーキーと金切り声を上げながら消えていった。
 竜巻が消えると、残った虫は数団体。二人で力を合わせれば、駆逐できなくもない数なので、それを見たジョップは安心した。
 第三部隊が来る頃までには終わらせる。彼らの仕事を無くしてやらなければ。
 二人はまるで示し合わせたかのように、同時にそう思うと、残り少なくなった虫の大群の中に突っ込んで行った。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections