かくして大勝利に終わった今回の虫大量発生事件。 グレンフェルトでは次の日、大掛かりな掃除が行われた。 「アハハ。大勝利でしたね」 茶色のウェーブが掛かった髪に穏やかな目で話すのは、本来ならグレンフェルトのお姫様であるカレハ。 「あぁ、まだ体がだるい」 そしてその隣には、昨日あれだけの魔力を大量に消費し、その後紅蓮を倒す為に五大精霊まで呼び出した、木の葉色の髪の少女、エリスであった。 結局あの後、彼女は一晩寝込み、翌日は元気になって飛び出してきて、朝に弱い雪弥がプッチンする事件があったが、それはまた別の話。 「それにしても、あの男中々口を割らないみたいだな」 「あぁ。だが捕まえられたのだから良いだろう」 青く長い髪を束ねた青い陣羽織の青年雪弥と、そんな雪弥と話している紫の髪の騎士アリスも、彼女達の後ろに付いてゆく。 あの男は結局アリスが捕まえたのだが、まだ男は口を閉ざしたまま、牢獄で静かにしている。 その為、未だに紅蓮とも関係も、その経緯も聞いていない。 「姫、そろそろ城に戻られてはいかがでしょうか?」 「あはは。まだこうしていたいですよ」 アリスに諭され、カレハは苦笑いした。 実を言うとこのカレハという少女、普段はグレンフェルト第二皇女などというトンでもない人間なのだが、たまにこうして町を出ては、特別隊などのお手伝いをやっているらしい。特に雪弥が来てからその頻度も次第に高くなり、その度にアリスまでもが手伝いに行かされる羽目になる。 服装も民に合わせて質素な物にしてあり、彼女の城の家臣が知ったらさぞかし顔を真っ青にするであろうが、彼女は特に気にしてはいないようだ。 「そういえば、あの子達はどうなったの?」 「あぁ、あれか?」 後ろで雪弥に引っ付いている真琴に引っ付かれて思い出す。 あれとはまさしく、エリスを戦ったセレスとウォルスだった。 あの二人は一時は共闘して敵を倒したとはいえ、ほんの少し前までは、この国に攻めてきた虫の大群の参謀の一人だった。 すると雪弥は笑顔で真琴を見る。 「先程カレハさんが独断で決めたんだが、セレスは第三部隊に、ウォルスとかいう奴は近衛騎士団の第二部隊に行く事になった」 その言葉に、友達が自分と同じ騎士になって嬉しかったのか、ぱぁと明るい顔になる真琴とは反対に、エリスは少し悔しそうだ。 「私より上なんて〜」 「世の中上手くできてるね」 ガックリと肩を下ろすエリスの隣に立ち、そっと手を置くのは、桃色の長い髪をなびかせたサクラであった。 しかももう一方の手には大きなオニギリが乗っかっている。 「サクラ、それで何個目だ?」 「二十五個目です」 これだ。 サクラは見かけによらず大食いで、昔は怖い事や辛い事から逃げ出し、何時までたっても強くならない寂しさを紛らわす為に、ご飯が多くなっていた。 しかしこうして思うと、彼女は元々から健啖な人なのではないだろうかと、最近では思ってしまう雪弥。 これでは当分、「食っちゃ寝騎士」のあだ名が消える事はないであろう。 「それより驚いたぞ。虫の軍団と相手どった上に、その総統まで倒すとはな」 アリスもその話を聞いて、最初はなんと無謀だとも思った。
しかし後で考えれば、できなくもない。彼女達は元々が強かったからだ。 真琴はリンという少女とその母親を守りながら、己の力だけで敵を倒していた。彼女の武勇伝は他の騎士も見ており、その話を聞いただけで、彼女がこの半年の間にどれだけ強くなったかを想像し、一瞬だけ身震いしたほどだ。 サクラも、本来守るべき民の力を借りた事はともかく、その持ち前の五感の良さに喰らえて、何より最強の頭脳が勝利をもたらしたのであろう。また彼女の武勇もサクラクラブとかいう彼女のファンクラブから聞いていた。 エリスもそうである。町の中心部で虫の大群と戦って、既に魔力が切れた状態から総統と戦い、挙句にあの紅蓮とかいう男まで倒してしまったのだ。それは一日中眠ってしまうのも頷ける。五大精霊まで呼んでしまったし。
三人とも、それこそ一騎当千とも言える戦いぶりを発揮した。それこそ、これがかつて「へっぽこ騎士団」などと罵られていた集団なのだろうかと、一瞬だけ錯覚してしまった程だ。 これでは、もう彼女達を「へっぽこ」とは呼べる騎士は、ここグレンフェルトにはいなくなったであろう。 彼女達は一人で、本来の騎士以上の働きを齎したのだから。 「皆、雪弥さんの為でしたからね」 そんなカレハの言葉に、三人は一斉に頷いた。 彼女達がここまで強くなれたのも、元はといえば大好きな隊長の為である。雪弥に喜ばれたいが一心で、彼女達はこうまで成長できたのだ。 そんな彼女達の反応に、雪弥は軽くそっぽを向く。 「顔を真っ赤にしてそっぽを向かれても、説得力ありませんよ〜」 「な、なんの事やら」 雪弥をにやにやしながら見るカレハから遠ざかるように、彼は足を速める。 そんな彼を見て、素直ではないと思いながらも、クスクスと笑うカレハであった。
ここは西欧の大陸『グランマザー』 ここには大きな国がいくつかあり、その一つに『グレンフェルト』があった。 かつてそこにはグレンフェルト騎士団という物があり、そこの騎士団は皆正義と愛を重んじ、どの騎士よりも悪を許さない騎士として有名だった。 かつての大戦のさなか、東大陸の超巨大な国家の軍勢がそのグレンフェルト騎士団と戦ったが、ある時その軍隊は敗れてしまったという。 その時戦場にいたのは小さな女の子が三人。 そしてその女の子達に混じって一人、青い陣羽織に青い髪の、サムライという名の一人の騎士がいたというが、定かではない。
これはその大戦の五年程昔。 まだ彼らが当時「へっぽこ騎士団」と呼ばれていた時代である。
Fin
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