壮大な間取りの部屋。彼らが普段止まる安い宿屋で、一番高い部屋を頼んでもこれほどの広さの部屋にはたどり着けないであろう。 どうみても高級ホテルのスイートルームでしか再現できないようなとんでもない広い部屋で、これまたとんでもなく広いダブルベッドに二人して寝転がる少年と少女。 クラウドとシィルだ。 「ファナ……またあいつか……」 「うん」 シィルの黒い髪を指で軽く梳かして遊ぶクラウド。しかしファナの話題になった為か、その口調や目は真剣だ。 彼女も彼女で、ファナとは一戦交えているので、とても無表情にはなれない。 「あの時は、ティセがいないと無理だった」 「あぁ」 ふと思い出されるのは二年前の事。 まだクラウド達が、バージニアに戻り、正式にクラウドが闘志の称号を得てなかった時の頃に、彼女と出会ったのだ。 そのときの戦いがいかに熾烈だったか、クラウドは思い出すのも嫌な程だ。 貴公子という彼女の名は伊達ではない。 それは彼女と拳を交えたクラウドには分かった。 無論、あの時は彼だけでは勝てなかった。シィルの聖典ロンギヌスを使い、ティセの魔姫の力を使ってさえ、なんとか逃げ延びた戦闘だった。 彼女に言われた事がある。
『お前は弱い。なぜお前なんかを守るのか?魔王の娘の考える事は分からない』 ――たしか俺はこんな風に答えたんだっけ…… 『俺はたしかに弱い。けど、シィルやティセさんが悲しい目に会うのを、黙ってみているなんて嫌だ。それに守ってるのは俺だ』
ふと、クラウドは下を見る。 大事な彼女、シィルが彼の膝の上に寝転び、彼をまっすぐに見詰める。 それがあまりにも愛しかったのか、彼は彼女に、そっと笑いかける。 笑いかけるしかできないのだ。 「……倒すよ。あいつがティセさんやシィルを狙う必り、何度だって戦ってみせる」 「……うん」 すると暫く目を閉じ、また開くシィル。 そして今度は、クラウドの首に手を回し、そっと顔を近づける。
「死ぬ時も一緒」 「死なない。お前もティセさんも死なせないし、俺も死なない」
二人は、出会ってこれで何度目かの約束事を言い交わし、それ以上は何もいわず、互いの唇を重ねたのだった。
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