洋館には豪華なシャンデリアとその下に高価なカーペット、そして白いソファと木目調の黒いテーブルがあった。 そのソファーに座っているのは、誰もが憧れる美少女三人と、男一人。 「それでは、貴方達にお願いがあります」 「もういい。用心棒だろうがハンターだろうが引き受ける」 何やら諦めた感じのクラウド。すでに達観している。 そしてもはやお菓子以外に興味なし、のシィル。 「クラウド、このお菓子美味しい」 「でしょ。アイリスちゃん家のお菓子美味しいんだよ」 「ジュリア……ああもう、なんでこうもシリアス感のない方ばっかり!!」 頭を抱えて叫び散らすアイリスだが、ジュリアはともかく、シィルやクラウドにそんなものを頼む方が無茶である。 これでティセが入ったら、一瞬でシリアスの欠片もなくなってしまうだろう。だから今の状況はまだ救いがあった。 「これを見てください」 そう言って、一枚の紙をテーブルの上に置くアイリス。 それを手にとって読むと、途端にクラウドの顔が真面目になり、少しばかり目を細め、眉を顰める。 「見たところ貴方はバージニアの闘士。ならばこの方を…」 「知ってるさ。こいつは……」 クラウドの手が震える。 決して怯えて手を震わせているのではないという事は、ここにいる人、温室育ちのお嬢様であるジュリアでさえも分かる。 シィルは、というと、そんなクラウドを見て、そっと彼の肩に手をやり、にこりと優しい笑みを返す。 「シィル……」 「大丈夫。まだティセは狙われていない」 「そうだな」 彼女に言われて少し落ち着いた様子のクラウド。紙をシィルに手渡すと、未だ抑えられない感情を必至に抑え付けようとしていた。 「……貴方方がその方とどういうご関係かは存じません。ですが、この町を救うには、この人を倒さねばなりません」 「正確には、この人が率いる軍隊だね」 「そうねジュリア」 軍隊、という言葉を聞いた瞬間、シィルの眉が少し攣りあがる。 何故ならこの男の事を、彼女とクラウドは良く知っていたからだ。 「魔物?」 一言呟いただけなのに、シィルの言葉から怒りの炎がひしひしと伝わってくる。 それだけシィルはこの手紙の主に対し、怒りが沸いているのだ。 「お察しの通りですシィルさん。三日ほど前からでしょうか。この者は、どういう訳か魔物の軍隊を引き連れて、この町を度々襲いかかるのです。そして…」 「こんな物まで渡したわけかよ…あの野郎!!」 クラウドはそう言うと、怒りが中々抑えられないのか、歯軋りまでしてしまう。 それはジュリア達にとっては別にただの普通のワイングラス。 しかしクラウドにとってこれは、奴からの果たし状も同義であった。 ふと目の前を見ると、あまりに彼が恐かったのか、何か怯えた表情でアイリスに抱きついているジュリアが見える。 アイリスはそんな彼女を抱き返すと、またクラウドの方へ目を向けた。 「お気持ちはお察しします。何とか、貴方方でその者を倒せないでしょうか。いえ、その軍隊だけでも良いのです。高望みは致しません」 そう言って頭を下げたアイリス。 元々助けられ、その上こんな事を言うのは、と思ったのだが、この町のあらゆる冒険者に頼っても逃げられてしまう。挙句遠くの町まで探しに行こうとした矢先に、あの盗賊に襲われたのだ。 クラウドにこんな事を言っても、どこかの冒険者と同じ対応しかしない、と思っていたアイリス。 なので、彼のこの言葉は、彼女にとって意外な、救いの言葉に聞こえた。 「高望みじゃない」 「え?」 まるで鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で顔を上げると、クラウドは頭を掻きながら、シィルは、彼女にしては満面の笑顔で彼女を見ていた。 「私とティセで魔族を、クラウドは奴を。できる?」 「任せろ。それで、何時来るんだ?」 「明後日の、明朝です」 すると、クラウドは途端に真面目な顔になる。 「そうか。じゃあ、それまでにティセさんを見つけなきゃな」 「うん。急いで捜そう」 そう言って二人して立ち上がると、真っ先に扉へ向かっていった。 「あ、待ってください」 「??」 声がしたので二人が振り返ると、ジュリアが本当に申し訳なさそうな顔で二人を見る。 「私達も、そのティセさんという方を捜すのを、お手伝いしたいのですが」 「だね。二人より四人、だよ」 するとそれが嬉しいのか、クラウドはまるで少年のような笑みを浮かべた。 「ありがとう」 しかしその瞬間、 それを聞いた三人の顔に変化が見える。 まずジュリアは純粋に顔を真っ赤にして嬉しそうな笑み。アイリスは嬉しいのだが何故か複雑な目で彼を睨む。そしてシィルはさも「またか」というような表情で、尚且つ滅多にしない溜息までもらしている。 「あれ、どうかしたの?」 そして彼がそう言った途端、三人の少女はまるで示し合わせたかのように、一斉にポカンとし、次に一斉に首を横に振ってため息をついた。 さながら一斉に「わかってねえなコイツ」とか言われているようだった。 「クラウドは愚鈍」 「だね」 「本当ですね」 三人の美少女に呆れられ、自分の横を素通りされてしまい、クラウドは訳が分からないといった感じで三人を追いかける。 「ちょっとお前ら、どういう事だぁぁ!!」 そんなクラウドの悲痛の叫びが、豪華な洋館中に響き渡った。
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