バージニアの隣にある風の国に続く道。 その道の途中に、一つの町があった。 小さな門を抜けると、すぐに商店街がある。 そんな商店街に、ブロンドの緩やかなウェーブの髪を翻し、にっこり笑顔で店員と話している、とても綺麗な少女が立っていた。 その隣には、とても背の小さく、隣の少女と同じかそれ以上と思うほど、まるで天使のような可愛らしい少女が立っていた。どうやら少し怯えているようだ。 「あの、ティセリアお姉ちゃん」 「はい?」 やさしく声を掛けるティセ。こうして二人で並んでいると、本当に姉妹に思ってしまう程、二人は完全な美女と美少女だ。 「駄目ですよ、ティセって呼んでください」 「う、うん。ティセ…お姉ちゃん」 「はい、よくできました」 座って、おどおどしている少女の頭をそっと撫でる、ティセリアことティセ。 周りの目は完全にこの二人に向けられていたが、少女のそんなオドオドした態度が、情けないどころか、逆にとても可愛らしく思ってしまって、回りの女性達も、誰も何も気にしなくなっていた。 逆に男達からは好奇の視線で見られているが、どうやらオドオドしてない少女の方は気にならない様子だ。 「いっぱい人が見てるけど、大丈夫かな?」 「アハハ、気にはしませんよ」 ティセは少女の頭を撫でると、そっと優しく笑い返す。 「セレナちゃん、私はここの人達に見世物にされても構わないんですよ。あの二人さえ危険に晒さなければ、それでいいんです」 あの二人、それはクラウド、シィルの事だ。それはセレナという少女でも分かる。 彼女は二人さえ危険に晒されなければ、怒ったりはしない。むしろ危険に晒した場合、その怒りは並大抵の事ではない。 「その、クラウドさんやシィルさん、ここに来るかな?」 「えぇ。この町を抜けないと、風の国には行けませんからね。ですから、ここを通る旅人は皆、風の国へ行く方なんじゃないですか?」 優しく言うと、彼女は林檎を掴んで、店員ににこりと笑みを見せる。 「五個でおいくらですか?」 「えっと……」 そうやって二人が金の勘定をしているうちに、一つの馬車が通り過ぎる。
その馬車はその商店街を過ぎると、一軒の豪邸へと到着した。 昔のモダンという感じの家の造りで、恐らくこの家の建築者、設計者は、既にこの世にいないのだろう。何代も続いている家に違いない。 この家の持ち主がそうとうな資産家だという証拠だ。しかも相当歴史のある。 「着きました」 「久しぶりだね、アイリスちゃんのお家」 どうやらここは、ブロンドの髪の、アイリスという少女の家らしい。 その隣では、馬車から降りた彼女の友人が、ウキウキした表情で彼女を見ている。 「ジュリア、はしゃぎ過ぎ」 「いいんじゃねえの。で、ここまで護衛したわけだが?」 シィルと、その後ろからクラウドが降りてくると、アイリスは振り返って彼らを見て、軽く会釈する。 「ようこそ旅の方。今日は私の家でゆっくりしていってください」 「ください」 二人して会釈すると、クラウドの額から少し冷たい汗が流れる。 「ちょ、ちょっと待て、俺達はその……」 「ティセなら大丈夫」 「いや、さすがに一人で夜は危険だろ?」 いくら凄く強くても、女の子が一人で夜を彷徨うのだ。しかも彼女は誰もが見惚れる程の美少女である。危険が無い訳がない。
「ティセ、へそくりがある」 「何で?」
「クラウドがいつも使うから。特に食費で」 こう言われてしまうと、彼も何もいえない。 一行の金がなくなる理由は宿、仕事がない、シィルの滅多にないおねだりなど、色々あるが、その中でも特に一番なくなるのは、クラウドの食費である。 闘士はすぐに腹が減る。というバージニアの格言は、間違っていなかった。 ちなみにバージニアでは、闘士は、すぐにお腹が空き、しかもいっぱい食べる者という代名詞にまでなっている。 一気に周囲から冷たい視線を向けられ、顔が青くなるクラウド。 ちなみにジュリアはアイリスの家を見ていて、こちらを見ていない。 こういう時、彼が一番多く使う事は、 「ご、ごめんなさい」 すぐに謝る事。 こうすると、何故か知らないが、周りはそれ以上なにも言わない。 クラウドはゼロコンマ二秒で綺麗な土下座を作り上げると、それまで睨んでいた少女二人を、見事黙らせる事に成功した。 「アイリスちゃん、早く入ろうよ!!」 「はいはい。全くジュリアは子供なんだから」 「本当に。どっかの誰かさんとそっくりだ」
ゲシッ!
突然彼の後頭部に、凄い激痛と衝撃が来る。 「痛!!」 「うるさい」 手を拳にして、殴ったのだろう、シィルの拳が少し赤くなっている。 時々はこう本気で殴るのだが、いつもはポカポカ程度で全く痛くない。その上無表情で来るので、本当に分かり辛く、受身もできやしない。 いくら闘士といえど、痛いものは痛いのだ。 「お前には優しさという物がないのか?」
「私にあるのはクラウドへの愛だけ」 「……」
じかに、真っ直ぐな目でそんな事を言われてしまうと、少年のクラウドの顔が真っ赤に染まってしまうのは当然のことだろう。 ――よくもまぁ、まっすぐとそんな事言えるよな…… しかもこんな事を何時もは言わないシィル。しかも予想もしていないときに来た不意打ちなので、赤くなった顔を抑えられなかった。 当のシィルはというと、珍しく薄っすら口元を緩め、
「さっきほっぺを舐めたお返し……」 などと呟くと、一足先に洋館の中へ入っていった。
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