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幸運少女☆笹原麻耶 常盤の朝は波乱万丈!! 作者:リョーランド

最終回   後編

「おほほほほ!!さぁ笹原麻耶、私と勝負ですわよ!!」

 現れたのはここ、常盤中学の「ザ・お嬢様」、他にも「主人公のライバル、もしくは主人公をかっこ良く見せるためのかませ犬No,1」とか、「天才科学者と書いてマッドサイエンティスト」、エトセトラエトセトラ……

 様々な異名を持つ脅威の女、相沢薫だった。

 相沢グループ時期総帥でプライドが高くとにかく負けは許されない。そして不幸な事に私達と同じ二年生なのである。まだあと二年あるのかと思うと頭痛い……
 そんな唯我独尊な彼女が例によって例の如く、またまた私の親友である麻耶に挑戦状を叩きつけたのである。
 しかも彼女の隣に立っているロボットは人型兵器であり、まぁ分からない人はそこら辺のロボットアニメで出てくる巨大ロボだと思ってくれれば良い。隣でレーダーで動かしているのがなんとなく気になるが。
 その場の全員がそんな奇天烈ロボを見て、呆れと驚愕の表情を浮かべている中、麻耶だけは依然ぽえぽえした表情を崩していなかった。

「いいよ〜」
「「即答!!?」
 どこぞの甘い言葉を述べるお笑い芸人みたいなノリだなオイ!
「そうこなくちゃな。さすがは麻耶だ」
 金城はもう慣れてしまっているのか、何故か楽しそうだ。いいわね馬鹿は。
「おいおい、普通そこは「俺の彼女に手を出すな」だろうが」
「私の彼氏に手をだすな!」
 麻耶が言うな!普通それは女の子が言う台詞じゃないの。女の子がピンチのときに男が前に出てきて言う言葉なの!

 とはいうものの、最近ではやたら超人めいた超人がヒロインになってしまい、男は中盤と終盤以外は役立たずという設定の物語が所狭しと並んでいるが、これは偏に、女が強くなったと言って良いのだろうか。
 因みに私は許せない。今まで自分が強かった分、やはり大好きな男の前では弱弱しく助けて貰いたいもの。私だって女の子なのだ。普通は男の子が女の子を守るのが当たり前だ。『坂本泉脳内憲法』の第一条でそう記されている。

「最近の女は強いって事で」
「なんで私を見て……ってか、あんな巨大ロボを普通に学校に持ち出してよく教師も黙っていられるわね。職務怠慢で訴えようかしら」
 教員が怯える表情が目に浮かぶわ……本気でやろうかしら?
「さぁお行きなさい、貫太郎42号!!」
 そうこうしているうちに薫がレーダーで奇天烈ロボを動かそうとする。まぁあのレーダーも貫太郎もあと数分の運命ね。悲しいけど。
 しかも42って……思い切り不吉な番号じゃない。「死に」よ!?
「そう言えば今まで41号もあったんだな……中学からだっけ、あれ?」
「さぁ、何しろ3号から始まってたし。しかもいちいち幹太とか貫太郎とか名前変えるってのがあいつらしいよな」
 うん。あいつらしい、で終わらしてしまえる所が岸辺君の優しい証拠なんだよね。だけどあんなロボットいちいち作って学校や私達に被害をもたらすっていう所は、彼女としては一応怒ってほしいってのが本音なんだよね。
 相変わらず貫太郎……だっけ?なんか昔あったホームドラマの大黒柱の主人公の名前みたいでなんか嫌ね。とにかく貫太郎が麻耶に攻撃をするわけだ。
 まぁ真面目にパンチやらキックやらができる技術は凄い。例の如くミサイルやレーザーなんかの近代兵器、果ては自爆装置ってのはやりすぎだけど。

 しかしそこはさすが幸運少女。突如強い風が吹いたり偶然そこを歩いていた近所の大学生が盾になったりして、ちっとも攻撃が当たらない。

 麻耶に向けて放たれたミサイルが例によって突如吹いた強風に晒され、軌道を失って隣の民家に着弾する。おー大爆発。
「あれって……川原さん家だよな」
 川原さんといえばここの近くに引っ越してきた人だ。両親は実家にいて、五歳の男の子と二歳の女の子の三人家族。奥さんは女の子が生まれてすぐに死んでしまっていて、今は父子家庭なのだ。近々後妻でも来るのかと、密かに期待していたりする。
 マイホームなんて、このご時世よほどの収入がないと簡単には買えないだろうに。あぁ悲しきや、兵共が夢の跡。なんつって。
「……ご愁傷様」
 取り合えず三人して黙祷しとこう。
 事相沢薫と笹原麻耶の引き起こした事件というのは大抵誰かが犠牲になる。なので誰かが犠牲になってしまった時は必ずこうして黙祷しているのだ。
「まぁ相沢グループが後で賠償するだろうし」
「例の如くか?それで20年ローンが一気に高級一軒家、しかも費用無料だぜ?俺の家にもミサイル飛んでこねーかな?」
 そんな事言ったところで、麻耶が嫌がればそんな事態は起こらないだろうが。仮にも恋人でありながら不適当な事をほざいでいる馬鹿がいる。
「……麻耶が泣くわよ」
 するとどうやら自分の家が全焼して悲しみのあまり泣いている麻耶を想像したのか、金城の馬鹿面が一瞬暗くなる。首を全力で横に振っている事から、どうやら反省はしているようだ。馬鹿者。
 あの子は基本的に優しい性格だが、いざ大事な人が傷ついた時はきっと怖いだろうよ。それでなくとも普段は悪い人があまり好きではない彼女の事だ。
「いつかの銀行強盗みたいな騒ぎにはなりたくないから」
「やっぱり?」
 岸辺君も金城もそれで思い出したらしい。
 そう。我々はたまに、悪人があまり好きでない麻耶が知らない間に自分の幸運を発揮し、その悪人を退治してしまうという場面にも遭遇してしまうのだ。
 あんないつもの光景ならまだしも、もしも本気でそんな麻耶の怒りを買ったら、いくら相沢薫とてたまったものじゃないだろう。
 例えば薫の運を全て取り上げて運勢を一生大凶、とか?うわ〜そしたら相沢グループの倒産は確実ね。
「じゃあどうする?」
 まぁ未だに麻耶の中では薫は「お友達」なので、そうそう彼女の不幸を呼び起こすなどという事はしないだろう。
 金城に尋ねられるが、私としてもここは麻耶に任せておきたいのだ。
 何故ならあのロボットの攻撃は何故か麻耶にだけは当たらず、そしてロボットの攻撃で校庭に穴が開いたりするのだが、ロボットはその穴に足を落としたりするが、麻耶は何故かその穴に落ちたりはしない。
「キーーーーーッ、これならどうよ!!」
 薫はいらいらしているのか、ハンカチを噛み締めて攻撃を繰り返している。
「おぉ、生で女の「キーッ」が聞けるとは……」
「珍しいよな。今じゃもう使われない死語の代名詞だ」
「二人とも、今はそんな事言っている場合ではないから」
 そうこうしているうちに学校では大パニック!!
 って思いきやそこは常盤高校。そりゃ初めの時は凄いパニックになってて避難訓練さながらの大避難が始まってた所だが、半年も経てば人間慣れてしまう訳で。
 今となっては誰一人驚かず。ましてちゃっかり周囲に人がいなくなり、全員遠くから見ていて「がんばれ」なんて言ってる始末。アトデオボエトケヨ……
「暴走する前にあいつを捕まえた方がいいわね」
「そうだな」
「ってちょっと待て!泉も行くのか?」
 あれ?岸辺君ったら、やっと私の心配してくれたみたい。
「え、うん。麻耶がピンチなのに私がここにいるのは……」
 すると岸辺君、私の肩を掴んで真面目な顔で見つめてくる。きゃぁぁ、岸辺君の顔が至近距離に〜〜〜〜!!!(照照)

「女の子にそんな事、させられる訳ないだろ……」

 優しいったらありませんか奥さん!彼ったら私を気遣ってくれてますよ!?
 まぁ実際岸辺君には、私が並み居る強豪を、その拳一つでぶちのめしている姿なんて見せていないものですから。
「だったら俺が麻耶の手伝いするよ。お前らは薫を頼むぜ」
「いいのか?」
「あぁ。大きな声じゃちと言えんが……俺の麻耶がピンチだからさ」
 うわぁ、意外とカッコイイ事言うじゃないの。
 まぁ、こいつならこんな事を言うだろうとは思っていたけどね。だいたい麻耶が好きになった男なんだから当たり前といえば当たり前なんだけど。
 けど、岸辺君の方が何百倍もカッコイイのよね。
「じゃ、言ってきます」
 そう言って金城は急いで麻耶の所まで走っていった。ご丁寧馬鹿正直に、麻耶の名前を大声で叫びながら。あ〜あ、麻耶は幸せ者ね。
「俺達は薫を」
「うん」
 巨大ロボは通常麻耶一人でもなんとか大丈夫(というか麻耶でなくては大抵あの暴走は止められない)なので、金城は別にフォローしなくても良いのだが。
 まぁ岸辺君と二人で(ここ注目)、相沢薫の所に急ぐ。
「待てよ薫」
「なっ、岸辺に……泉!!?」
 どうやら薫は最初から麻耶以外の人間には目もくれていなかったらしい。あいつらしいとは思うのだが、いささか失礼だ。
 前門に私、後門に岸辺君が立ちはだかった所で彼女はやっと気付いたらしい。いつもの毅然とした彼女らしからぬ動揺ぶりだ。
 本当、突発的事項に弱いんだから。
「岸辺君、薫をお願い!」
 そうは言っても薫は天才的な頭脳を持っている。以前は何故かレーザー光線を放たれてしまって逃げられてしまった。今度はバズーカか?ミサイルか?
 そう思索していたら、あっという間に岸辺君に後ろを取られ、彼女にしては珍しく、あっという間に羽交い絞めにされてしまった。
「ほら、捕まえた」
「きーっ、何をなさいますの!!」
 きーきーと烏みたいに喚く女だ。そのソプラノの声がたまに頭に響くので、一回喉を潰してやりたくなったのは乙女の秘密である。
 すると岸辺君、何を思ったのか薫の頬に手をやり、一言「めっ」と言ってから眉を吊り上げたまま口を開く。

「女の子がそんな顔しちゃ駄目だ」

「うっ……」
 出た。岸辺隆一君の18番、「女の子が〜〜だ」です。
 まぁこれも朴念仁な岸辺君が無意識に繰り出している奥義の一つなのだ。
 大抵この学校の女は「これ」で堕ちてしまう。
 それを口にしているのが岸辺君だからであり、他の男がこのような事をのたまいたらすぐさまぼろ雑巾にされるが、他ならぬ「岸辺君が」このように言うと、大抵の暴走女はたちどころに彼に魅了され、行動を止めるのだ。
 その威力は計り知れず。「男なんかよりも研究か開発」と豪語している薫でさえ、ご覧のように顔を赤らめ、この戯けた破壊活動を止めると言ってしまった。
 いずれ生徒会の「対女性用最終兵器」と名づけられてしまわないだろうか。生徒会長らしき三年は密かに彼を勧誘しているらしいが、彼女として彼のこういった得意技を独占したい私としては懸念すべき事である。
「いつまでくっついているつもりですか?」
「ひぃ!!」
 どうやら最後まで私の存在に気が付いていなかったらしく、振り返って後ろに尻餅をつきながら泡を吹いている。失礼だ。
「じゃ、生徒会室に連れて行こう」
 まぁコヤツの処罰は生徒会室に連行してこってき絞られてからだ。他ならない私の岸辺君に迷惑掛けておいて、まさかそれだけで許されるだなんて思うなよ、薫。
 彼女の右腕は私が、左腕は岸辺君がしっかり捕まえ、白目を向いてドナドナを歌っている天才科学者を引きずりながら連行している。
「金城君、ここにボタンが6つあるよ?」
 するとやけにぽやぽやした声が聞こえてきたので振り返ると、未だにロボットと格闘している金城と麻耶がいた。すっかり忘れてたわ。
 どうやらいつもの如く、あの貫太郎42号の体を調べた結果、ボタンを六つほど見つけてきたのだろう。どうせその中の五つは自爆装置だ。
「あーーー、それはいざという時の機能停止ボタン!!」

 やっぱり……
 あんたさぁ、打倒麻耶専用にこのとんでもロボット作ったなら、せめてロボットの機能停止ボタンなんざわざわざ用意するなよな。本当いい奴なのか馬鹿なのか。

「……で、例の如く、残り五つが自爆スイッチ?」
「……しかも作った本人にはどれが機能停止スイッチか分からないんだろ?」

 どうやらそれは岸辺君であろうとも分かるらしい。さすがは常盤高校の一生徒。もはや薫の発明やそれによる顛末はお約束事としてあるようだ。
 うわ、薫のヤロウ、空々しい顔を浮かべながら口笛吹いてるし。
 これは知らないな。完璧に。
 岸辺君と顔を見合わせ、同時に溜息をつく。彼とこのような関係になる以前は私一人が溜息役を演じていたのだ。最近は岸辺君と二人というので、嬉しくないといえば嘘になるのだが、やはりこのような役はあまりやりたくない。
 すると突然向こうさんの状況が変わりだす。
「麻耶、俺が奴の攻撃を防ぐ。どれでも好きなボタンを押せ!!」
「ええ〜〜?大丈夫かな?」
 あんた自覚ないのか!?今まで何体こんなフザケタロボットと戦い、そして何度適当にボタンを押して撃退したと思っているのよ!!あれなの?あんたは三歩歩くと全てを忘れてしまう鳥頭なの??
 すると金城は麻耶の前に立ってロボットの攻撃を防いでくれている。こういう所でも幸運が光るのよね、こいつの場合。
 すると奴は何を思ったのか麻耶の顔を見て途端に真面目な顔になる。さすがに麻耶が好きになっただけはあるが、普段は目にみえて馬鹿面なのに、いつもこういう時だけかっこ良くなるっていうのは、友人としてどうなのかな。
 どうせ隣の岸辺君は何か変な物を食べた人でも見るかのような目で見ているだろう。
「あぁ、大丈夫。俺がお前を守るよ」
 うわ、聞いた奥さん。金城の奴カッコイイではありませんか。そりゃ、天然ぽやぽや女の顔もトマト色になりますよねぇ。お〜お〜、アツイアツイ。
「うわ、あいつのあんな台詞、今後聞けないかも」
 うん、心配ないよ岸辺君。君もあんな事言ってるから。それも意識して言っている金城とは違って君は無意識ですから。
 後は話す必要もないか。
 金城との愛の連携プレーによって、見事麻耶は六つのボタンの中から、貫太郎の機能停止ボタン一つだけを押す事に成功し、見事貫太郎を停止させたのだ。
「おのれ麻耶、覚えてらっしゃい!!」
「はいはい。薫は生徒会行きね」
「殺生な〜〜」
 お決まりの台詞を吐いてジタバタするが、私だってそんな事で許しはしない。二度とこのような戯けた事ができないように、しっかりと説教した後で、主に精神的に、タコ殴りにさせてあげるから、覚悟してらっしゃい。フフフ……
 といってもこれでもう何度目なのか……
「今日の収穫と言ったら、学校が破壊されなかった事かな?」
「うん。そうね」
 しかもあのマッド、これでたまに学校を破壊してしまい、せっかく朝眠いのに登校してきた私の苦労を、一瞬に水泡に帰するのだ。
 やはり締めとかないと駄目かな?
「泉ちゃ〜ん、終わったよぉ」
「おぅ、完全勝利だ」
 あっ、馬鹿一号と二号が帰ってきた。
「悪かったな馬鹿一号と二号で」
 あれ、自覚あったんだ。
 まぁいいとして、早く校舎に入らないと……

 ――キーンコーンカーンコーン……

 神様、私には皆勤賞を取る資格すらないのですか!!?
「……ホームルームが」
「……始まった?」
 金城と岸辺君は揃って呆れた声をあげる。
 私は瞬間、膝から崩れ落ちてしまった。
「泉、大丈夫か!!?」
 岸辺君が私を抱き起こして心配してくれているわ。でも私もう駄目よ。皆勤賞も取れない優等生なんて麺が入っていないラーメンみたいだもの。
「それって……ただのラースープじゃ……あごっ!」
「泉、大丈夫か?悪い男は俺が退治しておいたぞ」
 有難う岸辺君。あんたは良い男だよぉ。
 けど毎度毎度金城が何か馬鹿を言う度に鉄拳食らわすのはどうだろう。ほら後ろでまた麻耶が睨みつけてるよ。あの子も金城の事になるとこうなんだから。
「大丈夫よ。早く校舎に入りましょう」
「あぁ。俺に捕まっててくれ」
 岸辺君は私を優しく抱きかかえると、お姫様を救い出した勇者の如く、勇ましく勇敢な顔立ちで校舎に入っていく。
 あぁ、こんな時間がずっとあったら良いのになぁ……

 因みにその後、いつの間にか生徒会から逃げ出した薫が、今度は超巨大ロボに乗って麻耶に戦いを挑むのだが、それはまた別の話。
 そしてそれによってまたもや学校が破壊。かくして私の皆勤賞がおしゃかになる事がなくなったというのも、また別の話である。

 あぁ、今回ばかりは薫、あんたの事許してあげるわ。
 次はないけどね……

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Novel Editor by BS CGI Rental
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