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かうして二人は

  かうして二人は Ryou 2014/01/25 11:24:36 

かうして二人は [返事を書く]
 かうして二人は、その茶店を出てまた歩きだした。
 が、素子は、すぐ道ばたに立ち止つて、顔をなほしはじめた。
 幾島は、五六歩先へ行つて、それに気がつき、歩をゆるめる。
 素子は、鏡をのぞきながら、時々、上眼使ひに幾島の方を見た。不自由な右手がだらりと下つてゐるのが、なんだか急に目に立つ。全体に伸び伸びとした感じのところへ、そこへ来てがくりと調子が狂ひ、見すぼらしく、とげとげしい。彼女はハツと呼吸をとめたくらゐである。今日までの彼からは一度も受けたことのないこの印象について、彼女は自分の眼よりも心を疑つた。
 ――あなたと僕との間にはもうちやんとさういふ道を踏まない約束のやうなものがある……。
 さつきの彼の言葉がふと胸に浮ぶ。と、一種自責に似た気持が、顔をほてらせ、彼女は眼を細めて彼の方を見据ゑる。
 そこには、痛々しいが、どこにも暗い影のない青年の姿があつた。
 ――男がかういふ告白をするのは卑怯でせうか?
 彼のその言葉の意味もやつとわかつた。わかつたばかりではない。それは、この世の最も厳粛な言葉であるとさへ思はれた。
 しかし、若し、その言葉が彼の口から漏れず、沈黙がよくその意味を伝へるのであつたら、一層見事だつたらうと、彼女は、そつと胸につかへるものを呑みくだした。
 が、それからの話には、素子は茶々をいれることをやめた。彼も、ぐつと楽に話ができるやうであつた。で、結局、彼女は、その令嬢と単純に交際してみることを彼に勧め、彼も遂に、
「さうするかな。やつぱりさうだらうな」
 と云つた。
Ryou 2014/01/25 11:24:36

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