小説・まんがコミュニティ トップへ
 ようこそゲストさん コミュニティトップへ スレッド一覧へ カテゴリ一覧へ ログイン ユーザー登録

竜の小太郎第一話 11
投稿者 君塚正太[1]
投稿日時 2009年05月18日(Mon) 13時49分12秒
「今の話と前の話は関係ないじゃないですか。僕は今の彼の態度に怒っているのです。そんな前の話を持ち出して、この僕を誤魔化そうとしてもそうはいきませんよ。僕が考えていることは今のことなのです。前のことについてはまた後でじっくりコーヒーでも飲みながらお話しすることにしましょう。ね、司教様。」
司教様は僕の話を聞き終わった後、少しあたりを見回し、ふと何かに気付いたように天井を仰いでいました。続いて彼は天井の上のほうに向かって、顔をまっすぐにし、そして彼は両手を筒みたいな形にして、それを口元に持っていき、その甲高い声で突然天井に向かって何か叫び始めました。それは確かに大きな音でした。しかしそれはでかい音というだけで言葉が聞き取れないものでした。あえていうならばそれはとても感情的な音だったようです。それはとても高いトーンの声が多く、その陰の小さな音はかき消され、まったくそれが聞き取れないほどでした。その嫌なテノールに僕が耳をふさいでいると、今度はトーレンが僕の肩を親しげにぽんぽんとたたきました。そして彼は耳にかかっている僕の片方の手をはずし、耳元でそっとささやきます。
「これはさっき君が私に向かってした行為なのだよ。こんなことを君は私に向かって、していたのだよ。本人は気付かないだろうけどさ、されている人からしたらたまったものじゃないだろ。これがすなわち怒りという感情なのだよ。こういう感情に縛り付けられた人は周りが見えなくなってしまう。そして終いには、何でもかんでもやりたいほうだいするようになる。こんな不条理なことはないさ。理性やら悟性やら、人々がよく口にするこういう言葉が多く使われる時代にこんなものがあるのは不合理だとは思わない?けれどもそれは今ここにあるのだよ。いくら科学が発達しようと、結局人間がいる限りそれはあり続けるのだよ。」
僕ははっとしました。今まで気付かずに自分がやっていた行為を、恥ずかしいと思いました。
「僕は自分が見えていなかった。」
僕は心の中で自分を叱責しました。(4)
ようやく僕は彼の言葉のおかげで冷静さを取り戻すことが出来たのです。やっぱり僕は阿呆なドラゴンでした。だって感情的になって周りが見えずに話をしていた僕がとても馬鹿だと思えたからです。よくよく考えれば、怒るほどの理由は無かったのです。どうやら僕は教会に入る前から感じていた気持ちを引きずって、それを彼に八つ当たり的に言ったようです。その原因が分かった僕はすっかり怒る気持ちが消えうせ、反対に何か朗らかな気持ちが僕の中を満たしていきました。しかしそれでも僕の心の中にはひとつの疑問が残っていました。それは最初に怒りを感じたときに僕は、彼らが僕に向かってよくする誹謗、中傷を受けたわけでないのに怒りを覚えたということです。確かに僕は彼らが司教様に向かってした非難を聞いて怒りを覚えたのです。それが僕の中にわだかまりとして残っているのです。「よし、そのことも司教様に聞いてみよう」と思い、僕は大きな口を目いっぱい空けました。