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竜の小太郎第一話 9
投稿者 君塚正太[1]
投稿日時 2009年05月18日(Mon) 13時47分15秒
「何の用ですか?司教様。」
そしたら司教様は、少しむっとして、
「君、君、ちょっと無礼なんじゃないか?このお客人の前でなんと言う口の利き方をしているのだい。それに君は私の部下だろう。だったらもう少し私に向かっても、礼儀正しくしたらどうかね?」と、返答しました。僕はそんなに彼は失礼じゃないなあと、思いながら、二人のやり取りを黙ってみていました。その言葉に彼はまったく動じずに、話を続けます。
「ひとつ、あなたの述べたことには間違いがあります。それは、私はあなたの部下ではなく、あなたの身辺警護員だということです。そして私の口が悪いとか、悪くないというのは小さな問題ではありませんか?司教様。貴方ほどの方がそんなつまらないことを口にするなんて、私は思いもしませんでしたよ。もっとも、そんなことを言うあなたを見たのは、今日が初めてですけどね。」
そんなこんなの話し合いで、「司教様はもっと怒るんじゃないかなあ。」と僕は思いました。しかし自分の予想通りに世の中が動かないように、その話の後司教様の顔はだんだん、ニコニコしてきました。「こんなわけの分からないやり取りは始めて見たなあ。」と、僕が面白がってその光景を見ていると、僕の方にくるっと向きを変えた司教様が突然僕に耳打ちをしてきました。
「そういえば、聞き忘れていたのですが、教会に入る前にあなたが気になさっていたのは何だったのでしょうか?そしてここでひとつ、私からあなたに提案があります。今あなたの目の前に立っている彼は非常に優秀な人物です。そしてまだ若い人同士で、この問題について話し合ったほうが私には良いように思えるのです。これをするか、しないかはあなたの裁量にお任せするしかありませんが、どうです?まあ、とにかくあなたが今、分かっている範囲で構わないので、その原因を少し彼に話してみたらどうですか?」
この提案に僕はあっさりと首を縦に振ってしまった。後から振り返ってよく分かったのですが、僕はまだ闇の中にいたのです。その闇の中で僕は行く当てもなく、光もなく、さ迷っている。その闇に慣れすぎた僕は今自分の触れているものすら分からず、手探りで、とことこ、とろとろ、同じところ廻っていたのだ。そんな暗闇の中で僕は彼という鬼火に触れようとしている。こんなことに何の意味があったかは、そのときは分からなかった。
けれども僕はこのとき以上に悩まなかったことは無い。そしてその後、家に帰って寝る前に僕の大きな布団の中で思いを廻らしていると、自分の前に長い階段が聳え立っているのがはっきりと分かった。これはまったく自分を省みないおかげで、得られた辛酸である。考えない人々が、もし現実に大きな山々が立ちはだかっても、それを認識できないように、人とは現実にばかりに生きているわけではないのである。現実に生きているという人ほど現実を知らない人はいない。空想の世界に生きている人ほど現実を嫌うものはいない。その空想と現実をうまく調和させた人が本当に現実を知っているのだ。
さして、僕は、たいした意味も持ち合わせず軽い気持ちで、この話し合いを行なおうとしている。この阿呆な僕は、無邪気な振りをして彼に自己紹介をした。僕はこのときまだ礼儀が大切だと思っていた。そして期待通りのありきたりな展開は起こらず、結局僕は閉口することとなるのであった。