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竜の小太郎第一話 8
投稿者 君塚正太[1]
投稿日時 2009年05月18日(Mon) 13時46分41秒
僕は突然のその挙動に少しびくっとしましたが、すぐに羽を「ぴシャッ」とさせ、司教様の方に耳を傾けました。
「本当にあなたの言うとおりだよ。すまないねぇ、少しあなたを試させてもらったよ。どうやらあなたはその試金石に易々と耐え忍んだみたいだねぇ。ここまでの愚行をどうか許してくれたまえ。私も人のすべてを一目で判断できるわけじゃないのでねぇ。」
彼のその態度に僕は急に親しみを覚えました。しかしまたそれとは反対のことが僕の頭の中で駆け巡っていました。それは今の僕の能力ではこれ以上の会話には、ついていけそうにもないということです。この現実を知った僕は、愕然とした気持ちになり、昔の様にまたしょぼくれました。その様子を察してか、司教様は先ほどの話の結論を簡潔に述べてくれました。
「この一連の行動はあなたが最初に投げかけた質問の答えでもあるのだよ。その答えとはあなたが持つ感受性と、そこから生まれてきた優れた洞察力、すなわち直観なのですよ。あなたのその感じやすい頭脳は、大きな不幸を引き寄せる。またそれを打ち消して余りある、大きな能力をあなたに授けたのです。その能力、それがあなたの優れた直観なのです。これは芸術、学問、スポーツ、あらゆることに必要な能力なのです。そう、あなたがあの床の光に感じた芸術、これもその審美眼がなければ出来ない所業でしょう。その双肩に圧し掛かる重圧にあなたはよく耐えてきた。その結果がこれです。人とは大きな苦難に出会わなければ成長しない。これは肉体的より、精神的苦難のほうが望ましいのであります。
本来人とは、肉体的苦労にはある程度耐えられても、精神的苦悩にはそんなに耐えられるものではないのです。その精神的苦悩という天涯孤独の境地に立たされたあなたは、また人々にこうも言われたことでしょう、『哀れな人』と。しかしその哀れな人でなければ、この位置まで登りつめることは到底、叶わないわけです。その苦難に耐え忍んでここまでやってきたあなたに、私は賞賛を贈りたいと思います。」
そう言い終わると、彼は自分のひげをちょいちょいさせながら、満足そうに立っていました。そして僕はといえば、その賞賛を聞いて初めて人から認められ、半分うれしいと思いました。けれどもその反面、自分の力のなさをただ黙りこくって、一人しみじみと実感していた僕もいたのです。
司教様がひげをいじり過ぎて、そのひげが昔の巻寿司みたいになったとき彼は、「ぱん、ぱん」と手を二回鳴らしました。すると司教様の宣誓の時、後ろについていた青年が、ずかずかと僕の後ろから歩いてきました。初めて彼を見たとき僕は、「ああ、なんて、きれいな青年なんだろうな。」と思いました。そしてもう一度、今度は近くでまじまじと彼を見ると、僕は一段とその優雅さに引き込まれていくようでした。その青年は僕の顔を少し見て、司教様に向かって静かな調子でこう述べました。