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竜の小太郎第一話 6
投稿者 君塚正太[1]
投稿日時 2009年05月18日(Mon) 13時45分14秒
「何か気になる物でも、おありでしょうか?」
この質問に対して、僕はすぐさまこう答えました。
「この床の光はどこから来るのですか?」
そうすると、司教様はくすっと笑い、ありきたりな答えを返してきました。
(2)「それは、あのステンドガラスを通って降りてくるのですよ。もっとも、正確に言えばその元となる光は太陽から発せられ、地球の大気圏を通り、そしてこのガラスを通ってこの場所に来たのです。そこには当然物理的現象としての光の屈折率も関係してきますね。例えば、光が大気圏を通った後に雲にぶつかるとします。もちろんその雲には、いっぱい光を反射する、水分が含まれているわけであります。その水分に光が反射すると、それは拡散、もしくは吸収されるのであります。そのような効果があって、初めて我々の目に雲はあんな風に見えるわけです。けれどもこれは当を得た答えではないでしょう。そもそもこの地球には、重力があります。光の性質上、光とは重力に引き寄せられるのです。それはアルバート・アインシュタインによって述べられた「特殊相対性理論」の中に書かれているわけです。このことはまず間違いないでしょう。しかし私としては・・・」。
この意味が分からない答えに、僕は少しいらいらしていました。そしてさらにその答えの内容がどうも僕の質問の答えじゃないようなのです。それを確信して、僕は小さな羽根を少し立てながら、こう、彼の話を遮りました。
「僕が聞いているのは、そういうことじゃないんですよ。ひとつ言うと、僕が聞きたいのは物理の講義でもなく、数学の講義でもないんですよ。僕が知りたいのは、このきれいな光が僕に訴えてくるその言葉なのです。その言葉は、うぅん、なんと言うか、説明するのは難しいけど、何かこう、直接僕の脳みそを揺さぶるんです。それは目で見たこのきれいな光のせいでしょう。おそらくは。その根拠として挙げられる物、それは至極簡単です。なんてたって僕はこんな経験、この光を見るまで一度もしたことがありませんからね。だから僕はこの光がとても不思議でたまらないのです。」
最初この話を少し笑いながら聞いていた司教様の顔は、ちょっと僕が眼を話した隙にすっかり真剣な顔つきになっていました。その顔を見たときに僕は、「少し悪いことでも言ったかなあ」と心配になりました。すると、彼は怖いぐらいに目をぎらつかせて僕に迫ってきました。その行動に少し寒気を感じながらも僕は、その場に「ずでんと」と居座っています。僕の目の前にたった彼は、僕の小さな羽根を少し持ち上げながら、それをゆらゆらさせています。その光景を見て、「司教様もいたずら好きなのかな?」と僕が思った、その時です、司教様は突然大きな声でこう叫びました。
「おお、なんということだ。今日ここで、この類稀なる人物と私が会えたことを、神よ、あなたに感謝します。神よ、貴方のご好意により、我らはこの場所で廻りあえたのです。この小さくも、広い世界でこのような人物に会えるというのは、何という奇跡でしょうか。神よ、おそらくこれは偶然ではないのでしょう?これは貴方が準備していた劇の台本どおりなのでしょうか?おお、神よ、どうかこの哀れな子羊の嘆きに答えたまえ。」
その言葉を聞いた僕は、今までにないぐらい驚きましたよ。そりゃもう、僕は司教様がどうかしてしまったのかと思うぐらいに驚きました。しかし次の司教様の言葉を聴き終わったときには驚きというより、むしろ霧がかかっていた道が晴れわたる時のような感覚が僕を襲いました。それは「まさしく何かを、ちゃんと知る」という感覚でした。
「私が初めてあなたを観たとき、こう思いました。この人の目には深い悲しみが宿っていると。その涙には、大きな悲しみが宿り、その瞳には深い葛藤が兆す。しかしこのことについて一般の方々はさほど関心を示さなかったようです。反対にそのような人達はあなたのような方を嘲笑し、非難されていました。これは彼らが虚栄心を満足させるために行う忌むべき行為の一例でしかありません。されど、私はこのことに大きな意義があることを知っていました。もちろんそれは、あなたが教会にいらっしゃった時からの行動についてですが、この経緯について少し説明しておいたほうがいいでしょう。あなたの私に対する誤解を解くためにも。」