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竜の小太郎第一話 2
投稿者 君塚正太[1]
投稿日時 2009年05月18日(Mon) 13時42分03秒
そんなあるとき、この町に一人の司教様がやってきました。洋服は簡素でそっけなく、顔はりりしく、たくましい。僕が彼を見て、抱いた第一印象はそんな感じでした。
そして司教様は今日の夕方五時に神様についてお話をすると告げました。僕はその大きな体をどっすん、どっしんと揺らしながら、掲示板に向かって駆けていき、黙ってじいっとその文章を読みました。それにはこう書いてありました。
「ああ、迷える子羊達よ、ここに集いたまえ。あなたの迷える御心を神の祝福によってお救いできることをお約束します。神のお告げによってあなた方は導かれるでしょう。」
僕が迷っていたからでしょうか、ともかくそのお告げとやらを一刻も早く聞きたい気持ちに誘われました。それを見てから僕は好奇心で胸がドキドキして、いてもたっても居られませんでした。しかしこんなときの時間はなんて残酷なのでしょう。気持ちがはやれば、はやるほど時計はゆっくり進むんですもん。こんな悪意のある時計をちらちら横目で見ながら、僕はウチの隅でじっとそのときの風景を想像して時間をつぶしていました。時々「ううん、ううん、うにしゃっぱ。」と一人うなって、それでもまだ時間が来ないので、お決まりの日課を少しやることにしました。その日課とは、ずばり空を飛ぶ練習です。空が飛べない僕に町のみんながよくこう言うんです。「お前は竜のくせに空も飛べんのか。へ、そんなんだからお前は小太郎なんだよ。」まあなんとひどいお言葉でしょう、竜が絶対に空を飛べなくちゃいけない「竜、空飛べなくちゃだめよ法」でもあると言わんばかりじゃないですか。  
そんな周りからの圧力もあって、僕はこの日課を欠かさず、毎日やってますよ。だけど実際いくら努力しても、一考に空って飛べないものなんですね。体の横にある小さい羽を一生懸命「パタ、ぱた」させて、ちょっと空に舞い上がったかと思うと、次の瞬間には頭から「ずどん」と地面に落ちてしまうのです。少し地面に埋まった頭から目だけをちょっと出して、ひっくり返った鏡の世界を見ると、「ああ、世の中って、反対のことが正しいなあ。」と自分でも訳の分からない言葉を言っていました。
その練習を三回ばかり繰り返して、体中が泥だらけのブラックドラゴン(The black dragon)になった時、やっと三角形の頂点がぺしゃんとした屋根を持つ教会の鐘が、「リーン、リーン、こん、コン、ポップコーン」と鳴り、五時を知らせました。僕は、はやる気持ちを抑えながら、さっさと身支度をしました。青いジーパンを頭にかぶり、黒い上着を下にはいて、僕はだっだ、だっだとその教会めがけて一目散に走り続けます。途中にある工場がもんもんとした煙を吐き出しています。その煙が空を真っ黒に染めている中を僕はわき目もふらず一生懸命走ります。そして何とか時間に間に合ったなあと、ほっと、一息ついて自分の体をようく眺めると、まあなんということでしょう。頭にかぶったジーパンは、工場の煙で真っ黒焦げのトーストみたいになっているし、下の上着は一生懸命走りすぎたおかげで、ちょっと右の肩が取れかかっているかかしみたいになっているじゃありませんか。このことを一度見ただけでは信じられなかった僕は、もう一度首を伸ばして「じろっと」体を見渡し、そしてもう一度「ハァ」と深いため息をついて落ち込みました。さらに周りの着飾った人達が横目でちらちら見ながら、「くす、くす、あれがとんまの小太郎よ。」といっているのを聞いて、その大きな体をさらに一段と小さくして、僕は落ち込み続けるのでした。