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竜の小太郎第一話 1
投稿者 君塚正太[1]
投稿日時 2009年05月18日(Mon) 13時41分19秒
第一章
 
(1)昔、昔、そんなに昔じゃないけれど、あるところに中っくらいの町がありました。その町の周りには草がぼうぼう生えていて、後ろにはそれを包むかのように長いすすきの海がゆらゆらと揺れています。そのはるか向こうには優しい目をした大きな父親の山々が広がっています。この光景といったらなんとすばらしいことでしょう。それはまるで一枚の絵が飾ってあるかのようでした。それを眺めると僕の気持ちは晴れ晴れとするのです。その時ばかりは、時間が止まり、私に、草花が気持ちよさそうに語りかけてきます。「ゆらゆら、ざわ、ざわ、ぐうる、ぐうる、お前は何を知ってるのう?」そう彼らは、僕に向かって話しかけてきます。
そのままぐてん、と野原に身を横たえると「ぐらっと」にわかに木がしなる音が聞こえてきました。これはあれですねぇ、なんと言いますか、風が強く吹いたとかそういうのでなくて、僕に原因があるわけです。そう、結構、これが僕の大きな悩みなのですよ。実際僕の体といったら、それはもう、とてつもなく大きく、牛五頭分はゆうにあるのです。そんな僕を人は、なんと酷いことでしょう、竜と呼ぶんですよ。おかげ様でこの名前が毎日頭にギン、ギンと鐘でも打ち鳴らすかのようにいつも響いてきますね。それにあまりに悩んだ僕は、あるとき長い首をむりやり折りたたんで、友達にそのことを耳元でこそこそっと小さな声で相談しました。そしたら彼はなんていったと思いますか?
「なんてことはない。君はそんなに大きいから、そんな小さなことにくよくよするわけないじゃないか。」そんな風に冷たく、あしらわれましたよ。
実際の僕は彼の見解とはまるっきり正反対です。僕はいつも何かに怯えているのです。
僕は外の、がさ、ごそっという風の音にもブルブルと脅え、一人でトイレにも行けないのです。体と心の大きさは比例しないのですよ、実際。僕の場合なんて、特にそうでしょう。体は大きく、心はねずみの心臓です。それが僕の本当の姿なのです。
そんなことがあうだこうだと続いて、僕はすっかり自信をなくしていました。ちなみにそのとき友達が僕につけたネーミングが小太郎です。そのセンスの悪いネーミングの由来を聞くと、体は人一倍でかいのに、いつもおどおどしているからだそうです。したがって僕は自分を竜と思いたくありません。だってこんなへまやドジばかりしている小物の僕が竜であるはずがありませんもの。
そんな悲しいときに僕はいつも口から「ぼうっと」火を吐き、気を紛らわします。他人から言わせれば、それも、また、結構うるさいものなのですよ。僕は小さな子供が風船を膨らますように、口を細くして、ぱっと息を吐き出します。その時に「ひゅー、どろどろ、どっかん」とまるで小さな花火が爆発するかのような音が、流れるような空気にのって響きわたります。これがわれわれ流、お得意の火の玉というやつです。最終的にはその音を聞きつけ、おまわりさんが「何だ、何だ。」とやってきて、「またお前か。」といって、いつも通りこまごまと一時間ぐらい説教をして、帰っていくのです。そしてその後私はきまってしょんぼりと下の草を、体の横の小さな手でくりくりといじりながら、空を仰ぐのです。「ああ、何で神様は僕をこんな風にお創りになったのですか?」と、僕は大きな目に涙を浮かべながら、一人空のお星様に向かって話しかけます。後は決まって野原に「ざざあっと」風がうなり、その風に身をまかせうっとりと目を閉じると気持ちが安らぐのです。