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小説&マ投稿屋を皆で待ちませんか?



投稿者 アグァ・イスラ[1]
投稿日時 2007年11月24日(Sat) 21時25分02秒
 
 こんばんは。小説&漫画投稿屋、悲しいことになりましたね(泣)
 今まで書いていた小説更新がストップして、暇な方はいらっしゃいませんか――? 私は大分、暇というか、放心状態であったりします。
 
 そこで、この機に(前前から考えてはいたんですけど)、この掲示板でリレー小説なるものを、投稿屋の作者さんたちで書かないかなと思いまして(笑) 投稿屋が再開されるまでの間、皆でここで待ちませんかと…。
 誰か、一緒にやってくれませんかね。参加は自由です。
 ルールは簡単。
 このスレッドに、ただ、続きを書いていくだけ。
 プロットはないので、どんな結末になるかも予測不可能です(笑)
 皆が参加できるように、ストーリーも簡単にシンプルに行きましょう。
 
 ストーリーは、誰でも参加できるよう童話風。お題は、私が最初に勝手に
 設定しちゃいますが、次からは誰かがスレッドを立ててもいいし。
 臨機応変に。

 最初のお題は、『魔女と王子さまの恋愛』、です。
 恋愛なら、シンプルなのではないかと思いまして。
 魔女の少女は王子さまに一目ぼれします。
 王子さまにあの手この手を使って、気を引こうとします。
 ――それだけです。

 結末は王子さまが死ぬのか、魔女が死ぬのか、ハッピーエンドになるのか、全員死ぬのか誰にも分かりません。誰がいきなり、どんな結末で終わらせても、誰も文句は言いません。
 そんな感じです。

 ――という訳で、最初の第1話は、私が書きます。
 ので、続きを、誰か参加してくださる方が、この↓のコメントに、
 投稿していってください。何度でも参加は可能で、連続投稿もオッケー。
 誰も書かないなら、私が勝手に進めていくかもしれません。

 【第1話】
 
 ある所に、魔女の女の子がいました。
 魔女の女の子には名前はありません。
 ずっと、魔法の森の奥に住んでおり、人とはあまり会いません。
 魔女の家には、一匹の黒猫の使い魔、ピエトロがいるだけです。
 そんな森の奥に独りの青年が迷いこんできました。
 魔女は青年が困っていたようだったので、森から上手に出られるように魔法で手助けをしてあげました。
 青年は綺麗な顔立ちで、森から出ると、何人もの召使たちに取囲まれ、お城へといきました。不思議に思った魔女は、その青年の後を魔法のホウキで追いかけると、青年がこの国の王子であることが分かりました。
 魔女は、青年に恋をしていることに気がつきました。
 そして、魔女は青年を自分のものにしたくなりました。
 魔女の女の子は考えます。
 どうしたらいんだろう?
 いっぱい考えて、魔女は思いつきました。
 そして、魔女はその青年のところへ行きます。
 王子さまは言いました。
「君は誰だい?」
 魔女は、とてもいい考えを披露します。
 にっこりと王子さまに向かって微笑みました。
 そして、魔女が出したものを見て、王子さまは仰天しました。
 悪い意味で。

「――王子さま、私の家に来て下さい」
 魔女はそう言います。
 王子さまは喜んで直ぐに従いました。
 なぜなら、魔女の手には鋭い、凶悪そうな刃物が握られていたからです。
 黒猫の使い魔が言いました。
「……ご主人、せめて魔女なんだから、魔法を使おうよ」
「あら、ピエトロ。魔法を使っては、それはフェアじゃないわ。魔法で従わせるなんて恋ではないもの」
「……ご主人、これも恋じゃないよ。分かってる?」
 王子さまは、魔女の女の子を前に、両手を挙げて震えています。

 魔女の女の子は、魔女なので殺人も人攫いも、特に気にしません。
 さぁ、魔女の恋は、どうなる?


投稿者 れいちぇる[2]
投稿日時 2007年11月25日(Sun) 00時18分53秒
はいこんばんは、れいちぇると申します。

わたくしめも「小説&まんが投稿屋」さんに掲載させてもらってたんですけど、ヤられてしまいましたね…



「「あと1話で完結だったっていうのに」」

木亥 火暴

いやいや、本業にかまけてさぼってた報いですかね。
他の方の作品を見ることも出来ないし。折角なので参加させていただきましょう。

お題が童話風の恋愛と来たもんだ。結構いろいろアリアリかということで遊ばせてもらいます。別の方も第二話を送っていないといいんですけど(汗)


【第2話】


魔女は刃物を突きつけられた王子様をみて、この作戦は成功だ、と直感しました。

人間は一定以上のストレス下に置かれた場合、それを共有する人間を肯定的に見る傾向があると言われます。その相手がもし異性だったらなおのこと。

「この胸の高鳴りは、もしや恋?」的な発想が飛び出します。

魔女はこう考えました。

王子様はこう思っているに違いない。
「一つ間違えようものなら、柱に括られた自分の周りに香草の変わりにたくさんの薪を用意され、気が付いたならミディアム・レアーにおいしく焼かれてしまいかねないこの中世の雰囲気漂うお城の中で、こんな形で脅迫を受けるとは思わなかった。

この状況はまさにDead or Alive。
いやむしろ返答によってはDeath or Die。

この長い人生の中でも極限の二択。こいつはなかなかに厳しいフラグだぜ。


だけど、この胸の高鳴りは…なに?
今までこんな風に人を見たことなんて…なかった


僕の前では誰もがいつも畏(かしこ)まって、必ず一歩退いていた。
彼女は…何て堂々としているの。
僕に臆することもなく、僕の命を盗ろうとしている。

だと言うのに、そんな凶行をしていると感じさせない…

ああ、何てかわいらしい微笑みなんだ。
この人になら、一生をささげても構わない…」


……と。


王子様の背中に出刃包丁を突きつけ、変なにやけ面を晒していた魔女をとは対照的に、王子様の顔は血の気が引いて言葉が出ない様子でした。



そこへ緊急事態にやっとこさ気づいた、平和ボケした国の衛兵達が王子様のお部屋に駆けつけました。
大の大人が、まだまだ子供にしか見えない女の子相手に鎧を着込んで、出刃包丁なんかよりもはるかに大きくて鋭い、人を殺すための道具を突きつけます。

殺されそうになった女の子が否応なしに人質を取った構図でした。…こうなった経緯(いきさつ)を知らなければ。


にやけ面の魔女は自分の周囲に全然気付いていません。大ピンチです。
突然衛兵達が吹き飛びました。皆が驚きます。

そこには人よりも大きな姿をした豹のような生き物が居たのです。


「…主人に何を向けている…? 下がれ、下郎が」

何とそれは人の言葉を発したのです。

投稿者 れいちぇる[3]
投稿日時 2007年11月25日(Sun) 01時02分37秒
すみません、れいちぇるです。なぜか創作意欲がガンガンに湧いてきました。僭越ながらもう一話上げさせてください。


【第3話】
「下がれ、下郎が」

 人の言葉を発したそれの眼光は鋭く、衛兵は全員ちびりそうになりました。
 それもそのはず、彼らは衛兵ですが戦争や騒乱を経験したことはありませんし、お城は威厳漂う姿ですからテロを起こそうなんて大それたことを考えるような輩(やから)が現れることも一切無かったのです。

 にやけ面の魔女は歩き出しました。まだ周囲の状況に気付いていません。王子様の背中を出刃包丁で突っつきながら歩いていきます。

「…ご主人、いい加減にこっちの世界に戻ってきてくださいにゃ」

恐ろしい魔獣の姿をしているのに語尾がかわいいそれは、尻尾で魔女の頭をなでなでしました。全然気付きません。

「ああ、どうしてボクはこんなダメダメ魔女の使い魔になってしまったのかにゃ」

決して口にしません。したらネコ鍋にされてしまうからです。

今話題の、ネコたちが鍋をベッド代わりにしているような可愛い姿ではなく、ちゃんとした鍋料理として。作られる調理場を表現できません。禁止事項に触れちゃいます。


へらへらしたまま魔女は青い顔をした王子様を連れて部屋から出て行きました。兵隊達への警戒は変身したピエトロが怠りません。誰も近づけませんでした。




魔女の野望へ一歩ずつ前進中です。


その一歩は人間にとって小さな一歩でした。
しかし彼女にとって人生を左右する、大きな一歩でもありました。




「はは、アンタかい?うちの王子をさらって行くなんてバカやらかしてんのは」

誰もが近づかない、いえ近づけない王子と魔女と魔物のパーティの前に立ちはだかるものが現れました。


「あ、アルファーネ!!」

王子様の声を聞いて、魔女はようやくコッチの世界に戻ってきました。
そして俄かに不機嫌そうな顔をしました。

アルファーネと呼ばれた人物を見たからです。


その人物は長いストレートヘヤーをして、見る人の心を惹くようなすらっとした美人。
それもないすばでぃーでした。

自分にはないその特徴を一瞬で見抜いた彼女は、改めて王子様を見ます。
王子様のこれほどにない開放感と期待に満ちた顔を見て、王子様の笑顔を受ける女の人に向けて顔を怒りにゆがめます。

とてもとても怖くて、それを見たピエトロは巨大な豹からかわいい子猫に戻ってしまいました。



投稿者 アグァ・イスラ[4]
投稿日時 2007年11月25日(Sun) 10時02分57秒

 れいちぇるさま、いらっしゃいませ☆
 いやぁ、一日でここまで展開が進んでいくとは思いませんでした。
 リレー小説、予想外に面白いですね★
 予測のできないストーリーにわくわくしてます。
 ということで、第4話投下です。
 あ、それと続きの話が重なってしまった場合は、先に投稿した方の話が
 優先されますので、先に投稿した方の話の続きを書いてください。
 よろしくデス。

【第4話】

 突如、現れた美女に、魔女の少女の怒りは、頂点に達します。
 アルフィーネ?
 王子さまの視線を受け止める女は私一人でいいわ、と魔女は思いました。
 ピエトロにも、そう魔女が考えていると直ぐに分かりました。
 ――うわ。ご主人、絶対、●ッちゃおう(自主規制)としているよ。
 美女は言います。
「王子さまは、この私が守――ぐふッ(切)!」
 しかし、美女は全ての言葉を言いきれませんでした。
 美女のお腹からぼたぼたと、フレッシュな血が地面へと流れます。
 魔女は言います。
「これぞ、恋というものなのね。恋敵と戦うのも青春だわッ!」
「……ご主人、戦うの定義が全く違うよ。分かってる?」
「あら、ピエトロ。戦うというのは、何時だって血生臭いものなのよ」
 魔女がそう言うと、美女は力尽きて、ぱたりと倒れました。
 使い魔のピエトロが青ざめます。
 王子さまは、真っ青になって、がたがたと震えてながら呟きました。
「あ、アルフィーネ…」
 絶望の呟きです。
 魔女は、先程の王子さまのアルフィーネの期待混じりの響きとは、全く違ったこの響きに満足しました。

 王子と魔女と使い魔のパーティを止めるものはおりません。
 王子さまは、魔女を受け入れるスペースはありません。
 もう全面的に拒否の構えです。何故、自分に刃物を向けているかも分かりません。新手の、テロかと思っています。他国の暗殺者かと思っています。 この犯人を何とか捕まえなくては、と王子さまは心に誓いました。

 さぁ、魔女の恋はどうなる?


投稿者 アグァ・イスラ[5]
投稿日時 2007年11月25日(Sun) 10時19分13秒
 
 ――あ、失礼。
 美女の名前は、アルファーネでしたか。
 間違えました。すみません。ごめんなさい。
 まぁ、でも、死んじゃったからもういいかとも思ったのですが。あ、でも復活してきりしたら困りますね。美女の名前は、アルファーネさんです。
 訂正→アルファーネさんです。
 ごめんなさい。
 何でもありな、リレー小説なので、皆さま参加してくださいね。
 では、話の途中にすみませんでした。

投稿者 しぃ[6]
投稿日時 2007年11月26日(Mon) 02時08分49秒
どうもこんにちは♪しぃと申します。
本当悲しいです。でも管理人さんに応援することくらいしかできないのが事実ってことです。
いくつか今回のことに関してのスレッドに意見を書かせていただいたり、自分自身もスレッドをたてたりしていましたが、なんだかどんどん深みにはまりだしてしまって頭がフラフラしてきてしまいました。(それもこれも自業自得なんですけどね、全部。)
ですので、ちょっとおじゃまさせて頂きます。(礼)


【弟5話】

「……ね、ねぇ、君はどうして……ぼ、僕を連れ去ったんだい?」

未だに目の前に倒れているアルファーネを見て恐ろしい笑いを浮かべている魔女に、王子はやっと勇気を振り絞って、今まで一番気になっていたことを尋ねました。

「あら、そうでしたわね。私ったら、まだ何もあなたに教えてませんでしたわね!」

愛する王子に話しかけられた魔女は、倒れているアルファーネに向けていた表情を0.1秒程でかえ、瞬時にバラ色に染まった顔を王子に向けました。

「本当に見ててイラつくひ……」
「何か言ったかしらピエトロ」
「……いえ何も」

くるくると変わる魔女の表情を見た王子は、魔女に言われる前に、ハッと気付きました。

(急に、こんなに真っ赤になって……なんなんだ……?
 ま、まさかこの子……もしかして……自分に……)

途端に、青ざめていた顔が真っ白に変わりました。
この上ない恐怖をまた感じたのです。

(自分に……何か恨みを持っているのかもしれない……)


……かわいそうに、普段全く不自由のない生活をしていた王子は、緊急事態に勘が働かないという衛兵以上の平和ボケでした。
彼は、彼女の赤面を自分に対する激しい怒りだと察知したのでした。

しかし魔女は、そんな王子の考えを知る由も無く。
ピエトロに睨みをきかした後、再び王子にバラ色の顔を向けます。

「私はあなたを……とってもとっても……」
「ま、待ってくれ!! なんだか良く分からないが、本当に悪かった!!」

王子は、突然頭を下げました。謝ればなんとかなると思ったのです。
そんな王子を前に、魔女は全く意味が分かりません。
私は、王子が様が好きだから、私のものにしたいだけなんだけどなぁ……。

「ほらね、ご主人様。やっぱりこんなやり方、よくなかったんだよ。
 今は従わせるだけ、どうにかなるだろうけど、いざ自分のものにしたとしても、なんかやっかいなことになりそうだよ」
「あら、ピエトロ。言ったでしょ。恋は恋。私のものになれば、もう私たちはHappy Endよ」
「……王子は違う意味でEndになりそうなんだけど」
「何よそれ。まぁいいわ。私の家に連れて行けばオッケーなのよ」

魔女はピエトロの言っていることを全く分かっていないようです。

「さぁ王子様、速く私の家に向かいましょう」
「そ、そんな……!! ぼ、僕が何をしたって……」

王子は謝っても全く効き目の無かったことにショックを受けながら、自分は魔女の家でいったいどんな復習を受けるのだろうとただおびえていました。

「何をしているのピエトロ? あなたもさっさと動くのよ」
「……本当なんなんだこのひ……」
「アルファーネとってもかわいそうね(棒読み)」
「行きます。すぐに行きます」

そして、奇妙な2人と1匹は、お城の門をついにくぐっていきました。



……ピッ。

「い……今に見てなさい……あの雌豚……王子様は……私がとりかえして見せるわ……!!」

だんだんうつろになってゆく目の中、遠くなって行く女の子の後ろ姿をしっかりとらえ、王室に繋がる無線を右手に、アルファーネは最後の力を振り絞りました。

「こ……こちらアルファーネ……。お、王様……何者かが、あなたの息子を拉致し……城下へ連れ去って行った模様です……!!」

投稿者 桜雪 木乃[7]
投稿日時 2007年11月26日(Mon) 16時52分35秒
はじめまして。投稿屋のサーバーダウンはほんとうに残念です…。はやく復旧するといいなと思いつつ、なんだか素敵なスレを発見してしまったので思い余って書き込んでみようと思います。

【第6話】

ところ変わって魔女一行。

剣呑な雰囲気につつまれつつあるお城のことはいざしらず、いまだにガクガクブルブルと震えている王子と、相も変わらず頭の中がお花畑状態の魔女と、魔女に逆らえないピエトロは城からすこし離れた場所を歩いていました。

「ねえ王子様、王子様はなんて名前なの?」
「ぼ、ぼく、の…?」

きらきらと瞳を輝かして、魔女は問います。一見とてもかわいらしいですが手には常時刃物、ピエトロはそれから怯えるように視線をずらして城の方向をみていました。
王子はこれは答えるしかない、と震える口をせいいっぱいうごかそうとしますがそのぎらぎらとひかる刃物が怖くてうまくうごかせません。それでも頑張っていいました。

「僕のなま…「そう、わかったわ!」

ぱん、と思いついたように手をうって、魔女は勝手に話をすすめていきます。どうやらこの魔女特有の恋回路で王子の名前の結論がでたようです。本人の意志などこの際無視らしいです。

「クリストファー・ルパート・ウィングミア・ウラジミール・カールアレクサンダー・フランソワレジアルド・ ランスロットハーマン・グレゴリーね!素敵!私が恋した王子様ぴったりのお名前!そうねえ、でも長いからどうよぼうかしら…?」

きらきらと目を輝かしたあと、魔女がそう考え込み始めると、急にいままで黙っていたピエトロが低い唸り声を上げました。

「ご主人、なにかがいる…!」

投稿者 アグァ・イスラ[8]
投稿日時 2007年11月26日(Mon) 19時38分43秒
 
 しぃさま、桜雪 木乃さま、ご参加いらっしゃいませ〜☆
 リレー小説は、自分にはない発想が多々あって面白いです。
 また、散りばめられたギャグに受けます(笑)「アルファーネとってもかわいそうね(棒読み)」がツボです(笑) 王子の名前には誰かが触れるだろうとは思っていましたが、そうきたかって感じです(驚)
 王子の名前は未だに不明。
 
 【第7話】

 ピエトロの何かがいるという言葉に魔女は、ある行動に出ました。
 服の内側から出したものをピエトロの唸った方向に向けて投げました。
「着火ッ!」
 すると、魔女が投げたものが大爆発しました。そう、爆弾です。
 茂みから、ぼとりと何かが出てきます。
「あら、敵かと思ったら、ただの動物だったわ」
「……ご主人、だから、せめて魔法を使おうよッ。魔女なんだからさ」
「あら、ピエトロ。せめて、ただの人間や動物にもチャンスを与えなきゃ」
 魔女は、チャンスを与えますが、けして反撃は許しません。
「チャンスを与えても、これは意味ないよ、ご主人」
「あら、ピエトロ、ただの動物と思ったら、子猫だったわ。可哀相」
「ギャああああああああああああああああッ! ボクの同胞があああッ!」
 魔女はけして、反撃を許しませんでした。
 王子さまはただただ、震えています。
 
 結局、王子さまは魔女の家へと連れていかれてしまいました。
 王子さまは思います。
 ――せめて、この犯人の名前だけでも僕が調べておこう。
「き、君の名前は何と言うのだい?」
「あら、王子さま、私に名前はありませんの。王子さまが付けて下さいな」
 魔女の手にはまだ、凶悪な刃物が握られています。
「……み、ミザリーとか」
 ピエトロが仰天しました。
 ※ミザリー……小説家の男の人を拉致監禁して最後は、殺される怖い女の人。ちなみに、斧で足をぶった切る女。
 王子は空気が読めない。KYです。
 ピエトロは思いました。
 ――死にたいのか、この王子ッ。
「ご、ご主人、ミザリーは止めたほうがいいよ(後が怖そうだから)」
「あらそう」
 王子は別の名前を考えます。
「ジェイソン」
 ※ジェイソン……13日の金曜になるとチェーンソーを振り回す殺人鬼。
「それ男の名前じゃなくて?」
「じゃ、じゃぁ、フレディ」
「何だか、フレンドリーな名前ね、私には合わないわ」
 ※……右手の鉄の爪で相手を引き裂く殺人鬼。
 ちなみに全然、フレンドリーではない。

「なら、アリス」
「アリスッ! 素敵な名前ね。気に入ったわ。どう? ピエトロ」

 ※アリス……確か、ゾンビをぼこぼこに殴ったりできる強い女の人。
 ミザリーよりかはかなり可愛い。
 ちなみに魔法は使わない。
「まぁ、……それなら」
 目をそらしながら、ピエトロは妥協しました。
「アリス、きっと私みたいにお淑やかで可愛い女の子に付けられる名前よ」
「………」
 ピエトロは黙りました。

 ***

 その頃、所変わって、お城。
 アルファーネからの伝言(遺言)を聞いた王さまは、こんな事を言っていました。
「今日、何者かに王子がさらわれたッ! 王子を保護したものに報奨金と王子と結婚する権利を与えるッ! 一刻も早く王子を連れ戻すのだッ」
 
 国じゅうの美女たちが王子を探すことになった。
 

投稿者 れいちぇる[9]
投稿日時 2007年12月06日(Thu) 22時43分04秒
こんばんわ、れいちぇるです。
しばら〜く覗っていたのですけど、次が投下されないみたいですね(汗)
このまま風化してしまうのかな。決着がつかないまま下に押し流されるのはかわいそうですね・・・

ということで僭越ながら。

 【第8話】


 まるでやわらかく包み込んでそのまま飼い殺しにされてしまうかのような環境で育った王子様がよもやKYであろうと思いもしない魔女は、誰が見ても彼女の頭の上にたくさんの「♪」マークが浮いているとわかるほど上機嫌になっていました。

「アリス♪ アリス♪ 私はアリス♪」

ビミョーなメロディーに乗せて、初めて認めた自分の名前を繰り返していました。

名前が無くて魔女が困ったことはありませんでした。なぜなら孤児(みなしご)の彼女を拾ったお師匠との二人暮らしだったからです。

「小娘」
「お前」

名前を聞くことも、つけることもせずそう呼ぶお師匠をごく普通と思っていたので、名前で呼ばれなくてもへーとも思わなかったのです。というか、名前という言葉も知りませんでした。

しかし、ある時変わりました。





「おい、小娘。子猫を拾ってきたぞ。これからはこいつを使い魔として鍛えるんだ」


そう言ってお師匠は愛媛みかんのダンボール箱に無造作に入れられてモゾモゾしている黒い生き物を彼女に押し付けました。

 押し付けられたは良いものの、世話の仕方なんて知りません。適当に牛乳をスプーンですくって飲ませてみたり、とりあえず冷たくなってきたので抱っこして暖めてみたりしてみましたが、甲斐なくどんどん弱っていきました。

「お師匠。子猫があんまり動きません」
「それならこれを飲ませたまえ」

なにやらアヤシげな瓶を手渡しました。並々と入った蛍光紫の液体。

どうみても、毒です。
その口に流し始めました。途端に子猫はピクピクし始め、動かなくなりました。


止めを刺してしまいました。

「よし、上出来だ」

殺してしまって誉められました。なんてことでしょう。ここから彼女は他人に容赦をしない人生を歩むことに抵抗を感じなくなってしまったのです。
全部このクソオヤジのせいでした。

 にやにやしながらお師匠は子猫の亡骸を取り上げ、魔法陣の書かれた床の上に小さな亡骸を置きました。ブツブツ呪文を唱えると魔法陣からボワボワと煙が立ち始め、その煙が子猫の鼻や口に吸い込まれていきました。

煙が全部なくなると、子猫が再び動き始めました。
女の子もびっくりです。びっくりして子猫を再び抱き上げました。

「おや? あなたが助けてくれたんですね?」

もっとびっくりです。

「よし、成功だ。これでただの子猫は魔物としてよみがえったぞ」

全部お師匠の作戦通りでした。どうせ巧く世話の出来ない女の子の手で瀕死にまで追い込んだあと、魔法のクスリと儀式で使い魔に作り変えたのでした。なんという策士。

「子猫よ、貴様の名前はピエトロだ」
「名前? 名前とは何ですかお師匠」
「そんなことも知らんのか」

知るわけありません。女の子が唯一知っている他人はお師匠しか居ないのですから。

「名前とはそれぞれを区別するために特別につける言葉のことだ」
「それじゃ、私の名前はなんですか」
「しらん。何でもええやろ」

カチンと来ました。
ネコには名前をソッコーで付けたくせに、女の子には名を尋ねることも、つけようとする素振りも見せたことはありません。

その晩ピエトロがトイレに起きた時、お師匠は1階の床で冷たくなっていました。背中には深々と出刃包丁が突き刺さっていました。



 何かの事件性を感じ取ったピエトロは、子猫とは思えぬ機敏な動きで壁を背にして後足で立ち上がりました。ひげをピクピクさせて周囲に気を配ります。その時、気付きました。

窓辺に誰か居ます。


窓から月を眺めているのは、自分を抱き上げてくれた女の子でした。
頬杖を着くその手は紅く染まっています。

その姿はとても恐ろしかったのですが、ピエトロは魅入ってしまいました。



「我が主よ… 我は今ここに誓います。そなたを主人と呼び、付き従うことを」




名も無き女の子と、その使い魔の出会いは、とても血生臭いものでした。


投稿者 アグァ・イスラ[10]
投稿日時 2007年12月15日(Sat) 17時43分16秒

 お久しぶりです、大分、日にちが経ってしまいました。すみません(汗ッ) サイトの復活は年内には無理なのですかね――(泣)
 と、いらっしゃいませ、れいちぇるさま。【第8話】の投下お疲れさまです。……そ、そんな過去があったとはッ。ピエトロは一度死んでいたんですね(笑) 

 【第9話】

 王子さまと魔女は、魔女の家にピエトロと魔女と王子さまの三人でいます。王子さまは、初めての民家、初めての庶民風の家、初めての平民の家へのお泊りです。王子さまは戸惑っていました。
「そうか、民たちの家とは、こういう変わった匂いがするものなのだな」
 王子さま、また、変なことを言い出しました。
 それにピエトロが答えます。
「どうしたらそういう風に思えるのか知らないけど、普通の家ではこんな怪しい匂いはしないからね、王子さま。うちだけの、”特有”の匂いだから」
 魔女の家には毒々しい鍋があり、真っ黒で怪しい具がぐつぐつと煮えています。中身は何か、それはずっとここに住んでいた、ピエトロにさえも分かりません。
「あら、王子さま、それはきっと一年前から煮ている煮物ができる匂いよ。ちょうど、出来たみたい。食べます?」
 にっこりと魔女は笑って、オタマで一年前から似ている超熟成煮物を、平然と掻き混ぜました。
「ご主人、王子を一瞬で亡き者にしたくないなら食べさせない方がいいよ」
「そ、そうよね」
 少しは魔女にも常識があったようで、ピエトロも安心しました。ですが。
「さぁ、ピエトロ、あなたのご飯よ」
 一年前の超熟成煮物を出され、ピエトロは視線を逸らしました。
 慌てて、話題を変更します。
「ご、ご主人、せめて掃除をしようよ。王子さまのことが好きなんでしょ? 好きな男の前でいくらなんでもこれは、酷いよ。こんな泥棒が来たみたいな惨状は」
 見渡す限り、ゴミの山。足の踏み場もありません。
「それもそうね。あなたのキャットフードも一年前から消えたまま」
 絶対、賞味期限切れです。
 魔女は王子さまに快適な生活を送ってもらう為、掃除を始めました。
 もちろん、魔法は使いませんでした。
 魔女が悪戦苦闘する中、見かねてピエトロも手伝い始めます。王子も何やら貧乏民家に興味を持ったのか、一緒に手伝い始めました。
 黙々と三人は掃除をしました。
 一応は共同作業。魔女と王子はいい感じです。ピエトロは思いました。このまま王子が魔女を制御してくれれば自分の負担はかなり減って楽になるな、と。徐々に王子と魔女も普通に会話できるようになりました。
 そんな和やかな、まったり雰囲気のまま三人が掃除していた時。
 王子が、妙なものを見つけたようです。
「ん? これは…」
 ずるずると、洗濯物の山から王子は箱を取り出しました。
 なんと、キャットフードです。
「やった、キャットフードだ!」
 王子は自分の立場も忘れて、喜びました。ピエトロは慌てて、賞味期限を確かめようとしたら、王子が確かめてくれました。二人の間に妙な友情が生まれました。
「大丈夫だよ、ピエトロ。食べられるよ。ギリギリ賞味期限内だから」
 ほっと、ピエトロがした瞬間、――洗濯物の山の中から白いものを見つけました。
 王子とピエトロは、顔を見合わせました。二人で、そろそろとそれに近づいていきました。
 二人はとてもとても、嫌な予感がしました。
 何やら、それは骨のように見えます。
 ピエトロは決死の覚悟で、その骨を発掘しました。王子は青ざめています。
「――じ、人骨だ」
 王子とピエトロは震えだしました。
 王子が泣きそうになりながら、言いました。
「先程の、鍋の中身は…まさか」
 その王子の言葉にピエトロが首を振ります。
「いやいやいや、いくらご主人が残酷でも、そこまでじゃないよ。そんな震えなくても大丈夫さ。例えそうだとしても、ご主人は王子は食べない筈だから」
 と、そこで魔女が二人のほうへとやってきました。
 すかさず、ピエトロが言いました。
「……ご、ご主人。何か、掃除してたらいけないものを見つけちゃったんだけど? これは、何処の仏さんな訳? 鍋とかに入れて、食べてないよね? あの鍋、真っ黒で何処か赤かったけど、この人じゃないよね? ――そもそも、この人、誰さッ!」

「あらやだ、ピエトロ。これ、お師匠さまよ? それにピエトロ、あなたずっと一年前からキャットフードの代わりに食べてたの、知らなかったの? お師匠さまをおいしいおいしいって食べてたじゃないの」

「………っ」

 ピエトロは、あまりの惨状に、一人で泣きながら、外に埋葬しました。
 ピエトロは二度と、魔女の出すものは口にしないと誓いました。
 王子はピエトロを同情しました。

投稿者 クロクロシロ[11]
投稿日時 2007年12月19日(Wed) 01時06分07秒
『第10話』

自分が誰かと初めて認識したときから、ぼくは何でもそつなくこなしていた。
そう、文字通り何でもだ。
見て、ぼくが理解したものはすべてぼくの力になる。

例えば、教えられた知識の吸収は教育係が目を丸くするほどに早かった。
ぼくはその時初めて、自分以外の人間が一度見たものすら覚えられない愚図だと知ることが出来た。

自分を守るために叩き込まれた護身術も、一度とは言わないまでも、実際に動いてみることで吸収するのは容易だった。

ぼくは完璧だ。
生まれながらにして神に愛されているのだ。

だから、これから完全に大人になるまでに、誰よりも賢く、誰よりも強く、そして誰よりも完璧になるのは容易。
だって王子だもん。
王子で完璧だし?

でもさ、誰よりも偉くだけは、なれない。
誰よりも高い位置に座れない。

お父様が居るからだ。

お父様はさ、誰よりも間抜けで、誰よりも弱く、誰よりも完璧じゃないけどさ。
誰よりも、偉いんだよね。

今現在の段階で、ぼくより賢くぼくより強くぼくより完璧な人達は、全部お父様の物だ、お父様の部下だ。

邪魔だ。
邪魔だ。
物凄く邪魔だ。
のけぞるほど邪魔だ。
あの玉座はぼくにこそ相応しい。

だからさ、考えてた。
ずっと考えてたんだ。
お父様を玉座から引きずり落とす方法を。

その為にはさ、ぼくにはまだ足りないんだよね。
知識が、力が、すべてがさっ。

そんな時、聞いたんだ。
城の召使いが話していた森に住む魔法使いと魔女の噂をさ。
そう。
魔法使いと魔女。
この駒だけは、お父様も持ってない。
ということは、ぼくが魔法を使うことが出来るようになれば、玉座を奪うという目的にチェックがかかるよね。
だって、今は互角の力だけどさ、その内ぼくは完璧になってその上魔法まで使えるんだもん。
そうなったらチェックメイト。
お父様の終わりだ。

あぁ、なんて素敵なんだろう。
あの赤色で金色でゴチャゴチャとうざったらしいけれど、それでもどこか荘厳で、自らの権力を確信できるあの椅子に座ることが出来るなんてさっ。

それで、王子なりに行動してみた訳さ。
手っ取り早く狩りの途中で本隊から離れて森を探索してみたんだ。
でも、これはちょっと失敗だったわけ。
なんでかって?
ぼくは木こりや狩人を一度も見たことが無かったからね。
森に入って迷わず目的地に着いたり迷わず森から抜けたりとか。
そう言う技能はまだ持ってなかったんだよ。

正直超絶絶体絶命みたいな?
あの時は肝が冷えたね。

取り乱すようなことはしなかったけどさ。
何度も何度も同じ場所を回ってる感覚に陥るわけ。
ああいうの、なんて言うんだろうね?
数百年後とかに名前が付きそうなものだけど、今の時代じゃ無理だろうね。

たださ、森で迷ってしまうようなぼくだけどさ。
それでも、神に愛されてる完璧王子だった訳だ。

ふと、気がついたときにさ急にどちらに進めばいいのか判り始めた。
それまではこっちか?って疑問が。
こっちだなって確信しか沸かない。

どうこれ。
やっぱりぼくは特別だよね?

それで、まぁ召使いたちと合流したんだけどさ。
あいつらのなっさけねぇ面ったら無かったね。
いや、まぁそんなことはどうでもいいんだよ。

ここからがぼくの語りたい所の本筋。
現れたんだ、現れたんだよね!!

魔女がさっ。

出会いは最悪。
いや、それからのことを考えても最低だね。
たださ、そいつは間違うことなく魔女だった。

投稿者 クロクロシロ[12]
投稿日時 2007年12月19日(Wed) 01時14分02秒
文字数制限に引っかかって弄ってたら、挨拶が消えてしまったクロクロシロです。
初めての方ははじめまして。
記憶の片隅にでも覚えてくださった方はお久しぶりです。
私も参戦させていただきますね。

王子視点の話が面白そうかなーって思ったので作ってみました。
ただ、本編とは外れてしまうので。
私一人で責任もって完結させます。
なので連投っ
わがまま本当に申し訳ありません。

『第11話』

気づいたらその子は目の前に居た。
うん、その子。
その人っていうにはちょっと幼すぎる印象だった。
油断してたんだ。
だってまさか、そんな女の子が出刃包丁片手にさ

「……王子さま私の家に来てください。」

だよ?

何の冗談だと。
しかも、その子ニコニコ笑ってるけど包丁の切っ先、刺さってる刺さってる刺さってるからっ!
お願いじゃねぇっ!!
明らかに脅迫だった。
一国の王子としてそんな要求、自分の命がかかっていたって従うもんかっ。

「喜んで」

あっさり従っちゃったっ!
いや、聞いてよ。
だってあろうことか、猫が喋ったんだよ?
魔法の臭いを感じちゃうよね。
しかもその猫、その女の子のことを魔女って言うじゃない?
こりゃ、ついていくしかないねって思った訳。

え?

猫が喋りだす前にもう魔女の要求に従ってるって?
あ、あー…そこはきっと翻訳家さんが間違ったんだよっ!!
そ、そう。そうそうそうそう。
だってぼくは完璧だぜ?
そんな情けないことするもんか。

とにかくさ、その子、出刃包丁突きつけてさ、恍惚としてんの。
ぼくの顔見てどう?みたいな表情するし、意味わかんないって。
それともあれか、魔法使うための何かの儀式?
あ、なるほど、そういう事かっ

つーか、ぼくの近衛兵の情けないこと情けないこと。
たかが黒豹一匹にびびってぼくを助け出せないなんて…
い、いや?違うぜ?
た、助けられてちゃ叶わなかったけどさ。
部下の錬度の低さは上司として気になるって言う奴?
べべべべべ、べつに助けて欲しかった訳じゃないよ?

とまあ、こんな具合で拉致ら…同行してみたんだけどさ。
途中で知り合いが着てくれたんだよね。

そいつの名前、アルファーネ。
ぼくを取り巻く愚図どもの中でも、少しだけマシな奴。
ぼくの生涯の相方になる奴なんだけどさ。
少しだけ、ウザイんだよね。
べったりくっ付きたがるし。
何よりも許せないのがさ、ぼくより強いんだ。
師範より強いぼくが勝てない姫様って、男をなめんな!!
いや、それもさ?
剣持ったぼくを一度の手合わせで百回くらい殺せるんだよ?
それも、素手でっ!
何その人類規格外。
外見美人の中身ゴリラ女!!

とまぁ、真に残念ながら?
このゴリラ、もといアルファーネ相手じゃあ黒豹君も敵じゃないと。
熊とかドラゴンとか平気で殴り殺すしね。
魔法を学びたかったけれど、出刃包丁からは何も学べないってことで、諦めますよ。
だーからー、助けてアルファーネッ!!
今だからこそ、言えるよ!!
君は素敵だ、ぼくは君となら結婚してもいいっ!!

そのとき、ぼくはきっと初めて魔法を見たね。

投稿者 クロクロシロ[13]
投稿日時 2007年12月19日(Wed) 01時19分31秒
これで私の分は最後です。
このお話、とても面白かったのでノリノリで書かせていただきました。
王子様が内面では黒かったら面白いなーとか、かなり暴走させていただきました。
苦情は受け付けませんっ。
面白く書かせてもらったので、この気分のまま逃げますー
では、作家の皆さん引き続き頑張ってくださいー

『第12話』

いや、早すぎて何がなんだか判んなかったんだけどさ…。
アルファーネ死んじゃった。
ウザイ奴消えてラッキーッきゃっほーっ!!

じゃねぇ!!
なんだそれ、おい魔女!!
お前何考えてんだよ!!
魔女だろ!?
お前、魔女って後方支援的な存在じゃねえのかよ!!
ばりばり全快で肉弾戦じゃねえか!!

魔法覚えたら隙見て逃げようとか思ってた俺、あ さ は か さ ん ☆

勝てねええええ!!
黒豹居なくても勝てねえええ!!

なんで、なんでなんでっ!!ぼくをさらうわけ?!
そんだけ強いなら、警備が厳重でも余裕だろ?
お父様にしとけよ!!
一番偉いのパパだよっ!!

もう混乱混乱大混乱。
別に恥ずかしくないね、だってぼく意外ならみんな気絶してるような局面だし。
ぼくだからこそ起きていられる訳よ。

余裕があったからさ、幸せそうな魔女を見て、ぼくは勇気のある行動をしたんだよ。
誘拐犯に目的聞いたりとか、よくあるじゃん?
あれあれ。
あれをしてみたんだけどさ。

答えてもらうまでも無かったよ。
同時に聞くんじゃ無かったって心から後悔したね。
あれだけ濃い憎しみの奔流は初めてだった。

ごめんなさい、ぼく調子に乗ってました。
自分こそは完璧とか思ってましたっ!!
だから許してマジで!!
神に愛されてたとか、自惚れてましたっ!!
凡人、いえ、悪魔に愛されてたんです!!
悪魔にだまされて調子に乗ってたんです!!
だから許して!!

とまぁ、ぼくが語れるのはここまで。
なんでかって?
だってこれ以降、本当のことを言うとぼくまでアルファーネの二の舞にされちゃうからさ。

ピエトロとはずいぶん仲良くなった。
すっげぇいい奴。
どこか弟みたいで可愛いんだっ!
それに、どこか、こう待遇がぼくと同じというか。
同郷哀れむみたいな…。
ピエトロォォォォ!!

え、アリス?
アリスとはねー…………

あ、んなことよりさ、忘れてた。
一つだけ遠慮なく言いたいんだ。

アリス。

お前、少しくらい魔法使え!!!

投稿者 桜雪 木乃[14]
投稿日時 2007年12月19日(Wed) 20時04分03秒
王子様視点のお話がとてつもなく面白かったのですが……www




第十三話


アリスたちが人骨について一方的に盛り上がっているころ、お城では騒動が起きていました。国の王子の誘拐にあわせて、ある御方が帰ってきたからです。

「王子が誘拐されたというのは、真の話でしょうか」

その御方は非常に小柄で、仕えている兵士の背の半分ほどしかありません。それでも兵士はとても緊張した面持ちで、「真であります、聖女様」と答えました。――そうこの御方、この国の魔力の象徴でもある聖女様なのです。
聖女のその見た目は非常に美しく、見るもの誰もが見惚れる存在でもあります。まだあどけない少女らしさを残した顔つき、頭脳も明晰で魔法に長けた、ある意味魔女とは対極的に崇められる存在としてはぴったりな容姿と素質なのです。白い服は天使を想像させます。

王子様も一度この方にご指導を願ったのですが、生憎この御方は王子様みたいな若造には興味がなく、一蹴したというお話があるくらいです。


今回も、各国巡礼という表向きのものはさておいて、各国の聖女好みのおじ様探しをしていたくらい、彼女は中年の渋いおっさんが好みです。純潔とかそういうのは関係ありません。ちなみに王は既に陥落済です。

「誘拐したと思われるのは森の魔女とその使い魔だと思われます。現在、魔女の討伐と奪回のための隊を編成中ですが、なにぶん魔法には不慣れなものが多く…」
「そのため報奨金をだしてまで、ですか…。なるほど、ちょっと私はこれから王に掛け合ってきますね」
「掛け合う、ですか…?」
「はい。報奨金と結婚の替わりに私好みのおじさまを3ダースほどで王子を奪回すると」

聖女はあんまりにも美しく爽やかな笑顔でそう答えました。きらきらと金糸の髪が光に照らされて、そのすけるような淡青色の瞳は希望で満ちてます。兵士はその顔に見惚れて、その言葉を理解するまでは随分と時間を有しました。
そして、気付いたころには既に聖女は御付もなしに玉座へと乗り込んでいました。

「せ、聖女様……!?」





投稿者 アグァ・イスラ[15]
投稿日時 2007年12月24日(Mon) 11時00分29秒

 おはようございます。
 いらっしゃいませ、クロクロシロさま、桜雪さま★
 王子視点、楽しかったですー(笑) 王子がそんな腹黒だったとは(驚)
 意外にアリスとお似合いかもしれないですね。ハッピーエンドの光明が見えてきた気がします。結末は、王子と魔女とで世界征服もアリですね(笑)
 聖女さま、……おじん好き(泣)

 【第14話】

 聖女の発言に慌てて、王座へと行こうと召使たちは後を追いかけましたが、聖女はあっという間に王座から出てきて、何事もなかったようににこりと笑いました。
「王様は、了承してくださいましたわ」
「え、こんなに早くッ!? ”あの”条件を?」
 おじさま3ダーズも何処から、連れてくるのだと召使は思いました。
 おじさまということは、ほとんどが妻帯者。妻と子どもを引き裂くのかと思います。
 しかし、聖女は爽やかな笑顔で答えました。
「――はい、これも日ごろのわたくしの行いがいいからです」
 中で一体何があったのか、召使たちは恐くて訊けませんでした。
 既に、王様は、聖女の日ごろの行いにより毒されています。抵抗できません。
 とにかく聖女さまは、この国一の魔力の象徴。
 王子を奪還してくれるというのなら、何でも構いません。
 いかな森の魔女と使い魔と言えど、聖女さまには敵わないでしょう。
「聖女さまが王子さまを助けてくれるのなら、我々も安心です。して、具体的にはどうやって、王子さまを奪還するのですか? 魔女は悪の魔法使いです。聖女さまがお強くても、何か卑怯なことをしてくるかもしれません」
 召使たちの一番の心配は、王子さまを人質にされたり、何かの拍子に王子さまが殺されてしまうことです。
 ですが、流石、聖女さま。
 何の不安もないように、にこやかな笑顔のまま、こう言いました。
「大丈夫です。森の魔女は、悪の魔法使いだからこそ、このわたくしには抵抗できません。なぜならば、わたくしの聖なる魔法の前には、悪の魔法は通用しないからです」
「な、なるほどッ」
 魔王を倒すのは、必ず勇者の光の剣です。
 魔王は、聖なる光の剣には抵抗できません。
 召使たちは納得し、城は暫し、聖女のお陰でまったり雰囲気に包まれました。

 * * *

 同時刻。
 その頃、魔女の家には一人の王子奪還を狙う刺客が来ていました。
 掃除も終わって、ひと段落した頃のことです。突然、一人の女の人が魔女の家に入ってきて、こう言いました。
「王子さまを返しなさいッ!」
 刺客は美女。王子さまを奪還し、かつ、結婚を狙う女たちの一人です。
 その美女は、ナイフを片手に、魔女へと向かっていきましたが、掃除をしていたのでアリスは丸腰です。ピエトロは慌てました。
「ご、ご主人!」
 間に合いません。
 魔女も死ぬか、と思われた時、魔女はやっと魔法を使いました。
 召喚の魔法です。
 家の奥から黒い何かを召喚して、アリスは武装しました。
 その黒い何かは、そうマシンガンでした。それを美女目がけてぶっ放しました。
 ぱたりと、美女が倒れ、どくどくとフレッシュな血の水溜りを作ります。
 それを観て、王子がぽつりと呟きました。
「あーあ、せっかく掃除したのに…」
「全くよ、これならマシンガンじゃなくて、爆弾を使えば良かったわ」
「ご、ご主人。ボクがこの人、ちゃんと埋葬するから、”これ”、ご飯ねとかは勘弁してね」
 王子はだいぶ、この状況になれました。
 魔女はマシンガンの手入れはかかしません。
 ピエトロはご飯にトラウマを持ちました。

 
 ………聖女よ、魔女は魔法を使わないぞッ!

投稿者 アグァ・イスラ[16]
投稿日時 2008年01月01日(Tue) 00時50分45秒

 明けましておめでとうございます。
 小説&漫画投稿屋、復活しましたね。良かったです(笑)
 でも、リレー小説は終わっていません。終わりが見えません。
 ので、書きたい方は引き続き書いていってくださると助かります。
 もしくは誰も書かなくなって、スレに埋もれるのもアリですね。
 それと、新ルールと言いますか、もし書いてくださる方がいるのなら、
 物語を書き、その最後に御自分の作品へのリンクなんかをはって、宣伝してみるのもいいかもしれないと思います。
 ので、今後、リレーに参加なさる方は、書いた後、自分の作品を宣伝してみてください。

 例→   ストーリー
      『内容』  
      『内容』


      自分の作品のリンク。

 みたいな。あ、そんなんやらねーぜ、って方はスルーな感じでお願いします。ではでは、乱文失礼しましたー。よいお年を。

投稿者 桜雪 木乃[17]
投稿日時 2008年01月03日(Thu) 13時00分35秒
明けましておめでとうございます。
投稿屋、復活なされて本当によかったですね☆


【第15話】




ピエトロがきちんと埋葬(二度目)をしている頃、アリスのもとには伝書鳩から一枚のお手紙が届きました。上質な封筒には、なぜか宛名の場所にお城の判子と筆で果たし状と勇ましく書いてあります。ちぐはぐしているにもほどがあります。

「あら、度胸のある人もいるみたいね」
アリスはにっこりと爽やかに笑むと、差出人を確認しました。そこにはぶっきらぼうに同じく筆で、聖女とだけ書いてありました。そしてそれをみたアリスは、なぜか憎々しげな表情を浮かべます。王子様は不安になりました。

「どうしたんだいご主人?」

泥だらけになりながらも埋葬を終えたピエトロが、その手紙を覗きます。隣には憎々しげな表情をいまだに浮かべたアリスがいました。

「ご主人、この人誰さ?」
「……あの女狐、まだ私のほうが強いってこと理解できていないのね?まったくあの年増好きが。ピエトロ、一番臭そうな便箋と封筒、いますぐ」

質問に答えないままアリスは皮肉っぽく笑いました。ピエトロはちょっと呆れて、果たし状に返事もなにもないと思いましたが、ピエトロは素早く頷き、整理したばかりの棚を起用に開けて便箋と封筒を丁寧にも一番下のを取り出しました。アリスはペンを取り出すと、便箋に文字を書き付けます。

「えーっと。死ね、と」
「ご主人、それ手紙とは言わないよ。まあこの果たし状もアレだけど」
「そうね。じゃあこれでいいっと。ピエトロ、とっとと出して来なさい」

そうアリスがピエトロに問答無用とばかりに手紙を渡すと、ピエトロは久しぶりに使い魔らしい仕事だななんて思いつつ窓から飛び出して行きました。そのときちょっと変だなと思いつつも、とりあえずはご主人の命令に従います。
そして家の中に残されたのはアリスと王子、二人きりです。アリスは普段の8割増しの笑顔をきらきらと輝かせながら王子に言いました。手元にはなぜか、あの真っ黒なマシンガンが一丁。

「王子さま、危ないのでちょっと下がっていたほうが身のためですわよ」




此処で自分の作品を宣伝させて頂こうかと…。投稿屋では名前を変えたので、『八束』と名乗っています。興味ない場合は華麗にスルーしてやってください。

題名 だれも壊れない
ストーリー
失踪癖のある主人公の話です。序盤のうちは普通に現代ですが、後々だんだんとカオス化したりします。明るい話、ではありません。どちらかというと暗いというか鬱な傾向になる予定。

http://works.bookstudio.com/author/10768/10011/contents.htm

投稿者 れいちぇる[18]
投稿日時 2008年01月08日(Tue) 13時46分45秒


あけましておめでとうございます、という挨拶は一体1月の何日まで使えたんでしたっけ。忘れちゃいました。なので寒中お見舞い申し上げます。れいちぇると申します。

投稿屋さんが復活してしばらく経ちました。大分向こうに活気が戻ってきているようですね。喜ばしい限りです。
それに伴いこちらは… となってしまうのが悔しいので投下して行こう。
本年もよろしくお願いいたします。

【第16話】


アリスに手紙を届けた伝書鳩は今は鳥かごの中に入っていました。
その鳥かごはもともとカナリアや文鳥のような飼い鳥のためのものではありませんでした。

 長いことお師匠と女の子と黒子猫しかすんでいなかったこの森の家は、魔法使いのお屋敷です。お屋敷と言っても、ほったて小屋みたいな見た目テキトーな作りですが。
 そんな魔法使いの邸宅にある空っぽの鳥かごと言えばおそらく何かの儀式用の鳥を入れておくためのものだったのでしょう。

 そのかごは窓のあたりにかけられ、そよそよとやさしく吹き込む風にやさしく揺られていました。飛んで疲れたハトも穏やかに止まり木にとまっていました。誰が用意したのでしょう。かごの中のエサ入れに見るからに毒々しい紫色をした小さなとうもろこしのような粒々のご飯が入れられていました。ハトも初めはいぶかしんでいましたが、お腹が空いていたのでちょこっとずつ口にしていました。


「ねえ、アリス」
「あら、なにかしら王子様」

ものすごく輝く笑顔をみせる魔女の頭の上には誰が見てもハートマークがういています。
銃を手に取っていた時のソルジャーの顔つきはどこにも感じさせません。プロです、戦争の。

「アリスはどこでそんな武器の使い方を訓練したんだい?」

だれもが一度は思ったことのある疑問を投げかけました。

「そうですわね… 話すと長くなるようで長くならないようで」

魔女が話し始めようとするやいなや、外で爆音がしました。



「さあ! 3ダースのオジサマたちの引換券! こちらに渡してもらいましょうか!! 素直に応じれば命は助けてあげること、考えても良いですよ!
気分によっては考えませんが」



 清廉で可憐な容姿からつむぎだされる言葉としてはサイテーの部類に入りそうな台詞が森の中に響きます。大きな木の高い枝の上には、片膝をつき魔女達のいる見た目ほったて小屋を見下ろす白いローブと金糸の髪をした青い目の美しい少女が居ました。

「来たわね、あの女」
「ま、まさか! あの白い悪魔が!」





ピエトロはおつかいに夢中でした。

小さなバッタがぴょんぴょん跳びはねるのを見ると思わず追いかけたくなります。
野道の脇に咲いていた花が風に揺れるとその小さな手でもっと揺らしたくてたまらなくなります。

 ご主人に渡された手紙は背負っているポーチのような小さなカバンの中に入っています。この分だとおつかいが終わるまでに何回か夜明けを見ることになりそうです。

その時、お家の方から爆音が響いてきました。

「あーあ、ご主人。いい加減魔法を使えば魔女らしくていいのに。わかってる?」

のんきなものでした。


投稿者 れいちぇる[19]
投稿日時 2008年01月08日(Tue) 14時25分35秒

はい、そして連続投下。
絨毯爆撃でペンペン草も生えなくしてやりますよ。青き清浄なる世界のために(木亥火暴弓単)


【第17話】

ピエトロが子猫らしくかーわいーいおつかいを遂行しているのをヨソに、戦争が開始されました。

 聖女様は偉そうに木の枝の上から魔女の邸宅(見た目ほったて小屋)に向かって指差しました。すると森の奥の方からたくさんの人影が現れ、聖女様が指差した建物目指して行軍していきます。

ですが、どことなく変でした。

いずれの兵士達も目は虚ろで、どことなくだらんとしていて、動きがややゆっくりと緩慢でした。
そして、全員女のようです。

 魔女は鳥かごのかかっている窓からちらっと黒い鉄の塊をのぞかせ、しばらくマズルフラッシュを瞬(またた)かせました。
 一通り撃ち尽くし、マガジンを交換して外を見ます。何人かの女兵士達が倒れています。ところがムクリと起き上がりました。



「ちっ どこであれだけの死体を」
「し、死体?!」

もはやこの戦場において王子様は蚊帳の外です。と言うか、避難させないとマジ危険です。

「どう?! 私の不死の軍団は! 聖なる力で生き返らせるのは簡単ですが、それだとまた死んでしまいますものね!!」

なにを言っているのでしょう。ものすごいことを口走っているように聞こえます。

「ったく、アンタの性根を生き返らせる聖なる力を教えてもらいたいものね」

魔女がまともなことを言いました。王子様は壁際で小さくなっています。

こんな魔と暴力に挟まれ、しかもそれをコントロールすることがこの国では必要なのか。僕はこんな化け物たちと戦わないといけないのか。

王子様は自分の生まれを初めて呪いました。


「さあ行きなさい、引換券だけは無事に確保するのよ!食べてはダメよ!」
「たたたたたたた、食べ?!」

 無敵の軍隊を従えたアンデッドマスターを前に、王子様はもはや腰砕けです。その姿を見た魔女は一瞬、にたりと口元をゆがめ、そしてものすごく穏やかでやさしい、見るものすべてを安心させるような笑顔を携えて王子様の肩に手を遣りました。


「大丈夫です、王子様。わたしが、そんなことさせません。貴方にいただいたこの『アリス』の名に誓って」


王子様はその微笑をたたえた姿に、聖母の姿を垣間見ました。




投稿者 れいちぇる[20]
投稿日時 2008年01月08日(Tue) 15時16分52秒

こんなに連続投下してる暇があるなら自分の作品を手がけなさい、と言われるやもしれません。ですがそんなの関係ねぇ!
と、少し流行りにのった感じで次です。

何ででしょう。自分の次の子はなかなか展開に困っているというのにコッチはガンガン湧いてくる。…これが浮気というヤツなのでしょうか。罪ですね

【第18話】


「あれは…」

窓を通して屋内の様子を双眼鏡で見ていた聖女様は言葉に詰まりました。

「…そう、アイツなのね。いい機会だわ」

そう言った聖女様の口元は苦笑いでゆがんでいます。手にしていた双眼鏡をしまいます。

「全軍! 目標を包囲しその状態で指示あるまで待てッ!」

女コマンダーの命令は絶対で、彼女の魔力に支配された者たちは逆らうことなどできません。そうでなくても意図的に完全蘇生させられていない女達は自らの意志もなく命令がなければ動くこともないでしょう。


「今度こそ私の聖なる力におよばないことを教えてあげますわ。あんな偶然は二度、ありませんことよ」



聖なる力って、こう言う形で使うものじゃないと思うよ、わかってる?

 ピエトロがここに居たのなら絶対そう言ったでしょう。ですが今ではただのかーわいーい子猫に成り下がってバッタを追いかけています。おつかいをしてください。


 屋内では王子様がこれほどにない安心を魔女から感じていました。

 百人の猛者にも勝るケンカのオニ、無敵の鉄拳アルファーネを一撃の下に屠(ほふ)った魔女が今確実に自分を守る刃として傍にいます。魔女だと言うのに魔法を使わなくてもこれだけの軍勢を前に怯みもしません。

 そして今まで気付きませんでした。

 彼女のそれは、自分よりもまだまだ幼い顔をした少女であるのにそれを感じさせないほど凛とした、見るものすべてに信頼を与える導く者の顔であることを。

「これが… 本物の魔女…?」

確実に王子様の心を捕らえました。確信です。あとはこの現状を打開し、二人のスウィートホームを構えればミッション終了です。

そうすれば、あんなことやこんなことを… うへへへへへへへへ


顔が思わず緩むところでしたが、まだミッションの途中です。必死にこらえました。


「全軍、撃鉄起こせ!」

ガシャンという音が響き渡りました。間もなく突撃されるでしょう。それを感じ取った魔女が王子様と自分の周りに魔法陣を引きました。


「土に潜む堅きものよ、冥府の奴隷よ その堅固なる身でもって守れ」

とうとうマジメに魔法を使いました。…使えたんですね。
魔法陣が怪しく光ったかと思うと、魔法陣の円周にそって光の膜が張りました。

「ってぇい!!」

同時に聖女様の号令が響きます。一斉に引き金が引かれ、無数の銃弾が襲い掛かります。木製の板でできた壁は簡単に穴が開きました。

そしてその奥にあった光の玉もベールのような薄い膜があっさり破れ、蜂の巣にされました。






投稿者 れいちぇる[21]
投稿日時 2008年01月08日(Tue) 16時29分46秒
まだまだ降り注ぎます、れいちぇる特製バンカーバスター(地下壕潰し)。
自分のネタの底が尽きそうです(笑い)

我がもの顔で闊歩し続けることをお許しください。それでは4つ目



【第19話】

蜂の巣にされた光の玉は、かしゃん、と音を立てるように砕け散りました。
その中には無残な姿で風通しの良くなった二人の姿がありました。

「あら… 引換券まで」

しかし聖女様はうろたえませんでした。それもそのはず。聖女様の持つ聖なる力をもってすれば復活なんて朝飯前です。傷の一つも残さない完全蘇生です。

双眼鏡で覗きながらにやついています。似たもの同士です。

「王子の身体を持ってきなさい。食べてはダメよ。お前達は骨の髄までしゃぶるから」

女兵士の一つに命令すると、魔女の家に入っていきました。
礼儀正しくノックして、扉のドアに手をかけて開けました。

どばんっ!と入り口がはじけました。煙がもわもわ立ち上がります。兵士は粉々です。もう動けませんでした。

「こんな時までちゃっかりトラップしかけてるなんてね、油断のならない女ですわね。ですが私が行くまでもありません」

次の兵士に命じて行かせました。
今度は窓から入っていきます。そこには鳥かごがかかっていました。
かわいそうなことに、さっきの銃撃で中に入っていた白いハトは胸を打ちぬかれて死んでしまっていました。




平和の象徴とも言われる白いハト。
ですがこの場では弱い者から死んでいきます。

口で言う平和なんて、簡単に破られてしまう脆いもの。
それを守るための聖なる力が、いまやエラいことになってます。




 窓枠に手をかけ、身を乗り入れて部屋の中へ侵入したその時、ぷつん、と糸が切れる音がしました。それとともに上の方からガシャンっ!と大きくて重たい鉄板が落ちてきて、侵入者の身体を真っ二つにしてしまいました。
 両腕も一緒に切られてしまったゾンビ兵士は床の上に落ちた上半身だけで上手く前に進むことも出来ずただもぞもぞ動いているだけでした。

「……」

 聖女様は口元に手を当てました。至るところにトラップが仕掛けられ、引換券こと王子様の死体を回収することが非常に困難です。
 ヘタをすると王子様の身体も、先程のように粉々にされてしまうかもしれません。そこまでなるとさすがの聖女様の聖なる御力と言えども復活させることが出来ません。


……



どれだけ時間が経ったのでしょう。
考えることに疲れた聖女様が伸びをしました。

コツ、と頭に固い物が当たります。

「お久しぶり、性悪聖女。おっと、そのまま振り向くな」

声に覚えがあります。ですが窓の奥には蜂の巣となった二人の姿がちゃんと残っています。

「奇跡はもう起こらない、って前言ってたわよね。…じゃあ二度目は何なのかしら」
「貴様… どうやって」
「わたしは魔女、よ。魔法も使うし、戦場(いくさば)での立ち回りもね」

お話が違う方向へと飛んでいきます。戻ってきてください。

「分かりやすく教えてあげようかしら。おっと、聖句唱えるんじゃないわよ。わたしの質問の返事以外で少しでも口を開こうものならもう一つかわいいお口を増やしてあげるわ。…頭にね」


戦の魔女アリスが使った魔法は二つでした。

 魔法陣は王子様と魔女そっくりの人形を残すためのもの、唱えた呪文は地の中に二人を引き込み、攻撃を無効化するためだけでなくこっそりと聖女様の背後に回るためのトンネルを作るためのものだったのです。

お師匠がお師匠なら、弟子も弟子でした。策士です。

「さて、ご退散願おうかしら」

聖女様は、ちっ と舌打ちをしてそのまま枝から飛び降りました。

「まだよ! 3ダースのオジサマなんてなかなか手に入らないんだから!」
「しゃべるなって言ったでしょ」

無表情に魔女は照準を聖女様に合わせ、マシンガンをぶっ放しました。
しかし聖女様も瞬時に防御壁を張ります。お互い高度な戦いでした。

何とか無傷で地上に降り立った聖女様は魔女アリスから間合いを取ります。


「行きなさい! 我が不死の軍!」

 銃弾にも怯まず、爆風で手足をもがれようとも物ともしません。魔女と言えども一つ一つを相手にしているわけにも行きませんでした。




「まったく、ピエトロはまだ戻らないの!」



……



「あ、川だ! カニがいるかもしれないぞ!」

のんきなものでした。



投稿者 れいちぇる[22]
投稿日時 2008年01月15日(Tue) 18時20分50秒
こんばんは。れいちぇるです。
何度も何度も顔出してすみません。

 一週間しても次が投下されないことを見ると、わたしが投げたボールがキャッチしにくいものだったのだろうな、と反省点が多々あります…
 大元のテーマである「魔女と王子様の恋愛」から勢いのあまり大幅に方向を変化させてしまった罪は思いの他に重いということで、ここらで決着をつけて次の方向をどなたかに託したいと思います。

【第20話】


 魔女は迫り来るソルジャー達に対して手持ちの爆弾とマシンガンで果敢に応戦していました。
 王子様は森の奥で巻き添えを食わないように遠くで一人と一群の戦いを見守っていました。

 もともとさらわれ(?)て来たのですからこれを機会に逃げ出せばよさそうなものでしたが、どうにもその場を去ることが出来ません。


「アンタ! そもそもどこでこんなにたくさんの死体を作ってきたのよ!」
「あら、人聞きが悪い。元はといえば貴女が引換券を連れて行ったからよ。さらわれた一国の王子様との結婚目的の女達の死体なんて、この森を探せばごまんとあるわ。ライバル減らしの目的で殺し合ってたみたいですわね」


…それを聞いた王子様は固まりました。

今まで王子様は自分のことばかりを考えていました。
もともと人より優れているだけでなく、何の不自由もなく暮らしてきました。
近くにはちょっと暴力的でしたがかなりの美人さんがいましたし、正直勝ち組でした。自他共に認めていました。ペッ

 そんな自分を何としてもGetしたい。
 そのためにならどんな手段を使っても、それこそ人死にが出ようとかまわないと多くの人(異性)が考えている。
 今目の前で聖女様の力に支配されるおびただしい群れはざっと見ても100人はくだりません。しかも森の中にはさらにたくさんいると言います。




ああ、僕は何て星の下に生まれたんだ。
なんて罪深いんだ。
僕のために人がこんなに無駄に死んでいっただなんて。
死してなお操り人形として戦わされているだなんて。

彼女達のためにも僕はどうすれば良いんだ。





…悲劇のヒーローぶっています。


 王子様がちょっとナルシストっぷりを発揮している間にも不死兵はばったばったと魔女の手にかかって倒されていきました。相変わらず魔法よりも兵器に頼った戦いです。

 しかし優劣の差は歴然でした。圧倒的な物量の前にはいかに魔女アリスが歴戦の勇者だとしても追い詰められるのは自明の理。

かきん

マシンガンの弾倉が尽きた音です。
手持ちの手榴弾ももうありません。

「ピエトロ! ピエトロ! ああ、もう何をしてるの!」

 大ピンチです。トラップのせいで半壊した家の中にある武器を手元に呼び出したとしてもいずれまた弾切れになってしまうでしょう。
 ピエトロは丁度その頃カニを探して川原の石っころをたくさんひっくり返していました。
…果たし状の返事の手紙もカバンに入ったままです。

「あはははははは! わかったかしら! 貴女は所詮私の聖なる力の前にひれ伏すしかないのよ! あんな偶然、二度と起こるものですか!!」


 聖女様は勝ち誇ったかのように口に手を当てて高笑いをしています。危機に瀕した魔女は次の魔法を使いました。




それは彼女のお師匠が最期に使った魔法と同じものでした。




投稿者 れいちぇる[23]
投稿日時 2008年01月15日(Tue) 19時22分11秒
はい。れいちぇるです。
…終わってないじゃん、って言わないでください。これとその次で終わりにしますから(汗)
あ、だめです、石投げちゃ!


【第21話】



それは半壊した魔女の家の窓際にありました。
それの底には一羽の白い鳥が落ちていました。

その鳥の胸には赤い痕がついていました。
微動だにしませんでした。


 遠くから声が響きます。それは地面を伝わるように、静かに、しかし確かにそれのもとに届いていました。

 白い鳥が中心に倒れていた鳥かごの底が怪しげに光ると、ぼわぼわと煙のようなものが立ち上がり、白い鳥に吸い込まれていきました。


 全部吸い込まれると倒れていた白いハトは目をあけて身体を起こし、ぷるぷるっと身を震わせました。再び羽を大きく広げると、柵の一部が壊れた鳥かごから空に向かって飛び立ちました。

 主がいなくなった鳥かごの底にはなにやら模様が描かれていました。かつて小さな黒い子猫が横たえられたものと同じ模様でした。





「…あとはいきなり使えるかどうか、ね…」

 魔女はすっかり取り囲まれていました。武器はもうありません。
 ですが死なばもろとも、の発想はありません。当然です。王子様とのラブラブ生活が目前に控えているのですから。ですが誰がどう見ても死亡フラグが立ちまくっています。なのにその瞳は生きて帰る気まんまんです。


「さて… チェックメイトね。何か言っておくことは?」

余裕しゃくしゃくの聖女様が最期の一言を許しました。
大きな声で明るく言います。


「王子様、この後どこへ行きましょう。家も半壊してしまいましたし、ふたりで住む家を考えないといけませんわ」


眉間にしわをこれでもか!というほど寄せた聖女様が右手を上げました。

「どこまでもナメくさったガキね、本当に…」

イメージが壊れます。

 その時、空から白いものがすっと魔女を取り囲む軍勢の中に降りてきました。それが魔女の肩に止まります。
 魔女がにっと口元をあげました。ぼそぼそ、と何か呟いたようでしたが、聖女様からは見えませんでしたし、何と言ったかも聞こえませんでした。

「行けッ!」

 聖女様が右手を下ろすのと同時に円周を縮めるように一斉に襲い掛かりました。その時一瞬強く何かが光りました。聖女様が思わず閉じた目を開けたときにはそこにはもう何も居ませんでした。
 聖女様がその青くてきれいな愛らしい目をこすってもう一度見ましたが、誰も居ません。信じられない光景でした。


「きゃあっ!」

 突風が吹き、小さくて軽い聖女様は飛ばされてしまいました。地面に転がった聖女様は見ました。空にそれはそれは大きな白い羽を持つ鳥が羽ばたいているところを。

「さあ、これで五分…いえ逆転ね」

巨大な鳥の翼の付け根の辺りからひょこっと魔女が顔を出しました。

「今度はこっちの番よ、行きなさい!」

新しい使い魔に命じます。主人を背に乗せたまま飛び回ります。その翼は風を生み、飛び去る際にも衝撃波を残しました。聖女様自慢の不死の軍団も後一歩で壊滅寸前です。


ザコゾンビの相手は僕(しもべ)に任せ、聖女様の前に降り立ちました。

「決着は… 直接わたしの手でつけないとね」
「……」

 聖女様も身構えました。魔女も油断しません。
 例え傀儡(くぐつ)がなくとも、相手は聖なる力を自在に操る強力な魔法の使い手です。魔女も自分の力のすべてを合わせて挑む所存です。


半壊したお家から武器を一つ呼び出しました。
それは刃の大きな槍でした。それに魔法の力を込めていきます。
聖女様は身にまとう白いローブにありったけの聖なる力を集めました。

 張り裂けそうな緊張感の漂う空気の中、魔女が先に動きました。
 手にしていた槍を放すと、それは宙に浮きました。魔法のほうきに乗るようにそれに腰掛けた次の瞬間、凄まじい速度で槍ごと聖女様に突っ込んでいきました。聖女様が呼び寄せていた何体かの兵を紙細工かのように簡単に貫き、後一歩で聖女様の喉元というところ。


「まってくれ、アリス!!」

ぴた、と止まりました。
声のしたほうを見ると、森の中から王子様が出てきて、二人のほうへ歩いてくるのが見えました。


投稿者 れいちぇる[24]
投稿日時 2008年01月15日(Tue) 21時45分51秒


それではお願いします。このあとどなたかがわたしの作った悪い流れを断ち切って、よい方向へと会心の一球を投げてくださることを…

【第22話】


「まって… 待ってくれアリス」

 森から近づいてくる王子様に従い、魔女は刃を引きました。アリスも聖女様もお互い悔しそうです。

「僕のために争わないでくれないか。これ以上たくさんの人が傷つくことを、許すことはできないんだ。…王になる者として」
「王子様…」

 アリスの目からはラヴビームが出ていました。思わず「ラブ」ではなくて下唇を噛んで「ラヴ」と言ってしまうほどです。「う」にてんてんをつけ「ヴ」です。

「白い悪… 聖女様も、お願いです。これ以上彼女達を傷付け合わせないで下さい」

 初めに付けられた部分を聞き逃しませんでしたが、オジサマたちが手に入るのならば、と言う事で聞かなかったふりをしました。王子様は続けます。

「どうすればこの争いを治められるか、ずっと考えていたんだ。これしか… ないと思う」

全員が注目します。


「…城に戻るよ。それが一番いい」


…はい?




 自分が勝手に出てきたわけではありません。魔女に誘拐されたのです。帰ることがどれだけ穿った見方をしても正しいスジです。なんかズレてます。アリスは固まってしまいました。


「聖女様、僕を連れて戻ってください。そしてどうか、僕のために亡くなった方々を貴女の聖なる御力で元の姿に戻してさしあげてもらえないでしょうか?」
「え、いやその別に」

聖女様も微妙にやりづらそうにしています。アリスは固まったままです。

 聖女様は気付きました。やめろと言った王子様にすんなり従い、王子様の申し出に茫然自失としているので確定です。
 王子様誘拐事件の犯人という口実をつけてここで殺るのは簡単でしたが、王子様が魔女をあしからず思っていそうな空気を読んで手を出すのは止めました。
 聖女様は王子様に興味もありません。こんな若造願い下げです。だから王子様に嫌われようとも何てことありませんでしたが、報酬が減ってしまうかもしれません。


「…運が良かったわね」


 白いローブに集めていた聖なる力を自慢の軍団に分け与えました。たちどころに動く屍達の肌には生気が戻り、虚ろな瞳も色を取り戻しました。

「あれ… 私どうして」
「あ… 傷がないわ!」

 周囲は正気に戻った女達の混乱に満ちました。
 一人が王子様の存在に気付くとやいのやいのとさらに騒がしくなりました。また醜い争いが勃発しそうです。

王子様が制します。

「みんな、僕の身を案じてくれて本当にありがとう。だけど心配しないで下さい。ちゃんと城に戻りますから。もう争わないでください」

王子様の頼みとあらば、と皆従いました。その光景は王そのものでしたが、ここに至る経緯(いきさつ)を知ると首をひねるばかりです。


「お、王子… 様…」

やっとこさアリスが動きました。

「い、行かな」
「アリス… 君とは違った形で会っていたかったよ… ごめん。ピエトロによろしく」


 魔女の言葉を遮り、王子様はたくさんの女達を引き連れ、聖女様とともにお城へと戻っていってしまいました。
 魔女はまた呆然としてしまいました。


一陣の風が吹き抜けます。


残ったのは半壊したお家だけでした。







「ちぇ 出そびれちまったじゃないか」

森の奥から一人の美人さんが様子を覗っていました。
何かあった時のためにと聖女様がゾンビではなく確実な戦力として完全復活させておいたアルファーネでした。
結局今回も良いところなしです。

「ま、王子が戻ってきたわけだし、いいっちゃいいけどね!」

明るくさわやかな空気を残して彼女もお城へと帰っていきました。








……





 肩に白いハトを乗せ、魔女はとぼとぼと森の野道を歩いていました。どれだけ歩いていたのでしょう。日も暮れそうな黄昏時でした。

「アリス様、見てください。あそこに何かいますよ」

 白いハトが自分の翼の風切り羽で前を指します。足元しか見ていなかった魔女が顔を上げると、黒い小さな生き物がぴょんぴょんとすこし跳ねるように動いたかと思うとぴたっと止まり、またぴょんぴょん、と動き出します。


それが何なのか、魔女は瞬時に悟りました。





















その晩、ピエトロはものすごく叱られました。






投稿者 アグァ・イスラ[25]
投稿日時 2008年01月16日(Wed) 14時18分06秒
 こんにちは、れいちぇるさま★
 何やら何時の間にか、たくさん更新されていたので、びっくりしました。
 連続投下、ご苦労さまですー(笑)
 なるほど、アリスの由来は、バイオハザードから来てますからねー。ゾンビさんとは。それに王子がいなくなるとかいう急展開ですね。途中まで、『お、これはそろそろ最終回の予感か…』と思っていたら、『えー! そこで? 王子やっぱKYだよ』って感じでした。
 誰か、この話をハッピーエンドで終われる人期待(笑)
 いや、別にバッドエンドでもいいんですが(笑)

【第23話】

 魔女アリスはピエトロを痛めつけた後、悩んでいました。
 ――どうして、王子さまは行ってしまったのかしら。
 と。
 そうして、約1時間ほど考え、結論が出ました。
「ひとまず、何故王子さまが行ってしまったかは置いておいて、結論から言うと今回の敗因は魔法をあんまり使わなかったことだわ」
「……よ、ようやく気がついたの、ご主人」
「ポロっポー♪」
 ピエトロと白ハトは、そう言いました。白ハトは急いで使い魔にしたため、『ポロッポー♪』しか言えません。
「さぁ、ピエトロ、ポロッポー、ツイテきなさい。魔女の妙技、『惚れ薬』を作るわ」
「え! 色んなところに突っ込みどころはあるけど、まず、ポロッポーって何? いや、誰のこと?」
 すると、無言で魔女は、白ハトを指しました。
「彼はそう自分で名乗ったわ。ボクはポロッポーです、って」
「いやいやいや、ご主人。多分、ポロッポーは言葉が話せないから」
「ついてきなさい、ピエトロ、ポロッポー」
「………、そんないい加減な。ポロッポーが可哀相だよ」
「ポロッポー♪」
「………」
 まぁ、いいかな、とピエトロは思いました。
 白ハトはポロッポーと呼ばれることになりました。

 * * *

 ところ、変わって、お城。
 王子さまは、ぼんやりとお城の外を眺めていました。
「はー、予想外だったな…」

 アルファーネが生き返るだなんて…。

 そうです、王子さまは、アルファーネが死んだと思って、内心喜んでいました。ですが、今回、聖女の力によりアルファーネまでもが生き返ってしまったのです。
「予想外だったよ、本当に」
 それにお城に戻ってから、実に退屈な日々を送っていました。
 アリスといたときは、毎日が死人のオンパレード。スリルと無駄な興奮に満ち溢れていました。退屈とは程遠い生活です。
 ――つまんないなー。気晴らしにアリスの真似をして、機関銃でもぶっ放してみようかなー。
 死人がでます。
 王子さまは割りと、大分、バイオレンスになりました。
 と、そんなとき、お城が騒がしくなりました。
 何と、王さまが一人で、大声を上げて、お城の外に出て行ったのです。
 それも、こう叫びながら。
「アリス〜! 好きじゃあああああああッ!」

「――え?」
 王子に平穏は許されません。
 王さまは、誤って惚れ薬を飲まされました。

 * * *
 そして。

「ちょっと、ピエトロッ! ポロッポーッ! 王子さまじゃなくて、変なオッサンが来たじゃないのッ。どうするのよ、それにこのオッサン、お城から一人ではだしで全速力で走ってきたわよ? ぜーぜー言って青い顔してるわ。苦しそうっていうか、死にそうだわ」
「……そうだね、ご主人。でも、よく考えてみてよ。こんな呼吸困難か喘息で苦しんでるみたいな作用の薬、王子に使わなくて良かったんじゃないの?」
「ポロッポー♪」
「………そ、そうね」
 やっぱり、魔女は、魔法を使って、王子をどうこうすることは止めにしました。
「時代は、兵器よッ! 魔法なんて野蛮だわ」

 魔女は、少しだけ、丸くなりました。

投稿者 アグァ・イスラ[26]
投稿日時 2008年01月16日(Wed) 14時30分40秒
 
【第24話】

 魔女アリスとピエトロとポロッポーは、王子に惚れ薬を飲ますことは諦めました。
 そして、王さまはウザイので、そのへんに捨ててきました。
「そうね、王子さまが何故行ってしまったか知らないけど、行ってしまったのなら、追いかければいいんだわ。だから、お城にもぐりこみましょう」
「え、でも、ご主人。ご主人は顔が割れてるんじゃ?」
「大丈夫よ、魔法を使わなければ、魔女だなんてバレないわ」
「そうですかね(ポロッポー♪)」
 ポロッポーが言葉を話しました。
「あ、あれ? ポロッポー、今、言葉……」
「ポロッポー♪」
 ポロッポーは瞬時に悟っていました。アリスの話し相手はピエトロに任せようと。そのほうが、安全だということに。だから、ポロッポーしか言いません。ポロッポーは意外にも嫌なハトでした。
 と、そんなときに、三人の前に、一枚の看板が立っていました。
 そこには、こう書かれていました。

【森の魔女に王子がさらわれたため、王子の護衛を雇うことになりました。 腕に自信のあるものは、お城で採用します。
 王子の護衛を募集中。雇ってほしい方は履歴書を持ってきてください。
 それと、面接と簡単な試験をします。
 時給850円。能力によっては昇給アリ。曜日・時間は応相談。
 連絡先は、お城――0●0−894●―43●0まで】

「これだわ」
 ニヤリ、と魔女は笑いました。
 魔女は王子に正攻法で近づくことにしました。
 これなら、違法じゃなりません。
 きっと、王子さまは喜んでくれるはず。
 ……その、はず。


投稿者 クロクロシロ[27]
投稿日時 2008年01月17日(Thu) 17時40分45秒
【25話】

ちくしょうッ!!
なんで、あいつが。
あの女が。
なんで来るんだ!!

「これじゃぁ、ぼくの計画は………」

まて。
冷静になれ。
こんなことであきらめるな。
聖女の存在は知っていたじゃないか。
ではなぜ、それを念頭に入れていなかった。
この国唯一の超級の力をなぜ将来の計画の中にで問題にし練りこまなかった。
なぜ………。

そうだ、あの変態聖女がお父様とつながっているなんて思わなかったからだ。
息子が誘拐されたくらいじゃぁ手を貸さないくらい、王を舐めていると思っていたからだ。
その前提が、崩れた。
なぜだ、なぜお父様はあのくそ悪魔を手足のように操れた。
わからない。
……くそッ!!

ふん、まぁ良い。
僕は見た。
見たじゃないか。
魔法を。
その戦い方を。

すごい力だ。
圧倒的な力だ。
頂点に君臨するような力だ。

使い方次第じゃぁ、確かに脅威になりえるだろう。
僕が使えばこの国、この世界、この星すべてを掌握できるだろう。
でも、あの女じゃあダメだ。
あの女たちじゃあ、無理だ。
お父様では無駄だ。
あいつらじゃ、宝の持ち腐れだ。
何もわかっていない子供が強大な力を持っているようなものだ。

そして、そんなものは、僕のように、ただ完璧なだけの人間で十分に手玉に取れる。
僕だけで、僕の知力で権力でそして少しだけの腕力で十分対処できる。
魔法なんて、いらない。
必要ない。

あのくそ悪魔がお父様の味方でも、大丈夫だ。
そうだ、前提は崩れた。
でも、ひとつだけだ。
大筋は崩れない。
僕がお父様を玉座から引きずり落とすシナリオは崩れない。

「ふん、良いじゃないか。父親を蹴落とすんだそれくらいの障害があったほうが面白いさ……」

まずは大きな武力。
武力がいる。
僕直属の。
王からの命令権を聞かずにすむ力が。
腕の立つ兵力がいる。

どう集める。
王子という立場でも、兵力を集めれば反逆罪といわれても言い訳できない。
どうやって戦力を集めたらいい……

あぁ、あるじゃないか。
簡単に集められる。

僕は最近大事件に巻き込まれたじゃないか。
それを餌にするのなら、誰もおおっぴらに逆らえない。
何せ、今までの力では守れなかったのだ。
新しい力を必要と考えるのはありえないことじゃあ無いな。

「ハッハッハッハッハッハ………」

それにしても…。
ぼくはなぜあの時戦いをとめたんだ。
上手くすれば、あのクソ悪魔を殺せたのに。
なぜ、アリスを止めた。
アリスなら、勝てたかもしれないのに。
なんで、止めたんだ。

なんで、アリスが死んでしまう、なんて思ったんだ。
アリスなんて死んでしまった方が良いじゃないか。
いなくなった方が。
良いじゃないか。
あんな不確定要素、計画の輪の外に居てもらった方が……。

なッ!!
あ、ありえない!!

馬鹿な…!!

ぼくは何のために魔女に近づこうとしていたんだ!!
魔法の力を手にするために、近づいた。

それなのに、何で。

なんで、アリスの力を計算に入れてない?!
た、確かに扱いづらい女だ。
それでも、なぜ今まで考えなかった…。

なぜ彼女を、蚊帳の外に計画を立て直そうとしてる……。
お父様が魔法を手に入れたなら、僕もアリスから手に入れればいい。
なぜ、その考えを最初から捨てていた。

クソ、これじゃぁ、まるで………。

彼女を王家の争いに、巻き込まないようにしてる様じゃないか。

これってまさか、僕がアリスに惚れてるみたいじゃ……?

ちちちちちちち、違う!!!
そんなわけねぇ!?
な?
だって、誘拐犯だぜ?!

あれだ。
あれあれあれあれあれ。
ええっと…。
そう。
そう、釣り橋効果!!
間違いないね。
だってほら。
どきどきしてたのって命の危険があったときだけだしね?

大丈夫です、王子様。わたしが、そんなことさせません。貴方にいただいたこの『アリス』の名に誓って――――。

きゃあああああああああ!!!

か、顔赤ッ!
熱ッ!?

え、まってまってまってまって!!
うわ、なんでだよ…。
何か…いいところしか思い出せない。

ま、待て待て待て待て待て!!!

男女立場逆だろ!!

僕が守りたいんだよ!

違ええええ!!

好きでもないやつ守りたいなんて思うかぁぁぁぁぁぁ!!

「ゼ、ハァ…ハァゼェ、ゼェ…ハァハァ」

落ち着け。
王子。
王子。
点を付けたら?

「玉子!!」

クールダウン完了。

まぁあんまり関係ない事は、置いておいて…と。
結局のところ、頭の弱い王と聖女を手玉に取るだけだ。
アリスの力は必要ない。
アリスは居なくてもいい。
アリスは、ピエトロと一緒に居れば良いんだ。
そうだよ。


住む世界が、違うんだから。




さあ、力を集めよう

投稿者 れいちぇる[28]
投稿日時 2008年02月03日(Sun) 12時06分08秒

おひさしぶりです、れいちぇるです。
リレースレが全スレッド一覧のトップページから転落していたのに気付き、このまま捨て置けるものか、とやってきてしまいました。


…でもわたしがボール投げるとひどい方向に飛んでいくようなので自重しないと… KYかつオンチですみません。

この1話で止めますから! 許してッ!

…しかし新しい僕(しもべ)の名前がまさか鳴き声だとは。エー
アリス短絡的過ぎ。王子様の名前はすごいのを考えたくせに、興味ないとひどい扱いです。
お師匠の方がいいセンスしてるじゃない…
惜しい人材を失いました。

【26話】

 自己中でKYな王子様は、誘拐犯に自分の心の中にすこーし居場所を分けてあげた理由をごまかしながら、人材募集の広告の草案にハンコを押しました。これで決定稿です。


 この国は豊かで、争いも極端に少なく、平和ボケした衛兵ばかりの緊張感に欠ける国でした。
 聖女様の聖なる御力のご加護だと皆は信じて止みません。
 実際はあんまり関係なくて、今この国があるのは、国が始まってから国民そのものが頑張ったおかげです。
…あの聖女様は国のために祈りません。

 大きく育って安定した国はまわりの国もちょっと前から協力的になったことからさらに平和ボケがkskし、魔女の侵入をやすやすと受け入れてしまうほどになりました。

 国の存亡を左右するような事件があれば、そんな国でも警備の強化が図られるのも無理もなく、満場一致で賛成の挙手があがりました。

 王子様の裏の陰謀を誰も想定していません。この国の幹部達の緩んだのーみそはクーデターは身近なところから起きると言うことも思考の外に放り出してしまっていました。

……

 実際危惧した有能な者はいました。
 しかし何せ時給が安い。
 こんな薄給で王子の身辺警備をする有能な人材が集まるのか不安が募る一方です。それはつまり、王子様が自警団を用いて革命を起こすことなどできないと想像させるのに難くない状況です。

…受付がケータイだし。

 この国の貨幣単位は「円」です。
 中世の雰囲気漂ってるくせにケータイがあるほど実は文明は発展しています。
 文明も発展し、国力は豊か。王子を守ると言う重要任務にもかかわらずコンビニバイトクラスの待遇で人員募集をかける。何と言うケチくさい王国でしょう。

 ホントは王子様が世間知らずだっただけなんですけど。
 手渡された資料が城下町で一番繁盛している酒場の店員さん募集広告一枚だけだったので、そこに書かれた時給をそのままトレースしてしまったのです。
 しかし幸か不幸か、それがまさかあんな事態を招くことになるなんて、誰が想像したでしょう。




「ねー、王子〜。用件済んだらこっち来てよ」

 実際警備は不要です。
 あの魔女が敵意を持つことが無い限り、こちらにおわす無敵の鉄拳にかなうものなどおりません。
 もともと王子様専属の護衛として配属されているわけですから。

 ところが役職にかこつけて、王子様が書類とにらめっこを始めるまでずっとベタベタくっついている始末です。

「アルファーネは病み上がりなんだから、僕に構わず休んでいなさい」

 王子様は王になる者らしく慈悲の心を見せたつもりですが、実際は違います。ウザがってるだけです。
 美人さんを無碍(むげ)にするんじゃねぇよ、この若造が。

 しかし相手もKYです。だいじょうぶだいじょうぶと言ってその場を離れようともしません。

「聖女の聖なる力ってすっごいんだって。完全復活だって。斬られたところも何ともなくってさ。見る? 見る? …その先もいいよ別に私は」

 すげぇ、すげぇよアンタ。
 美女の誘惑に一瞬揺らぎかけた王子様でしたが、ノックがあって助かりました。下手をすると王子様が無理やり… ヒィっ



「あの… 失礼、します」

 気弱そうな少女が王子様の入室許可の返事を聞いて入ってきました。
 恰好はハウスメイドの物で、どうやらお城の使用人の一人のようでした。






投稿者 アグァ・イスラ[29]
投稿日時 2008年02月10日(Sun) 17時43分20秒

 いらっしゃいませ、クロクロシロさま、れいちぇるさま★
 王子……腹黒いですね。でも、何かアリスのことをちょっとは考え始めているので、ゴールも見えてきたような気がします(笑)
 点をつけたら、玉子がウケました(笑)

 れいちぇるさま、投稿ご苦労さまです。
 トップページからの転落を防いでいただきありがとうございます(…汗ッ)
 いえいえ、全然、KYじゃないですよー。むしろ王子はKY腹黒キャラなのでOKです。ノープロブレムデス。 

> この国の貨幣単位は「円」です。
> 中世の雰囲気漂ってるくせにケータイがあるほど実は文明は発展しています。

 ……う、確かに。ケータイに爆弾にナイフに無線機。時代が混在してますね(笑) そして、最近ちょっと思ったのですが、↑の投稿するときの注意事項で、『念のためですが、卑猥な表現、暴力的な表現もおやめ下さい』という注意書きに引っかかりやしないかと。最近、ちょっと不安です(笑)




【第27話】

「あの… 失礼、します」

 と、そう言って入ってきた、気の弱そうな少女は、どこか青ざめているようでした。
 王子は眉を顰めます。
 少女は、青い顔をして、震えています。
 ぷるぷると震えています。
 一体、どうしたことなのでしょうか?
「どうした、何の用だ」
 たまらず、王子さまは、少女に聞きました。
 少女が答えます。
「あの……、お、王子さまが、募集した護衛の件なのですが……」
 最近、王子さまは自分の戦力を集めるために、護衛を雇おうと、国じゅうに募集をかけていました。
 そのために、今日は、”簡単な”試験と面接がお城で開かれます。
「それがどうかしたか? ボクの護衛は決まったのか?」
「………そ、それが、決まったには、決まったのですが、他に試験を受けにきた方たちは、血肉となってお城の外に出ることになりました」
「………」
 つ、つまり?
「護衛に決まった方以外に、一人も生存者はいません。面接会場は、草木が一本も生えなくなるほどの荒地と化しました……。草木の一本も……」
 どんな、化け物だ――ッ!
 
 王子さまは、声にならない悲鳴を上げました。

  * * *

 時間は少々、さかのぼる。

 意気揚々とアリスとピエトロとポロッポーは、王子さまの護衛となるべく、お城に向かいました。
「さぁ、ピエトロ、ポロッポー。王子さまの護衛になって、合法的に王子さまのパートナーになるわ。これなら、何の問題もないし、皆丸く収まるわ」
「そうだね、ご主人。ご主人にしては、いい考えだよ」
「ポロッポー♪ (賛成ですね)」
 そういう訳で、三人は試験と面接を受けるべく、面接会場へと行きました。
 そこで履歴書を提出し、簡単に面接されました。
 王子の護衛になりたい人は大勢いて、たくさんのライバルがいました。
「あら、面倒くさいわねー」
 そうアリスは思いましたが、仕方がないので大人しくしていました。
 しかし。
 試験官は、こう言いました。
『皆さん、王子は強い護衛を望んでいます。今から皆さんで戦ってもらい、最後に勝ったものを王子の護衛とします』
 当然、ニヤリと誰かさんは笑いました。
 ――楽ッ(笑)
 アリスは、面倒だったので、とっておきの兵器を使用しました。
 時代は、兵器です。

「核(かく)ッ!」

「ひ、ご主人! 核爆弾なんて、どっから持ってきたのさッ! そんなの使ったら、ボクらまで放射能とかで被爆しちゃうよッ!」
「ポロッポーッ! ポロッポーッ! (そうだそうだッ)」
 ニヤリと、アリスは笑います。
「あら、ピエトロ、ポロッポー。大丈夫よ? ほら、あたしが魔法のバリアをはるから、バリアの中に入りなさいな」
 ピエトロとポロッポーは、もう、何も突っ込まず、急いでアリスの魔法のバリアに入りました。


 そして、そこには放射能まみれの草木が一本も生えない、荒地と化したのです。
 残ったのは、アリスとピエトロとポロッポーだけでした。
 手段は、とても、非合法な方法で、アリスは王子の護衛になりました。

投稿者 れいちぇる[30]
投稿日時 2008年02月17日(Sun) 09時34分37秒

おはようございます、れいちぇるです。
受験シーズンだからでしょうか… 最近過疎気味でもの寂しいですね。
ここらでまた景気づけに投稿させてください。何かわたしのがやたら多いような気もしますけど(汗

【第28話】


「ご主人っ! もう魔法云々じゃないよ、これは! わかってるっ?!!!!!!」

ピエトロが激昂(げっこう)しています。

「あら、何かしらピエトロ。試験官は『最後に勝った者を護衛とする』って言ったわ。私は勝ったのよ?」

 魔女は人死にを気にしません。そしてさらに愛は盲目です。魔女アリスにしてみれば王子様のもとにたどり着くためにならば、いかなる手段も是(ぜ)。そしてルール上確かに魔女アリスは全てのものを屠り尽くし、護衛となる資格を得ました。
 ピエトロは必死に諭します。ポロッポーは『ポロッポー♪』とも言いません。言えません。

「ご主人っ! 貴女は今魔物に取り憑かれている! 僕が言っていることがわからないなら、王子様のところに行くべきじゃない!」

 なななな何を言い出すのでしょう。主人に絶対服従を強いられる使い魔としてあるまじき行動と言動です。契約を破棄され、使い魔としての存在を認められなくなればピエトロとしての生はそれ以上継続することができません。
 そう分かっているはずなのに、ピエトロは主をたしなめます。

「森に戻りましょう、いえ、戻りなさい! 貴女は人の中で生きることなど」
「ピエトロっ! もういいよ! それ以上アリス様を責めては!」
「いいや、止めないね。ご主人を想えばこそ、言わなくちゃいけないんだ! っていうか喋れるならちゃんと喋ろうよ! いつでもどこでも『ポロッポー♪』って何だよっ!」

ブチギレモードなのにツッコミを欠かしません。この子もプロです。

「……」

 一方魔女は戸惑いを隠しきれない顔のまま、言葉を失っていました。
 ピエトロが抵抗することは今までに幾度と無くありました。ですがそれはいつも魔女がピエトロに対して無理難題を押し付けたり、少々いたずらが過ぎたりした時限定で、今のようにピエトロに害を与えるようなことをしていない時に今のような態度をとることはありませんでした。

「なっ 何よ! あなた達は私の魔法のバリアで守ってあげたじゃない。それじゃあ何? 守ってもらいたくなかったとでも言うの?」
「どうして分からないっ!! 分からないのなら、今すぐこの国から遠く離れたところで王子様を忘れて暮らすんだ! あの日までのように一人ぼっちで!! それが貴女にとっても幸せだ!」
「け、契約を破棄するわよっ?」
「それでもかまわない! 分からないというなら力ずくでも連れて行くよ!」

かっ とまばゆい光が走ったと思うと、そこには巨大な豹のような姿をした生き物がいました。
その姿は気高く雄雄しく、その体躯からは威圧感だけでなく美しさすら感じさせました。


「さあご主人、ボクと一緒に来るんだにゃ!」

台無しです。



あまりにも台無しです。






 しかしピエトロの本気を目の当たりにしたアリスは、自分以外のものに対して初めて恐怖を覚えました。

「そ… そんなに怒らなくっても…。そ、そうよね! 契約を破棄するなんて、言い過ぎたわよね! だ、だから許し」
「違うにゃ、ご主人。そんなことで怒ってるわけじゃ」

 今までアリスの目を見て話していたピエトロが突然言葉を切り、太陽の出ている方角に顔を向けました。直後ピエトロの姿が消えます。それに続いてアリスと、彼女の肩に乗っていたポロッポーの姿も消えました。


びしっ びしっ

 三人がいた地面が深く穿たれます。
 少し離れたところにピエトロが姿を現しました。襟元をくわえられたアリスがその口元にぶら下がっています。
 ピエトロはじっと太陽の出ている方角をにらんでいました。













「…外した? とんでもない化け物を飼ってるわね、あの魔女…」

 ピエトロがにらみつけている方角には建物があり、そこの一室からスコープを通して三人の様子を覗(うかが)っている人間がいました。

「でも、どこまでできるかしらね。一瞬で焼け野原を作り出した化け物を放っておくほど、この国の人間も甘くないわよ」

 スコープの付いた超長距離レンジスナイパーライフルを片手に、三人に照準をつけていた人間が顔をあげました。


 その人間の恰好はハウスメイドのものでした。
 さっきまで青ざめていた気の弱そうな少女の面影など無く、眼光鋭く獲物を狙う狩人が今そこに居ます。

「私はアルファーネ様や聖女様と違うわ… この国のため…王子様のためにも今度こそ悟られずに、射抜くのよ…」




再びライフルを固定し、焼け野原で身を隠すことの出来ない三人に狙いをつけ始めました。




投稿者 れいちぇる[31]
投稿日時 2008年02月27日(Wed) 18時22分42秒
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

 わたしのパスが本当に悪いみたいです。10日も経つって言うのに…
 時期が時期(受験シーズン)と言うことではなく、ああ…

 前みたく参加者がいらっしゃらないと言うことは「どうやってつなげって言うんだよ!」という抗議なのかも… と心配です。スレ主のアグァ・イスラこと水島牡丹さん、申し訳ございません。これでちょっと新しい展開が生まれれば…
 ごめんなさい、誰か何とか次を…




【第29話】

「スナイパー?! この場に居たのが全部じゃないのね!」

 地面を穿った痕を観て、魔女は自分が狙撃されたことを知りました。それにしても腕のいい狙撃手です。戦場(いくさば)の魔女に気取られること無いほどの距離から正確に狙いを定めて、そして銃弾が描いたのは正確に命中するはずだった軌跡でした。

「もうっ これで私が王子様の護衛になれるはずだったのに! まだ居たんじゃ今のスナイパーを探し出してやっつけないといけないじゃない! ああ、めんどくさい!」

 使い魔の口に奥襟を咥えられてぶらーんとぶら下げられて、両手足をばたつかせています。

…かわいい。   ハッ

主を口元にぶら下げたピエトロは、どういう現状なのか理解していない後ろ頭をみて軽くため息をつき、再び姿を消しました。またしてもさっきまで大きな魔獣が居た地面に穴がいくつか開きました。連続で射撃しているのに狙いのブレがありません。ミリ単位、いえそれ以下での微調整を瞬時にかけているようです。

再び離れたところに現れました。咥えたご主人を地面に降ろし、改めて弾の来た方向を睨みます。さっきと同じ方角です。

「今のところ一人だにゃ… ポロッポー!」

白いハトが主の肩から離れました。かっ とピエトロが変身した時と同じ光が輝いた瞬間、雄大な羽を持つ巨大な白い鳥が上空から舞い降りてきました。ピエトロは再びご主人の首根っこを咥えて放り投げます。そしれ自分も跳躍しました。

 変身したポロッポーの背中にナイスキャッチされたアリスは振り落とされないようしっかりとその羽毛に掴まりました。続いてアリスの少し前、ポロッポーの首の辺りに黒い子猫が着地しました。

「ポロッポー、太陽が出ている方に向かって飛んでくれ! 今ならまだ増援もないはずだから!」

おうさ、と返事があってさらに速度を上げました。…さすがに空気を読んで、「ポロッポー♪」とは言いませんでした。

 巨大な鳥の背中で四本足でしっかりと立ちあがる姿は、子猫であるはずなのにそれはそれは力強く、凛々しくありました。その姿を見ていたアリスは、今までとは何か違った想いを抱きましたが、それが何なのか、よくわかりませんでした。

「な、何よ、結局ピエトロも私が王子様の護衛になる手伝いをしてくれるんじゃない」

ピエトロに主導を取られたまま、さらに無言でいるのが気まずかったのでとりあえず「やっぱりあなたは絶対服従の私の僕(しもべ)なのね」的な話題を振りました。そんなご主人の方をちょっと振り返ると、また前を見据えました。

「そうじゃないよ、ご主人。僕たちと一緒に森に戻ろう。今までみたいにのどかに暮らそう。
だけど、あんな恐ろしいことを簡単にやれてしまうご主人をこの国の人が放っておくわけが無い。僕だってこんなに腕がいい暗殺者を放っておけるわけがない。…ただそれだけだよ。
僕たち使い魔はいつだってご主人のことを一番に考えているんだ。忘れちゃった?」

とても落ち着いた、とてもやさしい声色でした。後ろ姿だったので彼がどんな目をしているのかうかがい知ることはできませんでしたが、きっと穏やかで、だけど決意に満ちたとても強いものだったに違いありません。

少し微笑んでいたかもしれません。


何なのでしょう、この安らぐ気持ちは。






 気付けばアリスは、自分の左手で自分の服の胸の真ん中辺りを握りしめていました。





投稿者 れいちぇる[32]
投稿日時 2008年04月09日(Wed) 02時23分39秒
こんばんは、れいちぇるです。
春休み、終わったんですかね? ざまぁwwwwwwwwwwwww
…僻(ひが)んでしまってすみません。

相変わらずわたしの次にバトンが上手く回らないみたいで…
ごめんなさい。一ヶ月経っても投下されず、トップ落ちしてるし(涙目)
このまま風化させるのがもったいないと思いますので上げさせてください。


【第30話】

「…あれは?」

 その時ハウスメイドの少女から報告を受けた王子様は、これからやってくるであろう悪魔に対してどう振舞えばよいのか、庭師によって手入れされたお城の庭園を歩きながら考え事をしていました。
 自分から護衛(しかもできるだけ強い)を募集して、その悪魔は条件をクリアーしたのですから採用しないわけには行きません。断ろうものならば今度はこのお城ごと原子分解させられてしまうかもしれません。
 考え事に疲れて、「まあ実際に会ってみたらきっと妙案が浮かぶさ、僕は天才だし」というとてもとても甘々のアンマミーヤな発想に至り、ほぅ、とため息をついて空を見上げた時にそれを見ました。
 とてもとても大きな鳥のようなものがお城に向かって飛んで来るのが目に入りました。方向から宮殿が目的地ではないと思われました。その先にあるのは城下町のシンボルでもある、大きな鐘をそのてっぺんに持った塔でした。


「…速い。ここから迎え撃つしかない」

 ハウスメイドの衣服に身を包んだ暗殺者は一直線に向かってくる巨大な鳥に向かってスナイパーライフルの引き金を3回引きました。速度はかなりのものですが、的自体がかなり大きいために狙いをつけることは簡単です。

まずは右翼の付け根。ついで胸、そして左翼の付け根。

 ところがバレルロールで回避され、どれもかすりもしませんでした。もう一度引き金を引きます。狙ったのは軸の中心。つまり今のような速度を落とさない回転運動では避けにくく、機首を上げても下げても的の大きさからどこかに当たる確率の高い頭部です。しかし狙われた巨大な鳥はその弾丸をあえて正面から受けました。でも、傷はどこにもありません。くちばしをちょっと振って強力なライフル弾をはじいて軌道を逸らしてしまったのです。
 進行を止めることはできませんでした。


うわーっ! きゃーっ!

 城下町はパニックです。突然突風と共にモンスターが現れたのですから。シンボルタワーを破壊しそうな勢いのまま突っ込んでくるかと思われましたが、直前で速度を急激に落とし、巨大な鳥は塔にぶつかることなく上空へと飛び去っていきました。上空へと向かう際、その背中から二つの小さな影が塔の窓から中へと飛び込んでいきました。

「へぇ、わたしとそんなに変わらないくらいの女の子じゃない。一体どんな訓練を受けたらこんなところからあんな精密な狙撃をできるようになるのかしらね」

そこには外の喧騒とはかけ離れた静けさに満ちていました。窓から飛び込んできたのも女の子。黒い子猫を従えていました。腰に手を当て、ずいぶんと尊大な態度をとっています。

「一応お名前を聞いておこうかしら」
「…お前のような魔女に名乗る名など無い」
「あら、わたしのことをご存知? 残念ね、お友達になれたかもしれないのに」

 全くそんなことを思っているはずがありません。入ってきた魔女は敵=瞬殺がモットーの戦闘エリートです。そして例え相手にチャンスを与えても反撃を許しません。

「それともお名前がないのかしら。可哀相ね。わたしの命を狙っただけでも可哀相なのにね。わたしは今はアリスと呼んでいただいているのよ。いい名前でしょう?」

そう言って得意の魔法でマシンガンを二丁呼び出し、両手に持ちました。それとほとんど同時に窓から白いハトが入り込んできて、黒猫を従えた女の子の肩に止まりました。

「じゃあね、お話できて嬉しかったわ」

 言うが早いか即座に床板が蜂の巣になりました。しかし身を翻して暗殺者も隠し持っていたハンドガンで応戦します。狭い屋内で上手く机などを盾にして銃撃戦が繰り広げられました。
 もともとこの部屋に陣取っていた女の子も良く頑張ったといえるでしょう。しかし得物がハンドガンではダブルマシンガンと勝負になりません。相手は熟練の戦士。戦況を覆すことは出来ませんでした。

「うふふ、それじゃあさよならね」
「… …」
「え? 何かしら。遺言なら聞いてあげるわ。もう一度言って頂戴」

ところが、暗殺者の女の子の言葉は思いも寄らないものでした。

「…ここが私の必殺の射線よ」

床に腰をついていた暗殺者の左の手元には糸が伸びていました。くっと引きます。戦いの一部始終をその傍で見ていた黒い子猫が何かに気付きました。

「ご主人っ!」

乾いた破裂音が手狭な空間を満たしました。



投稿者 れいちぇる[33]
投稿日時 2008年04月09日(Wed) 02時33分02秒
もう一丁落としていきます。
どうか… どなたか新展開を…

【第31話】

 その糸が結びつけられていたのは小さな金具でした。その小さな金具が付いている物は全体につや消しが施されて一切光を反射しないように表面を加工されていました。大きくてある程度重量があって、しっかりグリップから固定されていました。ちょっと強く引かれたくらいではその筒が向いている方向を変えることなどなさそうです。

「…ここが私の必殺の射線よ」

 その言葉と共に糸に力が加わり、それとともに固定されていた大型の銃のトリガーが引かれました。その銃口はしっかりと魔女の胸を捕らえていました。

「ご主人っ!」

 その叫びに続いて弾けた音が響き、同時に小さな体が宙を舞いました。その小さな黒い体はいつもならくるりと受身をとって、上手に床に降り立つはずでした。しかし今日はそのままぼてっと音を立てて転がりました。

「…え?」

ちっ、と舌打ちをする音も聞こえました。

「ピエトロ…?」

声に反応しません。手足も力なく床の上に投げ出されていました。

「ピエトロ…?」

 魔女の女の子も身をかがめました。もう暗殺者の女の子の隠し玉の射線上には何もありません。無駄なことを嫌うアサシンの性格もあって、糸に力を込めることはしませんでした。

「ご しゅじ… ん…」

力無い声が返ってきました。

「よか …った」

全然良くありません。息も絶え絶えです。

「ピエトロ! ピエトロっ! だめ、だめよ! どうしてこんな… ああっ なんで!」

 非情の戦場(いくさば)の魔女が目に涙をたくさん浮かべています。いつもの彼女からは考えられないくらい取り乱していました。右往左往して自分がどうするべきなのか、何も考えられていない様子です。

「ピエトロっ! ピエトロっ! 血が… 血がこんなに! 止血、止血出来る物は?!
ポロッポー、何か持ってきて! 助けて、お願い! ピエトロが… ピエトロが死んでしまう!」

 こんなときの魔法のはずです。しかし魔法も万能ではありません。それに彼女の魔法は聖女様のような癒しに向ける力ではなく、いろいろなものを操作して変化させる力でした。治すことは出来ません。
 癒しの力でなくとも応急処置は何か出来たかもしれません。傷口を焼く、凍らせる、あるいは何かを埋めこむことでこれ以上血が流れ出ることを防ぐことが出来たかもしれません。ですが、彼女の目の前に広がる黒い子猫を中心にした浅い赤い泉が、的確な思考をその底に沈めてしまっていました。
 大粒の涙をぼろぼろこぼして、震える手でしっかりと自分に付き従う子猫の胸に開いた穴を押さえていました。

「ごめんね… ご主人… はじ め て… だね… 泣いて… る」
「しゃ喋ってはだだだめだめだめよよよ ちちちち血が、血がとま、とま止まらな」
「はははは… 何… 言って… る か、わかんない…よ…。落ち着かな  きゃ  …わかって… る…?」



 もう言葉になりませんでした。嗚咽が部屋中を満たしています。立ち上がったアサシンの少女はもともと持っていたハンドガンの狙いを冷静に魔女アリスの頭に定めています。

ばんっ!

大きな音と共に扉が開かれました。泣きじゃくり、涙でぐしゃぐしゃになった顔で扉の方を見ます。

「…やっぱり、荒野を作った悪魔は君だったんだね、アリス」
「王子…様…?」

そこには王子様が立っていました。王子様の背後からたくさんの兵隊さんが部屋の中に入ってきます。

「ロゼッタも銃を下ろしなさい」

 王族の言葉は絶対でした。ロゼッタと呼ばれたハウスメイドの恰好をした女の子は銃を下ろし、いつものように少し気弱な感じのする顔つきに戻って王子様の後ろに戻りました。

「アリス… 君を無差別大量破壊の罪および反逆罪の容疑で逮捕する。ついてきてくれるね」
「王子様っ! ピエトロを、ピエトロを助けて! このままだと死んでしまう!」
「君さえついてきてくれるなら、治療を継続していく。来てくれるね?」

 アリスはずっと涙しながら、強く大きく首を何度も何度もうんうんと縦に振りました。すぐその場で包帯を持った兵士がピエトロの傷口に当て布をして強く縛り上げました。脈が弱くて今にも心臓が止まりそうです。胸を両脇からきゅっきゅと押すように心臓マッサージを始めました。法力を使える者がピエトロの生命力をサポートします。
 そんな甲斐甲斐しい治療が行われている中で主であるアリスは木で出来た手枷をはめられて部屋の外へと連行されていきました。

ポロッポーは外からその様子を見つめていました。




投稿者 クロクロシロ[34]
投稿日時 2008年05月02日(Fri) 14時28分13秒
新展開と言われてやってきました。
新展開すぎて誰も付いてこない気がしますし、もはや、誰も読んでいない気がしますが…。
それでも一応投下します。
三連続投稿です。

【32話】
「父上…今、なんて…?」

アリスの処遇をどうするのか、それを問いただすために、僕は父の前に立っていた。
そして、いつもは飄々と間抜けな父からの、思いがけない返答に僕は耳を疑っていた。

「魔女を、処刑する。そう言ったのだ、我が王子」

なぜですか!
そう聞きかけて、僕は口をつぐむ。
そうだ、僕は最近のありえない出来事で、アリスの突飛的な行動に耐性が付いていたけれど、冷静になって考えれば、アリスの起こしてしまった行動は、国家反逆罪を軽くしのぐ。
いくら、聖女の力で土地や建物、人への被害は無くせたといっても、現時点で国に仕えていない人間の持っていいべき力ではないし。
行使していい力でもないのだ。


『アリスはその禁断の力を使ってしまった。』


民に、民への被害さえ無ければ、王宮の中だけの被害だったら…。
この優しすぎる王はこんな決断をしなかったはずだ…。

くそ、父の耳に届く前に、僕がしっかりと根回しさえしていれば…。

いや、僕は……
僕は、アリスかもしれない、と。
そう喜んでいた。
喜んでしまっていた。
やるべきことも忘れて、ただただ、再会にうつつを抜かしていた…。

「どうしても、アリスを…森の魔女を処刑なさるのですか…?」

父は、いや、王は、その地位に居る者としての表情で、重々しく頷いた。

父上が、王でなければ。
きっと、決定を覆してくれただろう。
でも、王ゆえに、立場ゆえに、父は鬼になろうとしている。
僕が少なからずアリスのことを想っていると知りながらも。
王ゆえの責任から、父上は私情を挟めない。

自然と、握り拳を血が出るほどに握っていたのはなぜか…。
僕は、王への挨拶をすることなく、玉座を後にした。

なんだ、この気持ちは。
空虚感、焦り、それからそれ以外の何か。
かつて無いほどに僕の精神は荒れている。
なんで…。
なぜ。

手に入らんとしていた、魔法の力を失うからか?
玉座を手に入れる最短の未来図が壊れたからか?

違うだろ!

違う!!

…………。

もう良い。
自分の気持ちを偽るのは一旦やめよう。

「………アリス」

僕は、多分アリスに惚れている。

惚れている、そう。

そう仮定してみよう。

惚れている可能性があるだけ!

可能性だ。

確定じゃない、とりあえず保留。
そんな感じでッ!!

じゃぁ、惚れていると仮定して、僕はどうしたらいい。



……アリスに、アリスに会いに行こう。



投稿者 クロクロシロ[35]
投稿日時 2008年05月02日(Fri) 14時29分37秒
何連続になるか分からない連続投稿でした…。

【33話】

誰だ、この子は…。
そう、思った。
魔力を一切遮断する牢屋に入れられた少女は、僕の知るアリスでは無かった。

鉄格子に向かって悪態を吐き、壁でも何でも蹴りまくってる。
そんな彼女を僕は想像していたのに……。

僕の眼下に居る少女は、深くうなだれて牢の隅に蹲っていた。

「ア、リス…」

声を掛けても、返事は無い。
ただ、虚空に目を向けて、必死に何かを耐えるように、眸に涙を浮かべている。

こんなのは、こんなのは、ダメだ!
こんなのが僕の好きな人の姿だなんて、ダメだ!

「アリスッ!」

僕は、鉄格子を掴むように叫んだ。

「あ、あぁ…お、王子様…」

「アリス…」

僕は彼女と見つめあう。

少し前のように、照れくささは感じない。
僕は彼女の怯えた眸をまっすぐに、受け止めることが出来ていた。

「ピ、ピエトロが……撃たれて、私の力じゃ、治せなくて」

「わかってる、わかった。わかったから、だから……」

何が、わかってる、だ。
僕は何もわかっていなかった。
この少女の中で、あの使い魔、僕の友達の存在がどれだけ大きいものなのか。
どれだけ、この少女が、弱い子なのか、を…。
精一杯強がって、でも一人じゃ何も出来なくて、誰よりも寂しがりやで…。
世間知らずで、善悪もなにもなくて…。
教えてくれる人すら、近くには居なくて…。

それでも、ずっと生きてきた、少女。

彼女がどれだけ、愛しい存在なのか……。

わかっていなかった。

何もわかっていなかった。

でも。

それでも。

今、僕は気づけた。

気づくことが出来た。

だから、僕はッ!

「だからさ、アリス。安心してよ。ピエトロは絶対に助ける。アリスのことだって助ける。だから、そんな悲しそうな顔、しないで欲しいな。僕は、これでも一応王子なんだ、この国でけっこう、偉いんだよ。きっとなんとかして見せる。ううん、絶対何もかも上手く行かせるから。だから、もう少しだけ、我慢して。僕は行くよ。本当はずっと付いていて上げたいけれど、しなきゃいけないことが、ううん。誰かのために、したいことが、出来たんだ。だから、だから。待ってて」

彼女の驚いたような、そんな表情の変化を僕は最後まで見ない。
見ることなく、振り返って、僕は歩き出す。

ずっと付いていて上げたい。
強烈な誘惑を僕は振り払う。

牢を出たところで、自分の頬を張り叩いた。

パンと、物凄い音がして、牢屋番の男が振り向くけれど気にしない。

「まずは―――」

まずは―――ッ!





投稿者 クロクロシロ[36]
投稿日時 2008年05月02日(Fri) 14時33分16秒
【34話】

ガチャリ、と彼女にしては控えめに扉を開き、侍女に連れられて僕の自室に美女が部屋に入ってきた。

「アルファーネ、良く来てくれたね」

「王子様が自分から部屋に呼んでくださるなんて、初めてのことです、私感激して、もう、もうッ!」

僕は、にっこりと微笑んで、アルファーネに席に着くように薦める。
アルファーネが狂喜して席に着くと、侍女がいそいそと部屋を出ようとした。

「いや、ロゼッタ。君にも居て欲しいな」

微妙に、アルファーネとロゼッタ二人とも顔が引きつったのはなぜか…。
元々険悪な二人だとは思っていたけれど、やっぱり、背後に付いてる人たちが敵対してるから、かな。

ロゼッタはしぶしぶ、といった感じでアルファーネの近くに戻り、頭を垂れた。
座ろうとしない彼女をみて、僕は苦笑する。

「王子、話ってなんですの?」

微妙に不機嫌になったアルファーネが話を促した。
僕は、大きく息を吸い込んで、それから、なんでもないかのように言った。

「アルファーネ。力を貸して欲しい」

間髪居れず、アルファーネが返答する。
が、そうではないのだ。

「よろしいですわよ、私、元々王子の力になるために近くに……」

「違うんだよ、アルファーネ。母上にも内緒で、力を貸して欲しいんだ」

「ッ!?」

アルファーネは目を見開き、信じられない様な表情で僕を見た。
それだけではばく、ロゼッタも僕を凝視している。

王国、屈指と言っても良い戦闘力を誇る、彼女を僕が仲間として見れなかったのは、これが理由だった。
アルファーネは、母上の部下なのだ。

「いつから、気が付いていたのか、なんて陳腐なことは聞かないでね、最初から気が付いていたんだから。僕が、そんなに間抜けに見える?見えないよね。ずっと僕の守り人を、それから、こうなるように、と成長を管理してくれていたんだから」

「……………」

「元皇女親衛隊アルファルクス・シャーネ。貴殿に、母上を裏切って欲しい。」

「……そんな、こと」

出来るはずが、無い。
分かってる。
そんな事は分かっている。
親衛隊の隊長が、普通、守るべき対象を裏切れるわけが無い。
だから、僕は、人間が普通になれない感情を利用する。

利用…
する。

「無理は、承知、なんだ。でも、どうしても、救いたい人が居る。救うためには倒さなきゃならない人が居る。もう、気づいてるだろうけれど、僕はアリスを救いたい。だから、父を倒したい。ここまでは、君の任務ともずれない筈だ母上も父上が邪魔なはずだから」

王権を、息子を背負うことで掌握したいのが母上だ。
だから、父上は母上を僕から遠ざけた。
僕を、道具として見たくなかったから、なのか。
母上に王権を渡すのが嫌だったからなのか。
父上の気持ち分からないけれど。
僕達の生活から母上が居ない事実は、かわらない。

「でも、肝心なのは、すべてが終わった後、僕が王として立っていなきゃならない。母上の言いなりになるつもりは無い」

僕は、扉の方に回りながら、アルファーネに背を向け話す。

「………そんな、事」

「命令が一番?それなのに、命を掛けてまで、アリスに攫われそうになった僕を救おうとしたの?魔女の戦闘能力は魔法を使えない人間が圧倒できるものじゃないって、知ってるはずだよね?親衛隊の君が絶対に勝てない戦いを挑むなんてありえない、よね。アルファーネは僕のために、無茶をしてくれたんでしょう…?」

振り返り、彼女の目を見つめる。

「ち、違…」

「アルファーネが僕のことを任務関係なしに想ってくれている事、知ってる。ごめん。最初に謝っておく。僕は多分アリスの事が好きだから」

「ッ…」

「でも、もし、アルファーネが今のアリスの立場になっても、僕は必ず君を救う。救うために行動すると想う。僕はアルファーネのことが好きだから、その気持ちは家族に対するものに近いけれど、それでも、僕はこれから先、何かあったときに君を助ける」

「………だから、今は力を貸せ、と?」

「うん、断ってくれても、良いけれど。そうなった場合僕は君に決闘を挑む。負ける事は分かっていても、死ぬ気で掛かるよ。僕は、君がずっと守ってきた僕は、一応男だから。誰かのために必死になるのは今しかないと思う」

長い。
長い沈黙だった。
僕と、アルファーネは一瞬も目をそらすことなく、視線を重ねあう。

少しして、視線を離したのは、アルファーネだった。

「負けましたわ。王子。元、親衛隊アルファルクス・シャーネ。主君に背き王子のために尽力いたします」

アルファーネは、騎士の誓いのように、格好良くひざまづきながら、そう言った。

「ありがとう、アルファーネ」

アルファーネが僕を選んでくれたことが素直にうれしかった。

投稿者 クロクロシロ[37]
投稿日時 2008年05月02日(Fri) 14時34分11秒
【35話】

「さて、次はロゼッタ、だけど」

「私にも、王を裏切れと言うのでしょう?貴方を影からお守りする王直属の影の私に、裏切れ、とお願いするのでしょう?」

ロゼッタは、王家の人間に向けるべき態度を忘れ、僕への優越感で顔を歪ませていた。

当たり前だ。
今この会話を報告すれば、僕を反逆罪で摘発できる。
そして、ロゼッタはそれを躊躇う理由が無い。

彼女が僕を守っていたのは命令だからだ。
僕のことを心配して守っていたわけではない。
だって、彼女は王の命令で、僕の部下になろうとしていた、力強い味方を殺そうとしたのだから。
王が、僕が持つべき力じゃないと判断し、命令通りアリスを殺そうとしたのだから。

彼女は、王の命令に忠実だ。
懐柔できるタイプではない。

「お願い、ね?」

僕は、扉に背を向けながら、ロゼッタを試すように言った。

そこで、ロゼッタは僕の態度が微妙におかしなことにやっと気が付いた。

「………?」

「たとえば、君が見てきた、王子、僕という存在は、人間を人間として見ていない、情のかけらも無い、人の上に立つ上では完璧な、人形だったかもしれない」

僕は、腰につけている細剣を撫でながら、肩をすくめる。

ロゼッタは怪訝そうに僕を見る。

「でも僕は、完璧じゃない、出来損ないなんだよ。母上はそうなるように僕を教育したかったみたいだけれど、アルファーネは僕に愛情を注いでしまった。アルファーネは僕に、愛情を教えてくれた。だから、僕は人の痛みも、人の悲しみも、人の喜びも、理解できる。理解するには、人と接する時間が足りなかったけれど、アリスのおかげで、僕は人の心が人並みには理解できるようになった」

「それはそれは、喜ばしいことですね?」

ロゼッタは何を言い出すのかと、嘲りを含めた笑いを浮かべた。

勝手に笑ってろ。
僕はそう、思う。

「うん、喜ばしいことだよ。でもまぁ、今の君にとっては、残念なことじゃないかな?」

「………?」

「人間としての感情を不完全ながら、持つことが出来た僕が、大切な友人、ピエトロを殺されかけて、しかも、その敵を目の前にして、平静のまま居られると、思ったのかな…ッ!」

僕は細剣を抜き放ち、ロゼッタに向ける。

ロゼッタは驚くべき反射神経でスカートの下から、無骨な刃物を二つ取り出し部屋を見回す。
僕の意思をとっくの昔に掴んでいたアルファーネは部屋の窓側で拳を構え、僕は扉を背に、剣を構えている。
二人で、ロゼッタを挟み撃ちにしていた。

こうなったとき、この冷徹な殺し屋が取る道は、扉だ。
窓という脱出口はアルファーネがふさいでいる。
アルファーネの強さを知らない人間は少ない。
だったら、世間知らずの王子である僕を狙うのが普通だろう。

「どきなさいッ!」

ロゼッタは一応僕にそういってから、走り出す。
この辺り、王族への敬意は忘れていないらしい。
刃物を持って襲ってきている時点で赤点だが。

距離にして数歩、でも、僕にとっては必殺の間合いだった。

一瞬。

一瞬だった。
ロゼッタの二本のナイフを、僕は剣ではじき上げ、軽々と突進をかわした。
息つく暇も無しに、ロゼッタの背を回し蹴り、扉から弾き飛ばす。
うつぶせに転がったロゼッタにのしかかり、片手をひねり上げた。

「…ッ!?」

ロゼッタが意味も無くうめく。

「まぁ、当たり前だよね?箸より重いもの持ったこと無いんです。みたいな王子様がこんなに強いのは予想外だよね?でもさ、考えてみなよ、アルファーネと立ちあって生きてる時点で、僕も異常者の一人だと思わなきゃ。君、練習試合でアルファーネと斬り合ったことないだろ?だったら、拳の風圧が当たっただけで、吹っ飛ぶ身体、空中で砕ける骨、壁に激突して失う意識、とか経験してないよね?まぁ、確かに、誰かを殺す手段では君に勝てないかもしれないけれど、我が身を守る手段ではアルファーネにだって僕は負けないんだよ」

「な、な、な…ば、バケモノ…ッ!」

「さて、じゃぁ、お願いじゃなくて、とてもとても、これ以上なく公平な、交渉に入ろうか?」

僕は、にっこりと笑って、剣をロゼッタの首筋に当てた。


投稿者 クロクロシロ[38]
投稿日時 2008年05月15日(Thu) 21時40分49秒
何か、連続投稿で、やってしまった感がいなめないけれど…。
もうだれも、書いていないようだし、見てる人もいないし…。
好きにして、いいよねッ!(ぇー
他の作家の人たちの計画を破壊し続けて暴走する作家。
それがクロクロシロです。


【36話】


「良かったのですか?あのまま行かせてしまっても……」

侍女が部屋から去ってすぐに、アルファーネが口を開く。
彼女は僕がロゼッタにほとんど何もすることなく帰してしまったことが釈然としないのだろう。

僕は、窓を開けて、窓枠に手を掛けながら青い空を一瞥して、答える。

「問題ないよ、僕はこの世界で一番ではないけれど、ロゼッタよりは頭がいいからね」

僕がこともなげにそう言うと、ため息を吐いて肩を落とす人一名。

んん?アルファーネ的には殺したかったのか…。
まったく、性格の凶暴性は変わらないな。

ただ、今ロゼッタを殺されると面倒ごとが一つ増えてしまうのだ。
彼女が退場するのには時期がまだ早い。

アルファーネがやっぱり追いかけて殺してきます。
とか、言う前に、彼女には新しい仕事を与えよう…。

「それよりも、アルファーネ。持ってきて欲しいものがあるんだけど…いいかな?」

「それぐらいならお安い御用ですわ」

「結構きついと思うけれど……」

「あら、王子様。私はその気になれば家一軒でも運べますわ」

「うん、そうだね…………うん?」

「……王子?」

「…………」

「…………」

窓の外で、小さく鳥が鳴いた。

冗談んんんんっ!
アルファーネの渾身の冗談だからっ!
ほら、僕笑った。
僕、笑ってる。

ア、アハハハハハハハハハハハハ!!!

乾いた笑いって言う言葉の意味を実体験した日として、今日という日を僕は決して忘れない。

とりあえず、話を戻そう。

お待たせしてしまっているお客もいるわけだし…。

「ま、まぁ、僕でも持ち運べるものだと思うし、アルファーネなら問題ないと思う」

実際に僕が持ったわけではないけれど、見た目と機能性からしてそんなに重いものじゃあないはずだし。
問題があるとしたら………場所、かなぁ。

「えぇ。分かりました。それでどこに行けばいいんですの?」

まぁ、別に魔物がいるとかそういうわけじゃあないし…。
仮にでても、アルファーネなら本当に問題なく対処できるな。

よし。

そう心の中でつぶやいて、僕は口を開いた。

「魔女の森に」

投稿者 クロクロシロ[39]
投稿日時 2008年05月15日(Thu) 22時20分21秒

【37話】
気配無く、忍び寄る影。
音も無く廊下を失踪すると、豪華絢爛な扉に張り付き聞き耳を立てる。
影を動かすのは、使命感か、それとも復讐心か…。

『………まさら、魔女の森に行くのですか?』

『うん』

『私は構いませんが、あそこにはもう……魔女も、使い魔もおりませんわよ?』

『うん、知ってる。僕が持ってきて欲しいものは、アリスの使っていた槍だよ』

『槍…ですか?』

『そう、槍』

『いまさら槍が必要なんですの?』

『あの槍は普通の槍ではないよ、アリスの魔力が詰っているし…、何より僕の考えてる計画にはどうしても必要なんだよ』

『計画…ですか?』

『アルファーネとりあえず、僕の頭の中に浮かんでる計画を話すよ』

『はい、王子』

『ロゼッタは、僕が第一に玉座を狙うはず、そう思ってる、いや、思わせるようにした。わざわざお父様を倒す、そう宣言したからね』

『そうですわね…、私が彼女でも勘違いしているかもしれません』

『でも、僕の第一目標はアリスの救出なんだ。あんなこと言ったけれど、玉座なんてもう、欲しくないんだ。どこか遠い場所で僕とアリスとアルファーネ、それからピエトロ。ついでにあの怪鳥の3人と二匹で静かに暮らしたい。だから、アリスさえ助けてしまえば、僕はお父様を殺す必要がなくなるんだ』

『わ、私も一緒に……?』

『あ…嫌なら、残念だけれど諦めるよ。アルファーネは腕も良いし器量もいいから…いくらでもこの国で生きていけるだろうし…。わざわざ大変だと分かってる国外に行く必要、無いもんね…』

『そ、そんなッ!一緒に連れて行ってください、いえ、行きます!行く!!』

『わ、分かったから、お、落ち着いてアルファーネ。それで、必要なのがあの魔法の槍なんだ』

『話が、私には見えません……』

『アルファーネは見た?人が、統制下の鳥に乗って空を自由に飛ぶ姿を』

『……?』

『国王軍、ううん、多分外国だって、空からの敵に対処するすべなんて持っていないんだ。兵隊は魔物との戦いに慣れてない。というか、そんな訓練しない。なぜか分かる?』

『人間による魔物の調教が、不可能だからですわ。だから、この国も諸外国も魔物を軍馬のように利用しない。いいえ、できません』

『うん、彼らは人よりずっと気高く崇高な存在だから。僕らなんかに従わない』

『王子、まさか…』

『アリスが処刑されるその日に、僕は空からアリスを救いに行く』

『……でも、使い魔というものは……契約を結んだ人物の言う事しか聴かないもの。王子の言うことを聴………まさかッ!』

『気づいた?だから、アリスの魔力の詰った槍が必要なんだ。あれがあれば、あの鳥の使い魔を使役できるはずだから』

『……王子』

『言わないで、アルファーネに言われたら耐えれない。……分かってる。何でも利用するのは良くない。使い魔って言うのが主との契約をどれだけ大事にしているかも知ってる。でも、ロゼッタ…お父様を出し抜くにはもうこれくらいしかない…ないんだ』

『…………』

『それに、アルファーネ。僕は君にもっと最低なお願いをしないと、いけない』

『…………』

『必ず、合流する。だから、アリス処刑の日、真正面から国王軍に一人で攻めて欲しい』

『ッ!…囮…ですか?』

『僕らが、空から君と合流するまでのほんの少しの間で、良いんだ』

『………………御意のままに』

コツコツコツ、と扉に近づく足音を聞いて影はニンマリと口を曲げながら、扉からはなれる。
着た時同様、音も無く廊下を疾走し、曲がり角を曲がると、影はそこで乱れた服装を正した。
先ほどまでのただならぬ気配は一瞬で消え去り、そこには気弱そうなただ一人の侍女が立つのみとなった。
口元だけが、押さえ切れない狂喜にゆがんでいた。




投稿者 れいちぇる[40]
投稿日時 2008年05月16日(Fri) 02時25分42秒
おー… 大変なことになっている…
誰が想像したでしょう、魔女が王子様に恋しただけでこんな国を揺るがす大事件になるなんて。

オジサマ好きの聖女だとか、ゾンビ部隊だとか、核だとか、アサシンだとか、魔獣だとか、国軍だとか。なんだこれ、大丈夫なのか?

すごくハチャメチャ。だが、それがいい…っ!


ちなみに

アグァ・イスラさん(スレ主様):投下数8
れいちぇる:投下数16
クロクロシロさん:投下数10
桜雪木乃さん:投下数3
しぃさん:投下数1

…申し訳ございません。
クロクロシロさん、ご心配は無用です。不肖れいちぇるが大量投下しはじめているころから、参加者様がいらっしゃいませんから(涙
展開を阻害しない程度に、そっと爆撃っと。

【38話】

「いや別にそんなんせんでもゆーこと聞くでしかし」

 王子様とアルファーネが密談をしていた部屋の外の背の高い木の辺りから声がしました。しかし声の主が見当たりません。
 よくよく見ると枝の先っちょに白いハトが一羽止まっていました。

「いやしかし、ピエトロ撃たれよったからなぁ… ありゃあ敵わんでマジで。ウチはいっぺんやられとるからのぉ、厳しいで」

…ポロッポー? 何故関西弁なのでしょう。それに、実は雌だったと言うのでしょうか。なん… …だと…?

「アリス様は地下牢やし… ウチは入れんからなぁ。何とか王子さんに頑張ってもらわんとあかん。難儀な話やで」

 超聴力と鳥ならではの視力で、彼らのやり取りをまるで部屋の中に居たかのように把握していました。少しすると王子様と一緒に居た美女が部屋を出て行きました。それを見てポロッポーは一度うなずき、軽い羽音を立てて飛び立ちました。

「ウチもアリス様ン家(ち)に居った方がええやろな。探すの面倒やろうし。王子さんの計画、よりドラマチックに演出たろか。その方がウチの株もあがるやろうもんな。
…あの女もちょ〜っとビビらしたろ。かわいいお顔がどうなるか楽しみやわ〜」

…怖いもの知らず、とはこのことです。ちょっとヤなハトの運命は一体どうなるのでしょうか。
触らぬ神になんとやら。

「…にしても、わざと… やろな。あの王子さんも何考えとるかようわからんで」


羽ばたきながら呟きます。

「ピエトロ撃ったヤツがタダで帰るわけないやろ。知っててやっとるとしか思えん」

少し心配したような、これから起こることを危惧するような声でした。
ところがすぐにあっけらかんとした口調に戻りました。

「やっぱり素直でわかりやすいアリス様が一番や。婿さんイジメしたらなあかんな」

…やっぱり少しヤなハトでした。


投稿者 れいちぇる[41]
投稿日時 2008年11月01日(Sat) 21時54分21秒
 れいちぇるです、こんばんはー。
 投稿が途切れてからもう少しで半年…。このまま風化しちゃうんですか?
 させないぞ?

【39話】

「まったく、こんなのが使い魔なわけ?聞いてたのと全然違うじゃない」
「そんなものですよ、語り伝えなんて。ボクだって成って初めて使い魔というものを理解したんです」

 森の中を、長いストレートヘアーの女性が白いハトと一緒に歩いていました。ハトが喋っている時点で非常におかしな光景ですが、もっとおかしなことにその美女さんは大きな槍を肩に担いだまま、顔色一つ変えず、息一つ切らすことなくすたすたと歩いていました。

「ポロッポーって言ったっけ?アンタもそんな名前でいいの?」
「うーん、本当ならもっと違う名前の方がいいんですけどぉ、アリス様が勘違いして」
「変えてって言えば?」
「でもほら、使い魔ですから。主人の決めたことに従わないと」
「…ヘンなところで律儀なのね」
「変えてもらえるのなら『ルシャトリエ』とか『マクスウェル』とか」
「…ポロッポーの方が良いわね。可愛くない」
「えーっ 可愛さは使い魔に必要ないやん …ないじゃないですか」
「地が出てきたな?」
「じゃあ、『シャルル』とか」
「やっぱポロッポーが良いわよ、ってかごまかしてるな?」

何のことやら、とポロッポーはとぼけました。なかなか良いコンビです。

「自分の本名は『アルファルクス』でカッコいいのに」
「それがヤなの。だからアルファーネってやわらかくしてんの。…初めてそう呼んでくれたのがうちの王子なのよね。母様も父様も『アル』って呼んでくれてたけど… 男の子と大して変わんないじゃない」
「で、好きになったと」
「ばっ… んまぁ、それもそうだけど…」

 あーやだやだ。聞いてるこっちが恥ずかしくなります。まだまだここは深い森の中。魔女アリスのお家からお城までは馬の足でも半日かかる距離があります。それをアルファーネは一人で歩いてやってきました。道中何があるのかわかりませんし、そして今回の目的を他言されたり、これから王子様とやろうとしていることを悟られたりするようなことがあってはいけません。細心の注意を払って、時間はかかってしまいますが徒歩ということになりました。王子様の指示通りです。

「で、結局はこの槍が無くてもポロッポーは協力してくれるんだよね?」
「ええ」
「それに全部聞いてたんだよね?」
「ええ」
「じゃあ何であの場で出てきてくれなかったの?結局私の草臥れ儲けじゃない」
「このくらい別に問題ないでしょ?…あー、ダル。いつも喋らんようにしてたから丁寧に喋るの疲れるわ」

 とうとう本音が出ました。どうも関西弁口調なのが普通のようです。どうして魔女の半壊したお家で待っていたのか流暢にぺらぺらと説明しはじめました。ただし速すぎて、聞くのに集中してやっと理解できるような速度でした。本当に良く回るお口でした。
…いえ、関西人への偏見はありませんよ?ええ、ミジンコほどもありません。

「…ヤなハトね」
「お互い様な」
「それで最初から戦闘モードに変身してたわけか…」
「ビビるやろな、って思ったんやけどな。まさか臆せずウチに向かって幹からへし折った木を投げつけてくるとは思わんかってん。そんな度胸のあるヤツに中途半端な事しとったらこっちも危ないやん? 仲良うしよな」

結構調子のいいハトです。ですがアルファーネも嫌な顔一つしません。名コンビ誕生の予感です。

「…で、初めから聞いてたなら知ってると思うけど…」
「何や?あのピエトロ撃ったメイドさんか?」
「どう思う?」
「どう思う?って、そっちはどう思ってるンや?まあ可愛いメイドさんからはちょい遠いな。顔かたちやなくて、陰気ゆーか、明るさが無い。アルファーネが明るすぎるから足して2で割ったらまだちょっと明るすぎるくらいやな」
「あはは… そんなんじゃなくて」
「ん。間違いなく聞いとる。王子さんも気付いとる。間者にあえて聞かせるなんて、何考えとるんやろな」
「そーよね… 王子のことだから良い策があってのことなんだろうけど…」

……

 一抹の不安を抱えながら、大きな槍を担いで美人さんが深い森を行きます。
 その森は本当に深くて、人が入ってくるのを嫌っているかのようでした。葉っぱはまだまだ青々としていて、日の光を遮ります。もうちょっと日が傾いたなら、茂った葉っぱで出来た陰が森の中を埋め尽くしてしまいます。真っ暗になる前に少しでも先に進まないといけません。出来るだけ急がないといけません。

「でも… このまま私が間に合わなければいずれにせよ王子は」
「それしたらウチが許さんで? 王子さんも二度と許してくれんやろ」

そうよね、と悲しく呟いて、大きな槍を担いだ美人さんが森の中を歩いていきました。

投稿者 クロクロシロ[42]
投稿日時 2008年12月25日(Thu) 14時29分59秒
PC壊れて買い替えて…。
お金が湯水のように飛んでゆく……

【40話】

一日数刻だけとられる、国民との謁見の時間。
謁見の間へと続く道を歩きながら、王はすぐ後ろを音もなく歩く侍女に問いた。

「以後、王子はどうしている?」

侍女はほんの一瞬ためらい、それからすぐ口を開く。

「自室に篭られておられます。腕利きの衛兵が入口を………『護衛』、しておりますが、王子は一歩も外へ踏み出ておられません」

侍女、ロゼッタは、一度そこで区切ると、王の表情を伺いながら、続ける。

「というのは、間抜けな衛兵の言で、実際は夜な夜な窓より怪鳥に跨り出かけております」

王は何も言わず、目の周りのしわを深くし、ロゼッタに先を促した。

「深夜の空、ということもあり、追跡は困難を極めております。……足取りがつかめない、わけではないのですが、ただ、王子の行方がバラバラ過ぎて、真意が掴めないのです」

「ふむ?」

「最初の晩は城下の上空を飛んでおられました、これは例の王子の計画のための町の下見だと思われていましたが、それ以降は、森へ飛んだり、農園へ飛んだり、牧場へ飛んだり、兵舎へ飛んだり。めちゃくちゃなのです。とりあえず、降り立つ姿は確認できるのですが、降り立った後、王子が何をしているのかは掴めません………。地を歩き移動している可能性もありますから、本当にそこに用があるのか、我々を混乱させるための行動とも取れますし………。何分近づきすぎますと使い魔に気付かれる恐れがあります。そうなった時に、地を走るしかない我々には逃げきることは不可能で……いざ戦闘になった場合傷つけることなく王子を拘束できる戦闘能力を持つ人員は我々のなかにおりません」

二名でチームを組み、予め当てずっぽうに国中に散り王子の行方を探る自分たちでは、王子との戦闘に突入した際に人海戦術が使えない。
二人だけでは、無傷で拘束するどころか、殺す覚悟をもってしても、実は王子をしとめる事など出来ないと、ロゼッタは気が付いていた。
もし、王子を確実に、間違いなく暗殺するのならば、自分と同等か、それ以上の戦闘能力を持った人間が十人規模で必要だろう。

「あれは、聡い子だ、意味無きことはするまいよ」

ロゼッタの苦悩を知ってか知らずか、王はそんなことを口走る。

王は、誰よりも王子の聡明さを理解しているのだった。
何せ生まれたときからずっと親として、そして王として、二つの視点から見てきた対象である。
その有用性、そして危険性を何者よりも先に気が付いていた。

「ですが、聡い王子だからこそ、本当に国を相手に勝てると信じ込み、実現できるはずのない突拍子もない作戦を無駄に考えているのかも知れません」

王はロゼッタの言葉に苦笑する。
この娘は王子を過小評価し、先日手痛い敗北をしたばかりだというのに、それでもまだ王子を軽く見るのか、と。

王の表情を読んだのか、少しばかり罰の悪そうにロゼッタは視線をずらす。

「いずれにせよ、我々には聖女による王都広域結界があります。当日、もし王子が計画通り、魔女を助けに来ても、聖女の結界で空からの脱出は不可能、地を這う個人など、いくら強くても歩兵で鎮圧できるでしょう」

ロゼッタの言葉に、今度ばかりは王も頷いた。

王もそれに対しては絶対の確信があるのだ。
聖女がいる限り、空からの脱出は不可能である。
幾度となく、この国を襲った天災から、国土を人々を守ってきた結界である。
神の怒りすら防ぐ最高の盾を貫ける矛など、この世に存在しないだろう。

仮に、たとえ聖女が殺されても、王都広域結界は聖女の亡骸から魔力が消えるまで維持され続ける。
窮鼠の王子が苦し紛れに聖女を殺しても、彼らが逃げ出すことはやはり不可能だった。

となれば、やはり。

「魔女の力、か」

「はい。おそらくは。救出した後の魔女の力をあてにして脱出するつもりなのでしょう」

「魔女の持つ、矛が聖女の盾を貫くか…それとも」

投稿者 クロクロシロ[43]
投稿日時 2008年12月25日(Thu) 14時32分03秒
連続投稿ー
誤字脱字はご愛敬で…。

【41話】
魔女の処刑。
城下に住む民たちの話題がもっぱら一人の恐るべき力を持った少女の処刑の話になる一方で、例の怪鳥が夜な夜な巨大な槍をもった王子を乗せて国の空を飛び続け、王子自らが槍を振い生きている動物を無差別に殺しまわっている、そんな噂が真しやかに流れていた。

城下の民々の噂もお構いなしに、王子は城内歩いていた。
向かう先は今もなお苦痛と闘い続ける大切な友人の元。
体は小さく、でも勇敢でそれゆえに負傷を負った、騎士。
王国の治療師たちの話では、治療の工程は芳しく無いらしい。
当たり前だ、巨大化しているときならいざ知らず、あの小さな体で人ですら死にいたる礫を受けたのだから。

「…ピエトロ」

王子の口から意図せずしてその名前がつぶやかれる。
同時に歩く足も王子の気持ちを表すかのように速度を上げた。

心なしか、すれ違う侍女たちは皆、一様に王子を警戒している様に感じる。
少し、歩く速度を上げただけでこれだ。

「すごいな…、意識して見てみると、こんなに普通じゃない侍女がいたのか…」

自分たちの生活を世話する侍女たちに、裏の顔があるのはまぁ、分かる。
王子や王と接する機会が多いからだ。
何もできない侍女です、では有事の際に対応できない。

しかし、こうも、王子が今日初めて見たよこんな娘みたいな侍女までが、裏の顔を持っているとなると、王の警戒心は並々ならぬものなのかもしれなかった。

侍女すべてにまで警戒する騎士たちはいない。
刺客どころか、一個小隊、いや中隊が城内に進入しても苦もなく撃退できるのではないだろうか。
油断した人間を倒すことはたやすい。

「これは、迂闊に外じゃ口も開けないね…」

端からそんなところでミスなんてしないけどね、と王子は内心思う。
アルファーネにすら、すべてを話しているわけではないのだ。
だれも、自分の計画すべては把握できていないだろう。

「………」

王子の心がわずかに陰る。

アルファーネは、僕が計画のすべてを話していないことを知ったらどう思うだろうか…。
裏切られたとか、信用されてないのか、とか。
傷ついてしまうだろうか…。

「話すべき、だろうか…」

王子は何度も自分の中で会議にかけた議題を今さらに持ち上げる。

アルファーネになら話しても、問題はない。
そこには揺らぐことのない信用が確固としてあった。
しかし、信用しているからこそ、話さない方がいいこともある。
自分が欺きとおさなければならないのは、父上だけではなく、母上もだった。
だったら、母上と接点を持っていたアルファーネには話すべきではない…。
理性はそう告げる、何があるか分からないのだから、と。
でも、心は……。

「自分がアルファーネだったら知っておきたいけど…自分が王子だったら話さない」

当たり前のことを口にだして、納得する。
城内の事情がこの通りだから、口にしなくても結果が変わらないのなら問題はないだろう。

と、王子の中ではいつも通りの議決と相成った。

「こ、これは、王子。」

呼ばれて、王子は気がつく。
思考に没頭している間に、いつの間にか大聖堂の治療室にたどり着いていた。

「お見舞いに、ね」

いつものように入ろうとする王子を、衛兵はバツが悪そうに言う。

「い、今はおやめになった方がいいか……」

悪い予感を感じて、王子は衛兵の静止を最後まで聞くことなく飛び込むように治療室に入った。

投稿者 クロクロシロ[44]
投稿日時 2008年12月25日(Thu) 14時35分16秒

【42話】

「あら」

と、妖艶に言う、その人。

「なんで、おま……貴女がここに…?」

内心の動揺を隠しきれず、王子は薄く混乱していた。
ここは、治療室、それは間違いない。
そしてほぼ真ん中に位置する石版の上には痛ましい友人の姿がある。
弱々しいながらも、確かに生きている、その小さな生ある塊。
そこまではいつも通りだった。

だが、普段なら四方から治療師たちがピエトロを囲むようにしているのに、今、治療師たちの姿はなく。
石板の前に、王子の前に、美女が立っていた。

聖女。

と王子は口にせずその名を告げる。

王子の認識ではこの美女がピエトロの場所に顔を出すことはあり得なかった。

王子は再び思う。

なぜ、ここに。

「大聖堂は私のテリトリーよ。私がいるのは当たり前、あなたがいるのが異常なの。あなたのお父様には大聖堂に近づくことを止められはしなかったのかしら?」

「……王は命を労わる行為には寛容ですから」

「反吐が出そうなほど、甘々国王ですものね?」

普通なら王族不敬罪で、罪になる可能性がある発言も、この美女がいえば大した問題にはならなかった。
国を影から支える一人。
王だけでは国は守れないが、この聖女がいれば王がいなくても『国』は守れる。

「何の用があって、ここに?」

再び王子は油断のない瞳で聖女を見つめる。
自然と片手が鋭剣に伸びる。

聖女はそれにこたえるように、薄く、嘲るように、嬲るように、嘲るように、笑って、言う。

「私、猫って嫌いだから」

瞬間、キン、と王子は聖女に細剣を抜き放った。

「…離れろ」

聖女は余裕の笑みを崩さない。

「王子ごときが私に剣を向けてただで済むと思って?」

権威的に、そして性能的に、あらゆる面で聖女は王子より優位だった。
こんな場面を誰かに見られたら、王子は終わる。
自然と視線が開け放たれた窓に向く。
中庭の園庭の一角に白いハトが止まっているのが見えただけだった。

王子は薄く笑って、言う。

「この距離なら、どんな魔術を発動しようが、剣のほうが早い」

「私は、普段から防御の魔術を張っ……」

「アリスの魔力を宿らせてるこの剣なら、その薄い防御膜も破れる」

「…………」

一歩王子は聖女に近づく。

聖女は肩をすくめて、王子の言うようにピエトロから距離をとった。
それでも、治療室からは出ていかず、あくまでも王子より猫から距離をとっただけだった。

「……そんな態度でいいのかしら。その死にかけの猫。私なら救えるのに」

聖女は意地悪く、王子に笑いかけるが、王子は誘いに答えない。

「聖女ごときに救える命、僕でも救ってみせる」

「ウフフ、アッハハハハ。どうやって?ねぇどうっやって?魔術の魔の字も知らない餓鬼が?」

「あんたが景気よく使った治療式はもう頭に『入ってる。』だからここに来た。」


初めて、聖女の顔に変化が起きたが、王子は構わず続ける。

「治癒術を使えるのはあんただけじゃなくなる。それを、今ここで試す」

だから、出て行け。
と王子は聖女に言い切った。

「フフ、フフフフ。アッハッハッハッハッハッハ。私に対して、そんな態度、国王ですら取れないのに。剣は抜くし嘘はつくし本音は言わないし。可愛く育ったものね?王子サマ」

聖女は、すう、とピエトロに手を翳し、一瞬目をつぶる。
それから、自然な動作で王子の頭に手を置いた。

驚いた王子が反応する前に、頭を優しくなでて、聖女は微笑みを残し治療室を後にした。

居なくなる直前、聖女は声にはださず一言だけ残して行った。

「…………」

聖女がいなくなってすぐに、白いハトが王子の肩に止まった。

「ピエトロが治うとる。ホンマに王子、魔術使えるようになったんか?」

「そんなわけあるわけない。魔方陣が覚えれても、ここには魔力なんてないからね」

「さっき、ご主人の魔力が剣にはやどうとる言うとったやんけ」

「王族って嘘つくのが仕事だから…」

「あー、だから聖女のあの言葉な、全部気付かれとった上に情けまで掛けられたわけかいな」

「それはちょっと違う、と思う」

珍しい、というか。
こんなことが自分たちの間に起こるわけないと思っていた。
でも、起こった。

王子は微妙に赤くなった頬を隠すように怪訝そうな顔のポロッポーを叩いた。
鳥の表情なんてしらねーけどね?

投稿者 れいちぇる[45]
投稿日時 2009年03月11日(Wed) 21時05分43秒
 こんばんはー。なにやらかなりシリアスな雰囲気が漂っていて、どーしたものかと悩んじゃいました。今回のわたしの投稿分ではお話は大きく動きませんが、これからどうなっていくのかとwktkです。



【第43話】

 大聖堂の治療室へと続く長い廊下を、金糸の髪と碧眼をもつまだあどけない少女の面影を残した美しい女の人が歩いていきます。

「…私も甘くなったものね。さっき初めて見た魔物を治すなんてね。しかもアイツの」

 ぽつりと呟きました。隣に控える背の高い兵が答えます。

「…それこそが聖女と言うものだ。本来の、な」

肩をすくめて聖女様は笑いました。

「あの女がこのまま廃人同様に成っていくのを見ても何も面白くもないものね。アグディール戦線の奇跡の借りを返せないと、私自身が許せないし」
「…あれはお前が悪い」

 ふん、と鼻で笑い返して、背の高い兵が戒めるように聖女様に言いました。なにやらこの二人の間柄にはただならぬ物がありそうです。

「それにしても、お前の聖なる力なら別にあの黒猫が死してからでも復活させられるだろう? 魔女確保の詳細な知らせを受けた後、何もあのように血相を変えて急いで大聖堂に戻らずともよかったと思うが…」

 確かにその通りです。たとえば最悪ピエトロを助けることができなかったとしても、王子様が聖女様の力にすがれば魔女アリスを奪還した後でも蘇生させることが可能のはずです。
 ですが今回隣国に大使として出向いていた聖女様は、お仕事途中で急いで王国に戻ってきました。そして捕らえられた魔女の今の姿を見るやいなや、誰に何と言われたわけでもなく真っ直ぐに大聖堂に向かっていったのです。これは誰がどうも考えてもおかしなことでした。
 これだから魔法に疎い筋肉マンは…、とでも言いたそうな感じの聖女様が教えてくれました。

 魔女アリスのようないわゆる「魔法使い」の使う魔法は、「魔力」によって物事をいびつに変化させるもので、たとえば燃やしたり、冷やしたり、空間をゆがめて遠くにあるものを近くにまで引き寄せる、いわゆる召喚ということを行ったりするものでした。
 それに対して聖女様の「聖なる力」とは変化させるものではなく、そのものの持つ力を強化するような作用があるのです。なので傷ついた者や物はその傷が癒され、失われた命も引き戻しつなぎとめることが可能なのだそうです。
 ですが聖女様のような「聖なる力」はもともとある魂をつなぎとめることはできても、「魔力」によって元の魂から作られた擬似の魂を再生することはできず、生き返ったところでそれは「魔力」の影響を受ける前の、まったく別の存在となってしまうのです。

「いい? 魔法も万能ではないの。たとえ私の空前絶後で超絶強力無比な聖なる御力だとしても、できないことはできないの。それを理解して、はじめて力の何たるかが分かるっていうものよ」

 お前は聖女が何たるかを知るべきだったな、と皮肉を言われてもニヤニヤとしたまま動じませんでした。ここは大聖堂の治療室から真っ直ぐ伸びる長い廊下です。二人の足音だけが響いていました。ちょこっと足を止めて、ふっと長い廊下の先にある出てきた扉を見遣りました。

「…さて、猫は助けてやったわよ。あの魔女はあなたが助けるつもりなんでしょう? これをどう使うかは王子、あなたに任せるわ。どっちに転んでも私にとって面白い見物になるのでしょうけどね」

 大聖堂の一室で苦悶の表情から解き放たれた黒い子猫を撫でながら、王子様は迷っていました。ピエトロが助かったことを教えるべきか、伏せるべきか。王子様の計画は大きな転機を迎えていました。





「…それにしてもネコが嫌いとは知らなかったぞ」
「ザラザラした舌で舐められたら痛いじゃない」

うん、確かにそうだけど。


投稿者 れいちぇる[46]
投稿日時 2009年04月16日(Thu) 22時40分20秒
 こんばんはー。
 王子様の作戦がまだ自分の中で見えていませんので、このお話を佳境に持って行くことができませんでした…
 でもサイドストーリーならまかせとけ! てな感じでまた投下させていただきます。


【第44話】

「歩兵の群れに単騎突入、ねぇ…」

 長いストレートヘヤーをした、それもないすばでぃーな、見る人の心を惹くような美人さんが机に肘をついて窓の外を見ながら呟きました。お酒の瓶が転がっています。

「ホントなら魔力を封じた魔女の処刑ごときに国王軍が総出になるわけないけど… 漏れてるんだろうなぁ、っていうか漏らしたしなぁうちのバカ王子…」

 今度は机に突っ伏して大きなため息混じりに嘆きました。机の上にきれいな藍鉄色(←注:ググれ)の髪が広がります。

「もう私もグルだってばれてるんだろうなぁ… 何で捕まえにこないんだろうなぁ… 王子は堂々と城にいなさいっていうけどなぁ…」

 執行の日まであと2日。国が誇る代表的戦力といえば聖女様の御力と、とても信じられませんが今ここで倒れている細身の美人さんの双拳です。この二巨頭で国の有事は大抵なんとかされてきました。身柄を確保しにくるような身の程知らずがいるとは思えません。
 それに王国側としても自信がありました。たとえ実戦経験の乏しい平和ボケした王国の軍隊でも数が群れたらそりゃあもうエライ騒ぎです。英雄がひとりふたり居ようとも、圧倒的な数に物を言わせた軍勢の前では時間の問題。そのことが分かっているので美人さんはずっとクダを巻いていました。

「あのオジサマLOVELOVEロリ聖女は多分何もしてこんやろけど… あたしゃ人間やで?!」

 伝染(うつ)ってる、伝染(うつ)ってる! ポロッポーからこんな短期間で! 酔った勢いなのかもしれませんが、なんだかすさんだ感じです。机の上に顎を乗せたままコルクで栓をされた次のボトルに手を伸ばします。コルク栓ということに気付いていないのでしょう。瓶の頭を右手で握り、回転式の蓋をあけるようにひねりました。

 ビキッ! という音とともにボトルの首がもげました。あらー、じゃないです。こっちはgkbrです。一人で十分軍隊と渡り合えそうな気がしてきました。空になったグラスにお酒をなみなみと注いで、ぐいっと飲み干します。誰も聞いていない独り言が続きます。

「王子のことだからこの作戦で私に話してないことなんていっぱいあるんだろうケド、ただ暴れてやればいいのかしらね… ってか、本気だしたら負けるわけ無いじゃん。相手が魔女とかカンケーねーし! あの時は油断しておっちんだ、とか恥ずかしくって言えるわけないっスよ…」

 ビミョーに王子に言われたことを根に持っているようです。というか、酔ってるせいで話の内容がとびとびでぐちゃぐちゃです。

「三人と二匹で静かに暮らす〜? なーんで私が頭数に入ってんのよぉ。王子エロ〜い。ハーレム気取りってやつ〜? アレの時とかどーすんのよ〜? えー、あたしゃヤやで〜。3○とかありえんしー」

コラ! 誰か止めろ! はやく! ナイス、アサシン! はやく…あわわ、肉塊が!

「…フッた男の手助けなんて、やめちゃおっかなぁ」

 突然現れた刺客を片付け、ちょっと冷静になったようです。しっかり王子の計画の一端が伝わっていることの証明にもなりました。
 机に戻ってお酒を注ぎなおし、きゅーっと喉に流し込みます。もう立派な飲んだくれです。また顎を机に乗せて、何気なく窓の外を見ました。月明かりの中、大きな影が遠くに飛び去るのが見えました。その背中には大きな槍を携えた者が乗っていました。酔っ払っていてもそれが何なのか彼女はしっかりわかっていました。

「…バカ、バカ。バカ王子…」

 窓とは反対の方に顔を向けました。同時にこぼれたしずくが跡を残します。しばらくくすんくすんと鼻を鳴らす音がしていました。突然ばっと立ち上がって窓を開け放ち、大きな影が飛んでいった方角に向かって叫びました。

「私が死んだらロリ聖女にすがって、絶対生き返らせろよバカヤロォオオオオオっ!」

 静まり返った真夜中に、一人の女の人の声がこだまします。息を切らせた美人さんは窓を閉め、また一人で寂しそうにグラスにお酒を注ぎました。


投稿者 クロクロシロ[47]
投稿日時 2009年04月18日(Sat) 00時22分13秒
投げっ放しでごめんなさい。
れいちぇるさんが一緒に書き続けてくれている事を失念していました。
良いとこ全部持って行ってしまう感じがしてちょっと、気遅れしていたのですが…。
気遅れするなら思わせぶりな作戦をほのめかす前にしろーって話ですよね…。申し訳ない;;
とりあえず、書ける時間を見つけて、もうぐんぐん進めちゃいます。
最終話とか、勝手にやっちゃっていいのか分からないけれど…。
物語である限り終わらせないと意味がないと思いますので。
クロクロシロはこの話を勝手に終わらす事にします。
書き足りない人は早いうちにぐんぐん話を展開させていくのがいいかもしれません。

投稿者 クロクロシロ[48]
投稿日時 2009年04月18日(Sat) 00時22分52秒
【45話】

下準備は整った。

今日の正午が魔女…アリス処刑の日時だ。

「なんとか、間に合ったね…」

本当にぎりぎりだった…。
あれだけ大見得切っておいて、間に合いませんでした。
とか、ちょ、タイムアウト!とか。
無いよな…。

情けなさすぎる自分がやけにリアルに想像できるのはなぜだろう。
幸先悪いにもほどがあるっての。

「…たく」

幾晩も行動を共にした槍を改めて握り直す。
魔力の片鱗すら感じさせない無機質な材質の槍は確かな重量感を掌に伝えてくる。

残された魔力の絶対量を測れなかったために、予行練習の一切は行えていないまま魔槍はその力を放出しきってしまっていた。

これじゃ、ただの槍と変わらないな…。
ただ、実際がどうであれ、父上や国民にとってはこれが魔槍であると、認識させなければならない。
まぁ、不安なことばかりじゃない。
ピエトロが助かったのだってその一つだ、彼が動ける事で計画の重要な部分に大きな効果が現れる。

「成功率は、ちょっと計算できないけどね」

いろいろな要素が組み合わさって完成した下準備が、いざ本番でどう動くか。
卓上では間違いなく成功をおさめるけれど…。

「せめて、アリスの今の状況がもっと正確にわかれば…」

アリスの精神・身体的な心配はもちろんのことだが…。
問題はアリスが魔法を使えぬよう、どのような対策がなされているかだった。

ほとんど個人で国と戦うという枷は大きい。
どうしても作戦成功にはアリスの魔法が大きくかかわってきてしまう。
いざ処刑されるとき、アリスに魔法対策を何かしらしているはずだが、それをどう越えるかにすべてがかかっていた。

「魔法対策の対策か。」

処刑数日前から、処刑場につくその瞬間まで、罪人がどうなっているのかは処刑を行う者たちと王以外知ることはできないのだ。

「王族ですら頂点に立つものでなければ確認できないだなんて…」

王族の誰かが過去に処刑の瞬間問題を起こしたとしか思えない法だ。
まったく、先人も面倒なことをしてくれる…。
事が終わったら、そのことについて調べてみるのもいいかもしれない。
もしそいつの、墓だかなんだかが残されてたら蹴り壊してやる。

あんたのおかげでハードル上がりましたよってね。

「やっぱり、ぶっつけ本番か」

本来だったらこんな行き当たりばったりな手段、自分は使わない。
でも、それでも強行するのは、時間がないというのもある。
しかし、それだけじゃない

実は、アリスの魔法封じにある程度は予想がついているからだ。

ただ、予想がつくということは、予想が外れた時に混乱してしまうという面も併せ持ってしまう。

だから、どのような事態に陥っても考えるのをやめてしまうのだけは頂けない。
自分は考え続ける。
それが、みんなの命を預かる責任だ。

自然と出た溜息は今日で何度目か。

「偉そうなこと言っておいて、僕も結局不安なんだよな…」

盤上で競う競技とは違って、実際に命を落とすのは敵味方どちらにしたって、自分の知っている人間で、そうなったとき自分はどうするのだろうか。

上に立つ者の重圧。
それがこれほどだなんて、思ってもみなかった。

頭の回転が上がるよう、適度な空腹を保つために朝食を少量にしたというのに、ものすごい食べた後かのような吐き気が体中を駆け巡る。

「くそ……父上はこんな世界で戦っているのか…」

いや、もっと…か。

いずれにしたって、今日という日は着てしまった。
もう、あと戻りはできない。
ならどうする。
横道に逸れて、家族ごっこを続けるか?
アリスや、ピエトロ、ポロッポー、アルファーネを裏切って?

ありえない。

突き進むしかないさ。
突き破れない壁があるのなら、扉とそのカギを探すまでだ。

「幸い、ぼくだけで戦うわけじゃない」

協力者はアリスも含めて4人、いや、もっと。か。

自然に浮かんだ笑みをなんとか飲み下し。
僕は最後となるだろう、部屋に背を向ける。

投稿者 れいちぇる[49]
投稿日時 2010年08月10日(Tue) 19時27分03秒
 こんばんは。このスレッドを初めてご覧になる方も多いと思います。1年以上も未完のまま置いてしまって、参加者のひとりとして申し訳なく思っています。さすがに風化、化石化してしまいそうな状態ですので久しぶりに投稿させていただきます。
 目を通して下さる方がじわじわと増えている事実を考えると、僭越ですが少し物語を進めてみたいと思います。

…ちょいと分量が2000字で納まらなかったものですから、2話にわけさせてもらいました。


【46話】

 時はほんの少し戻って処刑前日の深夜です。
 ぎぃ、と金属が重くすれる音とともにほのかな明かりが入ってきました。壁に設けられた燭台に衛兵さんが火を灯していきます。この国ではスイッチ一つで点く電灯が主なのですがこの地下牢はとても古くからあって、電気が通っていませんでした。明かりを点け終わった衛兵さんが戻っていくと、今度は二人の人間が入ってきました。

「あらあら、良い様ね」

 日の光も月の光も届かない暗くてなにやらツンとした匂いであふれた地下牢の中で、幼さも感じる声が響きました。檻の向こうにいる人がぼんやりと顔をあげました。ゆらゆらとゆれる蝋燭の光に映し出された姿が少しまぶしくて、目を細めます。

「…まったく、あの威勢はどこにいったの? いつもの勝気で不遜、強引にmy wayなあなたがそんな調子じゃ私のやる気も失せるってモノよ」

 牢屋に入れられた人に声をかける人は金糸の刺繍をあしらった真っ白なローブを羽織り、ちいさな背丈のくせにふんぞり返って精一杯見下すような姿勢を取っていました。

聖女様です。

 言動や資質が伴っていない、この国のリーサルウェポン、聖女様でした。本当ならば誰の面会も認められない処刑の前日。ですが聖女様のお願いとあらば、王様も二つ返事で特例を認めます。

「…もう時間? わかりました、行きましょう」

 牢の中にいた人はぽつりとそれだけ言いました。その無気力で投げやりな力のない声を耳にした聖女様は奥歯をぎりっと噛みしめ、がしゃんっ! と鉄格子を叩きました。何度も何度も叩きました。檻に手を触れないでください! という衛兵の声は無視です。中の人は怯えきって、隅っこの方で縮こまっていました。

「何だ貴様! それでも『戦場(いくさば)の魔女』、『硝煙の死神』か! 魔法をロクに使わないくせに私のパーフェクトゲームに泥を塗った初めての糞野郎がこんな醜態を晒すだと? 今ここで絞め殺してやるからこっちに来い!」

 鉄格子を両手で掴み、噛み付くような剣幕で怒鳴り散らします。檻の隙間から魔女アリスの首根っこをひっ捕まえようと手を伸ばします。気品も何もありません。お付きの朱い髪をした背の高い男性が羽交い絞めにしました。足は宙に浮き、じたばたと駄々っ子のように暴れる彼女は、怒りに任せて右足のかかとで思いっきり背後の男性の股間を蹴ります。

 がんっ!と音がするとともに静かになりました。男性は平気な顔をして立っています。聖女様はうなだれて涙を浮かべていました。ファウルカップは戦士の身だしなみ。踵から全身に昇る鈍痛に唇を噛んで耐えています。朱い髪と瞳をしたお付きの男性はため息を漏らしました。

投稿者 れいちぇる[50]
投稿日時 2010年08月10日(Tue) 19時40分48秒
続きです。
 あ、あとこのスレの趣旨を再確認です。この後どなたがどのように書き進められても構いません。そこのあなた、新しく参加してみませんか? サイドストーリーで攻めるのも、本当にエンディングを迎えに行くのも自由! それではよろしくお願いします。



【第47話】

 おとなしくなったので地面に降ろされた聖女様は涙目となった愛らしい顔を上げて、隅っこで怯えている少女に向って話しかけます。

「あなた、使い魔を失ったそうね」

 牢屋の中の人がぴくりと肩を動かしました。

「いい気味ね。あなたが無茶をやらかしても傍で必ず守っていた存在を、あなたがやった無茶のせいで失うなんて。本当にいい気味」

 顔を上げ、四つんばいのまま鉄格子の傍にまでやってきます。口にしませんでしたが、自分の耳が信じられないと言わんばかりの目でした。何度も首を横に振っています。

「死んだって言ってるのよ、あなたの黒猫」

 そんなことはありません。確かにピエトロの受けた傷は大聖堂の治療者(ヒーラー)ですら難儀していた重傷でしたが、聖女様が見事に治癒させたのです。何故そんな嘘をつくのでしょう。その一言を聞いた数秒後、少女の両目から涙があふれました。

「嘘… 王子様が、王子様が助けてくれるって言ってたの… 王子様が、もうすぐ良くなるって、そう言ってたの!」

 思わず鉄格子を掴むと、全身に電気が走ります。付けられた腕輪と牢の鉄格子には特殊な法術が施されていて、囚人が暴れようものなら今のように制裁が加えられます。小さく悲鳴を上げて少女は鉄格子から手を離し、地面に這いつくばりました。伏した少女と目を合わせるようにしゃがみ込んで聖女様は続けます。

「気休め、って言葉知ってるかしら? あの王子、少なくともあなたのことを嫌ってはいないわ。どちらかと言えば好いてるはずよ。でも、だからこそあなたの生きる意志を奪うようなことは言えなかった。事実をね」

 なおも痛烈な言葉を浴びせました。違うと信じたい気持ちとは反対に、あの傷を見て、そしてそういった傷を受けた人がどうなったのかたくさん見て知っている彼女の中の理性が、聖女様の言葉が真実であると告げます。

「どうかしら、今まで奪ってきたあなたが今度は奪われる側になった気分は。使い魔を失い、魔力を封じられ、そして今はその使い魔に守られてきた命を失いつつある」

 立ち上がった聖女様は這いつくばったままの少女に言葉をぶつけ続けます。少女アリスは耳を塞いで、地面に額を擦りつけながら声をあげることなく泣き続けていました。

「耳を塞ぐな! 顔を背けるな!」

 聖女様が少女アリスの首に付けられた金属製の首輪を掴んで引き起こします。涙と砂埃でぐしゃぐしゃに汚れ、みっともない顔を隠す事無く、発する言葉も無く、両腕は力なく垂れ下がっています。

「…どうして欲しい」

 そんな姿の彼女を見ていられなくなった聖女様の方が耐えかねて口を開きました。立ち上がらされた少女は何も答えません。

「どうして欲しい、と聞いているッ!」

 やはり目を背けたまま何も答えませんでした。

「私は誰だ? お前は誰だ? そのことをお前はよく知っているだろう?」

 聖女様は待ちました。腕がぷるぷるしてきても、息が少しずつ上がっていっても、一生懸命一生懸命相手の体重を支えながら待ちました。

「………さい」

聖女様は、もう一度聞こえるように言うよう命令しました。

「助けてください… わたしのことはいい。ピエトロを、わたしの一番大切な人を助けてください… お願いします…」

 ぷるぷるしていた聖女様の腕が限界に達し、少女アリスは膝立ちの状態でした。自分の首を掴む聖女様の腕にそっと手を添え、すがる様に喉の奥から声を振り絞って頼みます。

「本当にバカね」

 魔力を封じる法具から手を離し、背を向けます。支えを失った少女の軽い体が、とさっと地面に降りました。

「あなたが死んだら使い魔はどうなるの? 一蓮托生、彼らのことを思うのなら、まずあなたが生きることから始めなさい」

 ボロキレを身に纏った少女はお尻と手を石造りの床についたまま、高貴な姿を見送ります。

「それからもう一つ」

去り際に聖女様が後ろを振り返る事無く声をかけました。

「この国の法具と護符には全部私の力が込められているの。今、無駄なことはしない方がいいわ」

 衛兵が敬礼をして、地下牢から出て行く聖女様を見送ります。彼女はさっきまでの野蛮な感じを一切感じさせない美しい笑顔で答えます。その後しばらく衛兵さんはデレデレとした情けない顔をさらしていました。

 少女アリスにかけられた言葉。この意味がわかるのは、もう少し後になってからでした。

投稿者 れいちぇる[51]
投稿日時 2011年05月20日(Fri) 21時10分56秒
 こんばんは、れいちぇるです。
 更新が途絶えてからまたすごく時間が経ってますね…。今回はストーリーを上げるわけではないのですが、ご連絡のために書き込みにきました。

 このリレーに参加したものとして、しかも現在46話中21話も担当した(←やりすぎ)以上は完成させてあげたい! と強く思います。そこで、失礼と知りながら、そして僭越ではありますが一本の作品として書き上げたいと思い、連絡にあがりました。

 たぶんここに上がったままではなく、かなりの魔改造となると思われます。各回担当してもらった作者様達のお名前を併記させて下さい。読んでいただいた時、面白かった! と絶対言ってもらえるように頑張ります。

 完成した暁にはまたご報告にあがりますので、よろしくお願いします。