なんだったんだろう。好きだったヒトが、吸血鬼で、セックスしてて、まだ石川さんは倒れたままで、・・・・・・? 頭がグチャグチャになってきた。
「・・・・・っ!」
教室に戻りたくて立ち上がろうとしたけど、うまく立てなくてかくんと膝をついた。
「はぁ」
横目で石川さんを見ると、無残にも服ははだけたまま。気を失っているらしい。着せてあげる、べき? けど石川さんに触れるのが怖くて、わたしはもう一度立ち上がった。今度はちゃんと立てた。
「ごめんね」
そう動かない石川さんにいって、わたしは屋上から出て行った。 教室に戻ると、今は昼休みだった。
「桃、何処行ってたの」 友達とお弁当をつついていた由麻にきかれたので、
「サボッてたら、そのまま寝ちゃった・・・」
と答えた。
「ふうん。てっきり拉致られたのかと」 真面目な顔の由麻にわたしと周囲の友達はぷっと笑う。拉致られてなんかない。けど・・・・・由麻に言いたい。 藤君が、実は、吸血鬼で、私が次に血を吸われるってこと・・・! まわりに聞かれたくなかったから、わたしは声をひそめた。由麻が耳を傾けてくれる。
「拉致なんかされてない・・・けど、わたし・・・ふ」
藤君に、そう言おうとしていた。すると、わたしの口は大きな手でふさがれた。
「綾瀬」
言葉の途切れたわたしをふさいだのは、藤君だった。
「?桃?」
藤君が後ろに立っているのを見て、由麻が言った。
「!?なんで、夏目が・・・?ていうか、桃の口塞がないでよ」
ぱっと手が口から離れ、わたしは藤君のほうを向いた。
「はは。ごめんごめん」
謝りながら、にやりと笑う藤君は明らかに、わたしが言おうとしていたのを知っているみたいだった。
「・・・・・・っ・・・」 「何しにきたの?」
藤君はさっきまで屋上にいたはず。そして教室へ帰ってきて―――――――
「なんでもない。彼女が見たくなっただけ」
って、石川さんはまだ屋上で気絶してると思うんだけど・・・ 由麻はそんなこと知らないから、何もいえないわたしのかわりにきく。
「?石川可奈なら、隣のクラスでしょ」
そのとき藤君は、思いもしない言動をとったの、です。 ぎゅ。後ろからわたしは抱きすくめられ、感覚を失った。背中があったかい。わたしの体は、すっぽりと腕の中に収まった。
「・・・・・!?・・・ふ、じくん・・・!?」
後ろからわたしを抱きしめた藤君を見て、みんなが驚くのが見えた。
「・・な、夏目、何して・・・」 「ふじく、な・・何・・・?離してよっ・・」
わたしは腕の中でもがく。藤君は友達に言った。
「可奈は彼女じゃない。今日から綾瀬が俺の彼女ね?」
はぁ?
「・・・・・・・・・・ええ!?」 「ちょっ、桃!?」
わたしは口をただぱくぱくとあけて
「俺たち今日から付き合い始めたんだよな」
なにがなんだか、わからない。極めつけの、藤君が首元でささやいた言葉。
「秘密だっつったろ。今日早速餌もらうから、資料室来いよ」
「な、・・・・・!!」
やっと振りほどけた腕の主の方へ振り向くと、わたしの大好きな笑顔で笑ってる。
「待ってる」
彼女なんて約束しなかったのに。藤君は、本気で血を吸おうとしてる。
「桃」
由麻に呼ばれたのも気づかずに。 わたしは男子の方へトマトジュースを片手に戻っていく藤君を、眺めるしかなかった。
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