藤君が石川さんの首に噛み付いて、何をしたのか全くわからなくて わたしは呆然とした顔でその光景を見つめていた。 藤君の、鋭い犬歯が刺さった石川さんは、急に動かなくなった。ぴく、ぴく、とかすかに揺れながら、死んだようにぐったりしている。 何を、してるの・・・・・・・?驚くばかりだった。
「あーあ。これでこいつも終わりか」
ふいに石川さんの首筋から藤君の唇が離れた。口元から見える、犬歯には、真っ赤な血がつき、滴り落ちている。
「美味しかったけど」
藤君はわたしが見ているとも知らず、ゾクッとするような顔で笑った。 怖い。怖い。石川さんを、殺したの・・・・? ぺろりと、藤君は自分の唇を舐めた。そして、石川さんのアソコから自分自身を抜き、何事も無かったようにしまった。 ずり落ちかけたメガネを、片手でくい、と上げる。そして、立ち上がった。
「ひっ・・・!!」
だめ、とわかっていても、目の前の出来事の怖さに、わたしは声を上げてしまった。
「ん?」
藤君が、こっちを見た。
「誰かいるの?」
声はこっちへ近づいてくる。やだ。やだ。来ないで・・・ 私の目からは、うっすら涙がにじみ始めた。
「・・・・・・・・・ずっと見てたの?綾瀬」
見つかった。
「・・・・ぁ・・・や・・来ないで」
藤君は固まっている。わたしは、ぺたんとしゃがみこみ、怯える。怖い。私も、あんな風に殺されちゃうの?
「見られたかー。じゃ、次は綾瀬だな」 「・・・・は・・?」
藤君は、私が思いもしてなかったことを言った。次は、綾瀬?って、殺されるの。 わたしは言葉を発することもできずにいた。藤君はわたしの隣へ寄ってきて、私の顎を指で持ち上げる。強引に顔を向けさせられた形になった。
「大丈夫。とって食うわけじゃないからさ」
そのまま顔はどんどん近づいてきて、わたしの胸元にくる。
やられ、ちゃうのかな
やだ
「・・・・・・・・ゃ!!・・やだよぉ・・・っ!!」
ぴちゃ、と生温かい舌が、私の首筋に触れて思わずびくっとする。
「っあ」
首筋に、ちくんとした痛みが走った。それは、全然痛くなくて、むしろ気持ちよくて。藤君の犬歯は、わたしの首筋に刺さった。声が出せない。なんだろう、この気持ち。 わたしが恍惚状態になっていると、藤君は顔を上げた。また、口元から血を滴らせている。
「綾瀬の血、美味しいね」
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