というか、そんな幸せそうな二人を、わたしはあんまり見たくない。嫉妬ばかりして、自分が嫌になるだけだから。
「いつまで続くかね、あのふたり」
横目で藤君と石川さんを見ながら由麻が言う。
「・・・・前の彼女は一週間だっけ?」 「そうそう。んでその前は確か3日だったような」 「彼女途切れないって疑問も歩けど、何で別れるのいつも早いのかな」
自分で言ってて悲しい。でも藤君は不思議だ。 告白してくる女の子と付き合っては、すごく仲良さそうに見えるのにすぐ別れてしまう。 もちろん自分から振る。普通振られたら未練タラタラの人っているけど、藤君の元カノは絶対にそれがない。みんなその後も、普通にぽへーっと元通り藤君と知り合いに戻るだけ。 以上、私、綾瀬桃が藤君を観察してわかったこと。 私がその疑問を投げかけると、由麻はちょっとびっくりした顔をした。そして、声をひそめる。
「ここだけの話慶太にきいたんだけど」 「うん」
慶太というのは、由麻の彼氏である。
「夏目藤ってさ、処女としか付き合わないんだって」
しょじょ。
「処女・・・?」 「うん。なんでか、夏目くんて処女の子しか付き合わないんだって。処女キラーってか、ヤッちゃったらポイとか」
私でも、処女の意味はわかる。まだセックスしたことが無い女の子。由麻の話によると、藤君の彼女は、処女限定ってこと・・・?
「まあ桃も、まだ処女でしょ?じゃあ望みあるって!」 「あの・・・そんな堂々と言わないでよ・・・」
由麻は何の恥じらいも無く言うからびっくりする。でも、確かに私はこの年になって、まだ処女です。
「別にいいじゃん!桃は純粋だから」
席を立って、由麻は言う。
「そんなんだったらいつか男に食べられるよん」
食べる。食べられる。私もいつか処女を失う日が来るのかなって考えてしまう。 とりあえず、処女限定彼女の望みはありそうです。
「藤〜」 「何?」 「ぎゅってして」 「いいよ」
いちゃいちゃ、見せつけたいんでしょうか。由麻が席を立ったあとも、私は藤君と石川さんを眺めていた。教室の扉の前で抱き合ってる。石川さんは、藤君の胸に顔をうずめてる。
「・・・・・・・・はあ」
わかってる。嫉妬だって。でも藤君を見るたび切なくなってしまう。サラサラした黒い髪の毛、細身だけど背が高いカラダ。黒ぶちメガネの奥の目。全部がすき。 でも、彼女といるところを見たら悲しくて。教室にいる限り聞こえてくる声がうっとおしくなって、私は屋上へ行くことにした。
「あったか」
ここにはいちゃつく石川さんもいない。春の屋上はあったかくて、かなりいい感じ。前由麻がサボりには最高だって言ってたっけ。 私は結構広い屋上のすみっこに、ちょこんと座る。
「・・・このまま授業サボッちゃおうか」
空が青い。ってあたりまえだけど。ぼーっと眺めているうちに、まぶたが重くなってきた。今まで授業サボッたことなかったけど、初めてなんだからいいよね。 あとはゆっくりゆっくり、夢の世界に落ちてく感じ。
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