「…ぁ、や…せ……」
ぽつり。うわ言のように、ベッドの上で寝ている藤君が言った。保健室の真っ白なシーツの上の藤君は本当に綺麗だ。サラサラの髪、綺麗な肌。 汗が少しにじんだ顔は、苦しそうにも見える。
「大丈夫…?」
そっと、わたしは藤君の顔に近づいた。 ああ、ダメだ。この人が好きだ。もう、いいから。あなたのこんな表情を見たく無いから。
「藤君」 「…ん」 「起きて」
フェロモン?どっちにしろ、藤君て、色気があるのかもしれない。ゆっくりと、まぶたが開く。
「貧血、今度は藤君がなっちゃったね。我慢しなくて良いから、血をあげるよ」 「…いいの?」
わたしは、声を振り絞る。
「もう、処女じゃなくなっても良いから…っ処女をあげるから…元気に、なって」 そのとき、藤君はわたしの体操服の袖を掴んだ。
「してもいいんだ」
それは、この関係の終わりを意味する。それでもいいの。藤君が元気になれるなら、処女だって血だってあげる。
「……うん…」
藤君が、ベッドから起き上がった。わたしの方に手を伸ばし、わたしは腕の中に入っていく。 細くて長い指が、私の髪をかきあげる。白い手が自分に触れるたび、私はビクッとする。
「・・・・ホントにいいの?」
最終確認?私はこくりとうなずく。メガネをかけた、綺麗な顔が近づいてきたかと思うと、その唇は私の首筋に向かう。温かい舌の感触が、首筋を伝う。ピチャ、といやらしい水音がする。
「・・・・んっ」 「随分いやらしい顔するんだね」
その言葉につい顔が赤くなる。恥ずかしい。
「お願い、だから・・・そんなに見ないで・・」 「やだね」
彼は卑猥な言葉を言い、かけていたメガネをはずす。また髪を手で触り、私にこう言う。
「綾瀬のこと、食べていいの?」
食べる。
いいよ?
食べちゃっていい。
ぷちん、ぷちんと音を立てて、シャツのボタンがはずされていく。でもそんなことに構っていられないほど深いキスが、わたしの口を塞いでいる。
「…ん、…っはぁ…」
どこにこんな元気が残っていたのだろうと。そう思ってしまうほど藤君は舌を絡めてくる。 くちとくちとが立てる水音に、わたしはいやらしさを感じる。唇を離されても尚残る余韻に、頭がくらくらする。 視線の先には、じっと藤君がわたしを見つめていて。
「やっぱさ、メガネかけとく。だって、綾瀬の誘ってる顔が見えないもん」 「…ゃ、だっ」 「もう遅い」
誘ってるのは、藤君のほうだよ。ほら、目の前にあなたがいるだけで、私の胸はこんなに高鳴ってる。 ボタンをはずされたシャツが脱げて、下着が見えている。藤君は片手でホックをはずし、中の胸に触れる。
「ねぇ」
大きな手の、長くて綺麗な指でそれを揉む。
「聞こえる?自分の、心臓の音」
「ほらこんなに」
「ドクドクいってる」
そんなこと言われなくてもわかってるよ。 わたしがあなたにあきれるほど、欲情してるってこと。
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