「…はぁ」
なんでこの前倒れちゃったんだろう。わたしの馬鹿。血をあげる以外で、わたしと藤君のつながりは何も無い。 そんな行為以外で、藤君に近づける術も無い。ごめんね。ごめんね。わたしはもう平気だから。 気遣ってくれる藤君は優しいけれど、何もつながりの無いことの方がよっぽど哀しい。
「桃はもうヤッたの?」
隣で由麻がわたしに訊く。
「…やってない。やりたくないもん。だって、だって…したら藤君と付き合えない」
心の中にしまってあった怖さ。処女を捧げてしまえば、わたしの血は美味しくなくなる。 何の価値も無い、ただの女。最初は「処女限定」で望みを感じていた。次に来たのは、いつ離れられるかわからない、恐怖。
「…桃はそんなんでいいの?」
由麻の声色が変わり、わたしに言った。
「ぇ?」 「そんなことでビクビクしてていいの?」
わからない、よ。
「………」 「好きだったら、意地でもつなぎとめておこうって思わない?」
わたしは、なにも答えない。答えられなかった。
それから、何日経っただろうか。藤君と私は、一定の距離を保ったまま、何も無い。 血を求めてくることも無く。教室で見る藤君は、日に日にだるそうな表情になっていった。 わたしの心にある、疼くもの。藤君を見るたび、胸が締め付けられる思いだった。
「桃、行くよーっ」
体育の授業中、校庭に出た由麻がトラックを走る。
「ま、待って…」
校庭10周は、運動があまり得意でない私にとって非常にツライ。喘ぎながら元気な由麻の後についていく。 1周わたしよりはやく、藤君が走っている。いつも冬馬くんと張り合って、1位でゴールするのが好きだった。それを見るのが大好きだった。髪が靡いて、メガネが光ってて。 藤君は、ふらふら走っている。どう見ても、ふらついている。
「由麻ぁ…藤君、ふらふらしてない?」 「あ、ホントだ。大丈夫なんかな」
ばたん。
砂の舞う音と、にぶい音。
「夏目!?」
体育教師の喜多川先生が、駆け寄るのが見えた。藤君が、倒れた。
「誰か、保健室へ連れてってくれないか?」 「あ、あの…わたし、保健委員なんで連れて行きます…っ」
ただ夢中だった。血が足りないのだろう、藤君はわたしのように倒れた。この状況をどうにかできるのは、わたしだけだ。わたしは、藤君の栄養源なのだから…
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