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処女限定 作者:柚良あず

第16回   禁欲生活
次の日から、俺の禁欲生活が始まった。教室にいると、綾瀬の顔がちらちらと見える。

「性欲、食欲、睡眠欲、人間の三大欲のふたつをいつまで我慢できますかな」

ふふ、と隣の席の穂高が笑う。

「それくらい、我慢してやるよ」

綾瀬の体調が悪くならない程度に。俺は自分の欲望にブレーキをかける。

「睡眠でもとってバランス保てば?」

畜生。おまえのことばが、頭から離れねえんだよ。知ってて、にやにや笑うな。
 休み時間のたび、俺の口にするトマトジュースの本数は増えて苦ばかりだった。


「く…苦し…」

あたりまえ、か。今まで毎日のように飲んでいた女の血を、一滴も今日は飲んでいないのだから。ようやく終わった一日に、俺はダルさを感じずに入られなかった。

「ふじくん」
「あ?綾瀬」

教室を出て行くとき綾瀬に呼び止められ、俺は振り向いた。

「ねえ、今日は、血飲まなくて大丈夫なの…?」
「や、綾瀬が体調悪くなったらやばいじゃん。俺は大丈夫だし」
「私こそもう治ったよっ」

まだ少し青白い顔してるくせに。無理して強がってるくせに。
 俺のことなんか考えなくて良いから。そのことばだけで、嬉しいから…

「ありがとう。でも、本当に大丈夫だから、な?」
「…うん」

他の生徒たちがまだ出入りしている扉をくぐり、俺は思う。綾瀬の、心遣いが嬉しいと。ただの餌じゃない、俺はアイツに、ちゃんとした感情を持ってる。
 愛してない。好きじゃない。この感情は何だ?

「…教えてくれよ」

アイツの顔が、可愛くてたまらない。家へ帰る道も、血のことで頭がいっぱいだった。
 俺が家に着くと、中からは声が聞こえた。

「…っ     ぁ  ゃ・…んんっ…さひ…さ  ぁ」

って、母さんの声じゃんか。ぼそぼそと囁くように、父さんの声も聞こえる。息子がいるのに、昼間ッからやめてほしい。
 俺は声がやむのを待った。

 しばらくして、どうやら父さんの吸血が終わったらしい。父さんの夏目朝日(アサヒ)と、母さんの夏目恵那(エナ)が、そろって寝室から出てきた。

「ゲッ藤…のぞきの趣味か…っ?」
「ちげーよ」

思いっきり語尾に怒りマークをつけて俺は吠えた。母さんの肌はつやつや、父さんは…精力満ち溢れたスーツ姿と言って良い。

「帰ってきたら盛ってたのはそっちだろうが」
「う」

反論は出来ない。こうして今も、俺の両親はたまに親父が血をもらっている。二人とも36歳の割には随分と若く見えるのもそのせいだ。
 現代において、吸血鬼は年を取るし鏡にもうつるし、日光も平気になった。子孫も残すことができる。けど、見た目の若々しさは変わらず、年老いても20歳ほど若く見えたりする。
 一生吸血されることとなった妻の女は、特別な快感を与えられるので自然と若々しいまま。

「その童顔でヤリまくりってのはね…」

親父が童顔なのは事実、信じられないことに俺と兄弟に見られることが多い。

「かまわん。元気な証拠だ!というか藤も、早くそんな子をつくりなさい」
「……つくりたいけど向こうが体調壊すんだったら仕方ないだろ…」
「気づかってるなんて優しいな。とっかえひっかえはやめたのか」
「あいつ以上の極上の血なんていないから」

目の前の、父さんと母さん。父さんは母さんを見て、禁欲生活を送ったことが無いのだろう。
 少なくとも、学校帰りの息子に見せつけるほどなのだから。


◆吸血鬼メモ◆

・吸血鬼はにんにく・十字架が苦手とされています。
・日光を浴びるのが苦手。
・トマトジュースが好き。
・鏡に姿が映らない。
・生殖能力が無い。(子供を作れない)
・年を取らないので、何百歳と生きる。
・棺桶で寝る。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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