しー。そんな顔をした藤君は可愛くて。まるで小さな子供みたいだった。けど、やってることは子供じゃない。わたしの下着は脚のほうに下ろされてしまっている。 動けないから、抵抗することは前のようにできなくて藤君が顔をあそこにうずめたのを、黙って見ているしかなかった。
「あんっ」
ふいに変な声が漏れ出す。恥ずかしい。生温かい感触が、する。 藤君の舌が、わたしをぴちゃぴちゃと舐めていく。
「やッ・…あう、ん んはぁ…」
硬く尖ったところにあたり、軽く噛まれる。しだいに内部に侵入していく、甘くとろけるような舌の感触にだんだんわたしはしびれていく。 落ちて。堕ちて。快感に溺れていく。 気持ち良い。舌の動きひとつひとつに過剰に反応する。全てが気持ち良くて。こんな恥ずかしい行為ををされても、藤君が好きだ。
くちゅり、くちゅり。わたしの脳裏もそろそろ、感覚がなくなってきた。
「お腹すいた…1回もらうな」
麻痺していく感覚の中、その声が聞こえた。 かぷ。 三回目だろうか。首筋に痛みが走る。気持ちよくて、気分がぼうっとしてきて、藤君の顔がゆがんでいく。
「ぁ」
目の前で、八重歯から血を滴らせた藤君が、急に慌てた様子になる。
「 ゃせ? 綾瀬!?」
そこから、記憶が無い。
ふわふわしてあったかい。頭の辺りが特に。資料室ってこんなところあったっけ。
「目ぇ覚めた?綾瀬。あーやーせっ!」 「…ん?」 「寝ぼけんなよ」
わたしの頭上で、声がした。目を開けると、視線の先にはサラサラした黒い髪と、黒ぶちのメガネが見えた。
「う、うわぁっ!!」 「何を今更。俺の膝の上でずっと寝てたくせに」
驚くのも当たり前。わたしは、藤君の膝の上に頭を寝かせていた。
「ごめ、ごめんッ!!なんかずっと寝てたみたいでっ!!」
慌てて頭を上げると、目の前には藤君の唇。思わずドキッとする。
「や、それより自分が今何処にいるのかとか聞こうよ」 「あ」
そう言われ、わたしは辺りを見回した。白いベッド、消毒液の匂い。保健室だ。
「貧血だって」
どうやらわたしは、貧血状態になって倒れ、藤君に此処まで運ばれてきたらしい。ちゃんとボタンも留まってるし、乱れた服装は全て直っている。
「貧血…?」
って、血が足りなくなることだよね。今までそんなことなったこと無かったから、びっくりした。 軽い感じで言ったのに、なぜか藤君は押し黙る。保健の先生はいなくて、藤君とわたしのふたりきり。
「ごめん」
張り詰めた空気の中、藤君が口を開いた。
「・・・・・・・なんで?え…」
その発言に、今度は私が戸惑う。
「俺が血吸いすぎたからだろ。だから、ごめん」 「大丈夫だよっ最近レバーとかプルーンとか食べてなかったし!!」
うわあ、なんて言い訳してるんだ、わたし。確かに、吸血のせいでわたしは倒れたのかもしれない。 けど、嫌だよ。そんな顔しないで…藤君のそんな表情、見たく無い。
「ほんとごめん。これからは、ちょっと血もらうのやめるから」
やだ。 やだ。 わたしとの、たったひとつのつながりを消さないで。
「わたしなら、平気だから…っ。藤君だって、血をもらわなきゃ生きていけないんでしょ?」 「だから、ちょっと我慢する。ごめんな…」
そう言って、藤君は座っていたベッドから腰を上げた。
「ごめん…」
やっぱりその表情を崩さないで、ぽつりと言った。その表情には、資料室での雰囲気は全然無くて。今にも泣き出しそうな感じだった。
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