細くて長い指が、私の髪をかきあげる。白い手が自分に触れるたび、私はビクッとする。
「・・・・ホントにいいの?」
私はこくりとうなずく。 メガネをかけた、綺麗な顔が近づいてきたかと思うと、その唇は私の首筋に向かう。 温かい舌の感触が、首筋を伝う。 ピチャ、といやらしい水音がする。
「・・・・んっ」 「随分いやらしい顔するんだね」
その言葉につい顔が赤くなる。恥ずかしい。
「お願い、だから・・・そんなに見ないで・・」 「やだね」
彼は卑猥な言葉を言い、かけていたメガネをはずす。 また髪を手で触り、私にこう言う。 「綾瀬のこと、食べていいの?」
食べる。 こういうときは普通、セックスするってことだろうな。もうひとつの意味は、ご飯を食べる、みたいな感じ。栄養源にするってこと。 彼の場合、どっちかわからない。 でも私は、小さくうなずく。
「・・・・・うん」
と。
「石川可奈って子、夏目くんに告ったらしいよ」
朝学校に来ると、友達の桜井由麻に言われた。
「ええ・・・・また?」 「ほんっと女が絶えないというか、不思議な人だね」
石川さんは私の隣のクラスで、けっこう可愛い子。清楚な感じで、密かに私も可愛いと思っていた。 でも、夏目くんに告ってほしくなかったな。私は、夏目くんが好きだから。
「・・・」 「あんな女好きやめて、桃そこそこ可愛いんだから別の男にしときなさいな」
あきれたように言う由麻に私は反論する。
「夏目くんは女好きじゃないんだって。女の子が寄ってくるだけ」 「じゃあ桃も夏目に寄っていってアピってこい」 「・・・・・・彼氏がいる由麻はいいよねえ」
ひがんだって仕方ない。私の好きな人はとてももてる。1人の人にしぼっても、すぐに別れてしまう。 でもね、そんな軽いひとってわけじゃないんだ。だから、絶対すぐ別れるのにはなんだか理由があると思う。 「そんなの桃の幻想」って由麻は言うけど、私はそう思わない。 好きって言いたいけど、大勢の女の子たちみたいにはなりたくないって贅沢な自分がいる。だから、見てるだけ。 自分に自信があるわけでもないし、夏目藤くんにつりあうような私でもない。あんなにかっこいいのにな。 そのメガネの奥の目で、私を見てくれたら嬉しいのに。
そうぶつぶつ思いながら由麻と話していると、徐々にクラスの人たちがやってきた。 その中に、藤くんが混ざっているのが見える。
「おはよう」
教卓の前に座っている私に、毎日声をかけてくれる。 それだけでも嬉しくて、その笑顔がもっともっと好きになる。
「・・・・ぉ・・はよぅ・・・」
なんでこんなぼそぼそとしか話せないんだろ。自分がやだ。
「藤!」 「可奈?」
さっき藤君がはいってきた扉の向こうには、石川可奈さんがいる。
「どしたの?」 「んー、せっかくさっき渡したのにお弁当忘れてったよ」 「ありがと」
にこっと、石川さんに微笑みかける。石川さんは笑って、藤君と話している。
いいなあ、話せて。私なんか、彼女でもないのに嫉妬してる。藤くんの彼女は石川さん。 藤くんのこと考えるなら彼女と長続きして欲しいって思うのに、心のどこかで石川さんをうとましく思ってる自分がいる。
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