「あっん、ゆぅ・・・あぁあっ!!」
また、だ。隣の部屋から、壁を突き抜けて聞こえる喘ぎ声。 そんなことは、亜矢の日常茶飯事だった。
「やめてよ・・・・!」
となりの悠の部屋から女の声が聞こえるたび、亜矢はクッションに顔をうずめて、聞こえないようにするしかない。
「ひっあ・・・っああああああぁ!!んんっもっと、動いてぇ・・!」 「淫乱だな、おまえ」 「だって・・・ゆうが、好き・・・っ!んっあ!」
亜矢の双子の兄の、悠。 悠は昔からとてももてた。だから中学の頃から彼女が途切れたことは無く、高校に入ってからも毎日のように女を連れ込んでいた。 薄い壁を伝って聞こえる喘ぎ声が、亜矢にとっては毎日の苦痛だった。
それも、毎日違う女。
「イく・・・!っあ!!」
短い声がしたかと思うと、それっきり声は途切れた。
「やっと、終わった・・・」
小さな頃から一緒にいた悠が、毎日違う女を抱いているなんて想像したくない。
「あやちゃん」
小さなときにそうにっこり笑った悠は、どこにいってしまったのだろうか。いくら妹でも、亜矢は知らない。
声がやんでから、しばらくして隣の部屋の扉が開く音がした。
「良かったよ。またしてくれる?」 「・・・・おまえ、もう要らないから」
悠の声だ。
「え?なんで?」 「だから要らないって。」 「あたしのどこが不満だったの?ねえ!」 「帰れよ」
冷たく言う声。亜矢はそれをきいていて、顔を上げた。 悠が女を切り捨てる所をはじめてみたからだ。
「最低!」
パチン。するどい音がして、女は階段を下りていった。
「・・・・・・」
今日こそは言おう。亜矢は心に決め、部屋を出て悠の部屋にいく。
「悠」 「ん?亜矢〜」
振り向いた悠からは、煙のにおい。タバコを手に持っているのが見えた。
「なに、タバコ吸ってんの・・・っ?」 「べつにいーじゃん。亜矢に関係ない」
そう言いつつも、灰皿にタバコを押し付ける。部屋を見渡すと、乱れたベッド。コンドームの袋が無造作に破り捨てられ、枕の脇にある。 何をしていたかなんて、想像したくない。
「毎日女の子連れ込むの、やめてくれない」
口にした。
「やだ。寂しいじゃん」
亜矢は反論する。
「寂しいとかいう問題じゃない。迷惑なの」 「知らねぇよ」
悠に何を言っても無駄だった。
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