ホテルを出て沙良と別れ、僕は家に帰った。
「おかえり!」
家にはいつもどおり、雛がいた。笑顔で迎えてくれた雛を見ると、罪悪感が生まれた。 僕はこの子を置いて、なぜ沙良とセックスしたんだろう。雛にはない沙良の魅力だが、僕は雛が一番すきなんだなと思う。 ずっとこの関係が続けばいいと……自分勝手にそう思っていた。
今日は何をしよう。夜寝る前に考える。
「雛、手を出して」 「?」
雛は言われたとおり、手を出した。 カチャン。 僕が一年前、アダルトショップで買った手錠だ。
「なにこれ・・・?」 「今日はこの方がいいだろう?」
雛に手錠をさせたまま、僕は深夜までSMを楽しんだ。
朝起きて、コップに牛乳を注いだ。 テレビのスイッチを入れると、朝のニュースをしていた。
『あの事件から、ちょうど一年が経ちました。如月財閥令嬢誘拐事件の犯人、誘拐された如月愛香ちゃんはまだ見つかっていません。この事件は一年前、身代金目的に愛香ちゃんが誘拐され、犯人は身代金を要求。お金を渡しても愛香ちゃんの行方は依然わからないままです。あれから、ちょうど一年、これが当時の愛香ちゃんです。』
『あのとき如月財閥の社長、如月光喜氏は血眼になって探しましたね』
『ええ・・・なのに一年も行方がわからないだなんて・・・ぜひみなさんも、愛香ちゃんを見つけたらご連絡ください』
『でももう、殺害されている可能性もあるんですよね』
『それは社長の如月氏が否定しています』
テレビ画面に、行方不明になった少女、『如月愛香』(キサラギマナカ)の顔写真が登場した。 少しウエーブのかかった茶色い髪。大きな目。見間違うはずがない。一年前の、
雛だった。
ガシャン。 僕は手にもっていたコップを取り落とした。
「…お兄ちゃん?どうしたの?」 物音でベッドから雛が起きてきた。
「っ、なんでもない!気にしないでいいよ」
ガラスの破片を片付けながら、僕は一心にテレビのニュースのことを考えていた。 一年前、僕が拾って、雛と名づけた少女。どういう経緯があったのか、何があったのか全くわからなかった。 それは雛が記憶を亡くしていたからだ。僕は雛を一年間育ててきた。 雛は、誘拐された財閥の令嬢の子だったのだ。親の社長は、今も雛を探している。 如月愛香 雛の、本当の名前。
今も、サガシテイル――――――――――――――――
いやだ、僕は雛を失いたくない。雛を、失うわけにはいかないんだ。
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