「ゴミが金に見える症候群」
部屋の中で五百円玉を拾った。
「……なんで嬉しそうにゴミを拾ってるの?」
呆れながら彼女がそう呟く。どうやら俺は、幻覚が見えるようになったらしい。
ゴミが金に見える。つまり心の病気だ。
割と冷静にその事実を受け止めた俺は部屋の掃除を始めた。
ゴミ袋に硬貨や紙幣を集めるというのは、現実離れしていたがとても楽しかった。 特に俺の部屋は汚れていて、現金……いや、ゴミは無数にあった。楽しさも大盛りだ。風呂にゴミを集めれば、あの雑誌裏の怪しいネックレスの紹介写真と同じ気分を味わえるだろう。
「なぁ、俺にはこれが百円玉に見えるんだが、実際は何なんだ?」
「古いマンガ。ちなみにそっちはカップ麺の容器で、これはお菓子の袋」
俺は彼女にいちいち現金の正体を尋ねながら、次々と金を拾い集めた。
「小銭が多いけど、たまにお札もあるしなぁ」
「本当のお金を捨てないように注意してよね! ちゃんと見張ってるんだから!」
ああ、頼むよ。なんて生返事をしつつ、俺は現金を集めまくった。ゴミ袋4つ分。袋にある程度の金額がたまると、ゴミ袋自体が金に変化した。ちなみに全部で二十万以上はあると思う。
「むぅ、ゴミのレベルが低いと金額も低いみたいだ。ちなみにこれは一万円に見える」
「それ……私の大事なアイドルのお宝CDなんですけど。ゴミじゃ、ないんですけど」
彼女は涙目で俺から一万円札、もといアイドルCDを奪い取った。
掃除は進む。
やがて俺は本棚にて大量の札束を発見した。―――強烈なイヤな予感と共に。
「……ねぇ、それ、何に見える? お金に見える?」
「…………いや、これはお金には見えない。とても、とても大切なモノだ」
俺は背中に汗をかきながら、 (そうかこれは) この本棚に隠していたモノの事を思い出す。
「これは、お前からもらった手紙の束だよ」
(札束に見える。ということは…… これは俺にとって価値のあるゴミ。価値はあるけど、ゴミなのか)
なんとか心中を誤魔化しきったらしく、彼女は俺を優しく抱きしめてくれた。
ちょいと倦怠期気味だったけど、手紙の件で俺の愛を再確認出来たのだろう。その後、いつもより優しい声で「お金に見えるなら、捨てるのに抵抗があるでしょ?」と言って彼女は俺の代わりに現金の山を捨てに行ってくれた。ああ、やっぱりこいつは良い女だな。
気のせいだろうか。 ラブレターという札束の厚みが、少し増しているような気がした。
そして彼女は、片道一分の道を十五分かけて帰ってきた。 何故か、コンビニのアイスと共に。
「お掃除お疲れ様。これは私からのご褒美だよ。部屋が綺麗になってよかったね!」
「……ありがと。ところでお前、財布持って外に出てたっけ?」
気のせいだろうか。 ラブレターという札束の厚みが、少し減っているような気がした。
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