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雪尋の短編小説 作者:雪尋

第5回   あの頃の僕たちは小学校6年生だった



「あの頃の僕たちは小学校6年生だった」



 加藤は小学生のくせに大人びた話し方をする。でも言ってることが理解不能であることが多かったので、いつも僕は加藤の話を半分くらいにしか聞いてなかった。


「わたしは宇宙人なんです」


 今日も僕は加藤の告白を真面目に受け取らなかった。それにUFOの話しは好きだが宇宙人にはあまり興味が無かったのだ。だから自然と「どうやって日本に来たの?」という質問をぶつけた。

「もちろんUFOに乗ってきました」

 未確認飛行物体。

 英語で表すならアナイデンティファイド・フライング・オブジェクト。
 その頭文字をとってUFO。それは地球人側の呼び名であって、乗り手が自分の機体を「未確認飛行物体」と呼ぶわけがない。そう答えると、加藤は驚いた表情を見せた。


「びっくりしました。我々について詳しいんですね」

「というかUFOが好きなんだ。それで、加藤はどんなのに乗ってたの?」


「普通のUFOですよ。我々は“カニョクレイヌゥス”と呼んでました。日本語に訳すなら『動く星』という意味で、百万光年を十年で移動することが出来ます」

「あれ? 光速は絶対に越えられないってアインシュタインが言ってたけど」

「……ワープするんです」


 小学校6年生だった僕はそれで納得した。
 それから日が暮れるまで僕達はずっとUFOの話しをした。

 数日後。加藤は「UFO百科」という子供向けの本を教室に持ってきた。


「図書室で借りました」

「それなら百回は読んだよ。加藤はそれ読んでどう思った?」


「半分は間違いで、残りの半分の半分は嘘で、あとは正しいです」

「へぇ。ねぇねぇ、どういうのが正しいの?」


 昼休み。そんな短い時間は文字通り光の速さで過ぎ去った。
 放課後になるまでがとても長くて、日が暮れるのはとても早かった。

 加藤は宇宙人だったはずだが、告白の日から僕達はUFOの話しばかりしていた。
 遠い所にある総合図書館に行ったり、テレビで特番が組まれた翌日は学校に行くのがとても楽しみだっりした。

 だけど小学6年生というのは一年限定で、それを過ぎたら小学生自体が終わる。

 加藤は県外の学校に。僕は地元の学校に進学することになっていた。

 そして卒業式の日。


「あなたが好きです」


 なんて告白をしてきた加藤。それだけは真面目に聞いたが……僕たちは子供だった。

 結局、二人して黙り込んだ後に「ばいばい」と手を振って別れた。
 それ以外にどうしようもなかった。



 十年後。


 同窓会で再会した加藤にその思い出を語ると、
 彼女は顔を真っ赤にして「忘れてください馬鹿野郎」と僕を罵った。

 彼女は一流の大学で心理学を勉強中で、彼氏とは3年の付き合いをしているらしい。

 語られた近況から察するに、どうやら宇宙人は辞めたようだ。
 流石、頭の良い判断だと言える。


 僕は自分の職業を彼女に言わないことにした。


『UFOをマジで造る国家プロジェクト』


 なんて、言っても信じてもらえないどころか、きっと笑われてしまうから。

 一応、最年少で入った優秀人材なんだけどね。


(ばいばい。僕の夢の動機。……つーか、女と違って、男ってのは本当に馬鹿だな)


 苦笑いを浮かべた僕。

 でも鞄の中に忍ばせていた古書「UFO百科」の値段は笑えない価格だった。





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Novel Editor by BS CGI Rental
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