「双子 〜完全共有症候群〜」
『ごめんなさい』
ここは喫茶店。目の前にいる二人の女性が、全く同じ容姿と音で謝罪してきた。 謝られた僕は、わけが分からなくて絶句する。
一人の女性と交際してるつもりだったけど、実は双子と付き合っていた。
僕の事情を簡単に説明すると、つまりはそういうこと。
二人は僕と付き合いながら、時々……いや、毎日入れ替わってたらしい。 偶数の日が姉で、奇数の日は妹だったとか。
“彼女”と付き合いだしたキッカケは“姉”からの告白。 そしてその翌日に僕とデートしたのは“妹”の方だった、と。
それを聞いたとき、僕は頭がおかしくなりそうになった。
目の前にいる双子。どちらも僕の彼女らしい。 つまり僕の恋人は『二人で一人』状態。
もちろん僕はそんな奇天烈な事実を知らなかった。
だが、昨日の晩に僕は“彼女”にプロポーズをしてしまっている。 そして今日になっての双子宣言。……まったく、どうすりゃいいんだ?
一年間も騙されていた僕は相当にアホだが、“彼女”の演技力は異常だった。
何も知らなかった僕と、一つの物を完全に共有したがる依存し合った双子の女性。
僕のプロポーズで双子たちは揉めたらしい。
すなわち『どちらと入籍するか』ということ。
結婚はしたいが、二人が同時に僕と入籍することは出来ない。重婚は犯罪だからな。
内縁という手段もあるが、子供をもうけるのであれば話しが変わってくる。 同時に妊娠するのは難しいし、出来たとしても子供の性別が違ってたら?
そもそも、突き通せる嘘ではない。
だから“彼女”は覚悟を決めたのだ。共有の終了。
僕と結婚するために、双子は決別した。
『ねぇ、どっちを選んでくれる?』
謝罪、事情の説明、そして各々のアピールを済ませた双子は、ステレオで僕に選択を求めた。だから僕は、二人に別れを告げてテーブルから離れる選択をした。僕が永遠の愛を誓おうとしたのは“彼女”であって、異常な双子なんかじゃないのだ。
そもそも恋人を共有ってなんだよ。怖ぇよ。普通にドン引きするわ。
振り返ると喫茶店の窓に“彼女”張り付いていて、4つの瞳が僕を凝視していた。 走って逃げた。
一年後。双子から二通の写真付きの手紙が届いた。
内容は同じ。曰く、「結婚しました」と。
同封されていた写真は全く同じに見えた。 しかし、新郎新婦の下の名前がそれぞれ違っている。
どうやら“彼女”は双子と結婚したらしい。 ――――――病んではいるが、それなりに正常な結末だ。
僕はそんな手紙をテーブルに置いて、目の前にならんだ新しい“彼女”を眺めた。
『実はわたし達、三つ子なの』
ここで逃げたら四つ子が来るような気がしたので、僕は何も考えず真ん中の子を選んだ。
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