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雪尋の短編小説 作者:雪尋

第4回   双子 〜完全共有症候群〜



「双子 〜完全共有症候群〜」



『ごめんなさい』

 ここは喫茶店。目の前にいる二人の女性が、全く同じ容姿と音で謝罪してきた。
 謝られた僕は、わけが分からなくて絶句する。


 一人の女性と交際してるつもりだったけど、実は双子と付き合っていた。


 僕の事情を簡単に説明すると、つまりはそういうこと。

 二人は僕と付き合いながら、時々……いや、毎日入れ替わってたらしい。
 偶数の日が姉で、奇数の日は妹だったとか。

 “彼女”と付き合いだしたキッカケは“姉”からの告白。
 そしてその翌日に僕とデートしたのは“妹”の方だった、と。

 それを聞いたとき、僕は頭がおかしくなりそうになった。


 目の前にいる双子。どちらも僕の彼女らしい。
 つまり僕の恋人は『二人で一人』状態。


もちろん僕はそんな奇天烈な事実を知らなかった。

 だが、昨日の晩に僕は“彼女”にプロポーズをしてしまっている。
 そして今日になっての双子宣言。……まったく、どうすりゃいいんだ?


 一年間も騙されていた僕は相当にアホだが、“彼女”の演技力は異常だった。

 何も知らなかった僕と、一つの物を完全に共有したがる依存し合った双子の女性。 

 僕のプロポーズで双子たちは揉めたらしい。


 すなわち『どちらと入籍するか』ということ。


 結婚はしたいが、二人が同時に僕と入籍することは出来ない。重婚は犯罪だからな。

 内縁という手段もあるが、子供をもうけるのであれば話しが変わってくる。
 同時に妊娠するのは難しいし、出来たとしても子供の性別が違ってたら?

 そもそも、突き通せる嘘ではない。

 だから“彼女”は覚悟を決めたのだ。共有の終了。

 僕と結婚するために、双子は決別した。



『ねぇ、どっちを選んでくれる?』



 謝罪、事情の説明、そして各々のアピールを済ませた双子は、ステレオで僕に選択を求めた。だから僕は、二人に別れを告げてテーブルから離れる選択をした。僕が永遠の愛を誓おうとしたのは“彼女”であって、異常な双子なんかじゃないのだ。


 そもそも恋人を共有ってなんだよ。怖ぇよ。普通にドン引きするわ。


 振り返ると喫茶店の窓に“彼女”張り付いていて、4つの瞳が僕を凝視していた。
 走って逃げた。


 
 一年後。双子から二通の写真付きの手紙が届いた。

 内容は同じ。曰く、「結婚しました」と。

 同封されていた写真は全く同じに見えた。
 しかし、新郎新婦の下の名前がそれぞれ違っている。

 どうやら“彼女”は双子と結婚したらしい。
 ――――――病んではいるが、それなりに正常な結末だ。


 僕はそんな手紙をテーブルに置いて、目の前にならんだ新しい“彼女”を眺めた。



『実はわたし達、三つ子なの』


 ここで逃げたら四つ子が来るような気がしたので、僕は何も考えず真ん中の子を選んだ。





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Novel Editor by BS CGI Rental
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