「ウルトラ仮面」
僕が通ってる小学校は少し遠い。だけど近所の大きな公園を通るとかなりの近道になる。時間にしてなんと八分もセツヤク出来るのだ。でも僕はその道を使っていない。理由は簡単。不良が、怖い人達がいるからだ。
今日も僕は遅刻しそうだったけど、公園の中には既に不良達がいた。 いち、にぃ、さん……四人。見たことある人ばかりだ。みんな髪を茶色にしてて、若いんだけど酔っぱらいみたいにだらしなく地面に座ったり、タバコを吸ったり。
(ほんと、いつもは何をしてる人達で、公園では何をしてるんだろう?)
たぶん何もしてないんだと思う。そこに居るだけ。でも僕が公園を通るといつも嫌がらせ(冷やかされり、こっちを見てニヤニヤしたり)してくるからすごく迷惑だ。だから僕は公園を通れない。誰かアイツらやっつけてくれないかなぁ……っと、こんなこと考えてるヒマはない。速く学校に行かなきゃ。
今日も僕は遅刻スレスレで、校門の前にいた教頭先生に怒られた。
――――そしてある日。 僕は完全に遅刻が確定した。お母さんが起こしてくれなかったのだ。 ため息をついて僕はダッシュで家を出た。公園だ。公園を通るしかない。そうすれば間に合うかもしれない。走っていれば不良達の嫌がらせも気にならないはずだ!
――――そう考えていたのだが。
「おわっ、見ろよ! アイツだ! なんかめっちゃ久々じゃね?」 「あはは! やべぇ、ほんとだ! 久しぶりに見たけど、今日も寝癖がバッチリだ!」
声は僕の足よりも速く、まさに音速で僕の耳に飛び込んでくる。
「走れ走れ〜。遅刻しちまうぞ〜」
「う、うるさーい! ほっといてよ!」 顔を真っ赤にしながら叫ぶと、若者達はゲラゲラと笑った。ふゆかいだ! そして、そんな思いをしたにもかかわらず僕は遅刻して、教頭先生にしこたま怒られた。
ぷっつん。こうして、僕はキレたのであった。
――――あの不良どもをやっつけてやる!
ゆーうつな一日を過ごした僕は、お家に帰るなり押し入れの開けた。しばらくゴソゴソとやって目的の物を、ウルトラ仮面のお面を見つける。僕がまだ小学二年生の時に遊んでいた思い出の品だ。
「これで変身して……あいつらをやっつけてやる!」
僕は本気で怒っていた。いつも嫌がらせをしてくるアイツらが悪いんだ。悪者だ。やっつけないといけない。アイツらのせいで、みんなが公園を使えない! 今こそヒーローになるんだ!
懐かしいお面を付けると、なんだか勇気がわいてきた。なんでも出来る気がする。スペシャルビームは出せないけど、八メートルくらいだったらジャンプ出来そうだ。
――――そして翌日。野球バットを持ったウルトラ仮面が、公園に舞い降りた。 最初は怖くてガタガタ震えていたけど、バットを握りしめて不良達に突撃するとアイツらは「おわっ、なんだあれ!」「へ、変態だ!」「やべぇって! 叫びながらコッチ来る!」「に、逃げるぞ!」と、すぐに逃げていった。みっともなくわめきながら、カッコ悪くはいつくばりながら。
勝った。勝ってしまった。叫びながら走っただけで、勝ってしまった。
僕は達成感と、安心感と、自信と、嬉しい気持ちを手に入れた。 ドラクエのレベルアップ音が聞こえた気がした。
「先生。また遅刻ですか……寝癖もついてますし……子供じゃないんですから、まったく……」
「すいません、教頭……」
「まったく……あ、そうそう。今朝公園に変質者が現れたと警察から連絡がありました。なんでも若者をバットを持った者が追いかけ回したらしいです。まったく。詳細はあとでプリントを回しますので、先生からも児童に注意を呼びかけておいてください。まったく……」
アイツら不良のくせに通報しやがったのか! 僕はそんな驚きを抱いた。 もしかしたら当分公園には近寄らない方がいいのかもしれない。 ……あ、でもそれだと今まで以上の遠回りになるな……。
(やれやれ。ヒーローはつらいぜ)
そんなことを考えながら、僕は寝癖を必死で直したのだった。
カバンの中に隠してあるウルトラ仮面のお面。
僕がヒーローだってみんなにバレたらどうしよう?
ふふっ。
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