「お前の運命の人は、いまごろ誰かとファックしてるよ」
どこかで聞いたことのある歌詞みたいな台詞を吐いた友人。 僕は彼を静かににらみ付けた。
「言って良いことと悪いことがあるだろ」 「残念だが、事実だ」
短い言葉を返す友人は、ちょっとだけ申し訳なさそうな顔をした。
【運命の人】
「だって考えてみろ。世の中にはヴァージンよりも“貫通済み”の方が圧倒的に多いんだぜ? ああ、もちろん18歳以上の女性の話さ。条例とか怖いしな。とにかく、お前の運命の人とやらも既に誰かとヤってる可能性が非常に高い。もしかしたら、たった今。この瞬間にも」
「君のことは好きだが、君の発言は下品過ぎて嫌いだね」
「お前好みの例えを使うなら、世の中には聖母よりも母ちゃんの方が多いってことさ」
僕は服の上からそっと身につけている十字架に触れた。
―――神様、この男は天国に行けますか?
「だいたい、28歳にもなって童貞っちゃーどういう事だ。人生なめてんのか」
「別に君には関係無いだろう。これは僕のポリシーなんだ。愛の無いSEXに興味は無い」
「あいたたたた。痛い。胸が痛い。ついでに頭も痛い。なによりお前自身が痛い」
彼は僕の腕を掴んで、強引に建物の中へと引っ張り始めた。
「大体ここまで来ておいてゴネるとか最悪だな。見苦しい。男らしく覚悟を決めろ」
「待て。僕はまだこの低俗な店に入るとは言っていないぞ」
「職に貴賤無し、という言葉は知ってるな? 仕事に上等も低俗も無い。お前の発言、いやお前の存在自体が一生懸命に頑張ってるおねーちゃん達を侮辱している」
「え……? あ、いや……侮辱だなんて、そんなつもりは」
そんなつもりは無い。だが、僕はとっさに否定の言葉を並べることが出来なかった。
「大丈夫。きっと良い思い出になる。愛の無いセックスに興味が無いとかほざいてたが、だったら愛すればいいだけの話しだ。愛は時間の積み重ねじゃなく、直感と本能と激情と思いやりと尊敬と、あっ、爪は切ってきたな? よしよし。とにかく愛とは真心と夢と希望と……」
彼は愛の定義を口にしながら僕の腕を引っ張り続けた。
―――120分後。そして更に時間を重ねて、喫茶店にて。
「……ええと、うん。いい顔してるぜお前」
なんだか微妙に困った顔をした友人はそうコメントした。当の僕はというと。
「見つけた。ついに僕は出合ったんだ。そう、僕の運命の人と……」
色んな過程をスッ飛ばして、愛を感じていた。
豊かな時間だった。愛があった。 どちらが先ではなく、出合った瞬間に愛が始まった。
「マリアちゃん……ああ、なんて素敵な名前なんだ」
そして彼は冒頭の言葉を吐いた。
「お前の運命の人はいまごろ誰かとファックしてるよ」
僕は思う。彼は最低のキューピッドだ。
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