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雪尋の短編小説 作者:雪尋

第3回   運命の人




「お前の運命の人は、いまごろ誰かとファックしてるよ」

 どこかで聞いたことのある歌詞みたいな台詞を吐いた友人。
 僕は彼を静かににらみ付けた。

「言って良いことと悪いことがあるだろ」
「残念だが、事実だ」

 短い言葉を返す友人は、ちょっとだけ申し訳なさそうな顔をした。



【運命の人】



「だって考えてみろ。世の中にはヴァージンよりも“貫通済み”の方が圧倒的に多いんだぜ? ああ、もちろん18歳以上の女性の話さ。条例とか怖いしな。とにかく、お前の運命の人とやらも既に誰かとヤってる可能性が非常に高い。もしかしたら、たった今。この瞬間にも」


「君のことは好きだが、君の発言は下品過ぎて嫌いだね」

「お前好みの例えを使うなら、世の中には聖母よりも母ちゃんの方が多いってことさ」


 僕は服の上からそっと身につけている十字架に触れた。

 ―――神様、この男は天国に行けますか?


「だいたい、28歳にもなって童貞っちゃーどういう事だ。人生なめてんのか」

「別に君には関係無いだろう。これは僕のポリシーなんだ。愛の無いSEXに興味は無い」


「あいたたたた。痛い。胸が痛い。ついでに頭も痛い。なによりお前自身が痛い」

 彼は僕の腕を掴んで、強引に建物の中へと引っ張り始めた。

「大体ここまで来ておいてゴネるとか最悪だな。見苦しい。男らしく覚悟を決めろ」


「待て。僕はまだこの低俗な店に入るとは言っていないぞ」

「職に貴賤無し、という言葉は知ってるな? 仕事に上等も低俗も無い。お前の発言、いやお前の存在自体が一生懸命に頑張ってるおねーちゃん達を侮辱している」


「え……? あ、いや……侮辱だなんて、そんなつもりは」

 そんなつもりは無い。だが、僕はとっさに否定の言葉を並べることが出来なかった。

「大丈夫。きっと良い思い出になる。愛の無いセックスに興味が無いとかほざいてたが、だったら愛すればいいだけの話しだ。愛は時間の積み重ねじゃなく、直感と本能と激情と思いやりと尊敬と、あっ、爪は切ってきたな? よしよし。とにかく愛とは真心と夢と希望と……」

 彼は愛の定義を口にしながら僕の腕を引っ張り続けた。




 ―――120分後。そして更に時間を重ねて、喫茶店にて。




「……ええと、うん。いい顔してるぜお前」

 なんだか微妙に困った顔をした友人はそうコメントした。当の僕はというと。


「見つけた。ついに僕は出合ったんだ。そう、僕の運命の人と……」


 色んな過程をスッ飛ばして、愛を感じていた。


 豊かな時間だった。愛があった。
 どちらが先ではなく、出合った瞬間に愛が始まった。


「マリアちゃん……ああ、なんて素敵な名前なんだ」



 そして彼は冒頭の言葉を吐いた。


「お前の運命の人はいまごろ誰かとファックしてるよ」


 僕は思う。彼は最低のキューピッドだ。





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Novel Editor by BS CGI Rental
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