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雪尋の短編小説 作者:雪尋

第23回   プリン殺害事件

プリン殺害事件


 冷蔵庫の中のプリンが無い。誘拐されたらしい。
 いつものことだ。これは妹、美樹からの挑戦状。

「私が犯人であることを証明出来たら、プリンを三個にして返すねっ」

 そう言ってのけた彼女。今回こそは、ヤツの尻尾を掴んでみせる。


 妹はアホだが、フェアなやつだ。常に「犯人は美樹だよっ」という証拠を一つか二つ残してくれている。僕がそれを見抜けば勝ち。負ければプリンは帰ってこない。

 今までに食われたプリンの数は二ケタで、返ってきたプリンの数はゼロ。妹はアホだが、天才だった。
 これはゲームだ。制限時間は犯行発覚からキッカリ一時間。それは完全に僕の自己申告によるものだったが、僕は妹のフェアさが嫌いではなかったので時間に対するズルはしない。
 妹の部屋をノックして、中から返事が返ってきたことを確認する。

「やりやがったな美樹……僕の大好物をよくも! 今度こそ捕まえてやるから、覚悟しとけ!」
『頑張ってね〜』

 犯人がケラケラと僕をあざ笑う。見てろ。今回こそお前の悔しそうな顔を見てやる。
 まず今までの犯行を振り返る。残された証拠は、たとえばフタの裏に書かれた名前だったり、妹のスプーンにプリンの欠片が残されたり、ある時はデジカメに食事シーンが映っていたりしていた。残された証拠は毎回違っていて、共通点は多くない。つまり毎回が新作というわけだ。

「まずは殺害現場(食事場所)の特定と遺体(プリン)と凶器(スプーン)の発見に努める」

 最早手慣れたもの。僕は妹の思考をトレースしながら足を進めた。


 ―――だが、今回はいつもの推理ゲームとは少し趣が違ったようだった。


「な、なにも無い……だと……?」
 台所。テーブル。庭。風呂場。ありとあらゆる場所を捜索したが、被害者を発見することは出来なかった。ただ無惨にも剥がされた衣服(フタ)がシンクに捨ててあっただけだ。
「どういうことだ……。証拠隠滅を計ったのか? ゴミ箱の中にも無かったし……」
 捜索だけで三十分も使ってしまった。ならば、残り時間は推理の時間に充てるべき。そう判断した僕はソファーに腰を下ろして目を閉じた。

 被害者(プリン)が見つからない、ということは、今回はそれの発見が犯人逮捕に繋がるはずだ。恐らくプリンの容器に妹が「ごちそうさま(笑)」などというメッセージを残しているはず。それがヤツの性格だ。なるほど、今回は捜索ゲームか……。

 ありきたりな場所は全て探しきった。容易にはいかないようだが、方向性が分かれば第一段階クリアといったところ。僕は妹の部屋を尋ねた。

「聞き込みだ。いつものように三つだけ。被害者はまだこの部屋の中にいるか。被害者は巧妙に隠されているのか。プリンは美味いと思うか」
『ん〜………………………………ノー、ノー、イエーーーースっ! だね!』

 時間をおいて妹がそう答えた。なるほど、プリンは見える場所にあるのか。ならば机の引き出しを全部空けるということはしなくてよさそうだ。おそらく死角に置いてあるのだろう。
「ちょっと美樹! 部屋の窓からゴミを投げ捨てたらダメでしょ! 見てたんだからね!」
 買い物から返ってきた母が玄関先でそう叫んでいた。様子を伺うと、母はプリンの容器を握りしめていた。なんとなく文字が見える。

「ごち♪」

―――――なんてこった。台無しだ。フェアじゃない。こんな勝利は、求めていない。よし、見なかったことにしよう。

 母がプリンの容器をゴミ箱に捨てた後。制限時間後。何も知らない妹は満面の笑みで「また美樹の勝ちだねっ!」などと言ってきた。コレ自供じゃねぇの? などと思いながらも僕は笑う。
 この天才的なアホは、今日も僕の手の平で踊っている。そう、真の勝者は僕なのだ。


 結局のところ、僕はプリンよりも妹の笑顔の方が好きなのだという、そういう話し。


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Novel Editor by BS CGI Rental
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