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雪尋の短編小説 作者:雪尋

第20回   「立証出来ない放火事件・後編」



「立証出来ない放火事件・後編」



あらすじっぽいもの。
(学校内で放火事件が発生。僕は犯人が同級生の今泉ハルカである事が分かった。しかし彼女は犯行時刻、僕と同じ授業を受けていた。そんな彼女がどうやって火を放ったのか? 気になるので、僕は直接彼女に尋ねることにした。)


「……いや、その前にさ。なんで私が犯人だと思うわけ?」

 今泉は困ったような、それでいて楽しそうな表情を浮かべていた。


「燃えた斉藤さんの部屋に捨ててあった不燃物系のゴミ。それを捨てるシーンを僕は見たわけだ。三時間目の休み時間だね。ちょっと今泉に告白しようと思った僕は、ラブレターを握りしめて、お前を軽くストーキングしてた」

「人を犯人扱いしたと思ったら、次は遠回しな告白かい?」

 今泉は良い笑顔を作って、苦笑いも浮かべた。

「まぁそれも置いといてくれよ。んで、だ。ゴミを捨てたのがお前で、調査の結果、動機っぽいのがあることも判明した。お前の妹、斉藤さんに酷いイジメを受けてたんだろ?」


 今泉はこめかみを押さえて「うーん」と唸った。どこから喋ろうか迷っているのだろう。


「あのさ、ゴミを捨てたのが私だとしても、放火したのが私だという証拠は無いんでしょ?」

「証拠は無いね。ただ、関連性ってヤツがしっかりある。だから犯人はお前だ」


「断定形で言うかぁ。あのさ、他の誰かが放火したって可能性の方が高くない?」

「逆にその可能性は無いだろ。なんでわざわざ学校敷地内の女子寮燃やすんだよ」


「同時多発テロみたいな。恨まれていた斉藤さんに対する復讐が、偶然重なった……とか」

「お前はゴミを捨てるだけで鬱憤が晴らせるような性格じゃないし、そんなダサい事もしない」


 その他諸々。今泉は色々な意見によって自分の容疑を晴らそうとしたが、僕はそのことごとくを否定した。ついに彼女は折れ、苦笑いを浮かべながら頭をかいた。

 しょうがないなぁ。なんて、他人事のように笑いながら。


「私は犯人じゃないけど、着火の方法を思いついた。ねぇ、そのゴミってどんなゴミだったの?」

「理科室の不要物をかき集めたみたいな、そんな感じのゴミだった。機材とか、部品とか……まだ使える物が多かったと思うよ? ちなみにゴミはぜーんぶ拾い集めておいた」


「え? 吉野くんが拾ったの? なんで?」

「そりゃ、お前に迷惑がかからないようにするために決まってるだろ」


「――――――。そう。ふーん。ありがとね」

 彼女は少し驚いた様子だったけど、お礼の代わりか、あっという間に話しを本題に戻した。


「そのゴミの中に、発火装置があったんだよ。火を付けるのに必要なものは何かな?」

「そりゃ……火だろ。ライターとかマッチとか」


「そうじゃなくて、物理的な話し。小学生の実験だよ。火を起こすのに必要な物は?」

 僕が返答に詰まると、今泉は「流石は成績が三流の男」と笑った。


「答えはね、熱だよ」

 熱。小学生の実験。捨てられたゴミ。理科室。キーワードが逆再生され、答えが導き出される。
 僕が即座に「なるほど。レンズを使ったのか」と言うと、彼女は「流石は名探偵」と笑った。


 つまりこうだ。窓から黒く塗ったティッシュ(あるいはライターオイルを染みこませた黒い布など)を部屋内に入れ、実験に使うような大きなレンズを設置。光を集めたそれはティッシュを燃やし、カーテンに引火。


 太陽を使った時限発火装置だ。


「そういえばレンズがあったっけ。消化器の泡が付きまくってた。あれは火元にあったからか」

「レンズ説は想像だけどねぇ。ちなみにゴミを捨てたのも私じゃないよ。見間違いじゃない?」


「僕が今泉を、惚れた女を見間違えるとでも?」

 ラブレターを懐から取り出し、僕は彼女にそれを突きつけた。

 せーの 「ずっと前から好きでした!」


「出すタイミング悪っ!
 ……それは『付き合わないと警察に言っちゃうぞ』という脅迫かな?」


「それは自供かな?」

「そう受け取られるのなら、私は君をふらなくちゃいけないなぁ」


 しまった。

 僕が真っ赤だった顔を青くさせると、彼女は楽しそうに笑い声をあげた。


 証拠は隠滅されている。
 自供はとれなかった。
 目撃者? おいおい、そんなやついねーよ。いたら連れてきてみろよ。


 こうして、事件は迷宮入りしたのであった。


 おわり


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Novel Editor by BS CGI Rental
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