「立証出来ない放火事件・前編」
「ボヤだって?」 「らしいね。なんでもカーテンが燃えたとかなんとか」
それはボヤじゃなくて普通に火事だろ、というツッコミを押し殺し、僕はジュースを飲んでいる今泉ハルカに問いかけた。ここは食堂で、今は昼休みだ。
「現場は女子寮なんだろ?確か一年の斉藤とかいう生徒の部屋だとか。出火原因は?」
「放火らしいよ。斉藤さんは一階に住んでて、その部屋の窓が少し開いていたらしいから。なんか燃えるモノでも投げ入れられたんじゃないかなぁ」
今泉は空になったジュースを食堂のゴミ箱に投げ捨てて、肩をすくめた。
「怖いよねぇ。みんなが授業を受けてる間に、女子寮の敷地内に侵入して、女の子の部屋を燃やした変態さんがこの日本にはいるわけだ。怖いこわい」
「ん……外部犯なの? それって確定事項? 出火原因は本当に不明?」
「なになに。吉野くんお得意の、探偵の真似事?」
僕は少し顔を赤らめる。探偵呼ばわりはハズい。 今泉は「私は警察じゃないよ」と笑った。
食堂で今泉と話しをしてから二日後のこと。「斉藤さんの部屋がバーニング事件」についての情報をそれなりにそろえた僕は、今泉を呼び出した。
「何か分かったのかな? 成績は三流だけど名探偵な吉野くん?」
ニヤニヤしながら僕をからかう今泉を前に、僕は少しだけ深呼吸した。
「被害者は斉藤めぐみ。現場は学校敷地内にある女子寮の一階。分類は放火。時刻は四時間目の授業中……正午くらいだね。火事に気がついた教師が慌てて消化した、と」
「う〜ん。皆が知ってることだね。それで、吉野くんだけが知り得た新しい情報は?」
「事件が起こる前、誰かが斉藤さんの部屋周辺にゴミをブチ撒けていったという、これもまぁ一応は事件だよなぁ的なことが起きてるんだよね。野外に捨てられていたそれは主に不燃物。理科室から色々持ち出して投棄したかのような、わけのわからん事件」
今泉は突然話題に挙げられた「別の事件」について苦笑いを浮かべた。
「おやおや。燃やしたり、燃えないモノを捨てたり。日本には色んな人がいるねぇ」
「そだね。でもさ、事件が同じ現場で二つも起きてる。関連性があるのは必至だよね」
「斉藤さんが恨まれていた、とか? あるいは女子寮を燃やすのに萌える変態さん?」
「前者だと思う。斉藤さんについても調べたけど、あんま良い子じゃないみたいだし」
「ふーん。で、誰が犯人なの?」
「犯人は今泉。お前だ。でもどうやって火を付けたのかが分からないんだよなぁ」
「……はい?」
今泉は目を丸くした。
「なんだって? 私が、犯人? うっそー。マジでぇー? そりゃビックリー」
「うん。犯人はお前だ。でも今泉のアリバイは完璧だ。なにせ犯行時刻、僕と同じ教室で授業を受けてたくらいだからな。確かな証拠も無いし、立証は不可能だろうね」
「…………あのさ、証拠も無いのに私を犯人扱いしてるわけ?」
「放火とゴミ。二つの事件には関連性があってしかるべきだ。そして、斉藤さんの部屋の周辺にゴミを撒き散らかしたのはお前なんだし。動機っぽい情報も仕入れた」
「待て。待てまて待て。話しの展開が早い。ゴミを捨てたのが私?」
「ゴミ捨てるとこ、見ちゃったんだよね僕。それは置いといて……ヒントくれない?」
なぁ今泉。お前はどうやって彼女の部屋に火を付けたんだ?
《後編に続く》
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