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雪尋の短編小説 作者:雪尋

第18回   推理作家の資質とは、別の意味で/
「推理作家の資質とは、別の意味で」

 作家歴は五年。作風はサスペンス。嵐の孤島や、雪山のコテージで人が死ぬような作品ばかり書いている。そんな小説家である僕は、今日も頭をかかえていた。
「むぅ……どうすれば完全犯罪は作れるか…………」
 その日も新作のネタを考えていた僕だが、一向にアイディアは出なかった。
 完全犯罪。現実的に考えれば、行方不明扱いにするのが一番だ。さらうなり、海に落とすなり、方法は様々だが、要するに犯罪が露見しなければいいのだ。それで法律は満足する。
 だけど僕は小説家。どうにかして、99%バレない犯罪を見せつけ、最後には探偵なり天才なり女子高生なんかに解決してもらわないといけない。じゃなきゃ推理小説じゃない。
 だが残念なことに僕が書く小説は、そういう正統派推理小説とはかけ離れたものだった。超能力や催眠術を使ったり、古代技術を流用したり……。B級作品ばかりだ。そのせいか、売り上げは芳しくない。担当はこう言う。
「この豚野郎、貴様の書く小説はクソだ。実は探偵役の天才女子高生が犯人だったとかありえねーよ! しかも女子高生なのに、本当は男でしたーとか……マジで……ふざけんなこのゴミ野郎! 俺の二時間を返せ、じゃなきゃ死ね! 無駄に長い小説書きやがって。お前推理小説向いてねーよ。センスが無い。大人しく官能小説でも書いてろ。まぁ童貞の書くエロ小説なんて売れないだろうがな!」と言われてしまった。言い過ぎだろ。言い過ぎだぜ。
「お前、作家として生き残りたいなら、次はもっとマシな正統派を書け! じゃなきゃ死ね!」
 激烈な殺意を込められたアドバイス。もう担当どうこうじゃなく、人としてどうかと思う。
 というわけで、かれこれ二十時間ほどパソコンの前で悩んでいるわけだが。
「……む、無理だ。どうやっても最後には宇宙人が光線を鼻から打ち出す」
 という謎の言葉を残して、僕は夢の中に旅立った。理由は二行前にもう書いた。

〈はいこんにちわ〉
「……こんにちわ。あんた誰」
〈えー、殺人鬼の幽霊です。そしてここは夢の中。人を殺すことばかり考えている人がいたみたいだから、ちょっとご挨拶にやってまいりました。完全犯罪がしたいんだって?〉
「……ええ。それこそ、こんな風に夢に見るくらい」
〈んじゃ、オレが生前考えたけど使えなかったトリックを一つ教えよう〉

 目が醒めた瞬間、僕はその殺人鬼から教わったトリックを凄まじい勢いでパソコンのキーボードに叩きつけた。殺人鬼だか神様だか妄想だかもう一人の僕だか知らないが、ネタをくれるならなんでもウェルカム。それから僕は三時間ほどパソコンの前にいた。
「……で、出来た。完成だ。これは完璧なトリックだ……!」
 正統派も正統派。立証が不可能な他殺。完璧すぎて、僕が描く探偵ではとても解決出来そうにない。そんな渾身のトリック。これを小説にすれば……あのクソ担当を黙らせられる!
「ククク……俺は天才だ! ……って、あれ? これ、マジでどうやって解決するんだ?」
 ふと我に返った。トリックが完璧すぎて、誰にも解決出来ない。余白が足りないのでどんなトリックなのかは書かないが、とにかく完璧な完全犯罪。これは……どう使う?
「………………あ、あれ。解決出来ないと小説として面白くないのに」
 いくらトリックが最高峰でも、面白くないならそれはクソだ。
 コリャ困った。どうすればあの担当を黙らせられるだろう。もうあの鬼のような小言は聞きたくない。
 どうすれば担当を。どうすれば担当に。どうすれば担当が。どうすれば担当を。 
 目の前のディスプレイには、“小説には”使えそうにない、完璧なトリックが描かれていた。


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Novel Editor by BS CGI Rental
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