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此処に兆一・乱動章 作者:七木ゆづる千鉄

最終回   戊野河・そして命動の始まり
 やがて列車は山のトンネルを抜ける形で戊野河に停車した。それにしても此処は竹ばっかりで草木が生えていない。一体何故なんだろうとみんなが思っているところで列車は駅に着きそこには零子と笙子がいた。
「お兄ちゃん!会いたかったぁ」と兆一に飛び掛る笙子。おいおい、とよろけながら抱きとめる兆一。
 一方、零子は静かに「億次郎・・・」と近づいた。ああ、と静かに抱きしめる億次郎。それを微笑ましげに見ている一行に、
「あなた方は何者ですか?」と銃を構えて威嚇してきた若者が現れた。「どうやら零子様、笙子様とは懇意な間柄のようですが、あなた方の『存在の証』を見せて下さい。でないと此処にいさせる訳にはいかないのです。」
証ってったって、一体何を見せれば良いんだ?と困ってしまった善三郎だったが、零子が「石」を見せれば良いんだよと言ったことで一安心。全員(水奈美も)それぞれのガンダ石を見せた。すると、若者の顔が一変。
「どうも失礼しました。貴方方があの伝説の『茂野河応援団』だったんですね。どうも失礼しました」と言ってその場から去っていった。
「え?何で俺達のことを知ってるんだ?」と天河・億次郎・兆一以外の面々が驚きの声を上げたが、それに答えたのは零子だった。
その話の内容は・・・。

 多野河地球から二人の徳川家康が飛んで行ったが、一人は茂野河、もう一人は此処戊野河に辿り着いたのである(*此処までは激動章を参照)。そして此処、戊野河では日本の中心は江戸、この戊野河は江戸川の支流の一つだが、政治の仕組みは立候補制である。男でも女でも年齢が十五歳を過ぎると政治学校への入学が認められ(入る年齢はいくつでも構わない)、そこで自分の資質に会った部署に就けるというものだ。ちなみに選挙権は学校に入学、卒業した者にしか与えられない。そして此処戊野河は、外国人を日本の文明に驚愕させるために、幕府が直接管理をしている。そして兆一達が出てきた山、この山を地元では外川と呼んでいるが、この外川こそ戊野河地球と銀河系外の宇宙を結んでいるのだ。兆一他たちの乗った列車が此処を通ってきたのもその為である。
「それじゃ皆さん、ボクは此処で帰らせてもらいます」突然そう言ってきたのは水奈美である。億次郎が「零子と話さなくても良いのか?」と聞いてきたが、「大丈夫」と一言、
「此処でボクだけお母さんと話をしたら、他の四人に悪いもん」
「だけど水河には誰もいないだろう?一人っきりじゃ寂しくないか?」
「一人じゃないよ。今でも水河には木野河・火野河・土野河・金野河からの罪人がどんどん来てるから、そういうように作らせて貰ったから、ボクはその看守としての役目が待っているから、早く帰らないと」
 そんな時戊野河駅に列車が到着した音がした。水河方面である。水奈美は「それじゃ皆さん又、バイバイ」と列車に乗って去って行った。
「それじゃあ、俺達もそろそろ帰ろうか。」兆一はそう言いながら笙子を見た。「俺達と一緒に行かないか」と目で言いながら。笙子の返事は、
「今はいい。だってお父さんはこれから運動するんだよ。心配だからお父さんの様子を見て、それから合流する」
「そうか、俺も多分お前がそう言うんじゃないかって思ってた。だからこれをやる」と、兆一は自分が乗っていたミニ茂野河号を笙子に渡した。
「次いでに、こいつから」と表面を擦ると、其処から七木の種が零れて地面に落ちて、草木の生えない戊野河の地に七木の並木道が出来上がった。
「それじゃ行くぞ。笙子、いずれ命があった時に」
「うんお兄ちゃん、運が良い時に」
 兄妹の最後の対話の後、列車は並木道を走り出した。やがて江戸城の横を通り抜けて、列車は海面を走る。
「一体何処まで行くんだ?」と聞いた善三郎に、
「この戊野河の徳川家康がずっといた島、垓乃島までだ」と答えた明。垓乃島だって?ってことは俺達は・・・。当たるがそう思ったとき、「反転」が起きた。ショックで全員気を失い、目覚めたとき、其処は茂野河の垓乃島の、元山電鉄の車庫だった。
「あんた等十三人もこんな所で何しとるだね」茂野河応援団一同は、垓乃島の車庫で寝過ごしていた。と元山電鉄では思われた。しかし本当のことは、元山側でもりくや伍四郎なら知っている。この旅の全てが、これから始まる新たなる旅の元手になるのだ。

 学校に戻ってから、暫くは平穏な日が続いた。しかし夏休みになって、対抗戦の前の夏合宿は、茂野河号に乗って宇宙中を回るという、かつてないスケールのものとなる。最初は笙子と会う為、次に始太郎・穣次郎を鍛える為の旅だ。そして山と河をつなぐための闘い、そしてその後は・・・。

 以降、命動章に続く。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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