■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

此処に兆一・乱動章 作者:七木ゆづる千鉄

第2回   兆一・億次郎の行動と京の「乱れ」
 列車に何か大きな黒い球体が近づいて、
「何故此処を通りたいんだ?」と地響きのように低い声で語り掛けて来た。先ず俺の意見を言わせてくれと言って来たのは善三郎である。そこに順子も加わって、自分達の火野河での体験を戊野川の人々にも語りたいから通りたいんだと言うと、球体は、
「それを戊野河の誰に言いたいんだ?」と聞いてきた。
「誰って、人々だよ。戊野河の人々」
「そんな縁もゆかりも無い者達に言いたいことなど、大した事ではないな。」と、球体は列車から離れてこう言い残した。
「お前達の中に、ちゃんとした縁がある者がいるなら、話を聞いてやってもいいぞ」
 ちょっと待てよ、そんなに離れたら声が届かないじゃないか。此処は宇宙空間だ。生身の人間がそんな所まで行ける訳がないじゃないか。そう思いかけた時に皆の中に浮かんだのが「ミニ茂野河号」である。そして縁がある奴と言えば、兆一の妹の笙子だ。そこで全員で協議した結果、皆のミニ茂野河号を兆一の念で一つにして、球体に合間見えることにした。そうしている間にも球体は急速に列車から離れて行く。急がなければ、と兆一は一つになったミニ茂野河号に乗って球体へと向かった。その後で気がついた京、兆一の座った所をさして「忘れている」と一言。見ると兆一のガンダ石が置かれている。忘れて行ったのだ。直ぐ知らせなければ、と言っても石が此処にある以上、兆一に声は届かない。どうしよう・・・と一同が黙り込んだとき、億次郎だけは「これはチャンスだ」と言った。昔から考えていたあることが必ず役に立つ、と。
「お前が行くって、お前に縁がある奴が戊野河にいるか?・・・あ!」明が何か気付いたようだ。
「そう、俺に縁のある奴、零子は今戊野川にいる。笙子と一緒にな」そして億次郎は皆にガンダ石から念を送ってくれと言った。そして水奈美も含んで全員の念が億次郎のガンダ石に集中した。紫色に輝く億次郎の石。億次郎はそれを自分の額に入れた。ガンダ使いが誰か他人を自分の操り人形にするときのあの行為を、自分自身にしたのだ。そして強い紫色の輝きが放たれた。それは列車から離れて球体に向かっている兆一にも見えて、
「億次郎の奴、一体何をやっているんだ?」と思った兆一、まさか自分の為にそんなことが起こっているなどとは露知らず、球体へと急いで向かっていた。

 紫の輝きが消えたとき、億次郎の姿がオリジナル・ガンダへと変わっていた。
「これでよし、次からは自分一人で出来るぞ」と、兆一の後を追いかけて球体へと向かって行った。
 そして二人が出た後の列車内で、このままただ待っていた方が良いかどうかと意見交換があったが、結果は「否」。自分達も出来ることはやって、戊野河に行きたがっているのがあの二人だけじゃないことを球体に知らせるべきだと全員の意見が合致した。知らせる役は「私!」と京。列車が出るイメージを見ている自分なら、此処に居ても球体に訴えかけることが出来るはずだという。その意見に他の全員も賛同して、京は球体に訴えかけるイメージを思い始めた。しかしそこで、思いもよらない「まさか」が待ち受けていたのだ。

 京がイメージを思い始めた頃、七地球循環線の線路に何か乱れた波が走るのを水奈美は感じた。
「京叔母ちゃん、今から見えるのはただの幻だからね。ボクは此処にいるよ」と、京に念を送ったが、その前に京は既に「乱れ」の中にどっぷりと漬かっていたのだった。
「京お姉ちゃん、助けてよー!僕ら男の新人間は新人間にあらずって、億次郎兄ちゃんの子供たちにやられちゃうよ」この声は始太郎と穣次郎の声だ。見ると二人は七地球の環状の真中で樹・華美・陶子・加奈子・水奈美達が先頭に立って各地球から新人間の列を作って攻撃をしようとしている所で震えている。水河からはそんなことは止めようと水奈美が叫んでいるのだが、他の四人は無表情のままで一切聞く耳持たずといった所である。
 京はそこへ自分が行くといった。ミニ茂野河号も分身ガンダもない生身の身体で、宇宙空間に行ける筈がないと皆が反対したが、京は「大丈夫」と一言。新人間の自分なら、身体の回りに大気を残した状態で宇宙空間に行ける、と外へ出て行った。
 しかし出て行った先の空間はあまりにも冷たく、京は始太郎・穣次郎に寄り添うしか出来なかった。此処に京の大きな「乱れ」が生じたのだった。
 兆一・億次郎の二人はまさかそんなことになっているとは露ほども知らず、球体へとその速度を加速していた。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections