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七木一族、石・鉄・木 作者:七木ゆづる千鉄

第21回   対元山戦中盤・互いに「見」あっての勝負
 そして迎えた三回表、投手は再び石一郎に戻った。「目」は相変わらず皆を見ている。石一郎が投じた第一球を七番打者が「打った」。打球は高く舞い上がり、右翼の三子の頭上を遥かに高く通り何とホームラン。この打ち方をベンチの伍子・ミゾレ・ユキは「見て」いた。次の八番打者が出てきたところでその打ち方を石一郎に目で教えた。石一郎も「解った」と目で返事をしてこの打者に臨む。第一球を投じて相手が打とうとした所で、「地打ち」をした。結果打球はボテボテのサードゴロで、五郎が木三郎に送球してアウトになった。ここで再び「目」が石一郎の「地打ち」を見る、今度は俺がやる、と鉄次郎が一言、石一郎は頷き九番打者に第一球を投げた。その球を打った際、鉄次郎が「人呼」。打球は遊撃手の森次へのライナーでアウト。そして一番打者を迎えたその時、元山ベンチから代打のコール。代打の打者は筋骨隆々で、石一郎の球を策無しで打てそうな気配である。ここで鉄次郎はタイムをかけ、どう対応しようかを九人で話し合った。その結果は「木三郎に任せる」。九人は散って、いざその打者に向かった。第一球をその打者は痛打、木三郎の「天指し」で一塁線のファール。二球目は三塁線のファール。三球目を打ったとき木三郎の「天指し」の後石一郎の「地打ち」で中堅の次代がしっかりと捕球してアウト。回は三回の裏に回った。
 先頭打者の石一郎は、元山の投手のすり抜ける球を痛打して二塁打を打った。続いての林太郎・森次は連続三振だったが、木三郎は打ってレフト前ヒット。石一郎が三塁を回った所で三塁コーチャーのミゾレが「止まれ」の合図。次の鉄次郎の打席を待つ事にしたのだ。
 ここで元山側が投手交代を告げた。今度は石一郎のように速く重い球を投げてくる。しかし鉄次郎は「問題ない」と一言。その通り結果はセンターオーバーの二塁打。石一郎と共に木三郎までホームに帰って来た。ここでベンチの全六から五郎に「見ろ」のサインが出た。その通り五郎は投手の球を見て三球三振。ここまで三回を終わった時点で、1−2で戊野河チームが勝っている。ベンチの全六は、「このままで終わる訳が無い。みんな注意しろ!」と全員に檄を飛ばした。その通り、四回からはとてつもない展開が待ち受けていたのである。
 四回表、元山の攻撃の際戊野河のメンバーの誰もが「目」から何かが出て来るのを感じた。
「今の入った否に?一体僕たちどうなるの?」この木三郎の問い掛けに、
「成るように成るってことだ」と答えたのは石一郎だった。そして迎えた二番打者、第一球をバントして三塁線を転がす。五郎が切れるかどうか見極めようとしているうちに、何と一塁を回り二塁へと向かった。慌てて五郎が球を取り二塁に送球しようとしたが、二塁手の林太郎も遊撃手の森次もそんな状況を想定していなくて二塁に楽々進まれてしまった。この「バントヒットの二塁打」という前代未聞の結果に誰もが驚いた。ベンチの全六、石・鉄・木三兄弟を除いては。ここで石一郎はタイムを取り、ナインを全員集めてベンチに声を送った。
「これからは、こんなあり得ない事も起こるってことだ。ベンチの伍子君・ミゾレ君・ユキ君、『見て』いてくれた?」
「はい、もうしっかりと、これから何か起きそうだったら目で合図しますから。任せておいて下さい」
 よし、ということでナインは又定位置に戻り試合は再開となった。続いての三番打者は早くもバントの構えをしている。一体ここからどう仕掛けて来るのか?ベンチからの合図はまだ無い。一球目はわざとボール球を投げて相手の様子を伺った。ここでベンチから合図が来た。「プッシュバントの気配あり」と。そこで二球目を投げると同時に外野の一美・次代・三子が全速力で前進し始めた。そして相手打者がその通りプッシュバントをして、遊撃手の森次の後方へ落ちるか、と思われたところをセンターの次代がしっかりと捕球。ダブルプレーが狙えるかと二塁を見てみたら、何とランナーは全く動いていなかった。相手もこちらの動きを「見て」いるんだと納得したのは鉄次郎。続いての四番打者が出てきたときにベンチからの合図は「ホームランを打つ、回避不能」。そこで石一郎が考えたのは、「どうせ打つんだったら、二度と打てないようにしてしまおう」というもの。全身全霊を込めて投げた球は、ホームランを打つその打者に二度とバットが振れなくなるぐらいのダメージを与えるに十分な球威だった。フラフラになりながらダイヤモンドを一周するその姿を「見た」元山ベンチは、「もうこいつからホームランは打てない」と確信したに違いない。その後の五番・六番打者は連続見逃し三振。回は四回の裏へと回った。
 先頭打者の一美が打席に立った時に、ユキ・ミゾレが「見て」出した答えは、「三振」だった。だが、鉄次郎は「三振だからって必ずしもアウトに成るわけじゃない!」と一言。ということは一体・・・?
 一球目・二球目を見逃してカウントは2−0、三球目を「振れ」と全六がサインを出し、そのとおり和美がバットを振ったその時、木三郎が「天指し」をした。その瞬間ボールが上空へと高く舞い上がり後ろへと飛んで行った。これは振り逃げ!一美は一塁へと駆けて行き、結果はセーフ。次の打者の次代が打席に立ったとき、「見た」予想は「四球」。次代はファールで粘り、予想通り四球を選んで状況は無死一・二塁となった。次の三子の予想は「三振」。そこで二球目の時にダブル・スティールをした。結果は両者セーフ。ここで打席にたった石一郎、予想が何と「不明」。「だったらやりたいようにやるだけだ」と石一郎は言った。そのやりたいこととは一体何なのか?それはこの後直ぐに明らかになる。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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