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七木一族、石・鉄・木 作者:七木ゆづる千鉄

第14回   講師初仕事・粗暴な五郎と気弱な伍子
 三人の講師としての初仕事は、士族Cクラスの問題児男女二人の指導だった。名前は田中五郎と鈴木伍子(いつこ)、五郎のほうは性格粗暴にして思いやり無し。伍子の方は性格貧弱にして心配過多。この二人が幼馴染だと言うからさらに厄介である。三人は今回の旅を通してこの二人の性格を矯正するように頼まれたのである。
 出発前に、石一郎が五郎にいっかいガチンコ対決をしようと言った。
「俺とお前で頭突き一回、それで気を失った方がこの旅のリーダー役をする」これを聞いた五郎は俄然乗り気になった。伍子の方は、「そんな危ないことしちゃ駄目・・・」とボソッと漏らした。鉄次郎は伍子に「その言葉をもっと大きく言えるようにならないと駄目だよ」と諭し、木三郎は「石兄が負ける筈が無いよ」と呑気である。そして頭突き一回、見事気を失ったのは五郎の方だった。その時五郎は不思議な映像を見た。顔を隠して涙ぐんでいる伍子・・・こいつ、俺の事を心配しているのか?これこそ五郎の心に初めて芽生えた「思いやり」だった。木三郎はそれに気付いたか、「何時でも君の事を心配してくれている人がいるんだよ」と五郎に語った。すると五郎は意外にも目から涙をこぼした。こんな粗暴な自分の事を心配してくれていたのが、幼馴染の伍子だ何て・・・俺は、俺は何て馬鹿だったんだ!鉄次郎はそんな五郎に、その気持ちを忘れちゃだめだよ、と諭した。
 そして石・鉄・木号は初めから宇宙へと旅立つのだが、その初めとはどこか?それはこれから明らかになる。船は外山へは向かわずに、戊野河を下り始め江戸川の江戸城を横目に垓乃島、垓乃島から茂野河へと進んだ。そして線路から離れ、茂野河をさかのぼり丸打峠を越えて元山へと向かった。そう、「初め」とは元山のことだったのである。元山の空港には、様々な飛行機が並んでいて、その中にはUFOのようなものまである。石・鉄・木号は此処から宇宙に向かって飛び立つのだ。
「鉄、木。準備に抜かりは無いか?」
「石兄、そんな事言ったってこの船さえあれば何も持っていく必要は無いじゃないか?なあ、木」
「そうじゃないよ、連れて行く二人の勉強用のものだろう?」この木三郎の言葉に頷く石一郎、ならばそうかとあれこれ準備をする鉄次郎、一美・次代・三子はそんな三人の手伝いをかいがいしくした。五郎と伍子はそんな中ポカンとしていた。
「何か、私達に出来ることはありませんか?」伍子の言葉はこれまでで一番大きくなっていた。
「そんな事言ったって、宇宙旅行未体験の俺達に出来ることなんてある訳が無いだろう?此処は黙って六人さんたちの動きをみて学ぶんだ」五郎の言葉にもいつのまにか思いやりが入るようになっていた。その言葉を聞けただけで十分ですよ、と一美・次代・三子が二人にそっと語りかけていた。

 いよいよ宇宙に向かって出発、その時船に何者かが接近してきた。どうやら出発する飛行隊の素性を探りに来たようだが、船に触れた途端に「OK」のサイン。石・鉄・木号が何処で出来て、誰が乗っているのかが瞬時に解ったようである。そして船は空港を飛び立った。その瞬間に木三郎の天通拍手、途端に暗い宇宙空間に飛んでいた。
「今、私達は何処にいるんですか?」と伍子が聞いてきたが、三子が「そんなことは関係ないわ」と一言。それよりこれから来るものの方が大事だという。一体何がやって来るのか?
 それは突然やって来た。大きなアメーバーのような物体が船を覆い尽くし、エネルギーを吸い始めた。いくら石・鉄・木号でもこのままでは危険である。そこで木三郎が何かを紙に記して「天指し」、石一郎が石を刻んで「地打ち」、鉄次郎が鉄で指輪を作って「人呼」をした。一美・次代・三子は五郎と伍子の二人に、「後は貴方達二人に掛かっているのよ!」と叱咤激励した。しかし二人は何をやったらいいのか全くわからない。三子が「髪を見て」と一言、紙には「天地人垓」の四文字が書いてある。一美が「石を見て」と一言、石には「天指し・地打ち・人呼・垓置」の具体的な形が刻み込まれている。最後に次代が「指輪をして」と五郎と伍子の左手の薬指にそれをはめさせた。
 その瞬間、二人の頭に浮かんだしっかりとしたイメージ、そして、
「垓!」と叫んで「垓置」をしたとき、アメーバーもどきは消え、辺りはまた元の暗い宇宙空間に戻った。
「よし、これで課題終了!」と石一郎。後はどこか近くの地球へ寄って元山電鉄線で帰ることにしよう、と船を進めた。
 やがて辿り着いた何処かの地球、見ると河の名前は「黄河」になっている。つまりは一番普通の「地球」、その駅の名前はよく読めないが、兎も角石・鉄・木号はその駅から元山電鉄・地球連絡線で丸打に向かった。
 やがて船は丸内についた。木三郎が、
「また遼太郎さんに逢えるかなあ」と声をあげたが、石一郎・鉄次郎はそれを無視。三子が「そんなに無視しなくてもいいのに」とこぼし、一美・次代がそれをなだめた。五郎と伍子は「一体何?」ときょとんとしている。そして船は茂野河を通り、戊野河へと帰って来た。帰って来た五郎と伍子を見た誰もが、「変わったなあ!」と驚いた。五郎は粗暴さが消えて思いやりが出るようになったし、伍子ははっきりと自分の意見が言えるようになっていたからだ。これを見た戊野河士族学校の教師達も「予想以上だ」と協賛の声をあげた。これから石・鉄・木三兄弟に更なる依頼が来ることは必定だろう。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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